在庫を減らしたい。この相談は、業種を問わずよくいただきます。
ただ、減らすこと自体を目標にすると、たいてい別の問題が起きます。欠品です。
在庫最適化とは、在庫を減らすことではなく、持つ理由を数字で説明できる状態にすることです。結果として減ることもあれば、増やすべきだと分かることもあります。
この記事では、適正在庫の考え方から、予測精度が在庫量にどう効くかまでを整理します。数式は使わず、言葉で説明します。
📌 この記事で分かること
- 適正在庫を2つに分解して考える方法
- 安全在庫が何によって決まるのか
- 予測精度が上がると、在庫がどれだけ減るのか(実測例)
- 在庫最適化でつまずく3つのパターン
在庫最適化とは何か
在庫最適化とは、過剰と欠品のバランスを取り、持つべき数量を根拠をもって決めることです。
減らすことが目的ではない
在庫を減らせば、資金は楽になります。保管費も下がります。
一方で、減らしすぎれば欠品します。売れるはずだった商品が売れず、顧客も離れます。
ここに難しさがあります。過剰在庫は帳簿に載りますが、欠品による売り逃しは載りません。
在庫金額は貸借対照表で誰の目にも見えます。しかし「あの日、在庫があれば売れていた分」はどこにも記録されません。
そのため、削減だけを評価すると、片方のコストしか見ないことになります。
「持つ理由を説明できる状態」を目指す
では、何を目指すのか。
主力商品の在庫数を聞かれたとき、その数字の根拠を説明できることです。
「なぜこの商品は300個持っているのか」。この問いに、需要のぶれ幅とリードタイムから答えられる状態。それが在庫最適化のゴールです。
逆に、根拠を説明できない在庫は、多くても少なくても問題です。多ければ資金が寝ており、少なければ欠品のリスクを負っています。どちらも、意図してその状態にしているわけではありません。
適正在庫は、2つに分けて考える
適正在庫という言葉は、ひとかたまりに聞こえます。ただ、性格の違う2つの要素でできています。
| 要素 | 役割 | 決まり方 |
|---|---|---|
| サイクル在庫 | 次の入荷までの通常の販売分をまかなう | 平均の販売ペース × 発注の間隔 |
| 安全在庫 | 予測から外れたぶんを吸収する | 予測のぶれ幅 × リードタイムの長さ |
適正在庫 = サイクル在庫 + 安全在庫
この2つは、減らし方がまったく違います。
サイクル在庫を減らすには
サイクル在庫は、発注の間隔で決まります。
月1回まとめて発注していれば1か月分、週1回なら1週間分を持つことになります。発注の頻度を上げれば、この部分は減ります。
ただし、頻度を上げると発注業務の手間や輸送費が増えます。トレードオフの調整であり、予測の精度とは関係のない話です。
安全在庫を減らすには
安全在庫は違います。ここは、予測がどれだけ当たるかで直接変わります。
予測のぶれ幅が小さくなれば、備えるべき幅も小さくなります。発注の頻度を変えなくても減らせる部分です。
在庫最適化の議論で焦点になるのは、通常こちらです。次の章から詳しく見ます。
安全在庫は、何によって決まるのか
安全在庫を決める要素は3つあります。
| 要素 | 増えると安全在庫は | 理由 |
|---|---|---|
| 予測のぶれ幅 | 増える | 外れる幅が大きいほど、備えが要る |
| リードタイム | 増える | 守るべき期間が長くなる |
| 欠品を許さない度合い | 増える | 100%欠品を防ごうとするほど、必要量は跳ね上がる |
ぶれ幅が大きいほど、安全在庫は増える
これは直感どおりです。
毎月ほぼ100個売れる商品と、50個の月も150個の月もある商品。同じ平均でも、後者のほうが多く持つ必要があります。
重要なのは、ここで効くのは平均ではなくぶれ幅だということです。平均が同じでも、ぶれ幅が違えば持つべき在庫は変わります。
予測の話は、需要予測とは?やり方・手法・精度の測り方を基礎から解説で整理しています。
リードタイムが長いほど、安全在庫は増える
見落とされやすいのがこちらです。
安全在庫が守るのは、発注してから商品が届くまでの期間です。この期間中に想定より売れても、追加の入荷は間に合いません。
だから、リードタイムが長いほど守るべき期間が延び、必要な安全在庫も増えます。
海外から仕入れていてリードタイムが3か月ある商品と、国内調達で1週間の商品。同じ販売量でも、前者ははるかに多くの安全在庫を要します。
そして、遠い先ほど予測は当たりにくくなります。リードタイムが長い商品は、ぶれ幅とリードタイムの両方で不利という構造です。
「欠品ゼロ」を目指すコスト
3つめの要素が、欠品をどこまで許すかです。
欠品を完全になくそうとすると、必要な在庫は急激に増えます。想定外の大口注文にも備える必要があるためです。
実務では、商品ごとに水準を分けるのが現実的です。看板商品は欠品を強く避け、代替の効く商品は多少の欠品を許容する。この差をつけないと、全商品に高い水準を適用することになります。
予測精度が上がると、在庫はどれだけ減るのか
ここまでの話を、実際の数字で見てみます。
あるEC事業者の例です。522SKU(商品の管理単位)を対象に、需要予測の仕組みを構築したケースです。
| 状態 | 月次の誤差幅 |
|---|---|
| 従来(担当者の経験による予測) | 約±45個 |
| 予測モデル導入後 | 約±28個 |
ぶれ幅が45個から28個に縮みました。
ぶれ幅の縮小が、そのまま在庫の削減になる
前章のとおり、安全在庫はぶれ幅に応じて決まります。
45個ぶれる前提で持っていた在庫は、28個ぶれる前提なら少なくて済みます。リードタイムや欠品を許す水準を変えなくても、この部分は減ります。
ここが「精度改善→安全在庫削減→在庫金額削減」という一本の線です。
経営の言葉に翻訳する
予測精度の議論が経営会議で通りにくいのは、率で語られるためです。
「wMAPEが30%になりました」と報告しても、判断材料になりません。
翻訳が要ります。
- ぶれ幅が45個から28個に縮んだ
- そのぶん安全在庫を減らせる
- 単価を掛ければ、在庫金額でいくら減るかが出る
この3段目まで持っていくと、投資判断の話になります。予測の取り組みは、ここまで翻訳して初めて経営のテーマになります。
欠品した月のデータには、罠がある
在庫の計算をする前に、確認すべきことがあります。手元の販売実績が、本当の需要を表しているかです。
売れなかったのか、売る在庫がなかったのか
在庫を切らした月の販売数は、需要より小さくなります。売りたくても売れなかった分が、記録に残らないためです。
この数字をそのまま履歴に入れると、需要を実際より低く見積もります。
低い見積もりで発注すれば、また欠品します。そして次の月の実績も低く出ます。気づかないうちに、在庫水準が下がり続けるという循環です。
補正の考え方
厳密な方法である必要はありません。
欠品前後の販売ペースから、「在庫があれば売れていたはずの数量」を推定し、履歴を置き換えます。欠品した日数の割合から按分する程度でも、無補正よりはるかにましです。
大切なのは、欠品の記録を残しておくことです。いつ、どの商品が、何日欠品したか。この記録がないと補正のしようがありません。
在庫管理の日々の記録が、後の分析の材料になります。
人が出さない答えがある
ここからは、少し踏み込んだ話をします。
最初にお断りしておきます。これから紹介するのは、8商品規模で行った検証結果です。 実運用の規模とは異なります。数百・数千の商品を扱う現場にそのまま当てはまる話ではありません。
そのうえで、示唆のある結果が出ました。
検証の内容
在庫に関する4つの場面について、最適化の計算を行い、すべての組み合わせを総当たりで調べた答え(全探索の最適解)と比べました。
| シナリオ | 最適解との差 |
|---|---|
| 多期間の在庫計画 | 完全一致 |
| 倉庫の配置 | 差あり |
| 保管クラスの割り当て | 差あり |
| 安全在庫の配分 | 完全一致 |
4シナリオ全体で、差は0.0〜7.2%の範囲に収まりました。安全在庫の配分については、39万通りの全探索と完全に一致しています。
直感に反する答えが出た
数字より興味深かったのは、出てきた答えの中身です。
たとえば、次のような解が出ました。
- 特定の商品だけ、入荷を前倒しする
- 通年で安定して売れているロングセラー商品に、安全在庫を配分しない
2つめは、多くの方が違和感を持つはずです。よく売れる商品の在庫を持たない、というのは乱暴に聞こえます。
なぜロングセラーに配分しないのか
理由は、前の章で説明した原則にあります。
安全在庫が守るのは、平均ではなくぶれ幅です。
通年で安定して売れている商品は、需要のぶれが小さい商品です。ぶれが小さければ、備えるべき幅も小さくて済みます。
一方、限られた予算や倉庫の容量の中では、どこかに配分すればどこかを削ることになります。ぶれの大きい商品に振り向けたほうが、全体の欠品は減ります。
つまり「売れているから多く持つ」という直感は、平均で考えているために生じるずれです。
人の判断を否定する話ではない
こうした解は、人が手で考えて出せるものではありません。商品どうしの制約が絡み合っているためです。
ただ、これは人の判断が劣っているという話ではありません。
扱える情報量の問題です。39万通りの組み合わせを頭の中で比較することは、誰にもできません。
計算に向いた部分は計算に任せ、人は「なぜその答えになったのか」を検証し、実務に落とせるかを判断する。この分担が現実的です。
繰り返しますが、この検証は8商品規模のものです。規模が大きくなれば、計算の難易度も別の問題として立ち上がります。
在庫最適化でつまずく3つのパターン
取り組みが行き詰まる典型を3つ挙げます。
いずれも、人の力量の問題ではありません。仕組みがそうさせている構造の話です。
在庫を減らすことが目的になる
こんな状態になっていませんか
- 在庫削減率が部門の評価指標になっている
- 削減の報告はあるが、欠品の報告はない
- 目標の在庫日数が、全商品一律で決まっている
なぜ起きるのか
過剰在庫は帳簿に載り、欠品は載らないためです。
在庫金額は貸借対照表で誰の目にも見えます。一方、「在庫があれば売れていた分」は、どこにも記録されません。
評価できるものだけを評価すると、片方のコストが無視されます。担当者は正しく行動しているのに、結果として欠品が増える。この構造が生まれます。
どう回避するか
欠品による売り逃しを、推定でよいので記録してください。
在庫がゼロだった日数と、その商品の平均販売ペースを掛ければ、おおよその金額は出ます。厳密でなくて構いません。見えない状態から、見える状態にすることに意味があります。
両方が並んで初めて、バランスの議論ができます。
全商品に同じルールを当てる
こんな状態になっていませんか
- 「在庫は1.5か月分」など、全商品共通の基準で管理している
- 商品ごとに需要のぶれ方が違うことは分かっているが、区別していない
- 欠品する商品と、動かない在庫が、同時に存在している
なぜ起きるのか
一律のルールは運用が楽です。判断の手間がなく、説明もしやすい。
ただ、需要が安定した商品と不安定な商品では、必要な安全在庫が違います。一律の基準を当てると、安定商品には多すぎ、不安定商品には足りないという状態が同時に起きます。
欠品と滞留在庫が並存している会社は、たいていこの構造を抱えています。
どう回避するか
すべての商品を個別に設計する必要はありません。
まず、売上の大きい上位の商品だけを取り出してください。多くの会社では、少数の商品が売上の大半を占めます。そこだけ個別に見るだけでも、効果は出ます。
残りは一律のルールで構いません。重要な商品から順に精度を上げていく進め方が現実的です。
安全在庫の根拠を、誰も説明できない
こんな状態になっていませんか
- 現在の在庫水準がいつ、誰が、何を根拠に決めたか分からない
- 担当者が「経験的にこれくらい」と答える
- 見直しの機会が、決算や棚卸しのときしかない
なぜ起きるのか
これも人の問題ではありません。見直す機会が設計されていないためです。
在庫水準は、一度決めれば動きます。日々の業務は回り、誰も困りません。困らないから、見直されないまま年が過ぎます。
そして、決めた当時の前提は変わっています。商品構成も、リードタイムも、需要のぶれ方も。前提が変わったのに数字だけが残る、という状態です。
どう回避するか
見直す日を、先にカレンダーへ置いてください。
年に2回でも十分です。そのとき確認するのは3点だけです。
- 主力商品の需要のぶれ幅は、前回と比べてどう変わったか
- リードタイムに変化はないか
- 欠品と滞留在庫が、どちらかに偏っていないか
ベンチャーネットは、この見直しの型をつくるところから一緒に設計する立場を取っています。数字を決めることより、決め直す仕組みを持つことのほうが、長い目で見て効きます。
在庫最適化を、仕組みにする
最後に、この先の話です。
予測・在庫・発注はつながっている
在庫の目標が決まっても、そのとおりに発注できるとは限りません。
最低発注数量(MOQ)、ケース単位、予算の上限、倉庫の容量。現実にはこうした制約が絡みます。制約が複数あると、直感で出した答えは最適から外れます。
制約が3つを超えたら、手で最適な答えを出すことは難しくなります。制約を書き出して一覧にするところまでを先に済ませ、計算は仕組みに任せるのが現実的な進め方です。
流れ全体の考え方は、サプライチェーンの全体最適とは?で扱っています。
システムでどこまでできるか
在庫の管理をシステムで行う場合、標準機能でカバーできる範囲があります。
発注点の自動計算、リードタイムや季節需要を加味した補充の提案など、基幹システムの機能として提供されているものです。詳しくはNetSuiteで販売管理・在庫管理・購買管理を行うためのポイント3選をご覧ください。
標準機能で足りない部分、たとえば複数の制約が絡む配分の最適化については、外部で計算した結果を取り込む方法もあります。
よくある質問
Q1. 適正在庫は、どうやって求めればよいですか?
サイクル在庫と安全在庫に分けて考えてください。
サイクル在庫は、平均の販売ペースと発注の間隔から出ます。月1回発注なら、およそ1か月分です。
安全在庫は、需要のぶれ幅とリードタイムから決まります。過去12か月の販売実績を並べ、月ごとの差がどれくらいあるかを見るところから始められます。
この2つを足したものが適正在庫です。いきなり全商品でやろうとせず、主力商品1つで試してみてください。
Q2. 在庫は、どれくらい減らせますか?
一律には答えられません。現在の在庫がどんな根拠で決まっているかによります。
判断の手がかりは2つあります。
1つは、欠品と滞留在庫が同時に起きているかどうか。両方あるなら、配分の見直しで両方を改善できる余地があります。
もう1つは、需要のぶれ幅を把握しているかどうか。把握していない場合、現在の在庫は根拠なく決まっている可能性が高く、見直しの効果が出やすい状態です。
Q3. 予測精度を上げなくても、在庫は減らせますか?
減らせる部分はあります。
サイクル在庫は発注頻度で決まるため、予測とは無関係に調整できます。発注の回数を増やせば減ります。ただし、業務の手間と輸送費が増えます。
商品ごとの配分を見直すことでも改善します。一律の基準をやめ、需要の安定した商品と不安定な商品で水準を分けるだけで、全体の在庫を増やさずに欠品を減らせることがあります。
一方、安全在庫そのものを構造的に減らすには、予測のぶれ幅を縮める必要があります。
Q4. AIや最適化ツールを入れれば、解決しますか?
道具だけでは解決しません。先に整えるべきものがあります。
必要なのは、販売実績の履歴、欠品の記録、商品ごとのリードタイムの3つです。特に欠品の記録は、多くの会社で残っていません。
この3つが揃っていない状態でツールを入れても、期待した結果は出ません。入力するデータの質が、出てくる答えの質を決めます。
まず記録を残す運用をつくること。道具の検討はその後で構いません。
まとめ:持つ理由を、説明できる状態に
要点を整理します。
- 在庫最適化は減らすことではなく、持つ理由を数字で説明できる状態にすること
- 適正在庫はサイクル在庫と安全在庫に分けて考える。減らし方が違う
- 安全在庫は、需要のぶれ幅・リードタイム・欠品を許す度合いで決まる
- 予測のぶれ幅が縮めば、安全在庫は構造的に減る
- 欠品した月の実績は、補正しないと需要を低く見積もる
そして、直感に反する答えが出ることがあります。よく売れている商品ほど安全在庫が要る、とは限りません。効くのは平均ではなく、ぶれ幅です。
今日できること
1つだけ試せることがあります。
主力商品を1つ選び、「なぜその在庫数なのか」を説明してみてください。
需要のぶれ幅とリードタイムから答えられるでしょうか。それとも「経験的にこれくらい」でしょうか。
後者だったとしても、問題ではありません。多くの会社がその状態です。説明できないと気づくことが、在庫最適化の出発点になります。
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