「先月の数字、まだ出ていません」。経理担当に聞くたび、同じ答えが返ってくる。試算表(一定時点の残高を一覧にした集計表)が届くのは翌月の末で、そのころには次の月が半分終わっています。
経理担当の能力の問題ではありません。数字が出るまでの経路に、手作業の転記が挟まっているだけです。
会計ソフトとは、仕訳を積み上げ、試算表・決算書という形で会社の数字を出すためのソフトウェアです。税務申告の道具と思われがちですが、同じデータから経営判断の数字も出せます。
転記が減れば、数字は早く出るようになります。統合型ERPのOdoo(オドゥー)では、販売・購買・在庫と同じデータの上に会計が乗ります。販売側で確定した金額を、経理が入力し直す工程はありません(Odooでの実現方法)。
数字までの経路が整うと、たとえば次のことが変わります。
- 月次の試算表が早く届き、同じ1年で判断の回数が増える
- 売掛金の残高が見え、回収漏れに早く気づける
- 経理の仕事が入力から、確認と調整に移る
ただし、統合型にすれば片づくわけではありません。会計のフル機能はEnterprise版が前提です。今の会計ソフトが定着し、業務が回っているなら、単機能のまま続ける道もあります(単機能と統合型の選び分け)。
では、なぜ会計ソフトを入れても締めが早くならない会社があるのか。答えは導入が失敗する4つの原因にあります。良い点と注意点は、Odooの会計のメリットとデメリットに並べました。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooの会計は、版によって扱える範囲が異なります。Community版は請求書発行など基本的な範囲にとどまり、会計のフル機能はEnterprise版が前提です。
「会計ソフト」とは何か
会計ソフトの役割は、日々の取引を記録し、決算と経営判断に使える形にまとめることです。
記録の単位は仕訳です。仕訳とは、取引を借方と貸方に分けて記録する作業のこと。この仕訳を積み上げた先に、「試算表と決算書」があります。
よくある誤解が1つあります。会計ソフトは税務申告のための道具だ、という受け止め方です。
たしかに申告は重要な出口です。ただし、同じデータからはもう1つの出口が生まれます。月次の試算表、部門別の損益、資金の残り方といった、経営判断のための数字です。
申告だけを目的に選ぶと、後者が出てこない構成になります。締めてから何日で会社の数字が出るか。それが、会計ソフトの実力を測る物差しです。数字を経営の言葉として読む考え方は、『稲盛和夫の実学』に学ぶ数字の哲学で紹介しています。
中小企業に「会計ソフト」が必要になる理由
規模が小さいほど、数字の遅れは経営に直結します。理由は3つです。
理由1:判断の材料が、締めのスピードで決まる
値上げするか、人を採るか、設備を入れるか。どれも数字を見てから決める判断です。
試算表が翌月末に出る会社では、2か月前の数字で判断していることになります。締めが早い会社は、同じ1年で判断の回数が増えます。締めを縮めた先の姿は、月次決算が「15日後」から「翌日」になるで描いています。
理由2:現金の動きと利益の動きがずれる
黒字なのに資金が苦しい、という状態は珍しくありません。売上を計上した時点と、入金の時点がずれるためです。
会計ソフトは、この2つを別々に追える形で記録する仕組みです。売掛金(まだ入金されていない売上代金)の残高が見えていれば、回収漏れにも早く気づけます。資金の見方は「資金の3指標をOdooで見える化する」で整理しています。
理由3:経理が1人、あるいは社長の兼務だから
担当が1人の会社では、その人の手が止まると数字も止まる。属人化を避ける確かな方法は、入力の量そのものを減らすことです。
手で入れる件数が減れば、確認と分析に時間を回せます。選ぶときは機能の数より、「入力が何件減るか」を見るほうが実態に合います。
会計ソフトの導入が失敗する4つの原因
うまくいかない会社には、共通点がある。原因はソフトの性能ではなく、導入前の設計にあります。
原因1:販売・在庫のデータを手で転記している
会計ソフトを会計だけの道具として入れると、他の業務システムとの間が人手でつながります。これが原因1の出どころです。
受注や出荷の情報は現場にあります。それを月末に経理がまとめて入力すれば、締めは必ず月末起点になる。領収書の山を月末に処理するのも、同じ形です。
避け方は、導入前に「どのデータを、誰が、何回入力しているか」を書き出すこと。転記が起きている境目が見えれば、そこが最優先の改善点です。
原因2:勘定科目・補助科目の設計を決めずに使い始めた
初期設定の科目のまま運用を始めても、当面は動いてしまいます。
問題は半年後に出ます。部門別の損益を見たい、製品群ごとの粗利を出したい。そう思ったとき、科目が分かれていないので集計できません。
避けるには、使い始める前に見たい単位を決めます。部門・製品・拠点のどれで切りたいかを決めてから、科目と補助科目を設計する。後から作り替えるより、はるかに軽く済みます。
原因3:税務申告だけを見て選び、管理会計の視点がなかった
導入の相談相手が申告の担当者に偏ると、要件も申告寄りになるためです。管理会計とは、社内の意思決定のために数字を切り分けて見ることを指します。
その結果、年に1度の決算は問題なく回る。ただし月次の予実対比や部門別の損益は、別途エクセルで作り直すことになります。
避け方は、選定の要件に「毎月見たい表」を1枚加えることです。その表が標準機能で出るかどうかを、選ぶ段階で確認します。
原因4:会計事務所との役割分担を決めていない
事務所側で記帳していた会社が自社入力に切り替えると、線引きが曖昧になりがちです。
どちらが入力するのか決まらないと、同じ取引が二重に入ります。あるいは、どちらも入れないまま月末を迎えてしまう。
避けるには、仕訳の入力・チェック・修正の3つについて、担当を先に決めます。過去データをどこまで移行するかも、同じ場で合意しておきます。
会計ソフトの選び方の判断軸
比べるのは、機能一覧ではありません。自社の数字が何日で出るかを左右する、4つの軸で見ます。
| 判断軸 | 確認する質問 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 転記の量 | 販売・在庫の数字を手で入れ直していないか | 連携の可否だけでなく、実際に何件減るか |
| 科目の設計 | 部門別・製品別に数字を切り出せるか | 初期設定のままでは後から切れない |
| 締めのスピード | 月次の試算表が締めから何日で出るか | 決算の速さと月次の速さは別物 |
| 役割分担 | 会計事務所との線引きが決まっているか | 過去データの移行範囲も同時に決める |
選定会議の前に、次の4つに自社の現状で答えてみてください。答えに詰まった項目が、選定より先に片づけるべき論点です。
- □ 先月の試算表は、締めから何日目に届いたか
- □ 経理が手で入れ直している数字は、どの業務から来ているか
- □ 毎月見たい表(部門別損益など)を、今すぐ1枚描けるか
- □ 会計事務所と自社で、仕訳の入力・チェック・修正の担当が決まっているか
日本固有の制度への対応も、検討項目に入ります。インボイス制度や電子帳簿保存法は、自社の運用に必要な範囲を整理してください。そのうえで対応状況を確かめてから判断するもので、一般論で言い切れる論点ではありません。
規模の変化も、軸の1つです。今の取引件数ではなく、3年後の件数で耐えられるかを見ておくと、選び直しの手間を減らせます。
統合型ERP(Odoo)では会計をどう実現するか
Odoo(オドゥー)は、販売・購買・在庫・会計などを1つの仕組みの上で扱う統合型ERPです。会計の位置づけは、次のように変わります。
販売・購買・在庫と同じデータの上に会計が乗る
統合型で変わるのは、会計が別のシステムでなくなることです。見積から受注、出荷、請求までが同じデータとしてつながり、その延長線上に会計があります。
販売側で確定した金額を、経理が入力し直す工程はありません。仕入や在庫の動きも同じです。会計アプリの全体像は「Odooの会計機能でできること」で整理しています。
転記がなくなると、締めのスピードが変わる
締めが遅れる主因は、月末に集中する入力作業です。入力が現場側で1回済んでいれば、経理の仕事は確認と調整に移ります。
請求書の発行も、同じ流れの中です。請求の起点となる機能は「Odooの請求書発行(Invoicing)」で扱っています。中小企業でのERPの使い方全般は、「中小企業向けERPとは?」を参照してください。
注意点が1つあります。統合型にしても、科目の設計と会計事務所との役割分担を決めなければ、その2つの原因は残ります。仕組みが解決するのは、転記の部分だけです。
対応範囲(C/E別)
Odooの会計は、版によって扱える範囲が違います。取り違えやすい部分です。
| 項目 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 請求書の発行など基本的な範囲 | 利用できる | 利用できる |
| 会計のフル機能 | 対象外 | 前提となる版 |
| 販売・購買・在庫の基本機能 | 利用できる | 利用できる |
| 表計算で自由に組むダッシュボード | 標準のダッシュボードのみ | 利用できる |
| 公式サポート・Odooオンラインでのホスティング | 対象外(自社責任) | 公式サポートを含む。ホスティングはOdooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べる |
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
会計を本格的に使う想定なら、Enterprise版が前提です。Community版は無料のオープンソースですが、ホスティングと保守は自社の責任範囲になります。
Odooの会計を使うメリットとデメリット
良い点も注意点も、Community版かEnterprise版かで当てはまり方が変わります。メリットは、次の5つです。
- 転記がなくなる:見積から受注、出荷、請求までが同じデータでつながり、販売側で確定した金額を経理が入れ直さない
- 締めが早まりやすい:入力が現場で1回済むので、月末に集中していた入力作業が減る
- 経理が確認と分析に回れる:手で入れる件数が減った分、経理は確認と分析に時間を回せる
- 請求書の発行は両版で使える:請求書の発行など基本的な範囲は、無料のCommunity版でも利用できる
- 置き場所を選べる:Enterprise版は公式サポートを含み、ホスティングはOdooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べる
デメリットと注意点は、次の4つです。
- 会計のフル機能はEnterprise版が前提:Community版は対象外で、請求書の発行など基本的な範囲にとどまる
- 科目と役割分担は自社で決める:統合型にしても、科目設計と会計事務所との線引きを決めなければ、その原因は残る
- 日本の制度は要件ごとに確かめる:インボイス制度や電子帳簿保存法は、必要な範囲を整理してから対応状況を確かめる
- 無料版は自社で運用する:Community版は、ホスティングと保守が自社の責任範囲になる
両方を1枚の図に並べました。
注意点のうち、科目と役割分担は導入前の設計で手を打てます。何を先に決めるかは会計ソフトの選び方の判断軸、自社に統合型が要るかは単機能と統合型の選び分けで確かめてください。
会計ソフトは単機能か統合型か|選び分けの目安
どちらが優れているかではなく、自社の業務の形で決まります。
| 自社の状況 | 合いやすい形 |
|---|---|
| 会計業務だけが突出して重い | 単機能の会計ソフト |
| 今の会計ソフトが定着し、業務が回っている | 単機能のまま続ける |
| 扱う取引の量が小さい | 単機能の会計ソフト |
| 販売・在庫との受け渡しで転記が起きている | 統合型 |
| 同じ情報を2か所以上に入力している | 統合型 |
| 全体の数字を出すのに人手がかかっている | 統合型 |
上の3行に当てはまるなら、無理に統合する理由はありません。下の3行が多いほど、統合型を検討する意味が出てきます。
規模と要件による振り分けも欠かせません。海外展開や連結決算が視野に入るなら、NetSuiteなど上位のERPが選択肢です。グローバルで複雑な要件なら、SAPも視野に入る。中小から中堅で標準的な業務を統合するなら、Odooが合います。規模が大きく、会計・請求・経費の実現方法を両製品で比べたい場合は、NetSuiteとOdooの会計・請求・経費を参照してください。
パッケージに乗らない固有の業務が中心なら、AIスクラッチ開発という選択肢もあります。ライセンス費はかからなくても、開発費と保守費が別途発生する点も、併せて見ておきたいところです。
締めを早めるために、ベンチャーネットが最初に確かめること
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品を前提にせず、次の順で進めます。
- 今の締めの日数と、数字が止まっている場所を測る
先月の試算表が何日目に出たかを起点に、待ちが発生している工程を洗い出します。現状を見える化する段階です。 - 転記の境目を1枚の図にする
「どのデータを、誰が、何回入力しているか」を書き出します。ツールの比較は、この図ができてから始めます。 - 経営会議で毎月見たい表を決める
部門別の損益か、製品別の粗利か。見たい表から逆算して、科目と補助科目の切り方を決めます。 - 会計事務所との線引きを先に合意する
仕訳の入力・チェック・修正の担当と、過去データの移行範囲を、導入前に決めておきます。 - 3〜5年後の取引量から、合う形を選ぶ
標準機能に業務を合わせられるか(Fit to Standard)を見極めます。単機能のままが合う場合は、そうお伝えします。
会計の導入は、経理部門だけのIT案件ではありません。判断の速さを変える経営のプロジェクトとして扱います。
会計ソフトについてよくある質問
会計ソフトは、税理士に任せていれば自社で持たなくてよいのでしょうか?
申告だけが目的なら、その形でも成り立ちます。ただし月次の数字を自社で見たい場合は、自社側に記録の入り口が必要です。役割分担を決めたうえで、どちらが入力するかを先に合意してください。
Community版だけで会計業務を回せますか?
基本的な範囲なら回せますが、会計のフル機能はEnterprise版が前提です。Community版は、請求書発行など基本的な範囲にとどまります。会計を中心に据える想定なら、Enterprise版で検討することになります。
インボイス制度や電子帳簿保存法には対応していますか?
対応状況は、自社の運用で必要な要件ごとに確かめてから判断するものです。必要な要件を先に書き出し、1つずつ確認する進め方をおすすめします。制度ごとの考え方は、末尾の関連記事が参考になります。
導入のときに、過去データはどこまで移行すべきですか?
前年比較に使う範囲だけを移し、それ以前は参照用に保管する形が、作業量とのつり合いを取りやすい進め方です。一律の正解はなく、判断材料は「その過去データを何に使うか」です。
Odooで会計を行うメリットとデメリットは何ですか?
転記がなくなる一方で会計のフル機能はEnterprise版が前提です。
販売・購買・在庫と同じデータの上に会計が乗るため、販売側で確定した金額を経理が入れ直す工程がありません。一方、Community版は請求書の発行など基本的な範囲にとどまります。統合型にしても、科目設計と会計事務所との役割分担は自社で決める必要があります(メリットとデメリット)。
まとめ
会計ソフトは申告のための道具であり、同時に経営判断の数字を出す道具でもある。
- 会計ソフトとは、仕訳を積み上げて会社の数字を出すためのソフトウェア
- 中小企業では、締めのスピードが判断の回数を決める
- 失敗の原因は、転記・科目設計・申告偏重・役割分担の4つ
- 選ぶときは機能数より、入力が何件減るかを見る
- Odooの会計は、フル機能をEnterprise版が前提とする
1年後の月初、経営会議の机には先月の部門別損益がもう載っている。経理担当は月末の転記ではなく、売掛金の回収予定を確かめることに時間を使っています。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の締めは、何日まで縮められるのか」という整理から、ご相談を承っています。
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