「在庫は、減らせば減らすほど良い」
そう考えて削減の目標を立てると、たいてい別の問題が起きます。欠品です。
在庫最適化とは、在庫を減らすことではなく、持つ理由を数字で説明できる状態にすることです。
結果として減ることもあれば、増やすべきだと分かることもあります。
持つべき量を決めているのは、主に3つ。需要のぶれ幅、リードタイム、欠品をどこまで許すかです。
では、よく売れる商品ほど、在庫を厚く持つべきなのか。
検証では、直感と逆の答えが出ました。第6章で示します。
数式は使わず、言葉で説明します。
この記事で分かること
- 適正在庫を2つに分解して考える方法
- 安全在庫が何によって決まるのか
- 予測精度が上がると、在庫がどれだけ減るのか(実測例)
- 在庫最適化でつまずく3つのパターン
在庫最適化とは何か
在庫最適化とは、過剰と欠品のバランスを取り、持つべき数量を根拠をもって決めることです。
減らすことが目的ではない
在庫を減らせば、資金は楽になり、保管費も下がります。
一方で、減らしすぎれば欠品します。売れるはずだった商品が売れず、顧客も離れます。
難しいのは、過剰在庫は帳簿に載るのに、欠品による売り逃しは載らないことです。
在庫金額は、貸借対照表で誰の目にも見えます。
「あの日、在庫があれば売れていた分」は、どこにも記録されません。
削減だけを評価すると、片方のコストしか見ないことになります。
「持つ理由を説明できる状態」を目指す
目指すのは、主力商品の在庫数を聞かれたとき、その根拠を説明できることです。
「なぜこの商品は300個持っているのか」
この問いに、需要のぶれ幅とリードタイムから答えられる。それが在庫最適化のゴールです。
根拠を説明できない在庫は、多くても少なくても問題です。
多ければ資金が寝ており、少なければ欠品のリスクを負っています。
どちらも、意図してその状態にしているわけではありません。
適正在庫は、2つに分けて考える
適正在庫は、ひとかたまりに聞こえます。
実際は、性格の違う2つの要素でできています。
| 要素 | 役割 | 決まり方 |
|---|---|---|
| サイクル在庫 | 次の入荷までの通常の販売分をまかなう | 平均の販売ペース × 発注の間隔 |
| 安全在庫 | 予測から外れたぶんを吸収する | 予測のぶれ幅 × リードタイムの長さ |
適正在庫 = サイクル在庫 + 安全在庫
この2つは、減らし方がまったく違います。
サイクル在庫を減らすには
サイクル在庫は、発注の間隔で決まります。
月1回まとめて発注すれば1か月分、週1回なら1週間分を持つことになります。
発注の頻度を上げれば、この部分は減ります。
ただし、頻度を上げると、発注業務の手間や輸送費が増えます。
手間と在庫のどちらを取るかの調整で、予測の精度とは関係がありません。
安全在庫を減らすには
安全在庫は違います。予測がどれだけ当たるかで、直接変わります。
予測のぶれ幅が小さくなれば、備える幅も小さくなります。
発注の頻度を変えなくても、減らせる部分です。
在庫最適化の議論で焦点になるのは、ふつうこちらです。
安全在庫は、何によって決まるのか
| 要素 | 増えると安全在庫は | 理由 |
|---|---|---|
| 予測のぶれ幅 | 増える | 外れる幅が大きいほど、備えが要る |
| リードタイム | 増える | 守るべき期間が長くなる |
| 欠品を許さない度合い | 増える | 100%欠品を防ごうとするほど、必要量は跳ね上がる |
ぶれ幅が大きいほど、安全在庫は増える
ここは直感どおりです。
毎月ほぼ100個売れる商品と、50個の月も150個の月もある商品。
平均は同じでも、後者のほうが多く持つ必要があります。
効くのは平均ではなく、ぶれ幅です。
予測そのものの考え方は、需要予測とは?やり方・手法・精度の測り方を基礎から解説で扱っています。
リードタイムが長いほど、安全在庫は増える
見落とされやすいのが、こちらです。
安全在庫が守るのは、発注してから商品が届くまでの期間です。
この間に想定より売れても、追加の入荷は間に合いません。
リードタイムが長いほど、守るべき期間が延び、必要な安全在庫も増えます。
海外から仕入れてリードタイムが3か月ある商品と、国内調達で1週間の商品。
同じ販売量でも、前者ははるかに多くの安全在庫を要します。
しかも、遠い先ほど予測は当たりにくい。
リードタイムの長い商品は、ぶれ幅とリードタイムの両方で不利になります。
「欠品ゼロ」を目指すコスト
3つめが、欠品をどこまで許すかです。
欠品を完全になくそうとすると、必要な在庫は急激に増えます。
想定外の大口注文にまで備える必要があるためです。
実務では、商品ごとに水準を分けるのが現実的です。
看板商品は欠品を強く避け、代わりの効く商品は多少の欠品を許す。
この差をつけないと、全商品に高い水準を当てることになります。
予測精度が上がると、在庫はどれだけ減るのか
ここまでの話を、実際の数字で見ます。
あるEC事業者の例です。
522SKU(商品の管理単位)を対象に、需要予測の仕組みを作りました。
| 状態 | 月次の誤差幅 |
|---|---|
| 従来(担当者の経験による予測) | 約±45個 |
| 予測モデル導入後 | 約±28個 |
ぶれ幅が、45個から28個に縮みました。
ぶれ幅の縮小が、そのまま在庫の削減になる
安全在庫は、ぶれ幅に応じて決まります。
45個ぶれる前提で持っていた在庫は、28個ぶれる前提なら少なくて済みます。
リードタイムや、欠品を許す水準を変えなくても、この部分は減ります。
経営の言葉に翻訳する
予測精度の話が経営会議で通りにくいのは、率で語られるためです。
「wMAPE(予測のズレを率で表す指標)が30%になりました」と報告しても、判断の材料になりません。
翻訳は、3段で行います。
- ぶれ幅が45個から28個に縮んだ
- そのぶん、安全在庫を減らせる
- 単価を掛ければ、在庫金額でいくら減るかが出る
3段目まで持っていくと、投資判断の話になります。
予測の取り組みは、ここまで翻訳して初めて経営のテーマになります。
欠品した月のデータには、罠がある
在庫を計算する前に、手元の販売実績が本当の需要を表しているかを見てください。
売れなかったのか、売る在庫がなかったのか
在庫を切らした月の販売数は、需要より小さくなります。
売りたくても売れなかった分が、記録に残らないためです。
この数字をそのまま履歴に入れると、需要を実際より低く見積もります。
低い見積もりで発注すれば、また欠品し、次の月の実績も低く出る。
気づかないうちに、在庫の水準が下がり続けます。
補正の考え方
厳密な方法でなくて構いません。
欠品の前後の販売ペースから、「在庫があれば売れていたはずの数量」を推定し、履歴を置き換えます。
欠品した日数の割合で按分する程度でも、補正しないよりはるかにましです。
そのためには、欠品の記録を残しておく必要があります。
いつ、どの商品が、何日欠品したか。
日々の在庫管理の記録が、後の分析の材料になります。
人が出さない答えがある
ここから紹介するのは、8商品規模で行った検証結果です。
数百・数千の商品を扱う現場に、そのまま当てはまる話ではありません。
それでも、示唆のある結果が出ました。
検証の内容
在庫に関する4つの場面で最適化の計算を行い、すべての組み合わせを総当たりで調べた答え(全探索の最適解)と比べました。
| シナリオ | 最適解との差 |
|---|---|
| 多期間の在庫計画 | 完全一致 |
| 倉庫の配置 | 差あり |
| 保管クラスの割り当て | 差あり |
| 安全在庫の配分 | 完全一致 |
4シナリオ全体で、差は0.0〜7.2%に収まりました。
安全在庫の配分は、39万通りの全探索と完全に一致しています。
直感に反する答えが出た
数字より興味深かったのは、答えの中身です。
- 特定の商品だけ、入荷を前倒しする
- 通年で安定して売れているロングセラー商品に、安全在庫を配分しない
2つめには、多くの方が違和感を持つはずです。
よく売れる商品の在庫を持たないのは、乱暴に聞こえます。
なぜロングセラーに配分しないのか
理由は、第3章の原則にあります。
安全在庫が守るのは、平均ではなく、ぶれ幅です。
通年で安定して売れる商品は、需要のぶれが小さい。
ぶれが小さければ、備える幅も小さくて済みます。
限られた予算や倉庫の容量の中では、どこかに配ればどこかを削ることになる。
ぶれの大きい商品に振り向けたほうが、全体の欠品は減ります。
「売れているから多く持つ」という直感は、平均で考えているために生じるずれです。
配分の考え方は、安全在庫の配分で扱っています。
人の判断を否定する話ではない
こうした答えは、人が手で考えて出せるものではありません。
商品どうしの制約が絡み合っているためです。
ただ、人の判断が劣っているわけではありません。扱える情報量の違いです。
39万通りの組み合わせを頭の中で比べることは、誰にもできません。
計算に向いた部分は計算に任せ、人は「なぜその答えになったのか」を確かめ、実務に落とせるかを判断する。
この分担が現実的です。
もう一度書くと、この検証は8商品規模のものです。
規模が大きくなれば、計算の難しさは別の問題として立ち上がります。
在庫最適化でつまずく3つのパターン
どれも人の力量ではなく、仕組みで起きます。
在庫を減らすことが目的になる
こんな状態になっていませんか
- 在庫削減率が、部門の評価指標になっている
- 削減の報告はあるが、欠品の報告はない
- 目標の在庫日数が、全商品一律で決まっている
なぜ起きるのか
過剰在庫は帳簿に載り、欠品は載らないためです。
評価できるものだけを評価すると、片方のコストが無視されます。
担当者は正しく動いているのに、結果として欠品が増えます。
どう回避するか
欠品による売り逃しを、推定でよいので記録してください。
在庫がゼロだった日数に、その商品の平均の販売ペースを掛ければ、おおよその金額が出ます。
厳密でなくて構いません。見えない状態から、見える状態にすることに意味があります。
両方が並んで初めて、バランスの議論ができます。
全商品に同じルールを当てる
こんな状態になっていませんか
- 「在庫は1.5か月分」など、全商品共通の基準で管理している
- 商品ごとに需要のぶれ方が違うと分かっていても、区別していない
- 欠品する商品と、動かない在庫が、同時にある
なぜ起きるのか
一律のルールは、運用が楽で説明もしやすいからです。
ただ、需要が安定した商品と不安定な商品では、必要な安全在庫が違います。
一律に当てると、安定した商品には多すぎ、不安定な商品には足りない状態が同時に起きます。
どう回避するか
まず、売上の大きい上位の商品だけを取り出してください。
多くの会社では、少数の商品が売上の大半を占めます。
そこだけ個別に見れば、効果は出ます。残りは一律のルールで構いません。
重要な商品から順に、精度を上げていく進め方です。
安全在庫の根拠を、誰も説明できない
こんな状態になっていませんか
- いまの在庫水準を、いつ、誰が、何を根拠に決めたか分からない
- 担当者が「経験的にこれくらい」と答える
- 見直しの機会が、決算や棚卸しのときしかない
なぜ起きるのか
見直す機会が、設計されていないためです。
在庫水準は、一度決めれば日々の業務が回り、誰も困りません。
困らないから、決めた当時の前提が変わっても、数字だけが残ります。
どう回避するか
見直す日を、先にカレンダーに置いてください。年に2回でも足ります。
そのとき見るのは、次の3点です。
- 主力商品の需要のぶれ幅は、前回からどう変わったか
- リードタイムに変化はないか
- 欠品と滞留在庫の、どちらかに偏っていないか
ベンチャーネットならこう見る|記録する→分ける→決め直す
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、在庫の数字を決めることより、決め直す仕組みを持つことを重く見ます。
型1:記録する→分ける→決め直す
- 記録する:販売実績、欠品の記録、商品ごとのリードタイムの3つを残す
- 分ける:看板商品と代わりの効く商品で、欠品を許す水準を分ける
- 決め直す:年2回、ぶれ幅・リードタイム・偏りを見て、水準を決め直す
AIや最適化ツールを入れる前に、1段目が要ります。
特に欠品の記録は、多くの会社で残っていません。
入力するデータの質が、出てくる答えの質を決めます。
型2:主力商品1つ・1つの指標から
最初から全商品を相手にしません。
主力商品を1つ選び、指標を安全在庫の根拠1つに絞って1周回します。
第6章の検証のように、いまの決め方と計算の答えを同じ条件で並べれば、差がどこから来るかが見えます。
在庫の目標が決まっても、そのとおりに発注できるとは限りません。
最低発注数量(MOQ)、ケース単位、予算の上限、倉庫の容量が絡むからです。
制約が3つを超えたら、手で最適な答えを出すのは難しくなります。
制約を一覧に書き出すところまでを先に済ませ、計算は仕組みに任せるのが現実的です。
次に読むなら、発注の側の発注量の決め方とMOQ(最低発注数量)とは?です。
流れ全体はサプライチェーンの全体最適とは?で扱っています。
発注点の自動計算や、リードタイム・季節需要を加味した補充の提案は、基幹システムの標準機能で賄える範囲です。
詳しくはNetSuiteの在庫管理でできることをご覧ください。
標準機能で足りない複数の制約が絡む配分は、外で計算した結果を取り込む方法もあります。
よくある質問
Q1. 適正在庫は、どうやって求めればよいですか
サイクル在庫と安全在庫に分けて考えます。
サイクル在庫は、平均の販売ペースと発注の間隔から出ます。月1回発注なら、およそ1か月分です。
安全在庫は、需要のぶれ幅とリードタイムから決まります。
過去12か月の実績を並べ、月ごとの差を見るところから始め、まず主力商品1つで試してください。
Q2. 在庫は、どれくらい減らせますか
いまの在庫がどんな根拠で決まっているかで変わります。
判断の手がかりは2つあります。
欠品と滞留在庫が同時に起きているなら、配分の見直しで両方を改善できる余地があります。
需要のぶれ幅を把握していないなら、いまの在庫は根拠なく決まっている可能性が高く、見直しの効果が出やすい状態です。
Q3. 予測精度を上げなくても、在庫は減らせますか
減らせる部分はあります。
サイクル在庫は発注の頻度で決まるため、予測とは関係なく調整できます。ただし手間と輸送費が増えます。
一律の基準をやめ、需要の安定した商品と不安定な商品で水準を分けるだけでも、欠品が減ることがあります。
安全在庫そのものを減らすには、予測のぶれ幅を縮める必要があります。
Q4. AIや最適化ツールを入れれば、解決しますか
道具だけでは解決しません。
先に要るのは、販売実績の履歴、欠品の記録、商品ごとのリードタイムの3つです。
この3つが揃わないままツールを入れても、期待した結果は出ません。
まず記録を残す運用を作り、道具の検討はその後で構いません。
まとめ|持つ理由を、説明できる状態に
- 在庫最適化は、減らすことではなく、持つ理由を数字で説明できる状態にすること
- 適正在庫は、サイクル在庫と安全在庫に分けて考える。減らし方が違う
- 安全在庫は、需要のぶれ幅・リードタイム・欠品を許す度合いで決まる
- 予測のぶれ幅が縮めば、安全在庫は減る。単価を掛ければ、経営の言葉になる
- 欠品した月の実績は、補正しないと需要を低く見積もる
- よく売れる商品ほど安全在庫が要るとは限らない。効くのは平均ではなく、ぶれ幅
今日できること
主力商品を1つ選び、「なぜその在庫数なのか」を説明してみてください。
需要のぶれ幅とリードタイムから答えられるか。それとも「経験的にこれくらい」か。
後者でも、珍しくはありません。
減らす前に、説明できないと気づくこと。そこが在庫最適化の出発点です。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の在庫が、いまどんな状態にあるのか。
現状の確認から、ご相談をお受けしています。
- 在庫・生産・広告の配分を、条件のもとで全体最適化したい方へ:NetSuite×量子コンピューティング経営最適化コンサルティング
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