需要予測の属人化を解消するには|手順は移せるのに、なぜ「発注の判断」だけが移せないのか

「あの人が休むと、発注が止まる」

この状態が問題であることは、多くの会社が分かっています。分かったうえで、何年も変わりません。

マニュアルは作りました。システムも入れました。それでも、最後に数量を決めるのはあの人のままです。

理由ははっきりしています。移すべきものが、手順ではなく判断だからです。

手順は書けます。しかし判断は書けません。本人にも、自分が何を見て決めているかを説明できないからです。

この記事では、需要予測と発注に絞って属人化を扱います。属人化一般の話ではありません。「判断が個人に溜まる」タイプの属人化の話です。

目次

📌 この記事で分かること

  • 手順の属人化と判断の属人化は、何がどう違うのか
  • 発注担当者の頭の中を4つに分けると、どこまで移せるのか
  • 自社の属人化の度合いを測る3つの問い
  • 判断を仕組みに移す4つの段階と、AIが効く場所・効かない場所

読了時間の目安:約11分

需要予測・発注の属人化は、ほかの属人化と種類が違う

属人化とは、特定の人にしか業務の知識やノウハウが蓄積されず、その人がいないと業務が回らなくなる状態です。

原因や全社的な対策については、属人化とは?スペシャリストとの違い・原因・NetSuiteで解消する5つのステップで整理しています。

この記事で扱うのは、そこから一段絞った話です。需要予測と発注だけが、ほかの業務と違う壁を持っています。

手順は移せる。判断は移せない

属人化には、性質の違う2種類が混ざっています。

手順の属人化判断の属人化
個人に溜まっているもの操作の順番、書式、連絡先、例外時の処理数量を決めるときの見立て
移し方書き出して共有する書き出せない。まず言語化から要る
移せない理由(移せる)本人が何を見て決めたかの記録が残っていない
マニュアルで解けるか解ける解けない
システム導入で解けるか解ける解けない。入力欄は増えるが、根拠は残らない

発注業務には、この両方があります。

発注書を起こす操作、承認をもらう順番、仕入先への連絡の仕方。ここは手順です。書けば移ります。

一方で、「来月この商品を何個仕入れるか」は判断です。ここが移りません。

なぜ書き出せないのか

理由は、判断の材料が本人の中で混ざっているからです。

過去の販売実績。先週の店頭の動き。仕入先の納期の癖。前回同じ月に失敗した記憶。展示会で聞いた話。

これらを同時に見て、最後は感覚で数量を置いています。どれをどれだけ重く見たかが、どこにも残りません。

残らないので、翌月に外れたときも理由を分解できません。理由が分解できないので、次の人に渡すものがありません。

これは本人の怠慢ではありません。判断の根拠を残す欄が、どの帳票にもないだけです。

手順の属人化を標準化で解く実務については、『業務属人化』がDXを止める──標準化・ERP導入で乗り越える業務改革の実務をご覧ください。この記事では、その先にある判断の側を扱います。

エースの頭の中には、何が入っているのか

「あの人にしか分からない」を、ひとかたまりで扱うと手が止まります。

中身を分けると、移せる部分と残る部分が見えてきます。発注の判断は、おおよそ4つに分かれます。

判断を4つに分ける

中身移せるか
① 数字で説明できる判断すでに根拠が数字で言える「過去12か月の平均が月100個だから」◎ そのまま移せる
② 数字にできるが、記録していない判断数字で表せるのに、残していない「この商品は納期が遅れがちだから多めに」○ 記録を始めれば移せる
③ 本人が無自覚な経験則本人にとって当たり前すぎて説明されない「展示会の翌月は動く」△ 聞き出せば移せる
④ 人にしかできない判断過去のデータに答えがない新商品の初回投入量、取引先との交渉× 残す

多くの会社で、①は思ったより少ない

実際にやってみると、①に入るものは多くありません。

「なぜこの数量ですか」と尋ねると、最初に返ってくるのは②か③です。数字にできるのに、残していない。あるいは、本人が説明の必要を感じていない。

つまり、移せないと思われていた判断の多くは、②と③です。 ④は思ったより少ない、というのが実際のところです。

目指すのは、④だけを人に残す状態

①②③を仕組みに移し、④を人に残す。これが到達点です。

④は減らす対象ではありません。新商品の見立てや仕入先との交渉は、これからも人にしか担えません。むしろ、ここに時間を使ってもらうための移し替えです。

そして、②と③が外に出た瞬間に、もう一つ変わることがあります。外れたときに理由を追えるようになります。追えるから、改善が積み上がります。

いま、どれくらい属人化しているか

自社の状態を測るには、3つ確認すれば足ります。主力商品を1つ選び、そこだけで構いません。

3つの問い

問い1:先月の発注量の根拠を、本人以外が再現できますか

同じ数字にたどり着けるか、という問いです。近い数字でも構いません。再現できないなら、判断は個人の中にあります。

問い2:大きく外れた月に、なぜ外れたかを書いた記録が残っていますか

口頭で共有した、では残っていないことになります。記録がなければ、同じ外し方を繰り返します。

問い3:担当者が1週間休んだとき、発注はどうなりますか

止まるか、誰かが前月と同じ数量で通すか。どちらも属人化しています。後者は動いているように見えるぶん、気づかれにくい状態です。

3つとも「いいえ」でも、珍しくありません

多くの会社がこの状態です。問題は、そこにリスクがあると気づかないまま年が過ぎることです。

発注の判断が止まると、在庫が止まります。在庫が止まると、売上が止まります。1業務の話に見えて、事業の継続に直結します。

会社全体で「誰が何を1人で抱えているか」を洗い出す方法は、キーマンが辞めても会社が止まらない仕組みで扱っています。この記事は、その中の1業務を内側から分解したものです。

判断を仕組みに移す4つの段階

移し替えは、4つの段階を順に進みます。飛ばせません。

第1段階:記録する

発注量を決めるときに見ている数字と、その理由を1行ずつ書き出します。

このとき大切なのは、書けないものを無理に書かせないことです。書けなかった項目こそが、②と③のありかを示しています。

期間は1か月で十分です。発注の回数ぶんだけ、メモが溜まります。

第2段階:再現する

書き出したメモだけを使って、別の人が先月の発注量を出してみます。

そして、実際の発注量と比べます。ここで差が出た分が、メモに書かれなかった判断です。

この作業が、いちばんの難所です。差を見ながら「なぜこの数字になったのか」を本人に聞き直す必要があります。聞かれた側も、その場で初めて言語化することになります。

多くの取り組みは、ここで止まります。手順書を作って終わりにしてしまうのは、この工程が面倒だからです。

第3段階:モデル化する

再現できた部分だけを、計算に移します。

再現できなかった部分は、まだ残しておきます。全部を一度に移そうとすると、精度が落ちて元に戻ります。

移し替えの効果は、数字で確かめられます。あるEC事業者では、522SKU(商品の管理単位)を対象にこの移し替えを行いました。担当者の経験による予測では月次の誤差幅が約±45個だったところ、予測の仕組みを構築した後は約±28個になりました。

注目すべきは、精度が上がったことだけではありません。それまで1人の頭の中にしかなかった見立てが、誰でも見られる数字になったことです。誤差幅が出るということは、外れ方が測れるということです。

なお、この実測はEC事業者1社の事例です。商品構成や事業規模によって結果は変わります。

第4段階:答え合わせする

ここが仕組みの本体です。

毎月、予測と実績の差を確認し、なぜ外れたかを記録に戻します。販促があった、欠品していた、新商品が入った。理由を1行ずつ残します。

この記録が溜まると、③の経験則が少しずつ形になります。「展示会の翌月は動く」が、実績の裏づけを持った条件に変わります。

答え合わせの場がない仕組みは、翌年には使われなくなります。 移し替えの成否は、ここで決まります。

システムの標準機能でどこまで自動化できるかは、NetSuiteの需要予測(Demand Planning)完全ガイドで製品側の視点から整理しています。在庫・購買との連動はNetSuiteで販売管理・在庫管理・購買管理を行うためのポイント3選をご覧ください。

AIは属人化を解くのか、固定するのか

「AIに任せれば属人化は解消しますか」。よくいただく質問です。

答えは、使う場所によります。

AIが効く場所は、4段階のうち2つ

第1段階(記録)と第4段階(答え合わせ)では、AIがよく効きます。

記録では、書き出したメモの整理や、聞き取りの下書きに使えます。答え合わせでは、外れた商品の抽出と、理由の候補出しが速くなります。

一方、第2段階(再現)はAIでは進みません。本人に聞き直す工程だからです。第3段階(モデル化)は計算の話で、AIかどうかは本質ではありません。

履歴を学習させても、判断の理由は残らない

注意が要るのは、「担当者の操作をAIに学習させれば引き継げる」という考え方です。

学習できるのは、何をしたかです。なぜそうしたかは、記録されていないので学習できません。

結果として、判断は個人からAIへ移るだけになります。宿る場所が変わっただけで、説明できない状態は続きます。

この論点は、AIがあなたの仕事を「履歴」から覚える時代に、会社は何を覚えているかで詳しく扱っています。AIと属人化の関係そのものを先に整理したい方は、そちらをご覧ください。

下書きはAI、確定は人

ベンチャーネットが取っている立場は一貫しています。AIは下書きまで。確定は人が行うというものです。

発注量の提案はAIが出せます。しかし、その数量で発注すると決めるのは人です。決めた記録が残るからこそ、次の答え合わせができます。

つまずく3つのパターン

ここからは、取り組みが行き詰まる典型を3つ挙げます。

売り込みのために書くのではありません。「仕組みを入れたのに、結局あの人のままだった」を避けてほしいからです。いずれも人の力量の話ではなく、進め方の構造の話です。

マニュアル化で解こうとする

こんな状態になっていませんか

  • 発注手順書は整備されているが、数量の決め方は書かれていない
  • 手順書の更新が止まっている
  • 手順書があるのに、結局その人に確認している

なぜ起きるのか

属人化の解消を、標準化の問題として受け取っているためです。

標準化は手順に効きます。しかし判断には効きません。手順書を作る作業は進んだ実感があるぶん、判断の側が手つかずであることに気づきにくくなります。

どう回避するか

手順書の作成と、判断の棚卸しを別の作業として置いてください。

順番は、判断の棚卸しが先です。移せる範囲が決まってから、手順書を整えるほうが手戻りが出ません。

エースを外して、一気に置き換える

こんな状態になっていませんか

  • 新しい仕組みの導入を、担当者に知らせずに進めている
  • 移行日を決めて、その日から全商品を切り替える計画になっている
  • 担当者が非協力的だと感じている

なぜ起きるのか

移し替えを「置き換え」として設計しているためです。

エースの立場からは、自分の仕事を取りに来たように見えます。見えれば協力は得られません。②と③を聞き出す工程は、本人の協力なしには進みません。

そして全商品を一度に切り替えると、移せていなかった判断のぶんだけ精度が落ちます。精度が落ちれば、元の運用に戻ります。

どう回避するか

主力商品を数点だけ選び、並行で走らせてください。

仕組みが出した数量と、担当者が決めた数量を並べます。差が出たら、その理由を聞きます。この差こそが、まだ移せていない判断です。

置き換えではなく、④を見つける作業として設計すると、協力が得やすくなります。

モデルは入れたが、答え合わせの場がない

こんな状態になっていませんか

  • 予測値は出ているが、実績との差を見る場がない
  • 外れた理由を説明できる人がいない
  • 導入から1年、設定を一度も見直していない

なぜ起きるのか

これも意識の問題ではなく、時間の構造の問題です。

予測は作った時点では検証できません。検証できるのは実績が出た後だけです。ところが実績が出る頃には、次の発注作業が始まっています。振り返りは常に後回しになります。

どう回避するか

答え合わせを独立した会議にしないでください。予測を作る作業の冒頭に、前月の確認を組み込みます。

見るのは3点で足ります。大きく外れた商品はどれか。なぜ外れたか。次回どう扱うか。

ベンチャーネットが大事だと考えているのは、精度そのものより外れ方を説明できる状態です。説明できれば、担当者が代わっても判断は続きます。説明できなければ、どれだけ精度が高くても、また誰か1人の中に戻っていきます。

ベンチャーネットの対応

需要予測・発注の属人化について、ベンチャーネットは次の範囲で対応しています。

  • 発注担当者の判断の棚卸し。何が書き出せて、何が書き出せなかったかを分ける作業に同席します。ここがいちばんの難所です
  • 移し替えの設計。①②③のどこまでを仕組みに移し、④をどう残すかを一緒に決めます
  • 答え合わせの型づくり。毎月の確認を、誰がいつ何を見るかまで決めて業務に組み込みます
  • 基幹システムでの実装。判断の根拠を残す欄をどこに持つか、既存の運用に合わせて設計します

ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品に誘導しない立場を取っています。

仕組みを決めるのは製品ではなく、業務の決め方です。 先に決めるべきは、誰がいつ何を見て数量を確定するか。製品の選定はその後で構いません。

そして、エース1人で発注が回っていて、本人も会社も困っていない会社に、この仕組みを整えることはおすすめしません。 商品数が少なく、判断の回数も限られている場合は、移し替えの手間に見合いません。

取り組む価値が出るのは、商品数が増えて1人では見切れなくなったとき、あるいは後任への引き継ぎが視野に入ったときです。

この移し替えは、エースを外すためのものではありません。定型的な判断を仕組みに預け、新商品の開拓や仕入先との交渉といった、その人にしかできない仕事に時間を使ってもらうためのものです。

データを経営判断に使う全体像は、データドリブン経営とは?中小企業が ERP で実現する実践方法と失敗パターンで整理しています。

よくある質問

Q1. 担当者の協力が得られない場合はどうすればよいですか

最初の説明を、置き換えではなく分担として伝えてください。

「あなたの判断を分解して、機械に任せられる部分を探したい」という言い方と、「発注を自動化したい」という言い方では、受け取られ方がまったく違います。

実務上は、6-2のとおり数点の商品で並行して走らせるのが有効です。差が出たときに本人へ理由を聞く構図になるため、本人が必要とされ続ける形になります。

Q2. 一般的な属人化対策と、何が違うのですか

対象が違います。

一般的な属人化対策は、手順・知識・権限を組織に移す取り組みです。この全体像は属人化とは?スペシャリストとの違い・原因・NetSuiteで解消する5つのステップで扱っています。

この記事が扱うのは、そこに含まれない「判断」の側です。まず全社の属人化をどう捉えるかは、先にそちらをご覧ください。順序が逆になると、手順書の整備だけで解決したつもりになります。

Q3. 何商品くらいから取り組む意味がありますか

商品数よりも、判断の回数で考えてください。

月あたりの発注判断が数件なら、記録を残すだけで十分なことが多いです。数十件を超えると、1人の頭の中で一貫性を保つのが難しくなります。

目安として、発注担当者が「全部は見切れていない」と感じ始めたときが着手の時期です。その感覚は、判断の質がばらつき始めた合図です。

Q4. AIに全部任せることはできませんか

第2章の④が残るため、全部は任せられません。

新商品の初回投入量には、参照できる過去データがありません。仕入先との交渉や、取引の事情を踏まえた判断も同じです。

そして、任せきりにすると外れたときに理由を追えなくなります。下書きはAI、確定は人という分担を保つことが、結果として仕組みを長持ちさせます。

Q5. 販売履歴が2年分ないと始められませんか

始められます。移し替えの第1段階と第2段階は、履歴の長さと関係がありません。

記録を始めることと、判断を言語化することは、今日からできます。履歴が短い場合は、第3段階で単純な計算から入り、データが溜まるにつれて精度を上げていく進め方が現実的です。

むしろ、履歴が溜まるのを待っている間に、判断の棚卸しを済ませておくほうが順序として合理的です。

まとめ:④だけを人に残す

この記事の要点を整理します。

  • 需要予測・発注の属人化は、手順ではなく判断の属人化。マニュアルでは解けない
  • 書き出せないのは本人の問題ではなく、判断の根拠を残す欄がないから
  • 発注の判断は4つに分かれる。①数字で説明できる ②数字にできるが記録していない ③無自覚な経験則 ④人にしかできない
  • 移すのは①②③。④は残す
  • 移し替えは4段階。記録 → 再現 → モデル化 → 答え合わせ。難所は第2段階の再現
  • AIが効くのは第1段階と第4段階。履歴を学習させても、判断の理由は残らない

属人化の解消は、エースを不要にすることではありません。エースにしかできない仕事の割合を、増やすことです。

今日できること

1つだけ、今日試せることがあります。

主力商品を1つ選び、先月の発注量を決めたときに見た数字を、3つ書き出してみてください。

3つ書き出せたでしょうか。それとも、2つ目で手が止まったでしょうか。

書き出せた分が、いま仕組みに移せる範囲です。手が止まった場所が、これから言語化していく範囲になります。どちらが分かるだけでも、次の一歩が決まります。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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