取引先マスターを統合する|顧客・仕入先・届け先をOdooの連絡先1件で持つ

「A商事さん、どれが本物ですか」。取引先の一覧を開いた担当者から、こんな声が上がることがあります。

株式会社A商事、(株)A商事、A商事。同じ会社が3件、顧客の台帳と仕入先の台帳に分かれて並んでいます。どれが最新の住所なのか、誰も答えられません。

入力する人が雑なのではありません。台帳の作りが、同じ会社を何度も登録させる形になっているだけです。取引先の重複は、取引先マスター(取引先の基本情報をまとめた台帳)の設計で減らせます。

Odoo(オドゥー:販売・購買・会計などを1つのデータでつなぐ業務アプリ群)は、顧客も仕入先も届け先も「連絡先」という1つの台帳で持ちます。会社は1件だけ登録し、担当者と住所をその下にぶら下げる。顧客か仕入先かは、その1件に付ける「役割」で表します(Odooの連絡先での持ち方)。

この形にそろえると、たとえば次のことが変わります。

  • 届け先が変わっても、直すのは会社1件の住所だけになる
  • 売上と仕入を、同じ相手の単位で足し算なしに並べられる
  • 取引の形が変わっても、役割を足せば登録をやり直さずに済む
  • 担当者や納品先の倉庫が増えても、会社を新しく作らない

ただし、取引先の数や拠点が多く、Odooの標準に収まらない会社もあります。その場合は、NetSuiteなど別の選択肢が合うこともあります。

では、すでに3件に分かれてしまった台帳は、どこから直せばよいのでしょうか。答えは取引先マスターを統合する進め方にあります。

CommunityとEnterpriseの区別について

この記事で扱うCRM(顧客・商談の管理)と購買(仕入)の基本機能は、Community版(無料)とEnterprise版(有償)のどちらでも使えます。ただし会計のフル機能はEnterprise版が前提です。請求先・支払先として使い込む段階では、版の選び方が関わります。

目次

取引先の重複で、こんな場面はありませんか

請求書を出そうと取引先を検索すると、似た名前が3件出てきます。周りに聞くと「たぶん一番下のやつ」と返ってきます。

支店から「届け先が変わった」と連絡が入り、住所を直す。ところが直したのは3件のうち1件だけで、翌月また同じ間違いが起きます。年間の取引額も、足し算をしないと出ません。

同じ会社から仕入れてもいる場合は、さらに面倒です。売る側と仕入れる側の記録が離れていると、相殺できる残高にも気づけません。

取引先マスターの分裂と統合 上は顧客台帳と仕入先台帳に同じ会社が別々に登録された状態、下は1件の連絡先に顧客と仕入先の役割を持たせた状態を示しています。 取引先マスターの分裂と統合 いまの状態 株式会社A商事/(株)A商事/A商事 顧客台帳と仕入先台帳に別々に存在 → どれが最新か誰も言えない つながった状態 A商事は連絡先1件だけ 顧客と仕入先の役割を両方持つ → 取引の記録が1か所に集まる 分かれているのは会社ではなく、台帳の作り方です
取引先マスターの分裂と統合

自社の台帳に当てはまるか:5つの確認

2つ以上当てはまれば、取引先マスターの設計を見直す時期です。

  • □ 同じ会社を検索すると、表記の違う候補が2件以上出てくる
  • □ 顧客の一覧と仕入先の一覧を、別の部署が別のファイルで持っている
  • □ 住所変更の連絡を受けても、どこを直せば全部に反映されるか分からない
  • □ 取引先ごとの年間の売上や仕入を出すのに、手作業の集計が要る
  • □ 会社名の書き方を決めたルールが、文書として残っていない

なぜ取引先マスターは分かれてしまうのか

理由1:顧客の台帳と仕入先の台帳が、別々の場所で始まった

営業がまとめた顧客一覧と、購買がまとめた仕入先一覧は、別のタイミングで作られます。両方に同じ会社が載っていても、それを見比べる仕組みはありません。

理由2:会社名の書き方にルールがない

「株式会社」を前に置くか後ろに置くか、「(株)」と略すか。決めごとがなければ、登録する人の癖が残ります。

検索で既存の1件が見つからず、また新しく作る。こうして件数が膨らみます。

理由3:届け先や担当者が増えるたびに、新規登録している

同じ会社でも、納品先の倉庫が3か所あり、窓口が部署ごとに分かれていることがあります。住所欄が1つしかない台帳では、その数だけ会社を登録するしかありません。

Odooの連絡先で、取引先マスターはこう変わる

Odooでは、顧客も仕入先も届け先も「連絡先」という1つの箱に入ります。台帳を分けず、1件の会社に情報をぶら下げていく形です。

会社は1社につき1件だけ登録する

最初に決めるのは、名称の表記ルールです。「株式会社は前に置き、略記は使わない」といった基準を決め、文書に残します。

1社1件が守られていれば、記録は自然に1か所へ集まります。

担当者と住所は、その会社にぶら下げる

窓口の担当者は、会社とは別の登録として作り、その会社に紐づけておくのが基本です。請求書を送る先も、商品を届ける先も、住所として会社の下に持たせます。

会社は1件のまま、担当者と届け先はいくつ増やしてもかまいません。

顧客か仕入先かは「役割」として付ける

同じ会社に売っていて、そこから仕入れてもいる。Odooではこれを2件に分けず、1件の連絡先に2つの役割を持たせて表します。

役割は後から足せるので、取引の形が変わっても登録をやり直さずに済みます。販売側の使い方はOdooの顧客管理、仕入側はOdooの購買管理で個別に取り上げました。

取引先マスターを整える3つの段階 会社を1件に絞り、担当者と住所をぶら下げ、顧客と仕入先の役割を付けるという流れを、上から順に示しています。 会社・担当者・住所の3階層で持つ ①会社を1件に 表記ルールを先に決める 同じ会社は1件だけ ②ぶら下げる 担当者を紐づける 届け先は住所で持つ ③役割を付ける 顧客として使う 仕入先としても使う 台帳を増やすのではなく、1件に役割を足していきます
取引先マスターを整える3つの段階

AIで代替できる工程:表記の揺れた取引先名を見比べ、同じ会社らしい組み合わせを挙げる部分は、AIによる照合で人手を減らせる余地があります。

取引先が1か所にまとまると、売上と仕入を同じ相手の単位で並べられます。そこから経営の判断にどうつながるかは、データを1か所に集めると、経営はどう変わるかで扱いました。

対応範囲(C/E別)

やりたいことCommunity版Enterprise版
連絡先を1件にまとめ、顧客・仕入先の役割を付ける使える使える
CRMと購買(仕入)の基本機能使える使える
会計のフル機能で請求先・支払先として使い込む請求書発行など基本的な範囲対応
公式サポート・ホスティング自社で担う含まれる

版ごとの対応範囲は改定されることがあるため、導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

取引先マスターを統合する進め方(1社1件にそろえる)

すでに分かれた台帳は、表記のルールを決めてから、取引の多い会社から寄せていきます。ベンチャーネットは、システムの設定より先に次の4つを順に確かめます。

  1. 台帳の置き場所を数える:顧客一覧、仕入先一覧、請求ソフト、営業の名刺管理。情報が何か所にあるかを書き出します。
  2. 取引の多い会社から名寄せ候補を挙げる:名寄せとは、別々に登録された同じ会社を1件にまとめる作業です。全件ではなく、影響の大きい会社から手を付けます。
  3. 表記ルールと登録の担当を決める:名称の書き方、支店の扱い、屋号のある個人事業主の書き方。この3つと、新規登録を誰が確かめるかを決めます。
  4. 標準の形で回るかを確かめる:会社・担当者・住所・役割という標準の持ち方に、自社の取引を当てはめます。独自の項目を足すのは、標準で回らないと分かってからです。

4つ目の考え方が、Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる進め方)です。

取引先の数や拠点が多く、Odooの標準では収まらない場合は、NetSuiteなど別の選択肢を含めて正直にお伝えする方針です。規模が大きい会社での顧客データの持ち方は、NetSuiteのCRMと顧客データ一元化が参考になります。

この考え方の良い点と、気をつけること

会社・担当者・住所の3階層に役割を付けて持つ考え方には、得られることと、先に引き受けたい手間があります。

良い点は、次の5つです。

  • 直す場所が1か所になる:届け先が変わっても、直すのは会社1件の住所だけで済む
  • 取引が同じ相手の単位で並ぶ:売上と仕入を、足し算なしで1社ごとに見られる
  • 取引の形が変わっても作り直さない:役割は後から足せるので、登録をやり直さずに済む
  • 担当者や届け先が増えても1件のまま:窓口や納品先は、会社の下にいくつ足してもかまわない
  • 部門ごとの一覧も作れる:役割で切り分けられるため、販売側と購買側で必要な一覧を作れる

気をつけることは、次の4つです。

  • 表記ルールを先に決める:名称の書き方、支店の扱い、屋号のある個人事業主の書き方を決めておく
  • 移行の前に見比べる作業が要る:今の一覧を丸ごと取り込むと、分かれていた3件がそのまま入る
  • 名寄せは後になるほど重くなる:台帳が小さいうちに整えるほうが、負担は軽く済む
  • 会計まで使い込むなら版を選ぶ:会計のフル機能は、Enterprise版が前提になる

このうち移行と表記ルールの注意点の避け方は、始めるときの2つの注意点で取り上げました。

この考え方の良い点と、気をつけること 良い点は、直す場所が1か所になる、取引が同じ相手の単位で並ぶ、取引の形が変わっても作り直さない、担当者や届け先が増えても1件のまま、部門ごとの一覧も作れること。気をつけることは、表記ルールを先に決める、移行の前に見比べる、名寄せは後になるほど重くなる、会計まで使い込むなら版を選ぶこと。 この考え方の良い点と注意点 良い点 直す場所が1か所になる 届け先の変更は会社1件の住所だけ 取引が同じ相手の単位で並ぶ 売上と仕入を足し算なしで見る 取引の形が変わっても作り直さない 役割は後から足せる 担当者や届け先が増えても1件のまま 窓口と納品先は会社の下に足す 部門ごとの一覧も作れる 販売側と購買側を役割で切り分ける 気をつけること 表記ルールを先に決める 名称・支店・屋号の書き方 移行の前に見比べる作業が要る 丸ごと取り込むと3件のまま入る 名寄せは後になるほど重くなる 台帳が小さいうちに整える 会計まで使い込むなら版を選ぶ 会計のフル機能はEnterprise版が前提 重複を減らすのは、入力の丁寧さより設計
この考え方の良い点と、気をつけること

始めるときの2つの注意点

注意1:今のファイルをそのまま移さない

移す前に同じとみなす会社を見比べ、残す1件を決めておきます。既存の一覧を丸ごと取り込むと、分かれていた3件がそのまま入るからです。進め方はデータ移行の記事で扱っています。

注意2:表記ルールを決めずに登録を始めない

統合の進め方の3つ目で挙げたルールを先に決めるだけで、後の手戻りは小さくなります。運用が始まってからルールを作ると、直す対象が増えるからです。

よくある質問

顧客と仕入先を1件にまとめると、部門ごとの管理がしにくくなりませんか?

しにくくはなりません。役割で切り分けられるため、販売側と購買側で、それぞれ必要な一覧を作れます。

同じ会社の登録がすでに何十件もあります。全部を手で直すのですか?

全部を一度に直す必要はありません。取引の多い会社から順に寄せ、残りは使う場面が来たときに整える進め方が現実的です。

届け先が毎回変わる取引先はどう扱いますか?

よく使う届け先は住所として登録し、単発の宛先はその都度指定する形が扱いやすくなります。

個人のお客様も同じ考え方で登録できますか?

登録できます。会社に属さない個人も、連絡先として1件で持てるからです。会社にぶら下げるか単独で持つかは、取引の実態次第です。

顧客と仕入先を一つの連絡先で管理するメリットは何ですか?

直す場所が1か所になり集計の手間も減ることです。
届け先が変わっても、直すのは会社1件の住所だけです。売上と仕入も、同じ相手の単位で足し算なしに並べられます。一方で、表記ルールを先に決める手間はかかります。両方をこの考え方の良い点と、気をつけることに並べました。

まとめ:取引先マスターは設計で1件にそろえる

取引先の重複は、入力の丁寧さではなく設計で減らせます。

  • 同じ会社は1件だけ登録し、名称の表記ルールを先に決める
  • 担当者と住所は、その会社にぶら下げて持つ
  • 顧客か仕入先かは、1件の連絡先に付ける役割として扱う
  • 移行の前に、同じ会社を見比べて残す1件を決める

名寄せは後になるほど重くなるため、台帳が小さいうちに整えるほうが、負担は軽く済みます。

1年後、支店から届け先変更の連絡が来ても、直すのはA商事の1件だけです。その取引先の売上と仕入が足し算なしで並び、次の価格交渉の材料になっています。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「取引先の情報がどこまで分かれているのか、まず棚卸ししたい」という整理から、ご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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