割引を10%から15%に深くしたら、組めるセットが23から22に減った。
ベンチャーネットが、61商品でセット販売の設計を検証したときの結果です。
値引きを深くすれば、在庫は早く動くはずでした。
ところが実際には、在庫を受け止めるセットのほうが減っていました。
遅在庫のセット販売とは、動きの鈍い在庫を人気商品と組み合わせ、1つの商品として売る方法です。
値引き以外の出口として使えます。
ただし、先に粗利率の下限を決めておかないと、うまく組めません。
値引きを深くすると、なぜセットが減るのか。
この記事で分かること
- 遅在庫・セット販売・バンドル設計とは何か
- 値引きで処分する前に、知っておきたい2つのこと
- 1セットずつではなく、その月のセットを同時に設計する理由
- 割引率を変えたときの実測(5%・10%・15%・20%)
- この検証で証明できなかったこと
(読了時間の目安:約11分)
遅在庫・セット販売・バンドル設計とは
先に押さえる4つの言葉
遅在庫とは、仕入れたあと動きが鈍く、倉庫に残り続けている在庫のことです。
まったく売れない死蔵在庫の手前、「じわじわとしか動かない」状態を指します。
セット販売とは、複数の商品を1つの商品として組み合わせて売る方法のことです。
詰め合わせ、まとめ買い、福袋も同じ考え方です。
バンドル設計とは、どの商品をどの組み合わせで束ねるかを決める作業のことです。
粗利率の下限とは、そのセットで最低限これは確保するという粗利の割合のことです。
セットは単品より安くなるため、下げすぎない歯止めとして先に決めておきます。
⚠️「バンドル」という言葉について
NetSuiteを使っている方は、「バンドル」を別の意味で聞いたことがあるかもしれません。
NetSuiteでは、バンドルはシステムに追加でインストールする機能のまとまりを指します。
この記事の「バンドル」は、商品を束ねて売ることです。
まったく別のものなので、混同しないでください。
紛らわしいため、この記事では基本的に「セット販売」と書きます。
発注量そのもの、つまり「いくつ仕入れるか」は発注量の決め方で扱っています。
この記事は、仕入れたあとに残ってしまった在庫をどうするかの話です。
値引きで処分する前に、知っておきたいこと
値引きを否定するつもりはありません。
手早く、確実に動く。
その点で、値引きは有効な手段です。
ただ、進める前に知っておきたいことが2つあります。
値引きは、粗利をそのまま削る
当たり前に見えて、実感しにくい部分です。
粗利率30%の商品を20%引きで売ると、1個あたりの粗利は3分の1に減ります。
売価100円・原価70円なら、粗利30円のうち20円が値引きで消えるからです。
元の粗利率が低い商品ほど、値引きの余地は小さくなります。
粗利の見方は、粗利とは?にまとめています。
値引きで動いた実績が、次の予測を狂わせる
見落とされやすいのは、こちらです。
値引きで大量に動いた月の販売数は、その価格だから売れた数です。
それを通常の需要として履歴に残すと、次の発注が過大になります。
そして、また残ります。
値引きは、在庫を減らす代わりに次の在庫を増やす循環を作ることがあるのです。
この循環を図にすると、次のとおりです。
在庫全体の考え方は、在庫最適化とは?で扱っています。
だから、出口は複数あったほうがいい
値引きをやめる必要はありません。
ただ、出口が値引き1つしかないと、価格を下げること以外の選択肢が検討されなくなります。
セット販売は、その選択肢の1つです。
セット販売という出口
相反する2つの目的を、同時に扱う
セット販売がうまく回ると、2つのことが同時に起きます。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 攻め | 遅在庫を、セットに組み込んで動かす |
| 守り | セット全体の粗利率を、決めた下限より下げない |
この2つは、放っておくと相反します。
遅在庫を多く詰めれば、セットの魅力も粗利も下がります。
粗利を守ろうとすれば、遅在庫は入れられません。
セット設計とは、この2つを同時に満たす組み合わせを探す作業です。
人気商品と束ねるだけでは足りない
「売れる商品と抱き合わせる」発想自体は、昔からあります。
ただ、それだけでは設計になりません。
決めることが3つ残るからです。
- どの人気商品に、どの遅在庫を合わせるか
- 1セットに何点入れるか
- セット全体の価格を、いくらにするか
しかも、この3つはセットごとに独立して決められません。
なぜ1セットずつ設計できないのか
1つのセットに入れた商品は、他のセットに入れにくくなる
商品Aを「セット1」に入れたとします。
在庫には限りがあるので、その分だけ「セット2」に回せる量が減ります。
人気商品ほど、この影響が大きく、奪い合いになります。
セット1を最良の形で組んでから、セット2を考える。
この順番だと、セット2以降が痩せていきます。
その月に売り出すセットは、全部まとめて同時に設計する必要があります。
「重複」と「偏り」という条件
同時に設計するとき、2つの条件が効いてきます。
| 条件 | 中身 | 放っておくと |
|---|---|---|
| セット間の重複 | 同じ商品が、いくつものセットに入っていないか | 在庫が足りなくなる。セットの見た目も似てくる |
| セット内の偏り | 1つのセットに、遅在庫ばかり入っていないか | 「売れ残りの寄せ集め」になり、選ばれない |
この2つは、商品の組み合わせどうしの関係で決まります。
「AとBが同じセットにいるか」という、2つを掛け合わせた形の条件です。
1商品ずつ評価しても、出てきません。
2つの組み方を並べると、次のとおりです。
組み合わせの数
61商品から23のセットを組む場合、考えられる組み合わせは、人が比べられる数ではありません。
条件が掛け算の形になると、表計算ソフトや無料の最適化ソフトでは扱えなくなります。
足し算で書ける条件なら、無料の道具で十分です。
難しくなるのは、その先です。
道具ごとの得意・不得意は、最適化ツールの選び方で比べています。
考え方の土台は、データドリブン経営の次の一手|量子アニーリングで実現する経営最適化にあります。
発注の側から全体を見るなら、発注量の決め方が入口です。
検証データ|値引きを深くすると、組めるセットが減る
ここから、ベンチャーネットがセット設計の仕組みを検証したときの結果です。
検証用のサンプルデータによる計算例で、実際の商品構成では数字が変わります。
設計した条件
- 61商品から、その月に売り出すセットを同時に設計
- 遅在庫は46品目
- セットごとに粗利率の下限を設定
- 遅在庫をできるだけ組み込みつつ、粗利率の下限を守る
出てきた設計
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 設計したセット数 | 23セット |
| 遅在庫の吸収率 | 93.5%(46品目中43品目) |
| セットの粗利率 | 最低47.5%/中央値52.9%/最大62.5% |
| セット全体の粗利 | 246.69万円/月(割引10%のとき) |
46品目の遅在庫のうち、43品目が23のセットに組み込まれました。
粗利率は、最低でも47.5%を保っています。
遅在庫を吸収しながら、粗利も守れたという結果です。
割引率を変えると、何が起きたか
検証では、セットの割引率を5%から20%まで変えて、それぞれ計算しています。
| 割引率 | セット全体の粗利 | 成立したセット数 |
|---|---|---|
| 5% | 260.39万円 | 23 |
| 10% | 246.69万円 | 23 |
| 15% | 216.16万円 | 22(減った) |
| 20% | 189.44万円 | 22 |
読み取れることは2つです。
① 粗利は割引を深くするほど下がる
5%と20%を比べると、260.39万円が189.44万円になります。
約70万円の差です。
ここまでは、予想どおりでしょう。
② 15%まで深くするとセットの数そのものが減る
意外なのは、こちらです。
23セットが、22セットになりました。
冒頭の問いへの答えは、粗利率の下限にあります。
割引を深くすると、どう組んでも下限を守れない組み合わせが出てきます。
そのセットは成立せず、消えるのです。
セットが1つ減ると、何が起きるか
セットが減れば、そこに入るはずだった遅在庫の行き場も減ります。
値引きを深くするのは、ふつう早く捌くためです。
ところが検証では、深くしすぎると、捌く器そのものが減っていました。
「もっと引けば動く」という発想が、逆に働く場面があるのです。
実務にどう使うか
割引率を決める前に、「その割引率で何セット組めるか」を確かめてください。
粗利率の下限を先に決めておけば、割引を深くしたときに成立しなくなるセットが見えます。
見えていれば、「ここから先は割に合わない」という線が引けます。
証明できたことと、できなかったこと
数字を紹介する以上、どこまで信頼してよいかも一緒にお伝えします。
証明できたこと
| 内容 | 根拠 |
|---|---|
| 発注以外の判断にも、同じ計算方法が使える | 在庫を「いくつ買うか」だけでなく「どう束ねて売るか」でも成立した |
| 相反する2つの目的を同時に扱える | 遅在庫を減らしながら、粗利率の下限を守る設計ができた |
証明できなかったこと
このセット設計が本当に最良かどうかは、確認できていません。
検証は、5つのシナリオで行っています。
組み合わせが少ないシナリオ(64通り・144通り・約1,000通り)では、すべての組み合わせを数え上げて答え合わせをしました。
そこでは、計算結果が正解と完全に一致しています。
しかし、セット設計のシナリオは組み合わせが多すぎて、全数の確認が原理的にできません。
「23セット・93.5%」より良い設計がある可能性は、否定できないのです。
| 内容 | 状況 |
|---|---|
| この設計が本当に最良か | 確認不能(全数計算ができない規模) |
| 実データでの効果 | 未測定。5つのシナリオはすべて架空のデータ |
| 実運用の規模での性能 | 未測定 |
それでも載せる理由
答え合わせができない領域の結果を、なぜ載せるのか。
答え合わせができる領域で、計算方法そのものの正しさが確認されているからです。
小さい問題で正解と一致することを確かめ、同じ方法を大きい問題に当てています。
この順番を踏んでいるかどうかが、結果を信頼してよいかの判断材料になります。
相談先を選ぶときも、ここまで線引きを示せる相手かどうかを見てください。
「導入すれば◯%削減できる」とだけ言う説明は、確かめようがありません。
つまずく3つのパターン
セット販売の取り組みが行き詰まる典型です。
どれも担当者の力量ではなく、進め方の構造から起きます。
粗利率の下限を決めずに始める
こんな状態になっていませんか
- セットの価格が「これくらいなら売れそう」で決まっている
- セットごとの粗利率を、あとから集計していない
- よく売れたセットほど、粗利が薄かったと後で分かる
なぜ起きるのか
セット販売の目的が、「在庫を減らすこと」に寄っているためです。
減らすことが目的なら、安くするほど成功に見えます。
在庫は減り、粗利も減っている。
この状態が、数字の上で区別されません。
どう避けるか
セットを組む前に、粗利率の下限を決めてください。
検証では最低47.5%を保つ設計になりましたが、この水準が正しいという話ではありません。
先に決めてあること自体に意味があります。
決まっていれば、下限を割るセットは「組まない」と判断できます。
セットを1つずつ、思いついた順に作る
こんな状態になっていませんか
- 「この商品が余っているから、これと組もう」と個別に決めている
- 同じ人気商品が、複数のセットに入っている
- 月の後半に作るセットほど、中身が寂しくなる
なぜ起きるのか
セットを、1つの企画として扱っているためです。
企画は1つずつ立てるものです。
しかし第4章のとおり、1つのセットに入れた商品は、他のセットに入れにくくなります。
先に作ったセットが、後のセットの選択肢を奪っています。
どう避けるか
その月に出すセットを、先に全部リストアップしてください。
中身を決める前に、数だけでも構いません。
そのうえで、人気商品を「どのセットに何個ずつ配るか」を決めます。
この順番にするだけで、後半のセットが痩せる問題は減ります。
遅在庫だけを詰め合わせる
こんな状態になっていませんか
- 「訳あり」「アウトレット」として、動きの鈍い商品だけを束ねている
- そのセット自体が売れ残っている
- 結局、最後は値引きで処分している
なぜ起きるのか
セットを、在庫処分の手段としてだけ見ているためです。
買う側から見れば、遅在庫だけのセットは「売れ残りの寄せ集め」です。
魅力がないから売れず、遅在庫が形を変えて残ります。
どう避けるか
1セットの中で、遅在庫の割合に上限を決めてください。
検証でも「セット内の偏り」を条件にしています。
人気商品と遅在庫を混ぜることが、設計の前提です。
上限の目安は商品で変わりますが、まず「遅在庫だけのセットは作らない」と決めるだけでも変わります。
ベンチャーネットならこう見る
在庫を減らした量ではなく、減らしたときにいくら残ったか。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、処分の実績を必ず粗利と一緒に見ます。
型1:見える化→整理整頓→同時設計
ベンチャーネットの進め方は、業務の見える化から始まります。
セット販売なら、順番は次のとおりです。
- 見える化:何か月動いていないかで、在庫の一覧を作る
- 整理整頓:「何か月動かなかったら遅在庫か」を決め、対象を絞る
- 同時設計:粗利率の下限と遅在庫の割合の上限を決め、その月のセットをまとめて組む
2段目が決まらないと、対象が定まりません。
3段目の下限と上限は、経営の判断として言葉にするところまで同席します。
型2:注意が必要なことを、先に伝える
第6章の「証明できなかったこと」は、ベンチャーネットが先にお伝えする部分です。
良い結果だけを並べても、自社で出るかは判断できないからです。
計算の道具も、同じ考え方で選びます。
足し算で足りるなら、無料のソフトで十分だと申し上げます。
重複や偏りのような掛け算の条件が入ってから、専用の計算手法を使います。
基幹システムでは、セットの構成をどこに持ち、粗利率をどう集計するかを、既存の運用に合わせて設計します。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
特定の製品に誘導しない立場を取っています。
扱う商品が少なく、セットを月に2〜3個しか作らない会社には、この仕組みをお勧めしません。
その規模なら、担当者が手で考えたほうが早く、質も落ちません。
取り組む価値が出るのは、毎月10個以上のセットを組み、人気商品の取り合いが起きているときです。
在庫の状態をシステムでどう見るかはNetSuiteで販売管理・在庫管理・購買管理を行うためのポイント3選、動かない在庫を早く見つける方法はNetSuite×AI活用事例10選で扱っています。
需要から在庫・発注までをつなぐ考え方はサプライチェーンの全体最適とは?、数字を会議で回す段階はPSI会議とはをご覧ください。
今日できること
今日、1つだけ試せることがあります。
動きが鈍い商品を3つ書き出し、それぞれ「どの人気商品と組めそうか」を1つずつ書いてみてください。
そして、その組み合わせの粗利率を計算します。
3組とも計算できたら、その中でいちばん低い数字を見てください。
それが、いま自社で組めるセットの粗利率の下限です。
その数字を見て、「これ以上は下げない」と決める。
セット設計は、そこから始まります。
よくある質問
Q1. 何か月動かなかったら「遅在庫」ですか
ふだんの回転期間の2〜3倍が目安です。
一律の基準はなく、商品の性格で変わります。
回転の速い日用品なら3か月動かなければ遅いと言えますが、季節商品は1年の大半が動かないのが普通です。
社内で1つの基準を決め、使い続けてください。
発注の側から考えるなら、発注量の決め方も参考になります。
Q2. セットにすると、単品で売れた商品まで安く売ることになりませんか
その懸念は正しいです。
だから、セットに回す量に上限を設けます。
人気商品をセットに回すと、単品の売上を食う可能性があります。
「この商品は月の販売数の2割までセットに回す」といった形で上限を置いてください。
検証で「セット間の重複」を条件にしているのも、同じ商品が無制限にセットへ流れるのを防ぐためです。
Q3. 246.69万円という数字は、うちでも出ますか
出るとは限りません。
この数字は、検証用のサンプルデータ(61商品・遅在庫46品目)での計算例です。
しかも、割引10%のときの値です。
割引率を変えれば、結果も変わります(第5章の表)。
Q4. 全数計算ができないなら、その結果は信用できないのでは
「必ず最良」とは言えません。
信頼の根拠は、同じ計算方法が、答え合わせのできる小さい問題で正解と完全に一致していることです。
言えるのは「現場のやり方より良く、方法自体は検証されている」までです。
Q5. 仕入の偏りとは、別の話ですか
別の話です。
この記事の「偏り」は、1つのセットの中に遅在庫が偏っていないかという、商品構成の話です。
仕入金額が特定のカテゴリに集中する仕入の偏りは、調達側のリスクで、測り方も対処も違います。
こちらは仕入の偏りをどう測るかで扱っています。
Q6. 安全在庫の配分とは、どう違いますか
在庫を持つ前の話か持ったあとの話かが違います。
安全在庫の配分は、どの商品にどれだけ余裕を持たせて仕入れるかという、持つ側の設計です。
セット設計は、持ちすぎた在庫をどう売るかという、出口の設計です。
商品どうしの関係を計算に載せる点は同じです。
詳しくは安全在庫の配分をご覧ください。
まとめ
- 遅在庫の出口を、値引き以外にも持っておく。その1つがセット販売
- セット設計は、遅在庫を減らすことと、粗利率を守ることを同時に扱う作業
- 1つのセットに入れた商品は他に入れにくい。だから、その月の全セットを同時に設計する
- 検証では61商品から23セットを設計し、遅在庫46品目のうち43品目(93.5%)を吸収。粗利率は最低47.5%を保った
- 割引を深くすると、粗利だけでなく成立するセットの数まで減った(15%で23→22)
- ただし、この設計が本当に最良かは確認できていない
割引率を決める前に、粗利率の下限を決める。
その下限で何セット組めるかを見てから、どこまで引くかを決めてください。
まず3商品の組み合わせを書き出すところから始められます。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の遅在庫に、どんな出口が作れるのか。
遅在庫の定義を決めるところから、ご相談をお受けしています。
- 在庫の配分やセットの組み方を、制約条件のもとで全体最適化したい方へ:NetSuite×量子コンピューティング経営最適化コンサルティング
- まずは話を聞いてみたい方へ:お問い合わせ
