「ERPは売上原価対立法が前提だから、うちの三分法の決算とは合わないのでは」。Odooを検討する経理の方から、こうした心配をよく聞きます。
Odooは、三分法に近い記帳と、売上原価対立法に近い記帳の両方を選べます。会計アプリの設定に、2つの方式が用意されているからです。どちらを選んでも、在庫アプリの在庫金額は入出庫のたびに更新されます(2つの方式とOdooの対応関係)。
ただし、Odooの画面に「三分法」という名前はありません。英語の表示では「Periodic(期末の締めで評価)」と「Perpetual(請求時に評価)」です。
この記事を読むと、たとえば次のことが分かります。
- 三分法と売上原価対立法が、Odooのどの設定に当たるか
- 三分法に近い方式でも、月次の在庫金額を会計に反映する方法
- 日本の勘定科目で、最初に確かめておく科目
- 自社がどちらの方式に向いているかの判断の目安
版の違いにも注意が要ります。在庫の評価を計算する仕組みは、無料のCommunity版にも含まれています。一方、公式が案内する設定と締めの画面は会計アプリにあり、会計アプリは有償のEnterprise版限定です。
なお、拠点や倉庫が多く、在庫評価が複雑になる会社では、NetSuiteも比較の候補になります。
では、自社はどちらを選べばよいのか。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットの判断の目安は、三分法と売上原価対立法の選び方にまとめました。良い点と注意点を先に見たい方は、メリットと注意点をご覧ください。
三分法と売上原価対立法の違い
三分法も売上原価対立法も、商品の売買をどう帳簿に付けるかのルールです。
三分法
「仕入」「売上」「繰越商品」の3つの勘定を使う方法です。
仕入れたときは、仕入(費用)として計上します。売ったときに計上するのは、売上だけです。期末に在庫を数え、残った分を繰越商品(資産)に振り替えて、売上原価を確定させます。
日々の記帳が軽いのが特徴です。その代わり、期末の締めの処理が欠かせません。
売上原価対立法
「商品」「売上」「売上原価」の3つの勘定を使う方法です。
仕入れたときは、商品(資産)として計上します。売ったときは、売上と同時に、その商品の原価を売上原価に振り替えます。
売るたびに粗利が分かるのが特徴です。その代わり、販売のたびに原価をつかんでおく必要があります。
在庫の評価方法とは別の話
よく混同されるのが、先入先出や平均といった評価方法です。
評価方法は、どの単価の商品が売れたと考えるかのルールです。三分法か売上原価対立法かは、それをいつ、どの勘定で記帳するかを決めます。2つは別の軸です。
Odooの公式ドキュメントでは、評価方法として次の3つが案内されています。
- 標準原価(あらかじめ決めた単価を使う)
- 平均原価(仕入のたびに平均単価を計算し直す)
- 先入先出(先に仕入れたものから売れたと考える)
※出典:Odoo公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」(2026年10月確認)
売上原価の計算式や、評価方法で粗利が変わる例は、売上原価とは?計算方法と経営での活かし方(NetSuiteの教科書)で詳しく扱っています。
Odooは三分法と売上原価対立法の両方に対応している
2つの方式とOdooの対応関係
Odooでは、会計アプリの設定で、在庫の会計処理を2つの方式から選びます。
| 日本の呼び方 | Odooの設定(英語表示) | 仕入先の請求書 | 売上原価の計上 |
|---|---|---|---|
| 三分法に近い | Periodic(期末の締めで評価) | 費用として計上 | 締め仕訳で在庫を調整 |
| 売上原価対立法に近い | Perpetual(請求時に評価) | 在庫(資産)として計上 | 顧客への請求時に計上 |
公式ドキュメントは、定期の方式を欧州の標準的なやり方と説明しています。継続の方式は、米国やインドなどアングロサクソン圏で標準的なやり方とされています。
Odooには、もう1つ「大陸式かアングロサクソン式か」という会計の区分もあります。売上原価対立法に近いのは、継続とアングロサクソン式の組み合わせです。
※出典:Odoo公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」(2026年10月確認)
Odoo 19で変わったこと
この機能は、Odoo 19で大きく作り直されました。公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」には、次の変更が記載されています(2026年10月確認)。
- Odoo 18では、定期の方式とアングロサクソン式の組み合わせは使えなかった。19から使える
- Odoo 18までの継続の方式は、入出庫のたびに仕訳を作っていた。19からは、請求書の時点で記帳し、ずれは締め仕訳で扱う
- その結果、仕訳の数が減り、処理も速くなった
入出庫のたびに仕訳ができる方式は、総勘定元帳が仕訳で埋まり、監査で追いにくいという課題がありました。19の作り直しは、そこを解消するためのものです。
2026年9月に公開されたOdoo 20でも、この仕組みが引き継がれています。Odoo公式のソースコード(20.0)で、2026年10月に確認しました。
在庫アプリの在庫金額は、どちらでも見える
方式の違いは、在庫の金額が「いつ会計に反映されるか」の違いです。
在庫アプリは、入出庫に合わせて在庫の金額をリアルタイムで記録します。三分法に近い方式を選んでも、在庫アプリを開けば、その時点の在庫金額が見えます。
会計の側は、締め仕訳を作った時点で在庫アプリの金額にそろいます。
※出典:Odoo公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」(2026年10月確認)
三分法に近い「定期」の方式の仕訳と締め
仕訳の流れ
定期の方式では、仕訳は次の順に動きます。
- 仕入先の請求書を、費用として計上する
- 顧客への請求書で、売上を計上する
- 締めのときに、在庫の金額と帳簿の差を締め仕訳で調整する
締め仕訳は、「在庫の評価額」と「在庫の差異」の2つの勘定で差額を調整します。教科書の三分法のように、期首と期末の2本の振替仕訳を切るわけではありません。差額を1本の仕訳で調整する形です。
※出典:Odoo公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」(2026年10月確認)
締めは月次や日次で自動にもできる
締め仕訳は、会計アプリの「レビュー」にある「在庫評価」の画面から作ります。日付を選んで仕訳を作り、中身を確かめてから記帳します。
締めの頻度は、手動・日次・月次から選べます。日次か月次を選ぶと、締め仕訳が自動で作られて記帳されます(Odoo公式のソースコード 19.0、2026年10月確認)。
公式ドキュメントには、締めは中小企業では年1回、大きな会社では月1回が多いとあります。ただ、月次の自動締めを選べば、三分法に近い方式のままで、月ごとの在庫金額が会計に入ります。月次の試算表で粗利を見たい会社にとって、締めの頻度は選び方の分かれ目です。
日本の勘定科目で確かめること
Odooには、国ごとの勘定科目のひな形があります。日本のひな形にも、三分法で使う科目が入っています。
2026年10月にOdoo公式のソースコード(20.0)で確かめた内容は、次のとおりです。
- 大陸式の設定(アングロサクソン式をオフ)で始まる
- 在庫の評価額の勘定は「商品」、在庫の差異の勘定は「売上原価」に割り当てられている
- 科目には「仕入」「商品期首たな卸高」「商品期末たな卸高」がある
- 会社の既定の費用の科目は「消耗品費」になっている
既定の費用の科目には注意が要ります。商品の仕入を「仕入」で計上したいなら、商品カテゴリの費用の科目を確かめてください。
また、決算書で「期首+仕入−期末」の形を見せたいなら、締め仕訳の科目の割り当てを設計し直す必要があります。初期設定のままだと、差額は売上原価の科目にまとめて入るからです。どう見せるかは、顧問税理士と決めてください。
Odoo 20の日本向けの勘定科目の変更は、Odooの会計機能でできることでも紹介しています。
売上原価対立法に近い「継続」の方式の仕訳と計上のタイミング
仕訳の流れ
継続の方式とアングロサクソン式を組み合わせると、仕訳は次のように動きます。
- 仕入先の請求書を、在庫(資産)として計上する
- 顧客への請求書で、売上と同時に売上原価を計上する
- 締めのときに、入出庫と請求のずれを調整する
売上原価対立法と同じく、販売のたびに売上原価が帳簿に乗ります。
※出典:Odoo公式ドキュメント「Valuation cheat sheet」(2026年10月確認)
出荷のときではなく、請求のときに計上する
ここが、教科書の売上原価対立法との違いです。Odoo 19以降の継続の方式は、出荷したときではなく、請求書の時点で売上原価を計上します。
出荷と請求が同じ日なら、気にする必要はほとんどありません。出荷から請求までの間が空く会社は、締めの設計が要ります。
公式ドキュメントでは、締めで扱うものとして、未着の仕入の請求、未請求の売上、前受収益、前払費用が挙げられています。こうした項目を抜き出して見越の仕訳を作る画面も、会計アプリに用意されています。
Odooの在庫評価のメリットと注意点
Odooの在庫評価の仕組みには、良い点が5つあります。
- 2つの方式から選べる:三分法に近い定期と、売上原価対立法に近い継続を、会計アプリの設定で選べる
- 在庫金額はいつでも見える:どちらの方式でも、在庫アプリの在庫金額は入出庫に合わせて更新される
- 三分法に近い方式でも月次の数字が出せる:締めを月次の自動にすれば、月ごとの在庫金額が会計に入る
- 仕訳が増えすぎない:Odoo 19から継続の方式も請求時の記帳と締めに変わり、仕訳の数が減った
- 日本向けの科目がそろってきた:Odoo 20の日本の勘定科目には、仕入・期首・期末の科目がある
一方で、使い始める前に知っておきたい注意点が4つあります。
- 教科書の形とは同じではない:締め仕訳は差額を1本で調整する。決算書の見せ方は設計が要る
- 継続の方式は請求時に計上する:出荷と請求がずれる会社は、締めの設計が要る
- 初期の科目の割り当てを確かめる:日本のひな形では、会社の既定の費用の科目が消耗品費になっている
- 設定と締めの画面は会計アプリにある:会計アプリはEnterprise版限定
両方を並べると、次の図のとおりです。
このうち、科目の割り当てと締めの設計は、使い始める前に決めておく項目です。確かめる順番は、三分法と売上原価対立法の選び方で説明しています。
三分法と売上原価対立法の選び方
判断の目安
自社がどちらに近いか、まず表で当てはめてみてください。経理と経営者で話し合うときのたたき台になります。
| 自社の状況 | 合いやすい方式 |
|---|---|
| 顧問税理士も決算書も三分法が前提になっている | 定期(三分法に近い) |
| 日々の記帳は軽くしたいが、月次で粗利は見たい | 定期+月次の自動締め |
| 販売のたびに、帳簿の上で粗利をつかみたい | 継続(売上原価対立法に近い) |
| 海外の親会社や取引先が、アングロサクソン式で報告を求める | 継続を候補に入れて確認する |
| 出荷から請求までの間が長い | どちらを選ぶ場合も、締めの設計を先に決める |
どちらが正しいということはありません。記帳の手間と、数字を見たいタイミングの兼ね合いで選びます。
ベンチャーネットが確かめる5つのこと
ベンチャーネットは、方式の相談を設定画面から始めません。ERPはITではなく、経営のプロジェクトだからです。次の順で確かめます。
ステップ1:顧問税理士が前提にしている記帳と決算書の形
いまの記帳方法と、決算書の売上原価の見せ方を伺います。ここで方式の大枠が決まります。
ステップ2:出荷と請求のタイミング
出荷した日に請求するのか、月末にまとめて請求するのか。ずれが大きいほど、締めの設計が重要になります。
ステップ3:経営者が月次で見たい数字
全社の粗利だけでよいのか、商品別・部門別まで見たいのか。締めの頻度と、科目の割り当てがここで決まります。
ステップ4:科目の割り当てを決め、1か月分を流してみる
仕入・商品・売上原価・期首と期末の科目を決めます。テスト用の環境で1か月分の取引と締めを流し、試算表を税理士と一緒に確かめます。
ステップ5:締めを誰が、いつ行うかを決める
手動にするなら担当者と日程を、自動にするなら確認の手順を決めます。
この進め方は、標準の設定に業務を合わせるFit to Standardの考え方にもとづきます。方式は、作り込まずに標準の設定で選べます。
Odooが合わないときの選択肢
拠点や倉庫が多く、在庫評価が複雑になるなら、NetSuiteも比較の候補です。規模による振り分けは、NetSuiteとOdooの在庫・購買・製造の比較(NetSuiteの教科書)で扱っています。
パッケージの標準に乗らない固有の業務が中心なら、AIスクラッチ開発も視野に入ります。ライセンスがない代わりに、開発費と保守費が別にかかります。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。Odooありきで話を進める必要はありません。
Community版とEnterprise版で使える範囲
在庫評価に関わる範囲は、版によって次のように分かれます。
| 項目 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 在庫の評価を計算する仕組み | 含まれる | 含まれる |
| 商品カテゴリごとの評価方式の項目 | 在庫アプリの画面にある | ある |
| 公式が案内する方式の設定と締めの画面 | 公式の案内は会計アプリが前提。どこまで操作できるかは実機で確認が要る | 会計アプリで使える |
| 総勘定元帳・財務諸表 | なし(請求書発行が中心) | あり |
在庫の評価を計算する仕組みは、無料で公開されているモジュールの中にあります(Odoo公式のソースコード 19.0、2026年10月確認)。ただ、三分法や売上原価対立法で決算書まで通すには、総勘定元帳と財務諸表が要ります。会計まで通すなら、Enterprise版が前提です。
なお、版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
版の違い全体は、Community版とEnterprise版の違いで整理しています。
よくある質問
Odooは三分法に対応していますか?
三分法に近い方式を選べます
会計アプリの設定で「Periodic(期末の締めで評価)」を選ぶと、仕入先の請求書を費用で計上し、締め仕訳で在庫を調整します。ただし、画面に三分法という名前はありません。締め仕訳は差額を1本で調整する形なので、決算書の見せ方は設計が要ります(定期の方式の動き)。
三分法に近い方式だと、月次の粗利は見えませんか?
月次の締めにすれば見えます
締めの頻度は、手動・日次・月次から選べます。月次を選ぶと、締め仕訳が自動で作られて記帳されます。在庫アプリでは、どの方式でも在庫金額が入出庫に合わせて更新される仕組みです。
先入先出や平均法とは、何が違うのですか?
決めているものが違います
先入先出や平均は、どの単価の商品が売れたと考えるかのルールです。三分法か売上原価対立法かは、それをいつ、どの勘定で記帳するかのルールです。Odooでは、評価方法は標準原価・平均原価・先入先出の3つから選びます(在庫の評価方法とは別の話)。
Community版でも三分法や売上原価対立法で運用できますか?
決算書まで通すならEnterprise版が前提です
在庫の評価を計算する仕組みは、Community版にも含まれています。ただ、公式が案内する設定と締めの画面は会計アプリにあり、会計アプリはEnterprise版限定です。総勘定元帳と財務諸表もEnterprise版の機能です(版ごとの使える範囲)。
三分法と売上原価対立法は、どちらを選べばよいですか?
記帳の手間と数字を見たい時期で選びます
顧問税理士も決算書も三分法が前提なら、定期(三分法に近い)が合いやすい方式です。日々の記帳は軽くしたいが月次で粗利は見たいなら、定期に月次の自動締めを組み合わせます。販売のたびに帳簿の上で粗利をつかみたいなら、継続(売上原価対立法に近い)が候補です。判断の目安は、三分法と売上原価対立法の選び方の表にまとめました。
まとめ:方式は「税理士」と「見たい数字」から決める
- Odooは、三分法に近い定期と、売上原価対立法に近い継続の両方を選べる
- 画面の名前は違う。締め仕訳は差額を1本で調整し、継続の方式は請求時に原価を計上する
- 在庫アプリの在庫金額は、どちらの方式でも入出庫に合わせて更新される
- 締めを月次の自動にすれば、三分法に近い方式でも月次の数字が出せる
- 日本の勘定科目は、費用の科目と締め仕訳の科目の割り当てを最初に確かめる
- 会計まで通すなら、Enterprise版の会計アプリが前提
方式の選択は、経理だけの話ではありません。経営者がいつ、どの数字で判断したいかを決める話です。
1年後、月次の試算表に在庫の金額が毎月そろって入り、経営会議で商品別の粗利を見ながら値決めを話し合えている。期末に在庫の振替で慌てることもない。そんな姿から逆算して、方式を選んでください。
もう少し詳しく知りたい方へ
「うちの記帳方法と決算書の形のまま、Odooに載せられるだろうか」と迷ったら、顧問税理士とのすり合わせも含めて、方式と科目の設計からご一緒します。
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