「データはあるんです。ただ、毎月Excelに貼り直しているだけで」。ある経営者の方から、こう聞いたことがあります。販売・在庫・入金の数字は、それぞれのツールにきちんと入っている。それでも会議に出す一枚は、担当者が手作業で組み立てています。足りないのはデータではなく、判断に使える形です。
BIツールとは、社内に散らばった業務データを集めて集計し、経営判断に使える形で見せる仕組みです。統合型ERPのOdoo(オドゥー)では、各アプリにピボットとグラフの表示があります。データを別の場所に出さずに、その場で集計できます(Odooでの実現方法)。
数字が仕組みで出るようになると、たとえば次のことが変わります。
- 毎月Excelに貼り直す作業が、仕組みに置き換わる
- 集計の担当者が休んだ月も、数字が止まらない
- 営業と経理が、同じ数字を見て会議を始められる
- 月次の数字が早く出て、打ち手を早く試せる
ただし、外部の市場データや大量の履歴データを組み合わせた高度な分析には、専用のBIツールが適しています(単機能ツールと統合型の選び分け)。
専用のBIツールを足すべきか、業務システムの中で集計すれば足りるのか。ツールを比べる前に、見分ける順序があります(選び方の判断軸)。入れたのに誰も見なくなる会社のつまずき方は導入が失敗する4つの原因に、良い点と注意点はOdooの集計機能をBIとして使う良い点と注意点にまとめました。
CommunityとEnterpriseの区別について
この記事で扱う集計機能のうち、各アプリの一覧・ピボット・グラフはCommunity版とEnterprise版の両方で使えます。一方、スプレッドシート機能と、それを使った複数アプリ横断のダッシュボードはEnterprise版が前提です。
「BIツール」とは何か
BIツールは「グラフを描くソフト」より少し広い意味を持ちます。
BIツールとは、社内に散らばった業務データを集めて集計し、経営判断に使える形で見せるための仕組みです。BI(ビジネスインテリジェンス:業務データを分析して経営判断に役立てる考え方)という言葉が元になっています。売上の推移、粗利の内訳、在庫の滞留。こうした数字を、手作業ではなく仕組みとして出し続けることが役割です。
よくある誤解が1つあります。「BIツールを入れれば、数字が自動で出るようになる」という期待です。
実際には、BIツールは元データの状態をそのまま映します。データが5つのツールに分かれていれば、まずそれをつなぐ作業が発生する。名称の表記がそろっていなければ、集計は合いません。
BIツールは、整っているデータを見せる仕組みです。整っていないデータを整える仕組みではありません。
見える化そのものの考え方は経営の見える化の基本で扱っています。ここでは、BIツールというカテゴリの選び方に絞ります。
中小企業に「BIツール」が必要になる理由
規模が小さいうちは、社長の頭の中が実質的なBIでした。それが成り立たなくなる理由は3つです。
理由1:判断の材料が、いつも1か月遅れになる
月次の数字が固まるのが翌月の中旬。そこから会議で議論して、動くのはさらに数週間後。判断そのものは正しくても、遅れた分だけ効果が薄まります。
数字が早く出る会社は、打ち手を早く試せる。この差は、1年積み重なると大きくなります。
理由2:数字を出せる人が一人に固定される
Excelの集計ファイルは、作った人にしか直せないことが多いものです。関数の組み方も、貼り付ける手順も、その人の頭の中にあります。
その人が休むと数字が止まる。退職すればファイルごと分からなくなる。これは経営上のリスクです。
理由3:部門ごとに違う数字を持ち寄ってしまう
営業が出す売上と、経理が出す売上が合わない。原因はたいてい、計上のタイミングや対象範囲の違いです。
会議の前半が数字合わせで終わる会社は少なくありません。全員が同じ数字を見ている状態は、それ自体が価値になります。
BIツールの導入が失敗する4つの原因
BIツールの導入がうまくいかない中小企業には、共通する型が4つあります。
原因1:データが複数の場所に散らばったまま導入した
いちばん多い原因です。販売はAのツール、在庫はExcel、会計は別のソフト。この状態でBIツールを足すと、まず「つなぐ」作業が必要になります。
背景にあるのは、BIツールの導入を「表示の問題」と捉える見方です。実際には、置き場所の問題が先にあります。
避け方はシンプルです。BIツールを比べる前に、いま数字がいくつの場所に分かれているかを紙に書き出す。分かれ方が多いなら、データを一元管理する考え方から先に手を付けます。
原因2:見るべき指標を絞らず、画面に詰め込んだ
せっかく作るのだからと、20も30もグラフを並べてしまう。結果として、どこを見ればいいのか分からない画面ができあがります。
これは「多い方が親切」という善意から起きます。しかし、判断に使う数字は多くても7つ前後です。
避けるには、「この数字が悪かったら、明日何をするか」を書けるものだけ残すことです。行動につながらない数字は、いったん外します。
原因3:コード体系や名称の表記ゆれを直さないまま集計した
同じ取引先が「株式会社○○」と「(株)○○」で二重に登録されている。商品コードが部門ごとに違う。この状態で集計すると、合計が合いません。
原因は、ツールごとに登録ルールが育ってしまったことにあります。誰も間違えていないのに、数字だけが合わなくなる。
避け方は、導入の前に取引先マスタ(取引先の基本情報の台帳)と商品マスタを一度そろえることです。地味な作業ですが、ここを飛ばすと後の全部が疑わしくなります。
原因4:作る人と見る人が分かれ、運用が続かなかった
画面を作るのは情報システム担当や外部の会社、見るのは経営層と現場。この分担だと、見たい角度が変わるたびに依頼が発生します。
依頼が面倒になると、人は元のExcelに戻ります。半年後には、誰も開かない画面だけが残る。
避け方は2つあります。見る人が自分で条件を変えられる範囲を確保すること。そして、更新のタイミングを欲張らないことです。「作ったのに誰も見ない」を防ぐ回し方は、KPIダッシュボードの作り方と回し方にもまとめました。
リアルタイム更新を求めるほど、仕組みは重くなり、費用と手間も増えます。日次で十分な数字を秒単位で追う必要は、多くの中小企業にはありません。
BIツールの選び方の判断軸
比較サイトの機能一覧から入ると、判断がぶれます。中小企業が先に決めておきたい軸は4つです。
軸1は、データの置き場所がいくつに分かれているか。1〜2か所なら専用ツールを足す形で足ります。5か所以上なら、まず統合を検討する段階です。
軸2は、更新頻度をどこまで求めるかです。日次で足りるのか、時間単位が要るのか。求めるほど費用と手間は増えます。
軸3は、作る人と見る人の距離。社内に画面を作れる人がいないなら、専門知識なしで扱える範囲の広さが重要になります。
軸4は、増えたときの費用の形です。人が増えたとき、見る画面が増えたとき、何に対して課金されるのか。金額そのものより、課金の構造を先に確認します。
| 判断軸 | 専用BIツールが向く場合 | 業務システム内の集計が向く場合 |
|---|---|---|
| データの置き場所 | 複数システムを横断し、外部データも組み合わせる | 業務データが1か所にまとまっている |
| 分析の深さ | 予測や多次元の分析まで行う | 実績の集計と推移の把握が中心 |
| 作る人 | 専任の担当者やパートナーがいる | 現場の担当者が自分で条件を変えたい |
| 立ち上げの負荷 | 接続とデータ整備の工程が必要 | 業務を動かせば数字が貯まる |
この表は優劣ではありません。自社がどちらの状態にいるかの確認です。
統合型ERP(Odoo)ではBIの役割をどう実現するか
Odooは、販売・在庫・購買・会計などを1つの仕組みの上で動かす統合型ERP(統合基幹業務システム)です。BIの観点で見た違いは、「集計する前に集める工程が要らない」点にあります。
各アプリの中で、集計まで終わらせる
Odooの各アプリには、標準的な一覧画面に加えて、ピボット(縦軸と横軸を選んで集計する表)とグラフの表示が用意されています。これはCommunity版とEnterprise版の両方で使える機能です。
たとえば販売アプリで、期間・担当者・商品カテゴリを軸に受注金額を集計する。在庫アプリで、倉庫別の滞留を見る。いずれも、データを別の場所に出さずにその場で行えます。
業務データが同じ場所にあるため、基本的な集計は業務システムの中で完結しうる。BIツールを別に用意しなくてよい場面がある。これが統合型の構造上の利点です。
複数アプリを横断して1枚にまとめる
経営会議で見たいのは、販売と在庫と入金を並べた一枚です。Odooでは、スプレッドシート機能を使って、複数アプリのデータを横断したダッシュボードを組み立てられます。
ただし、このスプレッドシート機能と、それを使った横断ダッシュボードはEnterprise版が前提です。Community版で使えるのは、各アプリ内の一覧・ピボット・グラフまでと考えてください。
経営者が毎朝1画面で状況をつかむ形については、社長のコックピットをOdooで作るで具体的に扱っています。
対応範囲(C/E別)
| 機能 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 各アプリの一覧画面での絞り込み・並べ替え | 使える | 使える |
| ピボットによる集計 | 使える | 使える |
| グラフ表示(棒・折れ線・円) | 使える | 使える |
| スプレッドシート機能 | 対象外 | 使える |
| 複数アプリ横断のダッシュボード | 対象外 | 使える |
| Odoo Studioによる画面のカスタマイズ | 対象外 | 使える |
Odoo Studioを使うには、Enterprise版の中でも「カスタムプラン」が必要です。スタンダードプランには含まれません。
なお、版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
できないことも書いておきます。外部の市場データや大量の履歴データを組み合わせた高度な分析には、専用のBIツールが適しています。Odooの集計機能は、自社の業務データを判断に使える形にするための範囲です。
Odooの集計機能をBIとして使う良い点と注意点
良い点も注意点も、Community版かEnterprise版かで当てはまり方が変わります。良い点は、次の5つです。
- 集める工程が要らない:販売・在庫・購買・会計が1つの仕組みの上で動く。集計の前にデータをつなぐ作業が要らない
- 各アプリでその場で集計できる:一覧・ピボット・グラフは、Community版でもEnterprise版でも使える
- 現場が自分で軸を変えられる:期間・担当者・商品カテゴリなどの軸を選び、受注金額を集計できる。見たい角度が変わっても、自分で条件を変えやすい
- 業務を動かせば数字が貯まる:専用BIツールで必要になる、システム間をつなぐ工程が要らない
- 横断の一枚も組める:Enterprise版のスプレッドシート機能で、複数アプリを横断したダッシュボードを組み立てられる
注意点は、次の4つです。
- 横断ダッシュボードはEnterprise版:スプレッドシート機能も横断ダッシュボードもEnterprise版が前提。Community版で使えるのは、各アプリ内の一覧・ピボット・グラフまで
- 高度な分析は専用BIが向く:外部の市場データや大量の履歴データを組み合わせる分析には、専用のBIツールが適している
- Studioはカスタムプラン:画面をカスタマイズするOdoo Studioは、Enterprise版の中でもカスタムプランが必要
- マスタは先にそろえる:取引先や商品の表記ゆれが残っていれば、どのツールでも合計は合わない
両方を並べると、次の図のとおりです。
どこまで標準の集計で足りるかは、ベンチャーネットの確かめ方のステップ4で、各アプリのピボットとグラフから始めて判断します。
専用BIツールか統合型の集計か、どちらを選ぶか
ツールを比べる前に、自社がどちらの側にいるかを見分けます。
単機能のBIツールが向くのは、分析業務だけが突出して重い場合です。すでに業務システムが定着して回っている、扱うデータの量や種類が限られている、という場合も同じ。無理に統合する必要はありません。
統合型が向くのは、逆の兆候が出ている場合です。経営会議の前に、次の項目を確かめてみてください。
- □ 他の業務とのデータの受け渡しで、手作業の転記が発生している
- □ 同じ情報(取引先・商品・受注など)を2か所以上に入力している
- □ 全体の数字を出すのに、特定の担当者の手作業が欠かせない
- □ 営業と経理で、同じ月の売上が一致しないことがある
2つ以上当てはまるなら、BIツールを選ぶ前に置き場所の統合を検討する段階です。
ツールを比べる前に、転記が発生している境目がどこかを先に洗い出す。その境目の数が、必要なものを教えてくれます。数字を判断に使う流れ全体は、Odooとデータドリブン経営の記事にまとめました。
そのうえで、規模と要件による振り分けがあります。
| 会社の状況 | 候補になる選択肢 |
|---|---|
| 規模が大きくなり、海外展開や連結決算が視野に入る | NetSuiteなど上位のERP |
| グローバルで要件が複雑 | SAPも視野に入る |
| 中小〜中堅で、標準的な業務を統合したい | Odooが現実的な選択肢 |
| パッケージに乗らない固有の業務が中心 | AIスクラッチ開発(ライセンスは不要でも、開発費・保守費が別途かかる) |
どの段が合うかを決めるのは、業務範囲・規模・内製体制です。上位のERPと専用BIを組み合わせる規模なら、NetSuite×BIツール徹底比較が参考になります。
会議資料の一枚から逆にたどる、ベンチャーネットの確かめ方
ベンチャーネットはNetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品を前提にしません。BIの相談では、次の順で確かめます。
ステップ1:いま会議に出ている一枚を、出どころまでたどる。
売上・粗利・在庫・入金の各数字が、どのツールから、誰の手を経て届くのかを書き出します。置き場所の数と、転記の境目がここで見えます。
ステップ2:判断に使う数字を7つ前後に絞る。
「この数字が悪かったら、翌月何を変えるか」を経営者と一緒に言葉にします。答えが出ない数字は、最初の画面から外します。
ステップ3:取引先と商品の台帳をどうそろえるかを決める。
表記ゆれやコードの違いを、どの時点で誰が直すかを決めます。ここが決まらないうちは、どのツールでも合計は合いません。
ステップ4:標準の集計で足りる範囲から始める。
Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で、まず各アプリのピボットとグラフを使います。そのうえで横断の一枚が要るか、専用BIが要るかを判断します。
進める順番は、見える化→わかる化→儲かる化です。数字が出る状態を作り、次に理由が読める状態、最後に打ち手へつなげます。見える化した数字を意思決定に変える段階については、「わかる化」の記事も参考になります。3〜5年後に扱うデータの量や拠点を見越して、合わない場合はOdoo以外の選択肢も含めて率直にお伝えする方針です。
BIツールについてよくある質問
BIツールは、何人くらいの会社から必要になりますか?
人数より、データの置き場所の数で考えることをおすすめします。社員10名でもツールが5つに分かれていれば集計に人手がかかる一方、30名でも業務データが1か所にまとまっていれば、標準の集計機能で足りることがあります。
Excelでの集計を続けるのは、やはり良くないのでしょうか?
Excel自体が悪いわけではありません。問題は、毎月同じ加工を人が繰り返している状態です。作業時間と、担当者が不在のときのリスクを見て判断してください。加工が定型化しているなら、仕組み側に移す価値があります。
Community版だけで、経営の数字は見られますか?
アプリ単位の集計なら見られます。各アプリの一覧・ピボット・グラフは、Community版でも使えるためです。ただし、複数アプリを横断して1枚にまとめる形はEnterprise版が前提になります。分かれ目は、部門ごとに見られれば十分か、全体を1画面で見たいかです。
BIツールの導入に、補助金は使えますか?
使える可能性があります。デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)など、対象になりうる制度があるためです。ただし、対象となる経費の区分や要件は年度ごとに変わります。申請の前に、その年度の公募要領で条件をご確認ください。
Odooの集計機能をBIツールの代わりに使うメリットとデメリットは何ですか?
集める工程が要らない利点と版と分析の深さという注意点があります。業務データが同じ場所にあるため、各アプリのピボットとグラフでその場で集計できます。この機能はCommunity版でも使えます。一方、複数アプリを横断するダッシュボードはEnterprise版が前提です。外部データを組み合わせる高度な分析には、専用のBIツールが適しています(良い点と注意点)。
まとめ
BIツールは、整ったデータを見せる仕組みです。結果を分けるのは、整えるところから始めるかどうかです。
- BIツールは、業務データを集計して判断に使える形で見せる仕組み
- 中小企業で必要になる理由は、判断の遅れ・属人化・数字の食い違いの3つ
- 失敗の4原因は、データの分散・指標の詰め込み・表記ゆれ・運用の分断
- 選ぶ前に確認するのは、データの置き場所の数と更新頻度と課金構造
- Odooでは各アプリの集計が両版で使え、横断ダッシュボードはEnterprise版が前提
数字の置き場所を先に整えた会社は、1年後、月次の数字が数日で出る状態になっています。集計担当が休んだ月も会議資料は予定どおりそろい、会議は「在庫の滞留をどう動かすか」から始まります。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の数字はいま、いくつの場所に分かれているのか」という整理から、ご相談を承っています。
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