月曜の経営会議。
画面には、先月の在庫回転率と利益率が映っています。
数字は正確で、どこが悪いかも見えている。
それでも会議は、「では来月どうするか」を決めないまま終わります。
データドリブン経営の次の一手とは、分析で見えた課題に対し、選択肢の組み合わせから最も良い行動を計算で決める「最適化」です。
量子アニーリングは、この最適化を得意とする計算の方式の1つです。
最適化が効くのは、人の頭では組み合わせを考えきれない会社です。
SKU(在庫を管理する最小の単位)が数十で、取引先も十社ほどなら、まだ要りません。
どちらの会社でも、前提はデータが1か所にそろっていることです。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、経営の最適化に取り組んでいます。
NetSuiteと量子アニーリングを組み合わせる取り組みです。
その中で、データの使い方を「見える化→わかる化→動かす」の3段で考えるようになりました。
月曜の会議が止まるのは、3段目の「動かす」が欠けているからです。
では、「動かす」に進むには、何から手を付ければよいのか。
答えは、量子の計算よりずっと手前にあります。
この記事で分かること
- データドリブン経営が「分析止まり」になる3つの理由
- 「分析」と「最適化」の違いと、最適化が難しい理由
- 量子アニーリングの基本と、専用の機械が要らない「疑似量子」
- NetSuiteと量子アニーリングを組み合わせる条件と、「見える化→わかる化→動かす」の3段
- 最適化が向く会社・向かない会社と、よくある3つの失敗
- 1業務・1KPIに絞って、90日で1周目を回す進め方
「分析できているのに動かない」――データドリブン経営の壁
データドリブン経営は、ここ数年で多くの日本企業が取り組んできたテーマです。
KPIを見える化し、部門ごとの数字を一目で把握できる会社は増えました。
それでも、その先で壁にぶつかる会社があります。
原因は、データドリブン経営を「見える化・分析」と同じ意味で捉えていることです。
本来は、分析の先にある「最適化」までを含むものです。
データドリブン経営の基本と中小企業での実践は、データドリブン経営とは?で扱っています。
「分析止まり」が起こる3つの理由
1つ目は、部門ごとに判断の基準が違うことです。
営業は売上を、物流はコストを、製造は生産性を最大にしようとします。
それぞれが自部門のKPIで動く限り、会社全体の最適にはなりません。
2つ目は、環境の変化への対応が手作業に頼っていることです。
需要も、原材料の価格も、為替も日々動きます。
その変化を踏まえた判断を、Excelや経験則で続けるには限界があります。
3つ目は、選択肢の組み合わせが多すぎることです。
SKUが数千、取引先が数百、配送のルートも多数。
その中から「最良の一手」を探すのは、人の手作業の範囲を超えています。
「分析止まり」のサイン
次の項目に3つ以上当てはまれば、分析止まりに近い状態です。
- 経営会議で数字の報告はあるが、「では何をするか」が決まらない
- ダッシュボードの数字が悪くても、翌月の行動が変わらない
- 部門長どうしが、自部門の数字の良さを主張し合う
- 発注や配分などの判断が、特定の人の経験で決まっている
- 「データ活用は進んでいる」と言われるが、利益率は動いていない
どれも、分析の道具が足りないのではありません。
見えた数字から行動を決める仕組みが欠けているサインです。
部門最適と全体最適のあいだの断層
部門ごとの「最適」は、しばしばぶつかります。
| 部門 | その部門にとっての最適 | 在庫への影響 |
|---|---|---|
| 営業 | 機会損失を防ぎたい | 多めに持ちたい |
| 物流 | 保管コストを下げたい | 少なめにしたい |
| 製造 | 生産の効率を上げたい | 大きなロットで作りたい |
どの部門も、まじめに自部門のKPIを追っています。
それでも、足し合わせると会社全体の最適にはなりません。
これを「合成の誤謬」と呼びます。
個々には正しい行動が、全体では望ましくない結果を生む現象のことです。
全体の最適を実現するには、部門間のトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たない関係)を、経営の判断として裁く必要があります。
その判断を支える仕組みが、データドリブン経営の次の一手です。
「分析」と「最適化」は別の技術
分析は「読み解く」、最適化は「探し出す」
分析は、データを読み解く技術です。
「先月の在庫回転率はなぜ下がったのか」「どの商品が利益を押し下げているのか」に答えます。
最適化は、行動を決めるための技術です。
「来月の発注計画をどう組むか」「販促予算をどの商品にいくら配るか」に答えます。
| 観点 | 分析 | 最適化 |
|---|---|---|
| 目的 | 現状や過去を読み解く | 次の行動を決める |
| 問い | 何が起きているか | 何をすべきか |
| 主な技術 | BIツール、ダッシュボード、KPI管理 | 数理最適化、量子アニーリング |
| 結果 | 「見える」状態 | 「動ける」状態 |
分析は「過去から現在を理解する」もの。
最適化は「現在から次の行動を決める」もの。
向きが逆で、使う技術も違います。
最適化が難しい4つの理由
1. 組み合わせが爆発的に増える
たとえば、SKUが1,000、倉庫が10、配送ルートが100あるとします(架空の例)。
組み合わせは、単純に掛けるだけで100万通りになります。
発注の時期や量の選択肢が加わると、さらに桁違いに増えます。
2. 条件が常に変わる
一度計算した最適な案が、翌週には最適でなくなります。
変化に合わせて計算し直すには、計算の速さが鍵になります。
3. 計算の資源に限りがある
組み合わせが爆発する問題を、すべて順番に試すと、時間が現実的でなくなります。
ビジネスの速さに追いつかなくなります。
4. 既存のERPやBIに全体最適を計算する仕組みがない
ERPはデータを集める基盤、BIはデータを見せる道具です。
どちらも分析までは支えますが、「どう動くか」の判断は人に任されてきました。
なぜERPは最適化まで支えてこなかったのか
ERPは「正確に記録し、正確に集計する」ために作られています。
過去から現在のデータを正しく持つことが、本来の役割です。
一方、最適化は「未来の選択肢から最良を探す」ことが目的です。
両者は補い合う関係にあります。
ERPを作り替えるのではなく、ERPの上に最適化の仕組みを乗せると考えます。
最適化は「予測」と組み合わせて使う
最適化の計算には、「この先どうなるか」の見込みが要ります。
来月の需要が分からなければ、来月の発注量は決められないからです。
そこで、多くの場合は次の2つを組み合わせます。
- 予測:過去のデータから、需要などの先の数字を見込む(機械学習の得意分野)
- 最適化:見込みを前提に、最も良い行動の組み合わせを探す
予測は必ず外れます。
そのため、最適化では「外れたときにどこまで耐えるか」も条件に入れます。
在庫なら、安全在庫(予測の外れに備えて持つ在庫)の考え方がこれにあたります。
予測の基本は、需要予測とは?で扱っています。
最適化を得意とする計算方式「量子アニーリング」
従来の計算方式の限界
ノートPCもサーバーも、選択肢を順番に確かめて答えを探します。
組み合わせが少なければ、これで十分に速く解けます。
しかし規模が大きくなると、すべてを試すことができなくなります。
たとえるなら「迷路を全部歩いて最短ルートを探す」やり方です。
迷路が大きくなるほど、行き詰まります。
量子コンピューティングの2つの方式
量子コンピューティングは、量子力学の原理を計算に使う技術です。
経営者が押さえる点は1つです。
従来のコンピュータとは、計算の仕方そのものが違います。
そのため、従来の方式が苦手な問題を、別のやり方で解ける可能性があります。
| 観点 | 量子ゲート方式 | 量子アニーリング方式 |
|---|---|---|
| 得意な分野 | 汎用的な計算(暗号の解読、機械学習など) | 組み合わせ最適化の問題 |
| 開発の状況 | 研究開発の段階 | 商用の利用が始まっている |
| 経営の最適化への応用 | まだ実用の段階ではない | 在庫・販促・人員配置などで使われ始めている |
量子アニーリング方式は、組み合わせ最適化に特化した方式です。
「データドリブン経営の次の一手」に直接関わるのは、こちらです。
量子アニーリングの考え方をたとえで
量子アニーリングの考え方は、「山と谷のある地形で、いちばん低い谷を探す」ことにたとえられます。
地形の高さは、費用や損失の大きさです。
いちばん低い谷が、最も良い組み合わせにあたります。
順番に探すやり方では、手近な谷に落ちると、そこで止まりがちです。
量子アニーリングは、量子の性質を使って、より低い谷を探しやすくする方式です。
経営者は、原理の細部まで追わなくてかまいません。
「組み合わせの中から良い答えを探す道具」と押さえれば足ります。
専用の機械は必須ではない――疑似量子アニーリング
量子アニーリングを使う方法は、大きく2つあります。
- 専用の機械を使う:D-Wave社の量子アニーリング方式のコンピュータなど(出典:D-Wave公式サイト、2026年9月確認)。原理に忠実だが、専門知識が要り、費用も高め
- 疑似量子アニーリング:既存のサーバー上で、量子アニーリングの原理をまねて計算する方式。専用の機械なしで始められる
疑似量子アニーリングは、量子コンピュータそのものではありません。
それでも、組み合わせ最適化の問題で、良い答えを速く探すために使われています。
中堅・中小企業が取り組むなら、まず疑似量子アニーリングから始めるのが現実的です。
ただし、方式の違いより大きいのは、問題の書き方です。
同じ方式でも、目的と制約の書き方しだいで、答えの質が大きく変わります。
方式を選ぶ前に、次の章で扱う「データ」と「判断の定義」を固めてください。
NetSuite×量子アニーリングで実現する「最適化」
最適化の燃料は「そろったデータ」
量子アニーリングは、計算の入口で「正確で、漏れのないデータ」を必要とします。
在庫の最適化なら、最低でも次のデータが要ります。
- 全SKUの現在の在庫数
- 過去の販売の実績(季節の変動を含む)
- 仕入のリードタイム(発注から入荷までの日数)
- 倉庫の容量の制約
- 商品ごとの利益率
これらが部門ごとの別のシステムにあると、集めるだけで数週間から数か月かかることがあります。
データの定義が部門で違い、つなげられないこともあります。
NetSuiteが入口のデータを整える
NetSuiteは、会計・在庫・販売・購買・顧客管理を1つの基盤で動かすクラウドERPです。
世界220地域・44,000社以上で利用されています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月確認)。
Oracleは「#1 AI Cloud ERP」と位置づけています。
Oracleの説明では、NetSuiteの各機能は共通のデータベースを持ちます。
情報はリアルタイムに更新され、権限のある利用者が部門をまたいで使えます(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。
この「データがそろっている状態」は、最適化の入力としてそのまま使いやすい状態でもあります。
NetSuiteは、最適化の燃料となるデータを、ふだんの業務の中で整える基盤です。
最適化できる3つの領域
| 領域 | 最適化の対象 | 経営への効果 |
|---|---|---|
| ① 在庫の最適化 | 全SKU・全拠点の在庫量、発注の時期、配送ルート | 在庫の圧縮と欠品の防止の両立、運転資金の改善 |
| ② 商品の最適化 | 商品の品ぞろえ、生産量、価格帯の組み合わせ | 売れ筋の見極め、不採算の商品の整理 |
| ③ 販促の最適化 | 販促予算の商品別・チャネル別の配分 | 限られた予算での売上の最大化 |
効果が最も見えやすいのは、① 在庫の最適化です。
在庫は資金繰りに直結し、欠品は機会損失につながります。
量子アニーリングは、こうした「複数の制約を同時に満たす組み合わせ」を探すのが得意です。
②と③も、考え方は同じです。
商品の最適化では、「どの商品を残し、どれを減らすか」を、利益・在庫・生産の能力の制約の中で決めます。
販促の最適化では、限られた予算を、どの商品・どのチャネルにいくら配るかを決めます。
どちらも、部門ごとに決めると全体の最適からずれやすい判断です。
各領域の基本は、在庫最適化とは?と販促最適化とは?で扱っています。
最適化の手段を比べる
最適化の手段は、量子アニーリングだけではありません。
自社の段階に合わせて選びます。
| 手段 | 向く状況 | 注意点 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| 経験則・Excel | 品目や取引先が少なく、担当者が全体を見渡せる | 属人化しやすく、引き継ぎが難しい | 低。判断の根拠がデータとして残らない |
| BIでの分析+人の判断 | 課題の発見が先。組み合わせはまだ少ない | 「見えるが動けない」状態で止まりやすい | 中。AIが分析の説明を下書きできる |
| 数理最適化・疑似量子アニーリング | 組み合わせが多く、部門間のトレードオフが日常的 | データの整備と、対象の判断の定義が先に要る | 高。AIの予測と最適化の計算をつなげられる |
どの手段を選ぶかは、最適化ツールの選び方でも整理しています。
最適化の問題は「3つの要素」で書ける
最適化を始めるとき、最初にするのは計算ではありません。
判断を、次の3つの要素で書き出すことです。
| 要素 | 意味 | 在庫の例(架空) |
|---|---|---|
| 目的 | 何を小さく(大きく)したいか | 在庫の保管費と欠品の損失の合計を小さくする |
| 制約 | 守らなければならない条件 | 倉庫の容量、最低の発注の単位、欠品率の上限 |
| 決めること | 計算で答えを出す項目 | SKUごと・倉庫ごとの発注量と発注の時期 |
この3つを書けない判断は、まだ計算にかけられません。
逆に、書き出せた時点で、判断の理屈が言葉になっています。
属人化していた経験則を、引き継げる形にする効果もあります。
とくに難しいのは「制約」です。
「この得意先には必ず翌日に届ける」といった現場の約束は、書かれていないことが多いからです。
ベテランの担当者に聞き取り、制約として書き出す作業に時間をかけます。
「見るデータ」から「動かすデータ」へ
冒頭の「見える化→わかる化→動かす」は、次の3段です。
- 見える化:数字を集めて、見えるようにする
- わかる化:なぜそうなったかを読み解く
- 動かす:次に何をするかを決める
ダッシュボードとBIが受け持つのは、1と2までです。
最適化は、3の「動かす」に踏み込む技術です。
NetSuiteで集めたデータを、最適化で「動かすデータ」に変える。
これが、次の一手の具体像です。
PoC(概念実証)の例|数千SKUの発注の属人化
PoCとは、本格的な導入の前に、小さく試して効果を見る取り組みです。
NetSuite×量子アニーリングの最適化も、まずPoCで試します。
課題:ベテランの勘に頼る発注
ある中堅の製造業では、数千SKUの発注を、特定の担当者が決めていました。
担当者の経験は確かでしたが、次の課題がありました。
- 担当者が休むと、発注が止まる
- 判断の理屈が言葉になっておらず、引き継げない
- SKUが増え、人の判断の速さが追いつかない
とくに3つ目が問題でした。
担当者は毎週、多くの選択肢から「良さそうな案」を選んでいました。
しかし、それが本当に最適かどうかは確かめられていませんでした。
仕組み:3つの技術の役割分担
| 構成要素 | 役割 |
|---|---|
| NetSuite | 発注に要るデータ(在庫・販売の実績・リードタイムなど)を集める |
| 機械学習 | 過去のデータから需要を予測する |
| 疑似量子アニーリング | 予測を踏まえて、最適な発注の計画を計算する |
NetSuiteで「データを整える」。
機械学習で「先を予測する」。
量子アニーリングで「行動を決める」。
3つが役割を分けることで、属人的だった発注を、データにもとづく形に組み直します。
狙い
このPoCが狙うのは、次の3つです。
- 在庫を減らすことと、欠品を防ぐことの両立
- 発注の業務の標準化と、属人化からの脱却
- 顧客への供給の水準を保つこと
従来は「在庫を減らすと欠品が増える」関係が避けにくいものでした。
量子アニーリングは、こうしたトレードオフの中で「両立できる点」を探すのに向いています。
これは、ベテランの経験を否定するものではありません。
担当者の知見は、最適化のモデルの設計に生かされます。
人の知見と計算が補い合う形にすると、現場の納得を保ちやすくなります。
需要予測の属人化の解き方は、需要予測の属人化を解消するにはで扱っています。
PoCの進め方
PoCは、次の順で進めるのが基本です。
| 段階 | やること | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 1. 範囲を決める | 対象のSKU・倉庫・期間を絞る | 全体ではなく一部で試す |
| 2. 物差しを決める | 何が良くなれば成功かを決める | 在庫の金額・欠品の回数・発注の作業時間など |
| 3. 並べて比べる | 担当者の案と計算の案を、同じ期間で並べる | 実際に使う案と、記録だけする案 |
| 4. 振り返る | 差が出た理由を、担当者と一緒に話し合う | 計算に足りなかった制約は何か |
| 5. 続けるかを決める | 本格運用に進むか、止めるかを決める | 止める基準を最初に決めておく |
5段のうち、手を抜けないのは3の「並べて比べる」です。
いきなり計算の案に切り替えると、うまくいかなかったときに原因が分かりません。
担当者の案と並べることで、現場の納得も得やすくなります。
判断の物差し|最適化が向く会社・向かない会社
向いている会社
- SKUが数千以上、または取引先が数百以上ある
- 在庫・販促・人員配置などで、部門間のトレードオフが日常的に起きている
- 重要な判断(発注・配分)が、特定の人の経験に頼っている
- 会計・在庫・販売のデータが、1つの基盤にそろっている(またはそろえる計画がある)
向いていない会社・まだ早い会社
- SKUが数十、取引先が十社ほどで、人の判断で十分に回っている
- データが部門ごとに散らばり、まず数字を合わせる段階にある
- 経営者が、最適化の対象の判断に関わる時間を取れない
判断の線は、「人の頭で組み合わせを考えきれない複雑さ」があるかどうかです。
判断の順を図にすると、次のとおりです。
Excelで足りる段階と、最適化が要る段階
| 段階 | 状態 | 合う道具 |
|---|---|---|
| 1. 数字を集める | 部門ごとの数字が月末にやっとそろう | ERPでのデータの統合 |
| 2. 見える化する | 数字はそろうが、会議で見られていない | ダッシュボード・KPIの設計 |
| 3. 分析する | 課題は見えるが、打ち手を勘で決めている | BI・分析の定例化 |
| 4. 最適化する | 打ち手の組み合わせが多く、人では選びきれない | 数理最適化・疑似量子アニーリング |
段階は飛ばせません。
1や2の会社が4に進んでも、入口のデータで詰まります。
まず、自社がどの段階にいるかを見極めてください。
見える化の進め方は、経営ダッシュボードの作り方で扱っています。
NetSuite以外が合う場合もある
最適化は、NetSuiteがなければできないわけではありません。
- いまのERPや会計ソフトで困っていない:ERPは変えず、データを書き出して最適化にかける
- 動かしたい判断が1つで固有の条件が多い:その判断に絞ったAIスクラッチ開発
- 組み合わせが少ない:いまは入れない。KPIの見える化と定例の会議を先に整える
ただし、データを集める手間が大きいほど、効果が出るまでの時間は延びます。
これから選ぶ会社と、ERPを使っている会社の次の一手
これからERPや最適化を選ぶ会社
最初に決めるのは、ツールではなく最適化したい判断です。
「発注の量」「販促の配分」など、1つに絞ります。
次に、その判断に要るデータがどこにあるかを書き出します。
データが5つ以上のシステムに散らばっているなら、最適化より先にデータの統合を考えます。
選ぶときに確かめたい問いは、次の3つです。
| 問い | 見る点 |
|---|---|
| データは1か所に集まるか | 会計・在庫・販売・購買が同じ基盤で動くか |
| データを外に出せるか | 最適化の計算に渡す形で、データを取り出せるか |
| 結果を業務に戻せるか | 計算の案を、発注などの取引として戻せるか |
3つ目は見落とされがちです。
計算の案を手で打ち直すと、そこでまた手作業と転記が生まれます。
NetSuiteを検討する場合の価格は、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。
詳しくはNetSuiteの料金・費用で扱っています。
いまNetSuiteや他のERPを使っていて、次の一手を考える会社
すでにERPを使っているなら、データの土台はある程度そろっています。
見るのは、次の3点です。
- マスタ(品目・取引先などの基本データ)のコードが、部門でそろっているか
- 最適化に要る項目(リードタイム・倉庫の容量など)が、ERPに入っているか
- 会議の判断に、分析の結果を使う場があるか
3つ目が「いいえ」なら、最適化の前に会議の設計を見直します。
NetSuiteを使っている会社なら、まず保存検索やレポートで、最適化に使うデータを書き出してみます。
欠けている項目や、コードの揺れがすぐに見つかります。
それを直す作業そのものが、最適化の準備になります。
| 見る項目 | よくある問題 | 直し方 |
|---|---|---|
| 品目のマスタ | 同じ商品に複数のコードがある | コードの統合と、今後の登録のルール |
| リードタイム | 品目に入っていない、古い | 仕入先ごとの実績から見直す |
| 倉庫の容量 | システムの外で管理している | 項目を追加して持つ |
| 販売の実績 | 返品や値引きの扱いがばらばら | 集計のルールを決める |
NetSuite以外のERPを使っている会社も、考え方は同じです。
データを書き出し、欠けている項目とコードの揺れを洗い出します。
直す手間が大きすぎる場合は、ERPの見直しも選択肢に入ります。
ERPの保守の期限や更新が近い会社は、入れ替えの計画とあわせて、最適化に要るデータの項目を要件に入れておくと、手戻りが減ります。
よくある3つの失敗
3つとも、技術ではなく進め方でつまずく失敗です。
先に知っておけば、避けられます。
失敗1:「分析ツール」と同じ感覚で導入する
起きること:最適化を「入れれば結果が出る」と考えて導入を決める。
現場から「で、何が変わるのですか」と聞かれ、答えられない。
運用が始まってから「思っていたのと違う」という声が出る。
BIを入れたときと同じ進め方で、最適化を進めてしまうのが典型です。
原因:分析と最適化の違いを、経営と現場で共有していない。
経営は「数字が動く」ことを期待し、現場は「分析の高度版」と捉えている。
分析は「見る」ための道具で、使うかどうかは人に任されます。
最適化は「決める」ための道具で、判断の流れそのものが変わります。
この違いを認識しないまま進むと、期待のずれが後から表に出ます。
避け方:導入の前に、最適化の対象とする判断を1つに絞ります。
その判断が今どう行われているかを書き出し、導入後にどう変わるかを経営と現場で共有します。
技術の実装より先に、この合意をつくるかどうかで、導入後の手応えが大きく変わります。
失敗2:データが整わないまま、最適化に飛びつく
起きること:「とりあえずデータを抜いて計算してみよう」と試す。
結果が現場の感覚と合わず、「使えない」と立ち消えになる。
原因:在庫は販売管理、売上は会計ソフト、顧客は別のCRMと、データが散らばっている。
商品のコードや顧客のIDが部門ごとに違う。
計算の性能以前に、入口で詰まっている。
データの問題は、計算の結果が出てから気づくことが多いのが厄介な点です。
結果がおかしいと、計算の方式が疑われます。
しかし実際には、入口のデータの抜けや揺れが原因であることが少なくありません。
避け方:最適化の前に、データの状態を経営課題として診断します。
- 自社のデータがどこに散らばっているかを書き出す
- ERPでデータを1か所にまとめる選択肢を検討する
- すぐにまとめられない場合は、データがそろっている領域に対象を絞る
失敗3:「現場任せ」にして、経営のテーマにならない
起きること:「データ活用は現場の仕事」と切り分け、経営者が判断の場に出てこない。
営業の最適化、物流の最適化はそれぞれ進むが、全体は変わらない。
「データ活用が進んでいる」という報告は出るが、利益率や在庫回転率は動かない。
原因:第1章の合成の誤謬です。
部門間のトレードオフを裁くのは、現場の権限を超えた判断です。
避け方:最適化を経営者が関わるテーマとして位置づけます。
- 最適化の対象の範囲を、経営の判断として決める
- 部門間でぶつかったときの優先順位を、経営者が先に示す
- 導入後も、定期的に経営会議のテーマとして取り上げる
経営会議の議題に「今月、計算の案を採らなかった判断」を入れるのも有効です。
採らなかった理由を話し合うと、部門間のトレードオフが表に出てきます。
その場で経営者が優先順位を決めれば、次の月から計算に反映できます。
最適化の結果を、現場が使うための3つの工夫
最適化は、計算の答えが出ても、現場が使わなければ意味がありません。
次の3つを、最初から設計に入れておきます。
1. 答えの理由を説明できるようにする
「なぜこの発注量なのか」を、担当者が説明できないと使われません。
どの制約が効いて、その答えになったのかを示す画面や資料を用意します。
2. 最後に決めるのは人にする
計算の案は、あくまで提案です。
担当者が確かめ、必要なら直してから確定する流れにします。
直した理由を記録すると、次の計算の改善にも使えます。
3. 例外の扱いを決めておく
新商品、急な大口の注文、災害など、過去のデータにない事態は必ず起きます。
そのときは計算を止めて人が決める、という線を先に引いておきます。
AIに任せる範囲と、人が握る範囲の考え方は、AIエージェントに「任せる範囲」と、経営者が「握る範囲」で整理しています。
ベンチャーネットならこう見る|「動かす」を1つ決めて、90日で1周
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
最適化の相談でも、量子の計算方式の話からは入りません。
最初に伺うのは、次の3つです。
- 動かしたい判断はどれか:1つに絞れるか。絞れないなら、まだわかる化の段階
- 要るデータはどこにあるか:1か所にあるか。コードはそろっているか
- 部門間でぶつかったときにだれが裁くか:経営者が決める場があるか
そのうえで、次の2つの型で進めます。
型1:90日の1周目|1業務・1KPIと「勘と計算の同条件比較」
データドリブン経営の1周目は、1つの業務と1つのKPIに絞ります。
たとえば「週1回の発注量」と「欠品の回数」です(架空の例)。
ここまで絞れば、最短90日で1周を回せます。
1周目の中心は、第5章のPoCの3段目「並べて比べる」です。
同じ期間・同じ品目で、担当者の案と計算の案を並べ、結果の数字を見る。
勘が当たっていれば、それも立派なデータです。
記録が残ると、「データか勘か」の言い争いが、「どちらが当たったか」の話し合いに変わります。
最適化の本格的なモデルづくりは、その先です。
ベンチャーネットのサービスでの期間の目安は、次のとおりです。
- NetSuiteをすでに使っている会社:要件定義から初期モデルの運用まで最短4〜6か月
- NetSuiteから新しく入れる会社:段階的に進めて約9〜12か月
データの状態と社内の意思決定の速さで、期間は大きく変わります。
型2:守り→攻め→次へ
最適化は、この3段の「攻め」にあたります。
守りは、在庫・販売・会計が1つにそろい、日々の業務が回る段階。
攻めは、そろったデータで打ち手を決める段階です。
次へは、KPI・管理会計・上場に向けた内部統制で、経営そのものが変わる段階を指します。
守りを飛ばして攻めに進むと、失敗2の「入口で詰まる」が起きます。
だから、組み合わせが少ない会社には「いまは要らない」とお伝えします。
データの統合が先なら、NetSuiteに限らず、業務に合うERPから考えます。
ベンチャーネットは「Oracle NetSuite AI Hackathon 2025」で優秀賞を受けました(2025年7月の発表)。
受賞したのは、NetSuiteの経営データを見える化・わかる化し、次の行動の提案につなげる仕組みです。
また、NetSuite×量子アニーリングのサービスは、東京都「デジタル技術を活用した先進的サービス創出支援事業」に採択されています。
見える化とわかる化の先の「動かす」までを、一続きで考えるのがベンチャーネットの立場です。
AIの活用の広がりは、AIクラウドERPとは?も参考にしてください。
今日できること|「最適化したい判断」を1つ書き出す
1時間で、次の表を埋めてみてください。
| 項目 | 書くこと | 例(架空) |
|---|---|---|
| 判断 | 毎週・毎月くり返している判断 | 週1回の発注量の決定 |
| 決める人 | だれが決めているか | 購買のベテラン1人 |
| 選択肢の数 | 組み合わせはどれくらいか | 2,000SKU×3倉庫 |
| 使うデータ | どこから、何を集めているか | 販売管理・Excel・会計ソフト |
| ぶつかる相手 | どの部門の利害とぶつかるか | 営業(欠品)と経理(在庫の金額) |
「選択肢の数」が多く、「使うデータ」が3か所以上に散らばっていれば、最適化の前にデータの統合を考える段階です。
「決める人」が1人なら、属人化のリスクもあわせて抱えています。
表が埋まったら、「決める人」に次の2つを聞いてみてください。
- 「この判断で、いちばん気をつけていることは何ですか」
- 「どんなときに、いつもと違う決め方をしますか」
答えが、最適化の「制約」と「例外」の下書きになります。
よくある質問
Q1. 量子アニーリングとAIの違いは何ですか
AIは予測し量子アニーリングは最良の組み合わせを探します。
AIはデータから法則を学び、需要などを予測します。
量子アニーリングは、その予測をもとに「どの倉庫に、どのSKUを、どれだけ補充するか」の最良の案を探します。
対立するものではなく、組み合わせて効果を出します。
Q2. 専用の量子コンピュータは必要ですか
必須ではありません。
既存のサーバー上で原理をまねる「疑似量子アニーリング」で始められます。
中堅・中小企業は、まず疑似量子アニーリングから始めるのが現実的です。
Q3. NetSuiteを使っていなくても、最適化に取り組めますか
できますがデータを集める手間が大きくなります。
会計・在庫・販売のデータが複数のシステムにあると、集めるだけで数週間から数か月かかることがあります。
データが1つの基盤にそろっていると、最適化の入力として使いやすくなります。
Q4. どのくらいの規模の会社から取り組めますか
「人の頭で組み合わせを考えきれない」ことが目安です。
SKUが数千以上、取引先が数百以上、部門間のトレードオフが日常的、のいずれかに当てはまる会社で効果が見えやすくなります。
SKUが数十、取引先が十社ほどなら、人の判断で十分なことが多いです。
Q5. 効果が出るまで、どのくらいかかりますか
NetSuiteを使っている会社で最短4〜6か月が目安です。
ベンチャーネットのサービスでは、要件定義から初期モデルの運用までの目安です。
NetSuiteから新しく入れる場合は、約9〜12か月を見込みます。
特定の領域で効果を確かめてから、運用の設計を決めて社内に組み込みます。
データの整備の状況や、社内の意思決定の速さで大きく変わります。
Q6. 量子コンピュータの実機が普及するまで、待つべきですか
待つより先にデータをそろえることが大切です。
最適化の効果は、計算の方式よりも、入口のデータと対象の判断の定義で決まります。
データの統合と判断の定義は、どの方式を使うことになっても無駄になりません。
Q7. 計算の結果が、現場の感覚と合わないときはどうしますか
足りない制約がないかを担当者と一緒に洗い出します。
現場の感覚には、データに書かれていない約束や事情が含まれていることが多いです。
その事情を制約として加えると、計算の結果が現場の感覚に近づきます。
逆に、感覚のほうが古い思い込みだったと分かることもあります。
まとめ
- 「分析止まり」の原因は3つ。部門ごとに基準が違う、変化に手作業で対応している、組み合わせが多すぎる
- データの使い方は「見える化→わかる化→動かす」の3段。最適化は3段目
- 分析は「何が起きているか」、最適化は「何をすべきか」に答える、別の技術
- 量子アニーリングは組み合わせ最適化に特化した方式。疑似量子なら専用の機械なしで始められる
- 最適化の前提は、データが1か所にそろっていること。NetSuiteはその土台になる
- 組み合わせが少ない会社は、いまは要らない。まずKPIの見える化と会議を整える
- 最適化は現場任せにできない経営のテーマ
- 1周目は1業務・1KPIに絞り、担当者の案と計算の案を同じ条件で比べる
月曜の会議が止まるのは、見える化とわかる化で手が止まっているからです。
次の一手は動かす判断を1つ決めることから始まります。
もう少し詳しく知りたい方へ
最適化したい判断の整理と、データの状態の確認から、ご相談をお受けしています。
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[…] 考え方の土台は、データドリブン経営の次の一手で扱っています。 […]