「MAツールを入れたのに、結局いつもの一斉配信しか使っていない」。中小企業の経営者から、こうした声をよく聞きます。展示会で集めた名刺は営業の机に眠り、「まだ先です」と言われた相手には誰も連絡していない。
原因はツールの性能ではなく、見込み客の情報の置き場所を整えないまま、自動化だけを先に買ったことにあります。置き場所を整えてから自動化すれば、少人数でも接点を絶やさずに済みます。
MAツール(マーケティングオートメーションツール)とは、見込み客の行動や状態をきっかけに、次の接点を自動で出す仕組みです。きっかけになるのは、たとえば資料の請求や価格ページの閲覧です(MAツールとは何か)。
統合型ERPのOdoo(オドゥー)なら、見込み客と商談を同じ台帳に置いたまま、配信から自動化へ広げられます(Odooでの実現)。
MAツールが回り始めると、たとえば次のことが変わります。
- 誰にいつ何を出すかを、担当者の記憶ではなくルールで決められる
- 検討中か情報収集の段階かで、送る内容を出し分けられる
- 商談と同じ場所に置けば、配信した相手が受注に進んだかを追える
- 営業が動くべき相手を、絞り込める
ただし、マーケティングだけ業務量が突出している会社や、専用ツールが定着している会社には、MA専用ツールが向きます。
では、契約したMAツールが一斉配信だけで終わるのはなぜか。原因は4つあり、どれも手前の準備に由来します(導入が失敗する4つの原因)。
CommunityとEnterpriseの区別について
メール配信の基本機能は、Community版(無料)とEnterprise版(有償)のどちらでも使えます。一方、シナリオに沿った自動配信であるマーケティングオートメーションは、Enterprise版が前提です。
「MAツール」とは何か
MAツールとは、見込み客の行動や状態をきっかけに、次に取るべき接点を自動で出す仕組みです。
主題は送る量ではありません。見込み客の状態に合わせて、次の一手が自動で出るかどうかです。
きっかけになるのは、たとえば資料の請求や価格ページの閲覧です。その行動を条件に、送る内容や相手を出し分けます。この「条件分岐」と「行動をきっかけにした自動化」が中核です。
ありがちな誤解は、MAツールを「大量にメールを送る道具」と考えることです。一斉配信そのものは、メール配信の基本機能で足ります。リスト管理や開封率の確認といった基本は、OdooのEメールマーケティングの記事にゆずります。
MAツールが引き受けるのは、その先です。誰にいつ何を出すかを、担当者の記憶ではなくルールで決める。ここが分かれ目です。
中小企業に「MAツール」が必要になる理由
人手が限られる会社ほど、見込み客との接点が担当者個人に依存します。理由は3つです。
理由1:後追いが担当者の記憶に依存している
問い合わせをもらった直後は、誰でも連絡します。難しいのは、その1か月後です。
「まだ先です」と言われた相手を拾い直せる会社は、多くありません。記憶に頼る運用は、担当者が忙しくなった時点で止まります。
理由2:見込み客が「今どの段階か」が見えない
検討中なのか、情報収集の段階なのか。これが分からないと、送る内容も決められません。結果として、全員に同じ内容を送ることになります。
段階が見えていれば、出し分けができる。これが、一斉配信との実務上の違いです。
理由3:少人数でも接点を絶やさずに済む
営業が2〜3人の体制では、追いかけられる件数に上限があります。手が回らない相手を放置すれば、集めた見込み客が無駄になります。
自動化の目的は、営業の代わりをすることではありません。人が動くべき相手を絞り込むことです。この考え方は「固客化」の考え方でも扱っています。
展示会・メール・営業がばらばらに動いている会社なら、顧客接点を1本の流れにつなぐ考え方も参考になります。
MAツールの導入が失敗する4つの原因
中小企業のMA導入が止まるのは、機能不足ではなく、手前の準備の段階です。原因と避け方は次のとおりです。
原因1:手元のリストが少なく、自動化する母数がない
なぜそうなるか。MAツールは、母数があって初めて出し分けに意味が出る仕組みだからです。数十件のリストでは、分岐した先が数件ずつになり、違いが読み取れません。
どう避けるか。契約の前に、名刺・問い合わせ履歴・過去の取引先を1か所に集めて件数を数えます。足りないなら、先に集める仕組みを作る順番です。
原因2:配信するコンテンツを作り続ける体制がない
なぜそうなるか。シナリオ(条件に応じて自動で流れる一連の配信)は、中身があって初めて動くからです。3通目までは用意できても、その先が続かない例が多く見られます。
どう避けるか。最初に、無理なく作れる本数を決めます。月1本しか作れないなら、月1本で回る設計にする。機能ではなく、供給できる分量から逆算します。
原因3:営業のデータとつながっておらず、成果が測れない
なぜそうなるか。配信の記録と商談の記録が別々の場所にあると、開封の先が追えないからです。開封率は分かるが、受注につながったかは分からない状態になります。
どう避けるか。見込み客の情報を、商談を管理する仕組みと同じ場所に置きます。Odooの顧客・商談管理の考え方のように、名寄せ(同じ相手の情報を1件にまとめること)の基盤をそろえるのが先です。
原因4:機能の多さで選び、運用できる範囲を超えた
なぜそうなるか。比較検討では機能の数が目に入りやすく、運用の手間は見えにくいからです。最初から分岐を作り込みすぎると、修正のたびに全体を見直すことになります。
どう避けるか。初期の分岐は2〜3本に抑えます。3か月動かしてから足す前提にすれば、作り込みすぎを防げます。
MAツールの選び方の判断軸
比べるべきは、機能の数ではありません。自社の状態に照らして、4つの軸で見ます。
| 判断軸 | 社内で確認する問い | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 情報の置き場所 | 名刺・問い合わせ・既存顧客は1か所にあるか | 名寄せができず、同じ相手に重複して届く |
| 中身の供給体制 | 誰が、月に何本作るか決まっているか | シナリオが途中で止まり、一斉配信に戻る |
| 商談との接続 | 配信の先の受注まで追えるか | 開封率しか報告できず、続ける判断ができない |
| 拡張のしやすさ | 分岐2〜3本で始め、後から足せるか | 初期の作り込みが重く、修正できなくなる |
社内会議では、次の4つに□を付けてみてください。
- □ 見込み客の情報が、1つの台帳にまとまっている
- □ 配信の中身を作る担当者と、月の本数が決まっている
- □ 配信した相手が商談・受注に進んだかを、同じ場所で確認できる
- □ 最初の3か月で試す分岐を、2〜3本に絞れている
□が2つ以下なら、MAツールの比較より先にやる準備があります。機能一覧から入ると、機能の多さで選んで運用できなくなる失敗に戻ります。
統合型ERP(Odoo)でMAをどう実現するか
Odooは、業務ごとのアプリを同じデータの上で動かす統合型ERPです。マーケティングの領域も、その一部として扱います。
メール配信の基本機能は両版で使える
メール配信の基本機能は、Community版とEnterprise版のどちらでも使えます。まず配信の基本だけを整え、自動化はあとから足す。この順番が取りやすい構造です。
シナリオに沿った自動配信はEnterprise版が前提
条件分岐を伴う自動配信、つまりマーケティングオートメーションは、Enterprise版が前提の機能です。Community版だけで同じ運用をしようとすると、ここで行き詰まります。
この区切りは、検討の初期に押さえておくべき点です。詳しくはOdooのマーケティングオートメーションの解説で扱います。
商談・受注と同じデータの上に乗る
Odooでは、CRM(顧客・商談の管理)と販売(見積・受注)が同じ基盤の上にあります。配信対象の見込み客と、商談化した相手が別の台帳に分かれません。
そのため、営業のデータとつながらない原因で挙げた「配信の先が追えない」問題が起きにくくなります。各アプリの一覧やピボット、グラフによる集計は両版で使えます。複数アプリを横断したダッシュボードは、スプレッドシート機能が必要なため、Enterprise版が前提です。
対応範囲(C/E別)
| 機能 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| メール配信の基本機能 | 利用可 | 利用可 |
| CRM(顧客・商談の管理) | 利用可 | 利用可 |
| 販売(見積・受注) | 利用可 | 利用可 |
| 各アプリの一覧・ピボット・グラフ集計 | 利用可 | 利用可 |
| マーケティングオートメーション | 対象外 | 利用可 |
| スプレッドシートによる横断ダッシュボード | 対象外 | 利用可 |
| 公式サポート・Odooオンラインでのホスティング | 対象外 | 含む |
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
課金の面では、Odooは全プランでアプリ数による課金差がない点が特徴です。One App Freeは1アプリのみ無料で、ユーザー数の制限はありません。2つ目のアプリを足した時点で、有償プランへの切り替えになります。
OdooでMAを持つメリットとデメリット
見込み客を育てる面から見ると、Odooの良い点と注意点は次のとおりです。使える版は、機能ごとに添えています。
メリット
- 配信の基本から始められる:メール配信の基本機能は、Community版とEnterprise版のどちらでも使える。まず配信を整え、自動化はあとから足せる
- 見込み客と商談が同じ台帳に乗る:CRMと販売が同じ基盤にあり、配信の先が追えない問題が起きにくい。どちらも両版で使える
- 集計は標準の画面でできる:各アプリの一覧・ピボット・グラフによる集計は、両版で使える
- アプリ数による課金差がない:Odooは全プランで、アプリ数による課金差がない
デメリット・注意点
- シナリオに沿った自動配信はEnterprise版が前提:条件分岐を伴う自動配信は、Community版の対象外。Community版だけで同じ運用をしようとすると、ここで行き詰まる
- 横断ダッシュボードもEnterprise版:複数アプリを横断したダッシュボードには、スプレッドシート機能が要る
- One App Freeは1アプリまで:ユーザー数の制限はないが、2つ目のアプリを足した時点で有償プランに切り替わる
- 中身と母数は自社で用意する:シナリオは中身があって初めて動き、出し分けは母数があって初めて意味が出る
両方を並べると、次の図のとおりです。
中身と母数の準備は導入が失敗する4つの原因、専用ツールとの分け方はMA専用ツールと統合型の選び方で説明しています。
MA専用ツールと統合型、どちらを選ぶか
MA専用ツールと統合型ERP、どちらが正解ということはありません。自社の状態で分かれます。
| 自社の状態 | 向く選択 |
|---|---|
| マーケティングだけ業務量が突出している | MA専用ツール |
| すでに専用ツールが定着し、業務が回っている | MA専用ツール |
| 件数が小さく、他業務との受け渡しがほとんどない | MA専用ツール |
| 配信リストと顧客台帳のあいだで転記がある | 統合型 |
| 同じ会社名を2か所以上に入力している | 統合型 |
| 全体の数字を出すのに人手がかかっている | 統合型 |
判断の順番はこうです。ツールを比べる前に、転記が発生している境目を洗い出します。境目が2か所以上あるなら、統合型を検討する段階です。位置づけは中小企業向けERPとはで整理しています。
そのうえで考えるのが、規模と要件による振り分けです。
- 規模が大きくなり、海外展開や連結決算が視野に入るならNetSuiteなど上位のERP
- グローバルで複雑な要件ならSAPも視野に入る
- 中小〜中堅で標準的な業務を統合するならOdoo
NetSuiteの規模で集客の自動化をどう組むかは、NetSuiteで集客を自動化するにはにまとめています。
パッケージに乗らない固有の業務が中心なら、AIスクラッチ開発も選択肢の一つです。ただし開発費と保守費が別途発生し、維持の責任も自社側に残ります。
MAの契約前に、ベンチャーネットが確かめる順番
ベンチャーネットはNetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に寄せずに順番を組めます。MAの相談で順に確かめるのは、次の4つです。
- 見込み客の置き場所を数える。名刺・問い合わせ・既存顧客が、いま何か所に分かれているかを書き出します。ツールの話はここではしません
- 営業が本当に困っている場面を1つ決める。「まだ先です」の相手が放置される、問い合わせの初動が遅れる、などです。自動化はこの1場面から始めます
- 月に作れる中身の本数を決める。担当者と本数が決まらないうちは、一斉配信で足りると伝えます
- 標準機能で回るかを見る。標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方です。専用ツールのほうが合う場合も、そのまま伝えます
順番は、見える化(見込み客が何件どこにいるか)→わかる化(どの段階の相手が受注に近いか)→儲かる化(人が動く相手を絞る)の3段で考えます。自動化が効くのは、最後の段です。
MAツールについてよくある質問
MAツールとメール配信システムは何が違いますか?
違いは、行動をきっかけに出し分けるかどうかです。一斉配信そのものは、メール配信の基本機能で行えます。MAツールが担うのは、行動をきっかけにした条件分岐と、見込み度合いに応じた出し分けです。
見込み客のリストが少なくても導入する意味はありますか?
意味はありますが、分岐の効果は出にくくなります。まずは名刺や問い合わせ履歴を1か所に集め、件数を把握するところからです。母数が育つまでは、配信の基本機能だけで運用する判断もあります。
Community版だけでマーケティングオートメーションは使えますか?
使えません。シナリオに沿った自動配信は、Enterprise版が前提です。Community版で使えるのは、メール配信の基本機能までです。
専任の担当者がいなくても運用できますか?
できます。分岐を2〜3本に絞れば、兼任でも回せる範囲に収まります。分かれ目は人数ではなく、月に何本の中身を作れるかです。
OdooでMAを持つメリットとデメリットは何ですか?
見込み客と商談を同じ台帳に置ける一方で自動配信はEnterprise版が前提です。
Odooでは、CRMと販売が同じ基盤にあり、配信対象の見込み客と商談化した相手が別の台帳に分かれません。メール配信の基本機能は、両版で使えます。
一方、シナリオに沿った自動配信と、複数アプリを横断したダッシュボードはEnterprise版が前提です(メリットとデメリット)。
まとめ
MAツールの成否は、機能ではなく手前の準備で決まります。
- MAツールの主題は、送る量ではなく次の一手が自動で出るかどうか
- 一斉配信そのものは、メール配信の基本機能の領域
- 失敗の原因は、母数不足・中身の供給不足・商談データとの断絶・機能過多の4つ
- 選び方は、情報の置き場所・供給体制・商談との接続・拡張のしやすさの4軸で見る
- Odooでは配信の基本機能が両版で使え、シナリオに沿った自動配信はEnterprise版が前提
- Odooのメリットは見込み客と商談が同じ台帳に乗ること。注意点は版の区分と、中身と母数の準備
1年後、展示会で「まだ先です」と言われた相手が反応した日に、担当者の手元へ次に連絡する合図が届いている。名刺を1か所に集めるところから、そんな日常が始まります。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の見込み客の情報は、いま何か所に分かれているのか」という整理から、ご相談を承っています。
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