名刺管理とカレンダー同期からCRMを始める|Odooで最初に決める2つのルール

営業担当が休んだ日に、取引先から電話が入る。「先週の件ですが」。社内の誰も、その中身が分かりません。

その営業の机の引き出しには、輪ゴムでまとめた名刺の束があります。来週の訪問予定は、本人のスマートフォンのカレンダーにだけ入っています。

顧客との接点が、会社ではなく個人に貯まっている状態です。けれども、CRM(顧客と商談を記録する仕組み)は全項目を設計しなくても、この束と予定表から始められます。

Odooでは、名刺を会社名・氏名・連絡先の3項目だけで登録し、ふだんのカレンダーとつなぎます。訪問の予定を取引先に紐づければ、それが顧客の履歴になります。CRMの基本機能は、無料のCommunity版でも有償のEnterprise版でも使えます(名刺とカレンダーで始めるCRMの対応範囲)。

名刺と予定表から始めると、たとえば次のことが変わります。

  • いつも通りカレンダーに予定を入れるだけで、会社側にも同じ予定が見える
  • 訪問のあとに一言残せば、顧客ごとの履歴として並ぶ
  • 今期やり取りのある取引先を、会社として一覧で出せる
  • 担当者が休んだ日も、隣の席の社員が前回の訪問記録を開いて話を続けられる

ただし、全社の名刺を一度に入れると、重複と古い連絡先の山ができます。顧客台帳だけが目的なら、Odooが大きすぎることもあります。

では、立ち上げのときに何だけを決めておけばよいのか。答えは始めるときの2つの注意点にあります。自社がいま始めてよい段階かは、社内で確かめる5項目で見られます。

CommunityとEnterpriseの区別について

この記事の中心にあるCRM(顧客と商談を記録する仕組み)の基本機能は、Community版(無料)とEnterprise版(有償)のどちらでも使えます。名刺の取り込みや外部カレンダーとの同期は、版ごとの判定を扱いません。

目次

こんな場面はありませんか

営業から戻り、名刺入れから抜いた名刺を引き出しに入れる。この繰り返しで、束は年々厚くなります。

「あの会社の窓口、誰だったか」となったとき、探す先はその束です。見つかっても、いつ何を話したかまでは思い出せません。

予定表も似た状態です。訪問した事実は残っても、そこで何が決まったかは残らない。

顧客の情報は名刺・予定表・記憶の3か所に散らばり、会社としては取り出せません。散らばった顧客との接点を経営としてどうまとめるかは、顧客接点を1本の流れにつなぐで扱っています。

顧客の接点は、いま誰の手元にあるか いまの状態では、名刺は引き出し、予定は個人のカレンダー、話した内容は本人の記憶だけにあり、担当が代わると接点が消える。つながった状態では、名刺は取引先、予定は顧客の履歴になり、誰でも過去のやり取りを読み返せて、顧客が会社の資産になる。入口は、いま手元にある名刺と予定表で足りる。 顧客の接点は、いま誰の手元にあるか いまの状態 名刺は引き出し、予定は個人のカレンダー 話した内容は本人の記憶だけ → 担当が代わると接点が消える つながった状態 名刺は取引先、予定は顧客の履歴へ 誰でも過去のやり取りを読み返せる → 顧客が会社の資産になる 入口は、いま手元にある 名刺と予定表で足りる
顧客の接点は、いま誰の手元にあるか

なぜ名刺と予定が顧客の履歴にならないのか

理由1:顧客情報が個人の持ち物になっている

名刺は受け取った本人の引き出しに、予定は本人のカレンダーに入ります。会社の資産として置く場所が、そもそも用意されていません。

理由2:「全項目を埋めないと始められない」と思い込んでいる

CRMを入れようとすると、業種・従業員数・決裁者といった項目を、つい先に設計しがちです。埋める欄が増えるほど、最初の1件を登録する負担は上がります。準備の話し合いだけで、数か月が過ぎていきます。

理由3:訪問の記録が「予定」で終わっている

カレンダーは、これから何をするかを管理するためのものです。終わった予定は過去に流れ、顧客ごとの履歴としては積み上がりません。

Odooではこう変わる:名刺とカレンダーから始める3手順

考え方はひとつです。すでに社内にある情報から入れて、足りない項目は後から足していく。CRMそのものの役割は、顧客管理システム(CRM)とはにまとめています。

名刺を連絡先として取り込む

まず、手元の名刺を取引先と担当者として登録します。入れるのは、会社名・氏名・連絡先の3つだけで構いません。業種や規模は、必要になった時点で足せば十分です。

ふだん使っているカレンダーとつなぐ

次に、各自が使っている外部のカレンダーと、Odoo側の予定を同期させます。目的は、入力する場所を増やさないことです。いつも通りに予定を入れれば、会社側にも同じ予定が見えます。

予定を顧客の履歴に変える

訪問や打ち合わせの予定を、登録した取引先に紐づけます。終わった後に一言だけ結果を残せば、それが顧客ごとの履歴として並ぶ。機能の範囲は、OdooのCRMでできることで詳しく説明しています。

すでにある情報から始める3手順 1つ目に名刺を会社名・氏名・連絡先の3項目だけで入れる。2つ目にふだんのカレンダーと予定をつなぎ、入力先を増やさない。3つ目に予定を取引先に紐づけ、結果を一言だけ残して履歴に変える。ゼロから入力するのではなく、いまある情報を置き場所ごと変える。 すでにある情報から始める3手順 ① 名刺を入れる 会社名・氏名・連絡先 まずは3項目だけ ② 予定をつなぐ ふだんのカレンダーと 入力先を増やさない ③ 履歴に変える 予定を取引先に紐づけ 結果を一言だけ残す ゼロから入力するのではなく、 いまある情報を置き場所ごと変える
すでにある情報から始める3手順

AIで代替できる工程:名刺の画像から会社名・氏名・連絡先を読み取り、登録用の下書きにする部分です。ここは、AIによる読み取りで人手を減らせる余地があります。

名刺とカレンダーで始めるCRMの対応範囲(C/E別)

項目Community版Enterprise版
顧客・商談の管理(CRM)使える使える
一覧・ピボット・グラフでの集計使える使える
アクセス権限の基本的な仕組み共通共通
公式サポート・バージョンアップ対象外含まれる
ホスティング・バックアップ自社で用意Odooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べる

Community版は無料・オープンソースで、運用の責任は自社側にあります。Enterprise版は有償のサブスクリプションで、公式サポートとホスティングが含まれる形です。動かす場所は、Odooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べます。

名刺の取り込みや外部カレンダーとの同期は、「その業務をOdooで扱える」という水準にとどめます。

版ごとの対応範囲は改定されることがあるため、導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

名刺と予定表からCRMを始める良い点と、気をつけること

この始め方の良い点と注意点は、次のとおりです。版の区分は、この記事で扱うCRMの基本機能と運用の範囲で添えています。

良い点

  • その日から履歴を残せる:名刺は会社名・氏名・連絡先の3項目だけで登録し、いまやり取りしている相手から入れればよい
  • 入力する場所が増えない:ふだんのカレンダーと同期すれば、いつも通り予定を入れるだけで会社側にも同じ予定が見える
  • 予定が顧客の履歴になる:予定を取引先に紐づけ、終わった後に一言残せば、誰でも過去のやり取りを読み返せる
  • CRMの基本機能は両版で使える:顧客・商談の管理と、一覧・ピボット・グラフでの集計は、Community版でもEnterprise版でも使える

気をつけること

  • 一度に全部を入れない:数千枚をまとめて取り込むと、重複と古い連絡先の山ができる。今期やり取りのある相手に絞る
  • 2つのルールは先に決める:会社名の表記をそろえる形と、履歴を残すタイミングを決めておく
  • 一言残す習慣が続くかを見る:最初の1か月は、入力の手間が増えていないかを営業担当に聞いて調整する
  • Community版は運用を自社で担う:ホスティングや障害対応は自社の役目になる。公式サポートとバージョンアップは対象外

両方を並べると、次の図のとおりです。

名刺と予定表からCRMを始める良い点と、気をつけること 良い点は、3項目の登録でその日から履歴を残せる、ふだんのカレンダーと同期して入力先が増えない、予定が顧客の履歴になる、CRMの基本機能は両版で使えること。気をつけることは、一度に全部を入れない、表記と記録のタイミングの2つのルールを先に決める、一言残す習慣が続くかを見る、Community版は運用を自社で担うこと。 名刺と予定表から始める良い点と注意点 良い点 その日から履歴を残せる 会社名・氏名・連絡先の3項目で登録 入力する場所が増えない ふだんのカレンダーと同期する 予定が顧客の履歴になる 取引先に紐づけ、結果を一言残す CRMの基本機能は両版で使える 顧客・商談の管理と集計 気をつけること 一度に全部を入れない 今期やり取りのある相手に絞る 2つのルールは先に決める 会社名の表記と、履歴を残すタイミング 一言残す習慣が続くかを見る 入力の手間を営業担当に聞いて調整 Community版は運用を自社で担う ホスティングや障害対応は自社の役目 入れる範囲とルールは、始める前に決めておく
名刺と予定表から始める良い点と、気をつけること

注意点の避け方は、始めるときの2つの注意点とベンチャーネットが最初に確かめることで説明しています。

名刺と予定表から始めてよいか:社内で確かめる5項目

3つ以上当てはまれば、名刺と予定表から始める価値があります。

  • □ 顧客の窓口担当者の名前を、営業本人にしか答えられない取引先がある
  • □ 担当者の異動後、顧客に「前にも話しましたが」と言われたことがある
  • □ 訪問予定は各自のスマートフォンやPCのカレンダーに入っている
  • □ CRMの導入を話し合ったが、入力項目の議論で止まったことがある
  • □ 今期やり取りのある取引先を、会社として一覧で出せない

顧客とのやり取りが、既に一つの仕組みにまとまっている会社もあります。その場合は、商談や見積の流れから整える方が近道です。

CRMを始めるときの2つの注意点

注意1:全社の名刺を一度に入れようとしない

数千枚をまとめて取り込むと、重複と古い連絡先の山ができます。まずは、今期やり取りのある相手に絞ってください。少人数での進め方は、従業員10名以下の会社のOdoo活用モデルも参考になります。

注意2:ルールを2つだけ先に決める

決めるのは、会社名の表記をそろえる形と、履歴を残すタイミングの2点です。この2つがあれば、後から検索や集計をするときに困りません。

ベンチャーネットが名刺の束を前に最初に確かめること

ベンチャーネットは機能の説明より先に、次の順で状況を確かめます。

  1. 誰の引き出しに、どの顧客がいるか:名刺と予定表の偏りを見て、引き継ぎで困る顧客から優先順位を付けます。
  2. 最初に入れる範囲を決める:今期やり取りのある取引先に絞り、残りは運用が回ってから入れます。
  3. 項目を「会社名・氏名・連絡先」から増やさない:他の欄は、集計の理由が出てから足します。標準に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方です。
  4. 予定に一言残す習慣が続くかを1か月見る:入力の手間が増えていないか、営業担当に聞いて調整します。
  5. 3〜5年後の姿から逆算する:見積・受注・請求までCRMとつなぐか、顧客台帳で十分かを話し合います。

見積から請求までつなぐ際に、規模が大きい、または海外拠点まで視野に入るなら、NetSuiteも候補になります。両者の違いは、NetSuiteとOdooの販売・CRMの比較で業務ごとに整理しています。

顧客台帳だけが目的で、Odooが大きすぎると判断した場合は、そうお伝えします。

よくある質問

名刺を全部入力しないとCRMは使えませんか?

その必要はありません。いまやり取りしている相手から登録すれば、その日から履歴を残せます。

個人の予定まで会社に見られてしまいませんか?

公開する範囲は、設定で決められます。社外の私的な予定まで共有する必要はありません。

営業担当が入力してくれるか心配ですが、どうすればよいですか?

入力する場所を増やさないことです。ふだんのカレンダーを起点にすれば、追加の作業はほとんど生まれません。

Community版だけでCRMを始められますか?

基本機能の範囲であれば、始められます。ただし、ホスティングや障害対応は自社で担う前提になります。

名刺とカレンダーからCRMを始めるメリットと注意点は何ですか?

入力する場所を増やさずに顧客の履歴を残せることです。

名刺は3項目だけで登録し、ふだんのカレンダーと同期します。予定を取引先に紐づけて結果を一言残せば、顧客ごとの履歴として並びます。
一方で、全社の名刺を一度に入れると重複と古い連絡先の山ができます。今期やり取りのある相手に絞り、表記と記録のタイミングを先に決めてください(良い点と気をつけること)。

まとめ:名刺管理とカレンダーから、CRMは小さく始められる

  • 顧客情報が個人に貯まる状態は、引き継ぎのたびに損失を生む
  • 全項目を設計してから始めようとすると、着手そのものが止まる
  • 名刺は連絡先として、予定は履歴として使えば初期入力が減る
  • 表記のそろえ方と記録のタイミングだけ、先に決めておく

最初の1か月は、登録できる顧客が数十件かもしれません。それでも予定を紐づけ続ければ、履歴は自然に積み上がります。

1年後、担当者が休んだ日に取引先から電話が来ても、隣の席の社員が前回の訪問記録を開いて話を続けられます。引き出しの名刺の束は、もう探す場所ではありません。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「名刺と予定表から始めるとして、最初にどこまで入れるべきか」という整理から、ご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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