「あのお客様、前回いつ何を買われましたか」。社内でそう聞いて回った経験はないでしょうか。名刺は個人の名刺入れ、やり取りの履歴は担当者のスマホ、購入実績は誰かのExcel。
これは営業担当者の努力不足ではありません。顧客の情報が個人に付いたままで、会社に残っていないのです。
顧客管理システム(CRM)とは、この状態を変える仕組みです。誰が顧客で、いつ何を買い、いつ誰が接触したか。それを会社の資産として蓄積し、共有します。統合型ERPのOdoo(オドゥー)なら、CRMの基本機能を無料のCommunity版から使えます(Odooでの実現方法)。
顧客の情報が会社に残ると、たとえば次のことが変わります。
- 担当者が辞めても、後任が前回の見積と会話のメモを開いてから客先に向かえる
- 誰が対応しても直前のやり取りが見え、同じ客への行き違いが減る
- 前回いつ買ったかが分かり、次の提案時期を計画できる
- 統合型なら、同じ顧客データのまま見積・受注・請求へ進める
ただし、どの会社にも統合型が要るわけではありません。転記が起きている境目が1つなら、単機能ツールで足ります(単機能ツールと統合型の選び分け)。
一方で、CRMを入れたのに誰も開かなくなった、という話も珍しくありません。使われなくなる会社と、定着する会社は何が違うのか。答えは導入が失敗する4つの原因にあります。Odooで持つ良い点と注意点は、OdooのCRMのメリットとデメリットに並べました。
CommunityとEnterpriseの区別について
CRMアプリの基本機能は、無料のCommunity版でも利用できます。ただし受注・請求と数字をつなげていく段階では、会計のフル機能を持つEnterprise版が前提になります。
「顧客管理システム(CRM)」とは何か
顧客管理システム(CRM)とは、誰が顧客で、いつ何を買い、いつ誰が接触したかを、会社の資産として蓄積・共有する仕組みです。
CRMはCustomer Relationship Managementの略で、日本語では顧客関係管理と訳されます。扱う履歴は、大きく3種類に分かれます。
| 履歴の種類 | 中身 |
|---|---|
| 属性 | 企業や担当者の情報 |
| 取引 | 見積・受注・購入の記録 |
| 接触 | 訪問・電話・メールの記録 |
よくある誤解は、CRMを「営業の進捗を管理するツール」だと思うことです。
商談の段階や次の打ち手、予実を追うのは、営業支援システム(SFA)と呼ばれる領域です。SFAはプロセスを追い、CRMは顧客というストック情報を残します。
中小企業に顧客管理システムが必要になる理由
規模が小さい会社ほど、CRMの有無は経営に響きます。理由は3つです。
理由1:担当者が抜けても、取引を続けられるようにするため
中小企業では、一人の営業が数十社を単独で担当することも珍しくありません。値引きの経緯も、先方のキーマンも、クレームの記録も、その人の頭の中に入っています。
退職や異動が起きると、それはまとめて失われます。引き継ぎ資料に残るのは、せいぜい会社名と電話番号です。CRMの目的は、この属人化を先に外しておくことにあります。
理由2:同じ顧客への重複と行き違いをなくすため
営業とサポートと経理が、それぞれ別に同じ顧客を見ている会社は多くあります。すると、同じ客に別々の担当から連絡が行く。前回のクレームを知らないまま、新商品の案内を送ってしまうこともあります。
顧客を軸に履歴が一本化されていれば、誰が対応しても直前のやり取りが見えます。営業効率だけでなく、顧客からの信用にも関わる話です。
理由3:既存顧客からの売上を、意図して作れるようにするため
既存顧客が前回いつ買ったかを把握できていれば、次の提案時期を計画できます。既存顧客に選ばれ続ける仕組みづくりも、ここから始まります。履歴が残っていない会社は、そもそも打ち手を設計できません。たまった履歴から客層を読み解く考え方は、勘の客層から、データの客層へで取り上げています。
顧客管理システムの導入が失敗する4つの原因
CRMを入れたのに使われなくなる典型は、次の4つです。共通する根っこは、導入の目的が「顧客を管理したい」で止まっていたことです。
原因1:入力する人に、見返りがない
入力するのは現場の営業で、出てくるレポートを見るのは経営層や管理者。負担と恩恵が別の人に分かれていると、入力は後回しになります。
避け方は、入力した本人が最初に得をする設計にすることです。過去の見積をすぐ呼び出せる。訪問前に前回の会話を確かめられる。この小さな便利さが、入力を続ける動機になります。
原因2:入力項目を増やしすぎた
導入時は、業種、従業員数、決裁ルート、競合状況と、あれもこれも取りたくなるものです。けれども、項目が30個並んだ画面は、それだけで敬遠されます。
避け方は、最初は5項目前後に絞ることです。会社名、担当者名、連絡先、直近の取引、次回の接触予定。これを全員が埋め切る状態を作り、必要になってから増やします。
原因3:営業評価の道具として使われ、現場が防衛的になった
入力内容が人事評価に直結すると、現場は自衛を始めます。都合の悪い情報は書かず、確度は低めに書く。結果として、システムの中の数字が実態から離れていきます。
避け方は、用途を最初に宣言することです。顧客情報を会社に残す仕組みであって、個人の成績を測るものではない。そう明示します。評価の話とデータの話を切り離すほど、データは正確になります。
原因4:受注・請求とつながっておらず、二重入力になった
CRMに顧客を登録し、受注のたびに販売管理へ同じ会社名を打ち直す。請求書にも、また同じ住所を入れる。これでは現場は「同じことを3回やらされている」と感じます。
避け方は、顧客マスタ(顧客情報の元台帳)を1つにできる範囲を先に決めることです。転記が起きている境目を洗い出し、そこをまたげる仕組みを選びます。
顧客管理システムの選び方の判断軸
製品名を比べる前に、確かめておきたい判断軸は4つです。順番を間違えると、機能表の比較に時間を取られます。
1つ目は、顧客マスタをどこに置くかです。顧客の元台帳を1か所に決められるかが、最初の分かれ目になります。営業・受注・請求で別々の台帳を持つなら、どこかで必ず転記が起きます。
2つ目は、現場が毎日開く理由があるか。予定、履歴、資料が同じ画面にあるかを見ます。開く理由がない仕組みは、入力もされません。
3つ目は、外に出ている人が使えるかです。中小企業の営業は、社内にいません。スマートフォンで履歴を見て、その場でメモを残せるか。ここが、定着を左右します。
4つ目は、他の業務まで広げられるか。顧客情報は、見積・受注・請求へと流れていきます。その先までつなぐ可能性があるなら、拡張の余地を先に確かめておきます。
| 判断軸 | 確認すること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 顧客マスタの置き場所 | 顧客の元台帳を1つに決められるか | 部門ごとに台帳が残る |
| 毎日開く理由 | 予定・履歴・資料が同じ画面にあるか | 入力専用の画面になる |
| 社外での利用 | スマートフォンで閲覧・記録できるか | 帰社後のまとめ入力になる |
| 業務の広がり | 受注・請求まで同じデータでつなげるか | 後から連携費用が発生する |
この4つは、製品を比較する前に自社の状態を書き出す作業です。ここが決まっていないと、どの製品を見ても判断がつきません。
統合型ERP(Odoo)では顧客管理をどう実現するか
Odoo(オドゥー)は、アプリを組み合わせて業務を統合するERPです。CRMは、そのアプリの1つです。
CRMの基本機能はCommunity版でも使える
OdooのCRM(顧客・商談の管理)は、無料でオープンソースのCommunity版でも基本機能を利用できます。顧客ごとに情報を持ち、接触の履歴を残す用途なら、ここから始められます。各アプリの標準的な一覧画面や、ピボット・グラフによる集計も、両版で使える機能です。
ただし、Community版はホスティングと保守を自社の責任で行う前提です。公式サポートの対象外である点も押さえておいてください。詳しくはCommunity版とEnterprise版の違いにまとめています。
価値が出るのは、受注・請求とデータがつながったとき
CRMを単独で使っても、得られるのは顧客台帳の電子化までです。価値が大きくなるのは、同じ顧客データのまま見積を出し、受注に変え、請求まで進められるようになったときです。
このとき、受注・請求とつながらない二重入力は仕組みごと消えます。顧客一覧から、過去の取引や履歴もたどれる状態です。販売(見積・受注)も両版で使えるため、ここまでは同じ基盤で進められます。
一方で、会計のフル機能はEnterprise版が前提です。Community版の会計は、請求書発行など基本的な範囲にとどまります。標準のダッシュボードは両版で使えますが、表計算で自由に組むダッシュボードはEnterprise版が前提です。マーケティングオートメーションも、Enterprise版が前提です。
アプリ単位の詳しい内容はOdooのCRMでできることを、全体像は中小企業向けERPとは?をあわせてご覧ください。
対応範囲(C/E別)
| 機能 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| CRM(顧客・商談の管理) | 利用できる | 利用できる |
| 販売(見積・受注) | 利用できる | 利用できる |
| メール配信の基本機能 | 利用できる | 利用できる |
| 一覧・ピボット・グラフ集計 | 利用できる | 利用できる |
| 会計のフル機能 | 基本的な範囲にとどまる | 前提となる |
| 表計算で自由に組むダッシュボード | 標準のダッシュボードのみ | 前提となる |
| マーケティングオートメーション | 対象外 | 前提となる |
| 画面・項目のノーコード編集 | 対象外 | 前提となる |
| 公式サポート・バージョンアップ | 対象外 | 含まれる |
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
課金の構造も、判断の材料になります。Odooのプランは次の3つです。
- One App Free:1アプリのみ無料
- スタンダード:全アプリを使える
- カスタム:オンプレミスや外部連携まで含む
2つ目のアプリを足した時点で、有償プランに切り替わります。この点は、最初に理解しておきたいところです。
OdooのCRMで顧客管理をするメリットとデメリット
良い点も注意点も、Community版かEnterprise版かで当てはまり方が変わります。メリットは、次の5つです。
- 基本機能は無料版から使える:CRMの基本機能は、無料のCommunity版でも利用できる。顧客ごとに情報を持ち、接触の履歴を残す用途なら、ここから始められる
- 二重入力がなくなる:同じ顧客データのまま見積を出し、受注に変え、請求まで進められる。販売(見積・受注)は両版で使える
- 顧客の履歴をたどれる:顧客一覧から、過去の取引や履歴をたどれる
- 集計は両版でできる:一覧画面や、ピボット・グラフによる集計は、Community版でもEnterprise版でも使える
- 1アプリから試せる:Odooのプランの1つ、One App Freeなら1アプリのみ無料で使える
デメリットと注意点は、次の4つです。
- 会計のフル機能はEnterprise版が前提:Community版の会計は、請求書発行など基本的な範囲にとどまる
- 一部の機能はEnterprise版のみ:表計算で自由に組むダッシュボードやマーケティングオートメーションは、Enterprise版が前提になる。画面・項目のノーコード編集も同じ
- 2つ目のアプリから有償になる:One App Freeに2つ目のアプリを足した時点で、有償プランに切り替わる
- 無料版は自社で運用する:Community版はホスティングと保守が自社の責任で、公式サポートの対象外になる
両方を1枚の図に並べました。
これらの注意点は、製品を選ぶ前に知っておけば判断に織り込めます。何を先に決めるかは顧客管理システムの選び方の判断軸、統合型が要るかどうかは単機能ツールと統合型の選び分けで確かめてください。
顧客管理は単機能ツールか統合型か|選び分けの目安
顧客管理を単機能のツールで持つか、統合型の中で持つか。どちらが優れているという話ではなく、自社の状況で決まります。
| 自社の状況 | 向いている形 |
|---|---|
| 顧客管理という業務だけが突出して重い | 単機能ツール |
| すでに定着していて、それで業務が回っている | 単機能ツール |
| 扱う顧客数や取引の量が小さい | 単機能ツール |
| 他の業務との受け渡しで、手作業の転記が発生している | 統合型 |
| 同じ顧客情報を2か所以上に入力している | 統合型 |
| 全社の数字を出すのに、毎回人手がかかっている | 統合型 |
判断の順番は決まっています。ツールを比べる前に、転記が起きている境目を洗い出してください。境目が1つなら、単機能で足ります。3つ4つと出てくるなら、統合型を検討する段階です。
そのうえで、規模と要件によって選択肢は分かれます。
- 海外展開や連結決算が視野に入る:NetSuiteなど上位のERPが候補。グローバルで複雑ならSAPも視野
- 中小から中堅で、標準的な業務を統合したい:Odooが現実的
- パッケージに乗らない固有の業務が中心:AIスクラッチ開発も選択肢
海外展開まで視野に入り、販売・CRMの実現方法を両製品で比べたい場合は、NetSuiteとOdooの販売・CRM・店舗にまとめています。
AIスクラッチ開発はライセンスが不要な代わりに、開発費と保守費が別途発生します。この点は、必ず計算に入れてください。
ベンチャーネットが顧客管理の相談で最初に確かめること
顧客管理のご相談で、ベンチャーネットがいきなり製品の話をすることはありません。最初の数回で、次の4つを順に確かめます。
ステップ1:顧客の情報が、今どこに散らばっているか
名刺入れ、担当者のスマホ、見積のExcel、年賀状リスト。置き場所を全部書き出し、どれを元台帳にするかを決めます。
ステップ2:転記の境目がいくつあるか
顧客登録から見積・受注・請求までを追い、同じ会社名を打ち直している箇所を数えます。境目が1つなら、単機能ツールで十分だとお伝えします。
ステップ3:最初に埋める5項目と、入力した本人が得をする場面
項目は絞り、「訪問前に前回の会話が見える」といった現場の得を先に決めます。評価には使わないという宣言は、経営者から出していただきます。
ステップ4:3〜5年後の姿から、製品の段を決める
標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」で収まるかを見て、Odoo・NetSuite・AIスクラッチ開発のどれが合うかを決めます。AIスクラッチ開発を選ぶ場合の比較は、開発費と保守費が別途かかる前提です。
ベンチャーネットはNetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品に偏らない立場なので、Odooが合わない会社には合わないとお伝えします。
顧客管理は、ITの話である前に「顧客を会社の資産にする」という経営の話です。「評価には使わない」という宣言を経営者が引き受けるかどうかで、定着の度合いが変わります。
顧客管理システム(CRM)についてよくある質問
顧客管理システムとSFAは、どちらを先に入れるべきですか?
CRMが先です。まず顧客情報の蓄積から着手するのが一般的です。誰が顧客で、何をいつ買ったかという基本の情報がないと、商談プロセスを管理しても数字が積み上がりません。
Excelでの顧客管理では、なぜ限界が来るのですか?
同時に複数人で更新しにくく、履歴が上書きされて消えるためです。ファイルが複数のバージョンに分かれ、どれが最新の台帳か分からなくなることもあります。顧客数が増えるほど、この問題は大きくなるのです。
無料のCommunity版だけで顧客管理を始められますか?
顧客情報を集める段階なら、始められます。CRMの基本機能はCommunity版でも使えるためです。ただし、ホスティングと保守は自社の責任になり、公式サポートの対象外です。社内に運用できる人がいるかどうかで判断してください。
導入費用に使える補助金はありますか?
あります。デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)など、業務システムの導入を対象にした制度です。対象経費や要件は年度ごとに変わるため、検討時点の最新の公募要領をご確認ください。
Odooで顧客管理をするメリットとデメリットは何ですか?
二重入力をなくせる一方で会計のフル機能は有償版が前提です。
同じ顧客データのまま見積・受注・請求へ進めるため、会社名や住所の打ち直しがなくなります。CRMの基本機能は無料のCommunity版でも使えます。一方、会計のフル機能はEnterprise版が前提で、Community版はホスティングと保守を自社で受け持ちます(メリットとデメリット)。
まとめ
顧客管理システムは、営業を管理する道具ではありません。顧客の情報を、会社に残すための仕組みです。
- CRMが扱うのは、属性・取引・接触という3種類の履歴
- 中小企業ほど情報が個人に集中するため、属人化の解消効果が大きい
- 失敗の根っこは、目的が「管理したい」で止まっていること
- 選ぶ前に、転記が起きている境目を洗い出す
- OdooのCRM基本機能はCommunity版でも使え、会計のフル機能はEnterprise版が前提
1年後、ベテラン営業が退職した翌週でも、後任は前回の見積と会話のメモを開いてから客先に向かっています。「あのお客様、前回いつ何を買われましたか」と社内で聞いて回る声は、もう聞こえません。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社に必要な顧客管理はどこまでか」という整理から、ご相談を承っています。顧客情報がどこに散らばっているか、今の状態をそのままお聞かせください。
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