Odooの請求書発行(Invoicing)|会計アプリとの違いと、Community版で使える範囲

請求書の発行は、地味な業務です。

金額を確認し、様式を整え、送る。それだけといえばそれだけです。

ところが実務では、ここが月末にまとめて押し寄せます。しかも本当に大変なのは、請求書を作ることではありません。

回収することです。

送ったかどうか。届いたかどうか。入金があったかどうか。入金額が合っているかどうか。この確認作業が、毎月静かに時間を奪っていきます。

この記事では、Odoo(オドゥー:オープンソース由来の統合業務アプリ群)の請求書発行アプリを、機能の各論として整理します。

あわせて、いちばんよくいただく質問にも答えます。「請求書アプリと会計アプリは何が違うのか」です。

目次

【最重要】請求書アプリと会計アプリの違い

先にここを整理します。混同したまま検討を進めると、必ず後で困ります。

請求書アプリと会計アプリが扱う範囲の違いを示した図 請求書アプリは請求書の発行、支払条件の管理、入金の記録、督促といった取引の記録を扱い、会計アプリはそれに加えて総勘定元帳、決算、財務諸表、銀行連携といった会計処理を扱うことを、範囲の重なりとして示した図です。 扱う範囲が違う 請求書アプリ(Invoicing)が扱う範囲 請求書の発行 様式・送付 支払条件 期日の管理 入金の記録 消込・残高 督促・リマインダ 未回収の追跡 会計アプリ(Accounting)が加えて扱う範囲 総勘定元帳 仕訳・勘定科目 決算 月次・年次 財務諸表 分析・レポート 銀行連携ほか 高度な会計機能

ひとことで言うと

  • 請求書アプリ:お金の「やり取り」を管理する
  • 会計アプリ:それに加えて、お金の「記録と決算」を扱う

どちらを選ぶか

判断の目安は次のとおりです。

状況向いている選択
決算は税理士に任せている。請求と入金だけ自社で回したい請求書アプリ
会計ソフトは別にあり、そこは変えたくない請求書アプリ(会計側とは連携を設計)
月次決算まで自社で完結させたい会計アプリ
銀行明細の取り込みや高度な財務レポートが必要会計アプリ

中小企業では、「請求と入金はOdoo、決算は税理士と既存の会計ソフト」という構成が現実的なことがよくあります。

会計アプリの詳細は Odooの会計機能でできること をご覧ください。

請求書発行でできること

Odoo公式サイトによれば、次のようなことができるとされています(2026年8月確認)。

請求書の作成と送付

  • 契約の規定に基づいて、商品の請求書発行頻度を設定できる
  • 定期的なサービスやサブスクリプションの請求書発行頻度を設定できる
  • プロジェクト内で記録されたタイムシートに対する請求書を発行できる
  • インコタームズ規格を使用して契約条件を明確にできる
  • 換算レートの自動更新により、異なる通貨で請求書を発行し支払いを受けられる

支払いと回収

  • 希望する支払条件を設定できる
  • 一括入金などのオプションで支払いを管理できる
  • 顧客を顧客ポータルへ誘導し、顧客が希望する支払方法で支払いを完了できる
  • 明確なステータスと期日で未決済の支払いを追跡できる。フォローアップが必要な項目にはリマインダーを設定できる

税の扱い

  • 請求書の税金を自動的に計算できる
  • 正確なレポートのために、丸め箇所を定義する税金の規則を設定できる

仕入先請求書(買う側)

  • 仕入先からの請求書をシステムに記録し、支払いを管理して会計に統合できる
  • 発注書・仕入先請求書・領収書の情報を比較し、請求書を支払うべきかどうかを判断できる
  • Eメールエイリアスを設定することで、仕入先の請求書をデータベースに直接取り込める

モバイル

  • モバイルアプリから請求書の発行、支払状況の更新、仕入先請求書の一括支払いの作成ができる

本当に効くのは「回収」の部分です

請求書を作る機能は、どの製品にもあります。差が出るのはここからです。

請求から入金確認までの流れと、未回収を追跡する仕組みの図 請求書の発行、送付、支払期日の到来、入金の消込という流れの中で、期日を過ぎた未決済がステータスで可視化され、リマインダーによるフォローアップにつながる仕組みを示した図です。 大変なのは「作る」より「回収する」 請求書の発行 受注・工数から作成 送付 メール・ポータル 支払期日 支払条件で自動計算 入金の消込 一括入金にも対応 期日を過ぎた未決済が、ステータスで見える 「送ったつもり」「入金されたつもり」がなくなる リマインダーでフォローアップ 督促を「思い出す」仕事から外せる

未回収は、忘れることで起きる

売掛金が回収できない理由の多くは、相手の悪意ではありません。

こちらが督促を忘れているだけ、というケースが実際にはかなりあります。

小さな金額ほど後回しになり、そのまま数か月が過ぎます。担当者が「あれ、あの請求どうなったっけ」と思い出すのは、たいてい別の用件のときです。

Odooでは、支払条件から期日が自動計算され、期日を過ぎた請求書がステータスで見えます。そしてリマインダーを設定できます。

督促を「思い出す仕事」から外せる。これが、この機能のいちばんの価値だと考えています。

日本で確認すべきこと

正直にお伝えします。請求書は、日本の商習慣がもっとも濃く出る領域です。

(1) 月末締めの合計請求書

日本では「1か月分の取引をまとめて1枚の請求書にする」形式が広く使われています。

この形式について、標準機能だけでは足りない場合があります。 対応の可否はバージョンや要件によって変わるため、導入前に実際のデータで確認してください。

ここは断定を避けます。必ず実機で検証してください。

(2) 適格請求書(インボイス制度)の記載事項

登録番号、税率ごとに区分した合計額、消費税額など、記載すべき事項は制度で決まっています。

標準の帳票が要件を満たすかは、必ず事前に確認してください。詳しくは Odooのインボイス制度(適格請求書)対応 をご覧ください。

(3) 消費税の端数処理

Odoo公式は、正確なレポートのために丸め箇所を定義できると案内しています。

ただし、日本の制度と取引先との取り決めに合っているかは別の話です。 設定内容は Odooの消費税設定と日本の税制 を参照のうえ、顧問税理士に確認してください。

(4) 電子帳簿保存法への対応

電子で受け取った請求書の保存要件があります。考え方は Odooと電子帳簿保存法 にまとめています。

(5) 振込手数料の負担

取引先が振込手数料を差し引いて入金してくる場合、請求額と入金額がずれます。この差額をどう処理するかを、運用ルールとして決めておいてください。

Community版とEnterprise版の違い

Odooには、無料の Community版 と有償の Enterprise版 があります。

Community版はオープンソースとして無料で使えます。ただし、サーバの用意・アップデート・障害対応は自社の責任になり、公式サポートの対象外です。

請求書の発行という基本的な機能については、Community版でも利用できるとされています。一方で、銀行明細の自動取り込みや、請求書のOCR読み取りといった高度な会計機能は、Enterprise版が対象と案内されているものがあります。

どの機能がどちらの版で使えるかはバージョンによって変わります。 検討時には必ず対象バージョンで確認してください。

詳しくは Odoo Community版とEnterprise版の違い をご覧ください。

1アプリ無料で始める選択肢

Odooには、1つのアプリを無料・ユーザー数無制限で使えるプランもあります。請求書発行だけを試してみる、という入り方も可能です。

ただし、2つ目のアプリを追加した時点で有償プランに切り替わります。詳しくは Odoo One App Freeとは? をご覧ください。

他のアプリとのつながり

アプリつながり方
販売受注から請求書を作成。発行基準を選べる
プロジェクト/工数記録した作業時間から請求書を作成
購買仕入先請求書と発注・入荷の照合
会計仕訳・決算・財務諸表へ
サブスクリプション定期課金の請求サイクル

販売との連携は Odooの販売管理(Sales) をご覧ください。工数からの請求は Odooの工数管理(Timesheets)、購買側は Odooの購買管理(Purchase) にまとめています。

請求書アプリが合わないケースもあります

正直に書きます。

ベンチャーネットは、SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っています。請求業務では、次のように整理できます。

状況検討したい選択肢
請求書の枚数が少なく、いまの方法で回っている無理に入れ替える必要はない
受注や工数から請求書を作りたい中小〜中堅企業Odooの請求書アプリ が現実的な選択肢
月次決算まで自社で完結させたいOdooの会計アプリを検討
連結決算や複雑な収益認識が必要な規模OdooとNetSuiteの違い を参照
請求ロジックが固有すぎて標準に乗らないAIスクラッチ開発という選択肢

1行目を強調します。請求書を作るだけなら、国内の請求書発行サービスのほうが日本の商習慣に合っていることがあります。

Odooの価値は、受注・工数・購買とつながることにあります。そこに価値がなければ、無理に選ぶ必要はありません。

AIスクラッチ開発は、ライセンス費用がかからない代わりに開発費と保守費がかかります。判断材料は パッケージERPかスクラッチ開発か に整理しました。

よくある質問

Q1. 請求書アプリだけを使って、会計は別のソフトのままにできますか?

できます。中小企業では、この構成がよく選ばれます。

ただし、請求データを会計側へどう渡すかを決める必要があります。二重入力を避けるには、連携の設計が必要です。

Q2. 月末締めの合計請求書は発行できますか?

「1か月分をまとめて1枚にする」という日本で一般的な形式については、標準機能だけでは足りない場合があります。

対応可否は要件とバージョンによって変わるため、導入前に実際のデータで検証してください。ここは飛ばさないことをおすすめします。

Q3. 入金の消込は自動でできますか?

入金の記録と消込の機能はあります。銀行明細の自動取り込みについては、Enterprise版が対象と案内されている機能があります。

日本の銀行との連携可否は、対象バージョンで必ず確認してください。

Q4. 適格請求書の要件は満たせますか?

記載事項を満たせるかは、帳票の設定と運用によります。標準のまま自動的に要件を満たす、とは考えないでください。

考え方は Odooのインボイス制度(適格請求書)対応 にまとめています。公開前に顧問税理士へご確認ください。

Q5. 督促のメールは自動で送れますか?

Odoo公式は、未決済の支払いを明確なステータスと期日で追跡でき、フォローアップが必要な項目にリマインダーを設定できると案内しています。

ただし、督促の文面と送るタイミングは、取引関係に直結します。 全自動にせず、送信前に人が確認する運用をおすすめします。

まとめ

請求業務で本当に負担が大きいのは、請求書を作る作業ではありません。

送ったか、届いたか、入金されたか、金額は合っているか。 この確認の連鎖です。

Odooの請求書発行アプリでは、支払条件から期日が自動計算され、未決済がステータスで見えます。リマインダーによって、督促を「思い出す仕事」から外せます。

検討にあたっては、まず請求書アプリと会計アプリの境界を決めてください。決算を税理士に任せているなら、請求書アプリだけで足りることもあります。

そして、日本の商習慣は必ず事前確認してください。とくに 月末締めの合計請求書は、標準だけでは足りない場合があります。適格請求書の記載事項、消費税の端数処理、振込手数料の扱いも同様です。

ここを設計の初期に洗い出しておけば、稼働後に慌てずに済みます。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「請求はOdoo、決算は既存のまま」といった構成の切り分けからご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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