営業会議で「あの案件、どうなっている?」と聞くと、担当者しか答えられない。月末になるまで着地が読めない。担当者が辞めると、顧客との経緯も一緒に消える。中小企業でよく聞く悩みです。
この悩みは、仕組みで解けます。CRM(顧客関係管理)は、顧客とのやり取りを会社の記録として残す仕組みです。OdooのCRMアプリは、無料のCommunity版でも、有償のEnterprise版でも使えます。見込み客、商談、活動の記録、受注予測。中核の機能は、Community版にそろっています(主な機能)。
OdooのCRMを使うと、たとえば次のことが変わります。
- 「あの案件は?」に、担当者を呼ばずに答えられる
- 商談の金額と確度から、月末の着地が月の途中から読める
- 商談が受注になると、見積・在庫・請求までそのままつながる
- 顧客情報を、別のシステムに入力し直さなくてよくなる
ただし、CRMだけを使いたいなら、専用ツールのほうが機能が豊富な場合があります。CRM単体で完結する用途では、Odooの強みが活きません。マーケティングオートメーションなどの周辺機能は、Enterprise版限定です。良い点と注意点はメリットとデメリットに並べました。
では、自社はOdooのCRMと専用ツールのどちらを選ぶべきか。分かれ目は1つの問いに絞れます。答えは社内会議で使える判断表にあります。
OdooのCRMでできること
Community版でも使える
CRMアプリは、無料のCommunity版でも利用できます。
次の主な機能は、Odoo公式のエディション比較ページにもとづいています(出典:Odoo公式 エディション比較ページ、2026年8月確認)。対応はバージョンによって変わるため、検討時は最新の公式情報をご確認ください。
主な機能
見込み客(リード)の管理
問い合わせや名刺交換で得た情報を記録し、担当者を割り当てます。リードとは、まだ商談になる前の見込み客のことです。
商談(案件)の管理
商談を段階ごとに管理します。「初回接触」「提案中」「見積提出」「受注」といった段階を、一目で把握できます。
活動の記録
訪問、電話、メールのやり取りを記録します。誰がいつ何をしたかが残ります。
次にやることの管理
「来週フォローの電話をする」といった予定を登録し、抜け漏れを防ぎます。
受注予測
商談の金額と確度から、見込みを集計できます。月末の着地が、月の途中から読めるようになります。
メールとの連携
やり取りしたメールを、商談の記録として残せます。
担当者に聞かなくても状況が分かる
CRMの価値は、機能の数より、この一点にあります。
「あの案件はどうなっている?」に、担当者を呼ばずに答えられる。担当者が休んでも、経緯をたどって代わりに対応できる。情報が個人から組織に移ります。
営業を人数ではなく仕組みで伸ばす考え方は、営業は、人数ではなく「仕組み」で伸ばすにまとめています。
OdooのCRMのメリットとデメリット
ここまでの機能と、この後で見る専用ツールとの違いを、良い点と注意点に分けると次のとおりです。使える版は、機能ごとに添えています。
メリット
- 中核機能はCommunity版にもある:見込み客・商談・活動の記録・受注予測が、無料のCommunity版でも使える
- 受注・在庫・請求までつながる:商談が受注になると、見積・受注に進み、在庫の引き当てと請求書の発行までそのまま進む
- 二重登録と転記がなくなる:1つのデータベースで動くため、顧客情報を別のシステムに入力し直さなくてよい
- 担当者に聞かなくても状況が分かる:活動の記録と次にやることが残り、情報が個人から組織に移る
- 月末の着地が途中から読める:商談の金額と確度から、見込みを集計できる
デメリット・注意点
- 周辺の機能はEnterprise版:マーケティングオートメーション・SNS管理・VoIP連携・ヘルプデスクなどは、Enterprise版限定
- CRM単体なら専用ツールが深いこともある:営業支援に特化した細かい機能や外部連携の豊富さでは、専用ツールに分がある
- 入力されなければ空箱になる:入力項目を絞り、入力する人が得をする設計が要る
- Community版の保守は自社:Community版で使う場合、ホスティングと保守は自社の責任になる
両方を並べると、次の図のとおりです。
注意点の多くは、始め方で負担が変わります。避け方はCRMを定着させるための考え方とベンチャーネットが最初に確かめることで説明しています。
OdooのCRMと一般的なCRMツールとの違い
受注・請求までつながっている
CRM単体のツールは数多くあります。それらと比べたときのOdooの特徴は、その先までつながっていることです。
商談が受注になったら、そのまま見積・受注に進み、在庫が引き当てられ、請求書が発行される。顧客情報を別のシステムに入力し直す必要がありません。
「つなぐ手間」が発生しない
CRMツールと販売管理システムを別々に使っていると、次のことが起きます。
- 顧客情報を両方に登録する
- 受注が決まったら、内容を転記する
- どちらの情報が最新か分からなくなる
- 連携の設定や保守に手間がかかる
Odooは1つのデータベースで動くため、これが構造的に起きません。
ただし、CRM単体で選ぶなら専用ツールも選択肢
CRMだけを使いたいなら、専用ツールのほうが機能が豊富な場合があります。営業支援に特化した細かい機能や、外部サービスとの連携の多さでは、専用ツールに分があることもあります。
Odooの強みは、業務が「つながること」です。CRM単体で完結する用途では、その強みが活きません。
自社はどちらか:社内会議で使える判断表
迷ったときは、次の表で自社の状況に近い行を探してください。
| 自社の状況 | 向いている選択 |
|---|---|
| 受注後の見積・出荷・請求を、別のシステムやExcelで打ち直している | OdooのCRM+販売を一体で使う |
| 営業の後工程はすでに別システムで回っており、変える予定がない | CRM専用ツールの継続・導入 |
| 専用CRMの拡張機能や外部連携が、営業の仕組みの中心になっている | 専用CRMを残す |
| まずは商談の見える化だけを、小さく試したい | Community版のCRMから試す(保守は自社責任) |
| 数年以内に拠点や事業が増え、会計や在庫もまとめて見たい | Odooか、規模によってはNetSuiteも比べる |
判断の軸は1つです。顧客情報を、受注後の業務までつなげたいかどうか。
CRMの周辺でEnterprise版が必要になる領域
CRMの周辺では、次の機能がEnterprise版限定です。
- マーケティングオートメーション:シナリオに沿った自動フォロー
- SNS管理:SNSアカウントの一元管理と投稿
- VoIP連携:システムから直接電話をかける
- ヘルプデスク:問い合わせ対応の管理
- 予約管理:商談日程の自動調整
- サブスクリプション管理:継続課金の管理
商談管理と顧客管理という中核部分は、Community版で使えます。その周辺まで広く使いたいときに、Enterprise版が視野に入ります。
CRMを定着させるための考え方
入力されないCRMは、どれほど高機能でも空箱です。定着しない理由は、たいてい次の4つのどれかにあります。
CRMは「入力されなければ意味がない」
どれだけ優れた機能があっても、営業担当が入力しなければ、CRMは空箱です。
そして、入力は面倒な作業です。ここを軽く見ると、導入しても使われません。
入力項目を絞る
導入時は、あれもこれもと項目を増やしがちです。
しかし、項目が多いほど入力されなくなります。最初は必須項目を最小限にし、定着してから増やすほうが確実です。
入力した人が得をする形にする
「上に報告するために入力する」という位置づけでは、定着しません。
入力すると自分の仕事が楽になる。次にやることが分かる。過去の経緯をすぐ見返せる。入力する人にメリットがある設計にしてください。
監視の道具にしない
活動量を細かく管理する道具として使うと、現場は形だけ入力するようになります。
数字を埋めるための入力は、精度の低いデータを生みます。そのデータは、経営判断にも使えません。
二重管理をやめる
「CRMにも入れるが、Excelも続ける」。この状態が続くと、CRMは形骸化します。
移行のタイミングで、Excelをやめる決断が要ります。中途半端な併用が、いちばん現場の負担を増やします。
営業の見える化で、ベンチャーネットが最初に確かめること
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。そのため、Odooありきで話を始めません。CRMの相談では、次の順で確かめます。
ステップ1:社長がいちばん知りたい数字を1つ決める
商談の進捗か、月末の着地か、顧客ごとの履歴か。見える化→わかる化→儲かる化の順で進めるため、最初は1つに絞ります。
ステップ2:受注の後ろで、何を打ち直しているかを見る
見積・出荷・請求への転記が多いなら、CRMと販売を一体で考える価値があります。転記がなければ、CRM単体の専用ツールで足りるとお伝えします。
ステップ3:商談の段階を、標準に寄せて決める
自社の営業の流れを、Odooの標準の段階管理に合わせて整理します。これをFit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)と呼びます。段階を細かくしすぎると回りません。
ステップ4:入力項目を最小限にして、1チームで試す
担当者が入力して得をするかを、少人数で試します。入力が続かない項目は、この段階で削ります。
ステップ5:Excelをやめる日を決めてから、全社に広げる
入力が続いていることを確かめ、並行管理を終える日を決めてから展開します。
合わないと判断したときは、そのままお伝えします。より大きな規模ならNetSuiteを、パッケージに乗らない固有の営業ならAIスクラッチ開発を比べます。AIスクラッチ開発はライセンス費用がかからない一方、開発費と保守費が別途かかります。NetSuite側のCRMの考え方はNetSuiteのCRMとは?で解説しています。
このアプリに対応する有名なCRM(Salesforce・HubSpotなど)
すでにCRMツールを使っているなら、OdooのCRMはその置き換え候補になります。主なツールとの対応は次のとおりです。
| 使っているSaaS | Odooでの対応 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| Mazrica | CRM(Community版で利用可) | 商談管理と活動記録の範囲はほぼ同等 |
| Salesforce Sales Cloud | CRM(Community版で利用可) | 中核機能は重なる。拡張性と外部連携はSalesforceが広い |
| HubSpot CRM | CRM+Eメールマーケティング | CRM部分は同等。MA機能はEnterprise版が必要 |
機能の違い
- Odooにあって専用CRMにないもの:商談が受注になった瞬間に見積・在庫・請求へつながること。顧客情報を販売システムへ再入力しなくてよい
- 専用CRMにあってOdooにないもの:営業支援に特化した細かい機能、外部サービス連携の豊富さ、拡張機能の市場の広さ
課金構造の違い
Salesforceは、エディションごとに1ユーザーあたりの月額が決まる、製品ごとのユーザー課金です。上位のエディションほど単価が上がります。MazricaとHubSpot CRMも、プランとユーザー数で月額が決まる体系です。
(※課金の型は、2026年9月時点の各社公式サイトの情報にもとづきます。金額や条件は改定されることがあるため、検討時に各社の公式ページでご確認ください)
Odoo Enterprise版は、全アプリ一律のユーザー課金です。CRMだけ使っても、販売・在庫まで使っても、1ユーザーの単価は同じ。金額の詳細は Odooの料金体系を解説 を参照してください。
OdooのCRMは、無料のCommunity版でも利用できます。ただしその場合、ホスティングと保守は自社の責任になります。
置き換えのメリット
- 商談から受注、出荷、請求までが1つのデータベースでつながる
- CRMと販売システムの二重登録と転記がなくなる
- 顧客の商談履歴と、実際の受注・入金の実績を同じ画面から追える
置き換えのデメリット・向かないケース
- 専用CRMの拡張機能や外部連携を業務の中心に据えている場合、統合で失うものが大きい
- 営業支援の細かい機能(スコアリング、複雑な予測など)は専用ツールのほうが深い
- マーケティングオートメーション・SNS管理・VoIP連携はEnterprise版限定
CRM単体で完結する用途なら、Odooに置き換える理由は薄くなります。 判断の分かれ目は、受注後の業務までつなげたいかどうかです。
他のアプリの対応表は Odooで置き換えられるSaaS対応表 にまとめています。
バージョンと機能の更新について
Odoo 19.0は2025年9月にリリースされました。標準サポートの終了は2028年9月(予定)と、公式に記載があります。
その後、19.1(2026年1月)・19.2(2026年3月)・19.3(2026年5月)・19.4(2026年7月)が順に提供されています。
19.1〜19.4は、Odooオンラインで先に提供されました。 Odoo.shとオンプレミスは対象外でした(公式のサポート表にN/Aと明記)。
2026年9月には、次のメジャー版のOdoo 20が公開されました。Odoo.shやオンプレミスの会社も、Odoo 20に上げれば、19.1〜19.4の新機能をまとめて受け取れます。
違うのは、新機能を受け取る時期です。早く使いたいならOdooオンライン。自社で管理したいなら、Odoo.shかオンプレミスで年1回のメジャー版に合わせます。Odoo 20の変更点はOdoo 20の新機能まとめで整理しています。
CRMアプリに直接かかわる変更は、19.1〜19.4の公式リリースノートに記載が見つかりませんでした。
この更新の流れは、Enterprise版の話です。Community版はこの更新の対象ではありません。
※出典:Odoo公式ドキュメントのサポート表(2026年10月確認)、Odoo公式のリリースノート(2026年9月確認)
よくある質問
無料のCommunity版だけで、営業管理は回りますか?
回ります。見込み客管理、商談管理、活動記録、受注予測といった中核機能は使えます。
ただし、マーケティングオートメーションやSNS管理を使いたいなら、Enterprise版が必要です。必要な機能を先に洗い出してください。
CRMだけを使いたいのですが、Odooは向いていますか?
CRMだけが目的なら、専用ツールも並べて比べてください。CRM単体では、専用ツールのほうが機能が豊富な場合があります。
逆に、営業から請求までを一貫させたいなら、Odooの適性が高くなります。迷ったら、社内会議で使える判断表で自社の状況に近い行を探してください。
名刺管理やメール配信もできますか?
顧客情報の管理とメール配信は、標準のアプリで対応できます。
ただし、シナリオに沿った自動フォロー(マーケティングオートメーション)はEnterprise版限定です。どこまでの機能が必要かを整理してください。
既存のCRMから移行できますか?
技術的には移行できます。
ただし、そのまま移すことはおすすめしません。何年も接触のない見込み客、重複した登録、実態と合わない商談。これらを整理してから移すほうが、新しいシステムは使いやすくなります。
OdooのCRMのメリットとデメリットは何ですか?
受注・請求までつながる一方でCRM単体の機能は専用ツールが深いこともあります。
見込み客・商談・活動の記録・受注予測は、無料のCommunity版でも使えます。商談が受注になると、見積・在庫・請求までそのままつながります。
一方、マーケティングオートメーションやSNS管理などはEnterprise版限定です。営業支援に特化した細かい機能や外部連携の豊富さでは、専用ツールに分があります(メリットとデメリット)。
まとめ:つながることが最大の価値
- CRMの中核機能(見込み客・商談・活動記録・受注予測)はCommunity版で使える
- マーケティングオートメーション・SNS管理・VoIP連携はEnterprise版限定
- Odooの特徴は、商談から受注・在庫・請求までつながること
- CRM単体で使うなら、専用ツールのほうが機能が豊富な場合もある
- 定着の鍵は、入力する人にメリットがある設計にすること
- 入力項目を絞り、二重管理をやめる決断が要る
CRMの導入は、ツールを入れることではありません。情報を個人から組織に移す取り組みです。技術の話に見えて、実は営業のやり方を見直す経営の課題です。
1年後の営業会議では、担当者の報告を待たずに、画面の商談一覧を見ながら月末の着地を話している。受注した案件の請求漏れを、誰かが月末にExcelで探すこともなくなっている。
もう少し詳しく知りたい方へ
「営業の情報をどう見える形にするか」から、ご一緒します。CRM単体で足りるかどうかの見極めからでも構いません。
関連記事
- Odooで置き換えられるSaaS対応表
- Community版とEnterprise版の違い
- Odooとは?の記事
- Odoo導入の進め方
- Odooの販売管理(Sales)
- OdooのEメールマーケティング
- Odooのマーケティングオートメーション
- Odooのヘルプデスク(Helpdesk)
- OdooのVoIP連携
- Odooの予約管理(Appointments)
- ここが便利:名刺とカレンダーからCRMを始める
- ここが便利:Webの問い合わせを自動で営業案件に
- Odooのアプリ一覧と全体像
- 営業KPIの形骸化を防ぐ|行動指標をCRMに埋め込む設計
- 顧客管理システム(CRM)とは?中小企業に必要な理由・導入が失敗する4つの原因・選び方|統合型ERP(Odoo)ではどう実現するか
- NetSuiteとOdooの販売・CRM・店舗|4業務の実現方法を比べる(NetSuiteの教科書)
