月末になると、帳簿の在庫と棚の在庫が合わない。棚卸しのたびに、誰かが差異の原因を探して残業している。営業に「あと何個出せる?」と聞かれても、倉庫に電話しないと答えられない。原因の多くは、在庫が他の業務とつながっていないことにあります。
Odoo(オドゥー)の在庫管理なら、この「つながり」をつくれます。受注・発注・入出庫を同じデータで扱い、受注が入れば在庫が引き当てられ、入庫すれば増える仕組みです。在庫と購買の基本機能は、無料のCommunity版でも使えます。バーコード運用などは、有償のEnterprise版が前提です(Enterprise版が必要になる領域)。
Odooで在庫を受発注とつなぐと、たとえば次のことが変わります。
- 営業が倉庫に電話せず、その場で「出せる数」を答えられる
- 引当で、「残っているが売れない在庫」が正しく見える
- 発注点を決めておけば、発注が担当者の勘に頼らなくなる
- 発注・入庫から仕入計上までが、転記なしでつながる
良い点と注意点は在庫管理のメリットとデメリットに並べました。ただし、在庫数を把握することだけが目的なら、在庫管理SaaSのほうが導入も運用も軽くなります。
それに、Odooを入れただけで在庫が合うわけではありません。どの順番で手を打てば、差異はなくなるのか。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、システムの画面より先に、倉庫で転記の場所を探すところから始めます(在庫の数字を合わせるまでの進め方)。
なぜ在庫が合わなくなるのか
つながっていないから
在庫が合わない会社には、共通した構造があります。
- 受注は販売ソフト、在庫はExcelで別々に管理している
- 出荷したら、あとでまとめてExcelを更新する
- 入庫の記録は、伝票を見ながら手入力する
- 更新のタイミングが人によって違う
転記が起きる場所には、必ず差異が生まれます。
「引当」の概念がないと、二重販売が起きる
引当とは、受注が入った時点で在庫を「その注文用」として確保することです。
これがないと、受注が入っても在庫が減りません。同じ在庫を、別の顧客に売ってしまうことがあります。
在庫数は残っているのに、実際には出荷予定が入っている。この状態が見えなければ、営業は正確に答えられません。
発注のタイミングが属人化する
「そろそろ発注しておこう」という判断が、担当者の経験に頼っている。その人が休むと、欠品か過剰在庫が起きます。
自社はどこで切れているか
社内会議の前に、次の項目に当てはまるかを見てください。当てはまる数が多いほど、在庫の問題は「数え方」ではなく「つながり方」にあります。
- □ 受注・在庫・発注を、別々のソフトやExcelで管理している
- □ 出荷や入庫の記録を、あとでまとめて入力している
- □ 営業が「出せる数」を、倉庫に確認しないと答えられない
- □ 発注の判断が、特定の担当者の経験に依存している
- □ 返品・破損・サンプル出荷の記録方法が決まっていない
- □ 在庫金額を、決算のたびに手作業で集計している
Odooの在庫管理でできること
基本機能はCommunity版でも使える
在庫管理と購買管理の基本機能は、無料のCommunity版でも使えます。
この章の出典は、Odoo公式のエディション比較ページです(2026年8月確認)。対応はバージョンで変わるため、検討するときは最新の公式情報をご確認ください。
主な機能
入出庫の管理
入庫・出庫・移動を記録すると、在庫数がリアルタイムで更新されます。
複数倉庫・複数ロケーションの管理
倉庫が複数ある場合も、同じ倉庫の中を棚単位で管理したい場合も扱えます。ロケーションとは、倉庫の中の置き場所の単位です。
在庫の引当
受注が入ると、該当する在庫が引き当てられます。「残っているが売れない在庫」が、正しく見えるようになります。
発注点の管理
在庫が一定量を下回ったら発注する。この運用を設定しておけば、担当者の勘に頼らずに済みます。発注点や安全在庫の考え方は、在庫最適化とは?安全在庫・適正在庫の考え方(NetSuiteの教科書)で解説しています。
ロット・シリアル番号の管理
製品を、個体やロットの単位で追跡できます。トレーサビリティ(どこから来て、どこへ出たかをたどれること)が必要な業種で使われる機能です。
棚卸しの管理
実地棚卸しの結果を記録し、差異を調整できます。
他の業務とつながる
Odooの価値は、ここにあります。
受注が入れば在庫が引き当てられ、出荷すれば減る。発注して入庫すれば増える。仕入計上は会計につながる。転記作業そのものが起きません。
データを1か所に集めると経営がどう変わるかは、データを1か所に集めると、経営はどう変わるかにまとめています。
Odooの在庫管理のメリットとデメリット
ここまでと、このあとの章の内容から、在庫管理アプリの良い点と注意点を並べます。使える版は、項目ごとに添えました。
メリット
- 受発注と在庫が1つのデータでつながる:受注で引き当てられ、出荷で減り、入庫で増える。仕入計上は会計につながり、転記が起きない
- 「出せる数」が正しく見える:引当により、「残っているが売れない在庫」が見える。営業が倉庫に確認せずに答えられる
- 発注が勘に頼らなくなる:在庫が一定量を下回ったら発注する運用を、発注点として設定できる
- 複数倉庫・ロット・シリアルまで扱える:倉庫や棚単位のロケーション、個体やロットでの追跡、ロットごとの期限日を標準機能で持てる
- 基本機能はCommunity版でも使える:入出庫・複数倉庫・引当・発注点・ロット管理は、無料のCommunity版で使える
デメリット・注意点
- バーコード運用はEnterprise版:ハンディ端末で読み取って入出庫を記録する運用は、Enterprise版限定
- 品質管理と在庫評価もEnterprise版:入庫時の検査や、在庫金額を会計に映す処理(フル機能の会計)は、Enterprise版が前提
- 入れただけでは在庫は合わない:移行前の実地棚卸しと、入力のタイミング・例外のルールが要る
- 倉庫の構造を作り込みすぎると回らない:最初から棚単位で細かく設定すると、運用が回らなくなる
- 在庫数の把握だけならSaaSのほうが軽い:受発注や会計とつなげないなら、在庫管理SaaSのほうが導入も運用も軽い
両方を並べると、次の図のとおりです。
注意点の多くは、進め方で避けられます。避け方は在庫の数字を合わせるまでの進め方と導入でつまずきやすい点にまとめました。
在庫管理でEnterprise版が必要になる領域(バーコード・在庫評価)
在庫管理まわりでEnterprise版限定になるものは、次の図のとおりです。在庫の運用に直接効くのは、バーコード運用、品質管理、在庫評価と会計連携の3つです。
バーコード運用
現場でハンディ端末を使い、バーコードを読み取って入出庫を記録する。この運用は、Enterprise版限定です。
倉庫作業の効率化が目的なら、この1点で版の選び方が変わります。手入力とバーコード読み取りでは、作業時間もミスの起きやすさも大きく違うからです。
品質管理
入庫時の検査工程や、不適合品の記録を管理する機能です。こちらもEnterprise版限定です。
在庫評価と会計連携
在庫金額を会計に映す処理は、フル機能の会計(Enterprise版限定)と関わります。
在庫を金額でつかみ、原価管理まで行いたいなら、Enterprise版が前提です。
在庫金額を会計に映す方式は、三分法に近い方式と、売上原価対立法に近い方式から選べます。違いと選び方は、Odooの在庫評価|三分法と売上原価対立法の違いと設定で解説しています。
Odooで在庫の数字を合わせるまでの進め方
システムを入れれば、在庫が自動で合うわけではありません。合うかどうかは、機能より業務の設計で決まります。
ベンチャーネットは、在庫の案件を次の順番で進めます。前提は、Odooの標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」です。
ステップ1:差異が生まれる場所を現場で確かめる
最初に見るのは、システムの画面ではなく倉庫です。
受注から出荷、発注から入庫まで、紙やExcelに転記している箇所を1つずつ洗い出します。差異の原因は、たいていこの転記の場所に集まっています。
ステップ2:移行前に実地で数え直す
帳簿の数字をそのまま移すと、最初から差異を抱えた状態で始まります。
移行の前に実地棚卸しを行い、実数を確定させてください。ここを飛ばすと、稼働の直後から差異の調査に追われます。
ステップ3:品目マスタを整理する
使われていない品目、重複登録、廃番になった商品。これらをそのまま移すと、新しいシステムでも同じ混乱が続きます。
詳しくはOdooへのデータ移行の進め方の記事をご覧ください。
ステップ4:入力のタイミングと例外のルールを決める
出荷したら、その場で記録する。あとでまとめて入力する運用が残ると、差異は消えません。
返品、破損、サンプル出荷、社内使用も同じです。記録方法を決めておかないと、現場は「とりあえず記録しない」を選びます。それが差異の温床になります。
前提は、現場が「その場で入力できる」形にすることです。バーコード運用が効いてくるのは、この点です。
ステップ5:どこまでをOdooで持つかを決める
最後に、必要な版と範囲を決めます。ここで、Odooが合わないと分かることもあります。
| 自社の状況 | 向いている選択肢 |
|---|---|
| 在庫数を把握できれば十分。受発注や会計とはつなげない | 在庫管理SaaS |
| 受注・在庫・発注・会計を1本のデータでつなげたい | Odoo(在庫金額まで見るならEnterprise版) |
| 倉庫作業が複雑で、専用の倉庫管理システムが手放せない | 倉庫管理システムを残し、受発注と在庫数をOdooで持つ |
| 拠点や倉庫が多く、複雑な在庫評価や海外展開がある | NetSuiteも比較候補に入れる |
| パッケージの標準にどうしても乗らない固有の業務がある | AIスクラッチ開発も視野に入れる(開発費・保守費は別途かかる) |
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。だから、Odooありきで話を進める必要がありません。要件が合わないと判断すれば、正直にそうお伝えします。
規模による振り分けは、NetSuiteとOdooの在庫・購買・製造の比較で詳しく扱っています。
Odooの在庫管理の導入でつまずきやすい点
現場の運用を軽く見る
事務所で設計したシステムが、現場では使えない。在庫管理でよくある失敗です。
手がふさがっている、端末が足りない、寒い倉庫で細かい操作ができない。こうした制約は、現場でなければ分かりません。実際に使う人に触ってもらってください。
倉庫の構造を細かく作り込みすぎる
ロケーション管理は便利です。ただ、最初から棚単位で細かく設定すると、運用が回らなくなります。
まず倉庫単位、次にエリア単位。運用が定着してから細かくする。この順序のほうが確実です。
引当のルールを決めていない
複数の受注に対して、どの在庫を優先して引き当てるのか。
このルールがあいまいだと、システム上は在庫があるのに出荷できない、という事態が起きます。
このアプリに対応する有名SaaS
すでに在庫管理サービスを使っているなら、Odooの在庫管理はその置き換え候補になります。どれがどれに当たり、置き換えると何が変わるのか。
| 使っているSaaS | Odooでの対応 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| zaico | 在庫管理(Inventory) | 在庫数の把握と棚卸は重なる。スマホでの手軽さはzaicoが上 |
| ロジザード ZERO | 在庫管理(Inventory) | 倉庫運用に特化した機能はロジザードが深い |
| Zoho Inventory | 在庫管理(Inventory) | 受注と在庫をつなぐという設計思想が近い |
機能の違い
- Odooにあって在庫SaaSにないもの:受注で在庫が引き当てられ、発注・入庫・仕入計上まで同じデータでつながること。在庫金額が会計に反映される
- 在庫SaaSにあってOdooにないもの:スマホだけで完結する手軽さ、写真やAIを使った登録、倉庫作業に特化した細かい機能
課金構造の違い
在庫管理SaaSは「基本プラン+ユーザー追加」の体系が多く、Odooのユーザー単位課金と近い形です。
zaicoを例にとると、プランごとにフル権限の人数が決まっています。閲覧専用の枠を含むプランもあります。フル権限の利用者を増やすと、1名ごとに月額が加算されます。初期費用はかかりません。
(※課金の型は、2026年9月時点の各社公式サイトの情報にもとづきます。金額や条件は改定されることがあるため、検討時に各社の公式ページでご確認ください。zaicoは2026年6月にプランを全面刷新しており、それ以前の情報が流通している点にご注意ください)
Odoo Enterprise版は、全アプリ一律のユーザー課金です。基本人数の枠がなく、1人目から単価が積み上がります。その代わり、在庫だけでなく販売・購買・会計も同じ単価で使えます。金額の詳細は Odooの料金体系を解説 を参照してください。
在庫管理だけで比べるか、受発注と会計まで含めて比べるか。 この前提の置き方で、比較の結論が変わります。
置き換えのメリット
- 受注で在庫が引き当てられ、「残っているが売れない在庫」が正しく見える
- 発注点の管理から入庫、仕入計上までが1本でつながる
- 在庫金額が会計に反映され、原価の把握につながる(Enterprise版の会計が前提)
置き換えのデメリット・向かないケース
- スマホだけで完結する手軽さは、在庫SaaSのほうが上
- バーコード運用はEnterprise版が前提(Enterprise版が必要になる領域を参照)
- 倉庫作業に特化した細かい機能は、専用の倉庫管理システムが先行している
- 在庫数を把握することだけが目的なら、在庫管理SaaSのほうが導入も運用も軽い
分かれ目は、在庫を受発注と会計までつなげたいかどうかです。倉庫管理は専用システムを残し、受発注と在庫数の把握をOdooで行う分担もあります。
他のアプリの対応表は、Odooで置き換えられるSaaS対応表 にまとめています。
バージョンと機能の更新について
Odoo 19.0は、2025年9月にリリースされました。標準サポートの終了は2028年9月(予定)と、公式に記載があります。
その後、19.1(2026年1月)・19.2(2026年3月)・19.3(2026年5月)・19.4(2026年7月)が順に提供されています。
気をつけたいのは提供先です。19.1〜19.4は、Odooオンラインで先に提供されました。 Odoo.shとオンプレミスは対象外でした(公式のサポート表にN/Aと明記)。
2026年9月には、次のメジャー版のOdoo 20が公開されました。Odoo.shやオンプレミスの会社も、Odoo 20に上げれば、19.1〜19.4の新機能をまとめて受け取れます。
違うのは、新機能を受け取る時期です。早く使いたいならOdooオンライン。自社で管理したいなら、Odoo.shかオンプレミスで年1回のメジャー版に合わせる。Odoo 20の変更点は、Odoo 20の新機能まとめをご覧ください。
在庫管理で扱う範囲に直接かかわる変更は、19.1〜19.4の公式リリースノートに記載が見つかりませんでした。
なお、この更新の流れはEnterprise版の話です。Community版で使える入出庫・複数倉庫・引当・発注点・ロット管理といった基本機能は、このマイナー版の提供対象に含まれません。
※出典:Odoo公式ドキュメントのサポート表(2026年10月確認)、Odoo公式のリリースノート(2026年9月確認)
よくある質問
まずは無料のCommunity版で在庫管理を始められますか?
始められます。入出庫、複数倉庫、引当、発注点、ロット管理といった基本機能は使えます。
ただし、バーコード運用や、在庫評価を伴う会計連携が要るならEnterprise版が前提です。必要な機能を先に洗い出してください。
ハンディ端末は必須ですか?
必須ではありません。ただ、扱う数量が多いほど効果が出ます。
手入力では、入力する時間そのものと、打ち間違いによる差異が生じます。1日あたりの入出庫件数が多い現場なら、投資に見合う見込みが高くなります。
いま使っている倉庫管理システムは残せますか?
残せます。すべてをOdooに寄せる必要はありません。
倉庫管理は専用システムを残し、受発注と在庫数の把握をOdooで行う設計もあります。その場合は、連携の設計が必要です。
ロット管理やトレーサビリティは対応できますか?
ロット・シリアル番号の管理は、標準機能で対応できます。
賞味期限も、ロット・シリアル番号ごとに期限日を持たせる標準機能があります。ただし、配合管理などの業界固有の要件は、標準機能で足りるかを個別に検証してください。難しい要件から先に試すのが近道です。
Odooの在庫管理のメリットとデメリットは何ですか?
受発注とつながる利点とバーコードや在庫評価はEnterprise版という制約があります。
受注で在庫が引き当てられ、入庫すれば増え、仕入計上は会計につながります。入出庫・複数倉庫・引当・発注点・ロット管理は、Community版でも使えます。
一方、バーコード運用と在庫評価を伴う会計連携は、Enterprise版が前提です。入れただけでは在庫は合わず、移行前の実地棚卸しと入力のルールが要ります(メリットとデメリット)。
まとめ:在庫は「つながる」ことで合う
- 在庫が合わない原因の多くは、他の業務とつながっていないこと
- 入出庫・複数倉庫・引当・発注点・ロット管理はCommunity版でも使える
- バーコード運用・品質管理・在庫評価の会計連携はEnterprise版限定
- 進める順番は、差異の場所の特定→実地棚卸し→マスタ整理→入力と例外のルール→範囲の決定
- 現場の運用を軽く見ると、使われないシステムになる
在庫が合う状態は、ただの数字合わせではありません。必要なときに必要なものが出せるという、事業の基礎体力です。技術の問題に見えて、経営の問題でもあります。
1年後、営業は倉庫に電話せず、その場で「出せる数」を顧客に答えている。月末の棚卸しは、差異の原因探しではなく数の確認だけで終わっている。そんな情景を目指してください。
もう少し詳しく知りたい方へ
「うちの在庫の差異は、どこで生まれているのだろう」と感じたら、倉庫と受発注の流れの整理からご一緒します。
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