Odooと電子帳簿保存法|対応状況・満たせる要件・書類の置き場の決め方

経理担当から「メールで届いた請求書のPDFは、どこに保存すればいいですか」と聞かれる。答えようとして、社内のルールがまだ決まっていないことに気づく。

そこで「この製品は電子帳簿保存法に対応していますか」と聞いて回っても、答えは出ません。要件は、システムの機能と社内の運用ルールの組み合わせで満たすものだからです。

裏を返せば、システムと運用の線引きを先に決めれば、Odooには保存の仕組みづくりで構造的に有利な点があります。

Odoo(オドゥー)は、会計・販売・購買を統合した、オープンソース由来の業務アプリ群です。登録した請求書は、取引先・日付・金額が項目として残ります。検索に必要な項目が、はじめから構造化データとしてそろうわけです(Odooで満たせること)。

Odooで保存の仕組みを組むと、たとえば次のことが変わります。

  • 受け取ったPDFを取引レコードに添付し、データとファイルを離さずに持てる
  • 誰が、いつ、何を変えたかを、チャター(各画面の記録欄)で追える
  • ユーザーごと・部門ごとに、閲覧と編集の権限を分けられる

ただし、2026年9月に確かめた範囲では、Odoo公式の文書に電子帳簿保存法の記載はありません(公式の記載を確認した結果)。Odooの外に出る書類の扱いや、制度改正への追随は、社内で決めることです。

では、どの書類をOdooに入れ、どれを外に置くのか。決める順番は、書類の置き場を決めるまでの進め方にまとめました。

電子帳簿保存法の3つの保存区分 電子帳簿等保存(帳簿や決算書類を電子で保存。任意)、スキャナ保存(紙の書類を読み取って電子で保存。任意)、電子取引データ保存(電子でやり取りした取引情報を電子のまま保存。2024年1月から義務)の3区分。義務は3つ目だけ。 3つの区分。優先度は同じではない 義務なのは3つ目だけ。ここを最初に押さえる 1. 電子帳簿等保存 任意 自社で電子的に作成した帳簿や 決算書類を、そのまま電子で保存する 仕訳帳・総勘定元帳、貸借対照表 など 紙での保存も可能 2. スキャナ保存 任意 紙で受け取った書類を読み取って 電子で保存する 紙の請求書・領収書、契約書 など 紙のまま保管も可能 3. 電子取引データ保存 義務 電子でやり取りした取引情報を 電子のまま保存する メール添付の請求書、Web発行の領収書 など 2024年1月から
電子帳簿保存法の3つの保存区分

Community版とEnterprise版について

Odooには、無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。保存に関わる基本機能は両版で使え、違いは周辺の条件にあります(Community版とEnterprise版で何が変わるか)。

法令の解釈や、自社が要件を満たしているかの判断は、顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。

目次

まず押さえる:電子帳簿保存法で義務なのは1つだけ

電子帳簿保存法には、3つの保存区分があります。このうち義務なのは、電子取引データ保存だけです。

紙に出力して保存する宥恕措置は、2023年12月末で終了しました。2024年1月以降にやり取りした電子取引データは、原則として電子のまま保存することとされています。

一方、電子帳簿等保存とスキャナ保存は任意です。紙での保存を続けることもできます。

この優先順位を取り違えると、必要のない投資をすることになります。「電帳法対応」を掲げる製品は多くあります。自社にとって必須なのはどの区分かを、先に整理してください。

要件を満たせない場合の取り扱いや猶予に関する規定は、条件を含めて顧問税理士にご確認ください。

何が「電子取引」にあたるか

意外に見落とされるのが、この範囲です。次は、すべて電子取引にあたります。

  • メールに添付されて届いた請求書のPDF
  • 取引先のWebサイトからダウンロードした領収書
  • クラウドサービス経由で受け取った契約書
  • EDI(企業間の電子データ交換)でやり取りした取引データ
  • 交通系ICカードやクレジットカードの利用明細データ

紙が一枚も介在しない取引は、すべて対象です。

Odooのような統合システムを導入すると、この種のやり取りはむしろ増えます。だから保存の設計は、導入とセットで考える必要があります。

電子取引データ保存の2つの要件:真実性と可視性

電子取引データ保存で求められるのは、大きく2つです。どちらも、システムと運用の合わせ技で満たします。

真実性と可視性:システムと運用の分担 真実性の確保は、システムで訂正削除の履歴や削除できない仕組みを担い、運用で事務処理規程を定めて運用する。可視性の確保は、システムで日付・金額・取引先の検索と画面・書面への出力を担い、運用で保存場所の一本化と命名・登録のルールを守る。どちらか一方だけでは満たせない。 要件はシステムと運用の合わせ技 どちらか一方だけでは満たせない 真実性の確保 データが改ざんされていないことを担保する システムで担う 訂正削除の履歴が残る 削除できない仕組み 運用で担う 事務処理規程を定めて、 それに沿って運用する 可視性の確保 必要なときに、すぐ見つけて確認できる状態にする システムで担う 日付・金額・取引先で検索できる 画面と書面に出力 運用で担う 保存場所を一本化し、 命名や登録のルールを守る
真実性と可視性:システムと運用の分担

真実性の確保

データが後から書き換えられていないことを担保する要件です。

システム側で担うなら、訂正や削除の履歴が残る仕組み、あるいは削除できない仕組みを使います。

システムでそこまで担保しない場合は、事務処理規程を定めて運用でカバーする方法があります。規程の書き方は、顧問税理士に確認しながら整えてください。

可視性の確保

必要なときにデータを取り出し、内容を確認できる状態にする要件です。

検索は、取引年月日・取引金額・取引先の3項目でできることが基本です。

ただし、一定の条件に該当する事業者は、検索機能の確保が不要とされる場合があります。条件の詳細は、顧問税理士にご確認ください。

Odoo公式に電子帳簿保存法の記載はあるか|確認した結果

Odoo公式ドキュメント(19.0)と、19.0から19.4までのリリースノートを調べました。その範囲では、電子帳簿保存法に関する記載は確認できませんでした(出典:Odoo公式ドキュメントおよびリリースノート、2026年9月確認)。

ページが見つからなかったわけではありません。該当するページはあり、そこに記載がないという状態です。

これは「対応していない」という意味ではありません。公式の文書では確認できない、というだけです。

同じ調査で、次の2つも記載を確認できませんでした(出典:同上、2026年9月確認)。

  • インボイス制度(適格請求書)
  • 消費税(10%・軽減8%)

一方、財務ローカライゼーションの国別一覧には、日本が含まれています。ただし、日本専用の解説ページは存在しません。

公式の記載をいくら探しても、「対応しているか」の答えは出ません。問うべきは、「制度が求めることを、システムでどう満たすか」です。

システム設計として押さえる4点

1. 記録を後から書き換えられないようにする

変更の履歴が残るか。誰が、いつ、何を変えたかを追えるか。ここが基本です。履歴が残らない仕組みでは、後から「直していない」ことを示せません。

2. 検索できる状態で保存する

日付・金額・取引先で引けるか。実務上の分かれ目は、ここにあります。ファイル名頼みの管理では、この条件が早い段階で崩れます。

3. 保存場所を分散させない

一番危ないのは、システムの中とメールの添付と紙が混在している状態です。探す場所が3つある時点で、必要な書類は出てきません。

4. システムで満たす範囲と、運用ルールで満たす範囲を線引きする

最も抜けやすいのが、この論点です。システムで担保できる範囲には限りがあり、残りは社内のルールで埋めるしかありません。

境界線を決めないまま導入すると、どちらもやっていない領域が残ります。

Odooで電子帳簿保存法の何を満たせるか|有利な点と確認が必要な点

Odooは、会計・販売・購買を統合したシステムです。そのため、次の4点は構造的に有利です。導入前に確かめておきたい点も5つあります。

有利な点

1. 取引データが自動的に構造化される

Odooに登録した請求書や仕入請求書は、取引先・日付・金額が項目として保持されます。

検索要件に必要な3項目が、はじめから構造化データとして存在するわけです。ファイル名で管理する運用とは、この点が根本的に違います。

2. 添付ファイルを取引に紐づけられる

受け取ったPDFを、対応する取引レコードに添付できます。データとファイルが分離しません。

3. 変更の記録が残る

Odooは、レコードの変更をチャター(各画面の記録欄)に残します。会計アプリでは、会計に影響する項目の変更を監査証跡(Audit Trail)のレポートでも確かめられます。誰が、いつ、何を変えたかを追える構造です(出典:Odoo公式ドキュメント、2026年10月確認)。

4. アクセス権を制御できる

ユーザーごと、部門ごとに閲覧・編集の権限を設定できます。改ざん防止の観点でも有効です。

確認が必要な点

一方で、次は導入前に確かめてください。社内会議では、右の列の「放置したときに困ること」から話すと、優先順位がそろいます。

導入前に確かめること放置したときに困ること
会計期間を締めたあと、伝票を修正できてしまわないか「後から直していない」と説明しにくくなる(真実性)
添付ファイルを削除できる人は誰か削除できる人が多いほど、担保が弱くなる
日付・金額・取引先で、どこまで絞り込めるか調査の場で、求められた書類をすぐ出せない
画面と書面の両方に出力できるか内容を確認できる状態を示せない(可視性)
取引として登録しない書類をどこに置くかOdooの外に、誰も管理していない書類が残る

5つのうち、とくに重いのは最後の項目です。

有利な点と確認が必要な点を並べると、次の図のとおりです。

Odooで満たせること・確かめること 有利な点は、取引データが構造化される、添付ファイルを取引に紐づけられる、変更の記録が残る、アクセス権を制御できること。確認が必要な点は、締めたあとの伝票の修正、添付ファイルを削除できる人、絞り込める範囲、画面と書面への出力、取引として登録しない書類の置き場。 Odooで満たせること・確かめること 有利な点 取引データが構造化される 取引先・日付・金額が項目で残る 添付ファイルを取引に紐づけ PDFを取引レコードに添付できる 変更の記録が残る 誰が、いつ、何を変えたかを追える アクセス権を制御できる ユーザー・部門ごとに権限を設定 確認が必要な点 締めたあとの伝票の修正 締めた後に直せてしまわないか 添付ファイルを削除できる人 多いほど担保が弱くなる 絞り込める範囲 日付・金額・取引先でどこまでか 画面と書面への出力 内容を確認できる状態を示せるか 登録しない書類の置き場 いちばん重い。外に書類が残る
Odooで満たせること・確かめること

保存に関わる基本機能は、どちらの版でも使えます。版で変わる周辺の条件は、Community版とEnterprise版で何が変わるかにまとめました。最後の項目の決め方はOdooの外に出るデータで、決める順番は書類の置き場を決めるまでの進め方で扱います。

最大の論点:Odooの外に出るデータをどこに保存するか

現実には、すべての電子取引データがOdooに入るわけではありません。

  • 見積書のPDFだけ受け取り、取引に至らなかったもの
  • 契約書、覚書などの取引に紐づかない書類
  • 経費精算に伴う個人立替のレシートデータ
  • 取引先のポータルからダウンロードした明細

これらをどこに保存し、どう検索可能にするか。ここを決めないと、システムを入れても対応は完結しません。

同じシステムを使っていても、結果は会社によって変わります。保存場所を一本化して規程どおりに運用する会社と、担当者ごとに保存先がばらばらの会社とでは、差が出ます。

「電帳法対応システム」という製品紹介の言葉に注意が要るのは、このためです。選ぶべきは「対応しているシステム」ではなく、「対応できる体制」です。

この考え方は、Odooを社内に定着させる方法で扱っている定着の話とも重なります。

書類の置き場を決めるまでの進め方|電帳法対応の5つの手順

ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。電子帳簿保存法が絡む導入では、製品の比較より先に、次の順で確かめます。

  1. 電子で届く書類を、種類と経路ごとに洗い出す:請求書、領収書、契約書、カード明細などを並べます。メール、取引先のサイト、EDIのどれで届くかも一緒に書き出します。
  2. 書類ごとに「Odooに入れるか、外に置くか」を決める:取引に紐づくものは、取引レコードに添付します。紐づかないものは外の保管先を一つに決め、命名ルールをそろえます。
  3. システムで担う範囲と、規程で埋める範囲を線引きする:変更履歴と権限で担える部分と、事務処理規程で補う部分を分けます。規程の中身は顧問税理士と詰め、ベンチャーネットはシステム側の設計を担います。
  4. 誰が、いつまでに保存するかを決める:受け取った人が保存するのか、経理がまとめて保存するのか。期限とあわせて規程に落とします。
  5. 稼働前に「調査の日」を想定して試す:日付・金額・取引先で、実際に1件を探し出せるかを確かめます。見つからなければ、設計か運用のどちらかを直します。

この棚卸しは、システム選定より先に行うのが理想です。

棚卸しの結果、業務がOdooの標準の形に収まりにくいと分かることもあります。規模や要件によっては、NetSuiteやSAPが適する場合もあります。NetSuiteでの対応は、NetSuiteと電子帳簿保存法・インボイス制度の対応で整理しました。パッケージに乗らない業務なら、AIスクラッチ開発も選択肢です。ただし、ライセンスが不要でも、開発費と保守費は別途かかります。合わないと判断したときは、その理由とあわせてお伝えします。

Community版とEnterprise版で何が変わるか

保存に関わる基本機能は、どちらのエディションでも使えます。違うのは、周辺の条件です。

版内容
Community版無料のオープンソース版。ホスティングとバックアップを自社で担い、データの保全責任も自社にある。公式サポートの対象外
Enterprise版有償のサブスクリプション。公式サポートと全アプリを含み、公式のアップグレードサービスを利用できる

保存要件では、データが消えないことも実質的に重要です。バックアップと復旧の設計は、電子帳簿保存法の観点でも押さえてください。

運用面は、Odooの運用・保守で押さえるポイントで整理しています。

制度改正への追随を誰が担うか

Odooの日本対応は、3層で成り立っています。公式のローカライゼーションパッケージ、コミュニティが提供するモジュール、自社での個別対応です。

国産の会計ソフトのように、制度が変わったら更新版が自動的に配信されるわけではありません。

保存要件は、今後も見直される可能性があります。だから導入時に、「制度改正を誰が追いかけ、誰が設定に反映するか」を決めておいてください。

技術の問題に見えて、これは体制の問題です。

よくある質問

Odooは電子帳簿保存法に対応していますか?

「対応している・していない」では答えられない問いです。

そもそもOdoo公式の文書には、電子帳簿保存法に関する記載が確認できません(出典:Odoo公式ドキュメントおよびリリースノート、2026年9月確認)。

一方で、取引データが構造化されて保存される点は、要件と相性の良い構造です。添付ファイルを取引に紐づけられる点、変更履歴が残る点も同様です。

ただし、要件を満たすかどうかは、運用ルールと合わせて判断されます。

タイムスタンプは必要ですか?

タイムスタンプは、真実性を担保する方法のひとつです。ほかに、訂正削除の履歴が残る仕組みを使う方法や、事務処理規程を定めて運用する方法があります。

どの方法を採るかは、自社の運用と照らして決めます。要件の詳細は、顧問税理士にご確認ください。

紙の請求書はどうすればよいですか?

紙で受け取ったものは、紙のまま保管しても構いません。スキャナ保存は任意です。

ただし、電子で受け取ったものを紙に出力して保存する方法は、原則として認められません。ここを混同しないでください。

検索機能は必ず必要ですか?

一定の条件に該当する事業者は、検索機能の確保が不要とされる場合があります。

ただし、条件は事業規模などによって変わり、改正もあり得ます。自社が該当するかは、顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。

Odooに入らない書類はどう扱えばよいですか?

保存場所を一本化し、命名と登録のルールを決めてください。

複数の場所に分散すると、検索性が失われます。システムの外に出るものほど、運用ルールの出来が結果を左右します。

Community版とEnterprise版で、電子帳簿保存法への備えは変わりますか?

基本機能は同じで周辺の条件が変わります。

保存に関わる基本機能は、どちらの版でも使えます。Community版は、ホスティングとバックアップを自社で担い、データの保全責任も自社にあります。公式サポートの対象外です。データが消えないことも保存要件では重要なので、バックアップと復旧の設計まで含めて選びます(Community版とEnterprise版で何が変わるか)。

まとめ

電子帳簿保存法への対応は、次の順で整理すると進めやすくなります。

  • 3つの保存区分のうち、義務なのは電子取引データ保存だけ
  • 要件は真実性の確保と可視性の確保の2つで、システムと運用の組み合わせで満たす
  • Odoo公式には、電子帳簿保存法に関する記載が確認できない(2026年9月時点)。インボイス制度・消費税も同様
  • Odooは、取引データが構造化される点で構造的に有利
  • 最大の論点は、Odooの外に出るデータの扱い。書類の種類ごとに、置き場を先に棚卸しする
  • 制度改正を誰が追いかけるかを、導入時に決めておく

制度が求めるのは、記録の残し方と、それを支える運用です。システムは、その一部を助けるだけです。どこからを自社で決めるかは、製品の説明を読んでも出てきません。

法令の解釈や、自社が要件を満たしているかの判断は、顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。

1年後、税理士から「昨年3月の、あの取引先の請求書を見せてください」と頼まれる。経理担当が日付と取引先で引き、その場で画面に出せて、メールの受信箱や書庫を探しに行く人はいない。

もう少し詳しく知りたい方へ

電帳法対応でつまずくのは、たいていシステムの機能ではなく「どの書類を、どこに、誰が保存するか」です。まだ製品が決まっていない段階でも、この棚卸しからご相談いただけます。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次