来期の販促カレンダーを組む。
候補の施策を並べ、予算を当てはめ、月に割り振る。
ひととおり形にしてから見直すと、たいてい何かが引っかかります。
「この2つ、同じ月にはできない」
「アプリの施策を入れるなら、告知も要る」
「認知の施策が、1つも入っていない」
直しはじめると、今度は別のところが崩れます。この往復が、毎回起きます。
原因は、担当者の段取りではありません。
守るべき条件が、誰の手元にも書かれていないことです。
この記事では、その条件を1枚に書き出す手順を扱います。
📌 この記事で分かること
- 販促カレンダー・条件表・条件違反とは何か(1文ずつ)
- 条件表に書く5つの行と、埋めた状態の例
- 書き出す順番と、排他とセットの2つから始める理由
- 「後から直す」やり方が終わらない構造
- 条件表を毎月更新し続けるための決めごと
販促カレンダーが、毎回やり直しになる理由
言葉の整理
先に3つの言葉をそろえます。
販促カレンダーとは、どの施策を、いつ、いくらで実施するかを月単位で並べた計画表のことです。
年度単位で組み、四半期ごとに見直す会社が多くみられます。
条件表とは、その計画が守らなければならない決まりごとを、1枚に書き出した表のことです。
予算の上限や、同時にできない施策の組み合わせなどを並べます。
条件違反とは、計画そのものは組めているのに、決まりごとのどれかを破っている状態のことです。
効果が低いのではなく、実行できないという意味で、計画としては成立していません。
条件は、書かれていないだけで存在している
販促の現場には、明文化されていない決まりごとがあります。
担当者の頭の中には確かにあります。判断のたびに使っています。
けれど、どこにも書かれていません。
だから、こうなります。
- 計画を組むときには思い出せず、組んだ後で気づく
- 直すと別の条件に引っかかり、往復が始まる
- 担当者が替わると、判断の理由ごと消える
条件そのものの種類は、販促予算の最適化とは|配分を決めるための考え方の第6章で4種類に整理しています。
本記事は、その先——書き出す手順を扱います。
先に結論
条件表は、システムを入れる前に作れます。
むしろ、作ってからでないと何も載せられません。
必要なのは、1枚の表と、書き出す順番だけです。
条件表とは|1枚に書き出す5つの行
5つの行
ベンチャーネットが販促の配分を仕組み化するときに使っている条件表は、5行です。
| # | 行 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 1 | 予算の総額 | 年間または期間の販促費の上限 |
| 2 | 月別の上限 | 繁忙月に寄せすぎないための、月ごとの枠 |
| 3 | 同時にできない施策 | 全品セールと会員限定セールは同じ月に置かない |
| 4 | セットで打つ施策 | アプリ内の施策をやるなら、アプリ告知も同時に出す |
| 5 | ファネルの網羅 | 認知・興味・購入・リピートの各段階から最低1つ |
この5行だけです。多くの現場で、ここに書けない条件はほとんど出てきません。
3行目と4行目が何を指すのかは、Google Meridianとは|MMMツールで予算配分はどこまで決まるのかの第4章で詳しく扱っています。
ファネルの考え方そのものは、販売予測とはで整理しています。
埋めた状態の例
言葉だけでは形が見えにくいので、埋めた例を挙げます。
内容は説明のための例であり、特定の会社のものではありません。
| # | 行 | 記入例 |
|---|---|---|
| 1 | 予算の総額 | 年間1億8,000万円 |
| 2 | 月別の上限 | 各月2,000万円まで(12月のみ3,000万円) |
| 3 | 同時にできない施策 | 全品セール / 会員限定セール 大型POP展開 / 店頭サンプリング(制作が競合) |
| 4 | セットで打つ施策 | アプリ内施策 → アプリ告知が必須 店頭施策 → 事前のチラシ配布が必須 |
| 5 | ファネルの網羅 | 認知・興味・購入・リピートの各段階から最低1つ |
3行目と4行目が、組を並べるだけになっている点に注目してください。
金額や割合では表せない条件です。「どちらも単独なら予算内に収まるのに、2つそろうと成立しない」という形をしているためです。
「表にする」ことに意味がある
条件を文章で書き残す会社もあります。引き継ぎメモや、計画書の注意書きです。
それでも往復は減りません。文章は、計画と突き合わせられないからです。
表にすると、計画を作った後に1行ずつ照らし合わせられます。
「3行目に書いた組み合わせは、今月の計画に両方入っていないか」——この確認が、10分で終わります。
書き出す作業そのものに価値がある
暗黙のルールを言葉にした時点で、それは引き継げるものになります。
判断が1人の頭の中にしかない状態は、その人が休むと止まります。
条件表は、仕組みを入れる前にできる、最も費用のかからない対策です。
業務の標準化そのものについては、業務標準化とERP・DXと属人化の解消で扱っています。
書き出す順番|排他とセットの2つから始める
5行を一度に埋めようとすると、たいてい書き終わりません。
順番があります。
第1段階:3行目と4行目だけ書く
最初に書くのは、同時にできない施策とセットで打つ施策の2つです。
理由は3つあります。
- 思い出しやすい。過去に1度は引っかかっているので、実例がある
- 数が少ない。多くの会社で、それぞれ3〜5組に収まる
- 効果がすぐ出る。組んだ後の往復の大半は、この2つが原因で起きている
書き方は、組を1行ずつ並べるだけです。
全品セール / 会員限定セール → 同じ月に置かない
アプリ内施策 → アプリ告知が必須
この2行から始めてください。ここまでで、計画づくりの手戻りはかなり減ります。
第2段階:5行目(ファネルの網羅)
次に、認知・興味・購入・リピートの各段階から最低1つという行を足します。
この行は、放っておくと守られません。
認知の施策は、短期の効率では購入直前を刈り取る施策に勝てないからです。効率で比べれば、計画から消えます。
だから条件として先に決め、効率の土俵から降ろします。
その理由はROAS順に予算を配ると、なぜ伸びなくなるのかの第6章で扱っています。
第3段階:1行目と2行目(予算の枠)
最後が、予算の総額と月別の上限です。
いちばん簡単そうに見えて、最後に回す理由があります。
この2つは、他部門との調整が要るからです。総額は経営の決裁、月別の上限は現場の繁忙期の実情が絡みます。
先に埋めようとすると、そこで止まります。
3行目から始めれば、調整を待たずに手を動かせます。
一度に完成させなくてよい
条件表は、穴があっても機能します。
書けた行から使えばよく、書けていない行は「今回は条件に入れていない」と明記しておけば済みます。
大事なのは、書かれていない条件を、書かれていないと分かる状態にしておくことです。
頭の中にあるまま見えない状態と、「まだ書けていない」と書いてある状態では、扱いがまったく違います。
「後から直す」と、なぜ終わらないのか
往復が起きる構造
条件表を作らずに計画を組むと、次の流れになります。
- 効率の良い順に施策を選ぶ
- 組んだ後で「この2つは同時にできない」と気づき、片方を入れ替える
- 入れ替えた結果、「認知段階の施策が1つもない」ことに気づく
- 認知の施策を戻すと、今度は予算が足りなくなる
- 2に戻る
条件を1つずつ順番に直す進め方では、条件どうしの板挟みから抜けられません。
直した先で別の条件が壊れるためです。
必要なのは、すべての条件を最初から同時に満たす組み合わせを探すことです。
ここが、人の目と計算の仕組みの分かれ目になります。
検証でも、同じことが起きた
ベンチャーネットが販促の配分を検証したときの結果です。
検証用のサンプルデータによる計算例であり、実際の施策構成では結果が変わります。
12個の施策候補から選ぶ問題(組み合わせは4,096通り)に、同時実施不可・セット・ファネル網羅の条件を加えました。
効率の良い順に選ぶやり方が出したのは、効果の低い計画ではありません。
条件に違反した、実施できない計画でした。
効果が数%低い計画なら実行できます。条件に違反した計画は、実行そのものができません。
この結論はGoogle Meridianとはの第4章でも触れています。
条件表があると、何が変わるのか
条件表そのものが計画を作ってくれるわけではありません。
変わるのは、確認の順番です。
| 条件表なし | 条件表あり | |
|---|---|---|
| いつ確認するか | 計画を組んだ後 | 組む前と、組んだ後の両方 |
| 何と照らすか | 記憶 | 表の5行 |
| 漏れたとき | 後から発覚し、往復が始まる | 組む前に分かるので、最初から避けられる |
計算の仕組みを入れる場合も、渡すものはこの表です。
道具の選び方は最適化ツールの選び方で扱っています。
条件表は、毎月動く
一度作って終わりにしない
販促の条件は毎月変わります。新しい施策が増え、予算が動き、方針が変わります。
条件表を一度作ったきりにすると、半年で実態と合わなくなります。
そして合わなくなった表は、誰も見なくなります。
差し替えられる形で持つ
そのための決めごとが1つあります。
条件を、計画書の本文や計算の仕組みの中に埋め込まないこと。
別の1枚として、差し替えられるデータの形で持ちます。
埋め込んでしまうと、条件が変わるたびに計画書や仕組みを作り直すことになります。
実務の速さに追いつかなくなり、使われなくなります。
使えなかった条件は、黙って消さない
データが足りず、今回は適用できなかった条件も出てきます。
そのとき、黙って無視しないでください。
「今回置いた前提」として、計画の横に書き残します。
施策どうしの影響のデータが未入力のため、今回は考慮していません
こう書いてあれば、読み手はその前提ごと判断できます。
条件表への信頼は、こうした正直さの積み重ねで作られます。
月次の答え合わせとセットにする
毎月、計画と実績を突き合わせるときに、条件表も一緒に見直します。
- 今月、条件に引っかかった場面はあったか
- 表に書いていない条件で、判断に使ったものはなかったか
- 実態と合わなくなった行はないか
この3問だけで構いません。
需要予測の読みを更新し続ける考え方は、需要予測の標準化でも扱っています。
検証で分かったこと|規模では差がつかなかった
ここからは、ベンチャーネットが自社で検証した結果です。
検証用のサンプルデータによる計算例です。実データでいくら効果が出るかは、測定していません。
条件を加えた2つのシナリオ
| シナリオ | 施策の候補 | 組み合わせ | 加えた条件 |
|---|---|---|---|
| ③ | 12施策 | 4,096通り | 同時実施不可・セット・ファネル網羅 |
| ④ | 30施策 | 約10億7,000万通り | 同上(規模を拡大) |
この2つを、3つの決め方で比べました。
結果
| 決め方 | シナリオ③ | シナリオ④ |
|---|---|---|
| 効率の良い順に選ぶ | 実施不能 | 実施不能 |
| 数理最適化ソフト(無料) | 100% | 100%(0.005秒) |
| 専用の計算手法 | 100% | 100%(8.2秒) |
※ %は確実な正解への到達率です。
数理最適化ソフトと専用手法は、どちらも同じ100%に到達しています。
差がついたのは、効率の良い順に選ぶやり方だけでした。
予想が外れたことも書いておきます
検証前、ベンチャーネットは「候補が30施策・約10億通りに増えれば、既存のソフトは計算に苦しむ」と考えていました。
外れました。既存のソフトは10億通りを0.005秒で解いています。専用手法は8.2秒です。
つまり、規模の大きさは、専用手法を選ぶ理由になりませんでした。
この章から言えること
条件を扱ううえで、いちばん効いたのは計算手法の違いではありません。
条件を、計算に渡せる形で持っているかどうかでした。
条件表さえあれば、無料の数理最適化ソフトでも100%に到達します。
逆に条件表がなければ、どの手法を使っても実施できない計画が出ます。
だから、最初にやるのは条件表です。道具の選定は、その後で構いません。
つまずく3つのパターン
パターン1:完成した条件表を作ろうとして、書き終わらない
現象
「まず全部の条件を洗い出そう」と始めたが、関係部署への確認が増え、半年たっても表が完成しない。
構造的な原因
条件表を完成させる対象として扱っているためです。予算の総額のように他部門の決裁が絡む行から手をつけると、そこで止まります。
回避策
3行目と4行目(同時にできない施策・セットで打つ施策)だけを、その日のうちに書いてください。残りは「まだ書けていない」と明記しておけば、それで運用できます。
パターン2:計画書の中に条件を書き込んでしまう
現象
今期の販促計画書の注意書きとして条件を書いた。翌期に計画書を作り直したとき、条件が引き継がれずに消えた。
構造的な原因
条件が計画書に従属しているためです。計画書は毎期作り直すもので、条件表は持ち越すもの。寿命が違うものを同じ紙に置くと、短いほうに合わせて消えます。
回避策
条件表は別の1枚にしてください。計画書からは参照するだけにします。
パターン3:守れなかった条件を、記録せずに流す
現象
「今回は特別」として条件を1つ外した。翌月も外した。半年後には、その条件は誰も守っていない。
構造的な原因
外した記録が残らないためです。1回の例外は判断ですが、記録がないと2回目以降は前例になります。
回避策
条件を外したときは、計画の横に理由を1行書いてください。「今回置いた前提」として残っていれば、次の見直しで戻すか消すかを決められます。
ベンチャーネットの対応
ベンチャーネットは、NetSuiteの導入支援と並行して、販促の配分を仕組み化する支援をしています。
条件表の棚卸しは、その入り口にあたる工程です。
その前提で、お勧めしない場合をはっきりさせておきます。
- 条件が3つ以下の会社には、仕組み化をお勧めしません。表計算ソフトと条件表だけで足ります
- すでに社内で数理最適化ソフトを使っている会社にも、お勧めしません。条件表を作れば、その環境でそのまま計算できます
- 条件表がまだ無い会社には、まず条件表だけをお勧めします。仕組みの話はその後です
この記事に書いた5行の形式と手順は、そのまま使っていただいて構いません。
費用はかかりませんし、ベンチャーネットに相談する必要もありません。
ご相談いただく価値があるとすれば、書き出した条件表を持ち込んでいただく段階からです。
条件を計算に載せたときに、いまの計画とどれだけ差が出るかを、作る前にお示しできます。
今日できること
まず、4つの質問に答えてみてください。
- 同時にできない施策・セットで打つ施策の条件を、一覧表にできていますか
- 認知からリピートまで、ファネルの抜けを計画段階で確認する仕組みがありますか
- 予算の総額・月別上限を、計画が自動的に守れる状態になっていますか
- 担当者が変わっても、同じ水準の配分判断を再現できますか
「いいえ」が多いほど、条件表を作る効果が大きくなります。
そのうえで、今日やることは1つだけです。
白紙に「同時にできない施策」と「セットで打つ施策」の2行を書き、思い出せる組を並べる
3組でも構いません。書けた時点で、それは引き継げるものになっています。
販促の全体像は、販促予算の最適化とはで整理しています。
もう少し詳しく知りたい方へ
書き出した条件表を見ながら、計画にどう載せるかを整理するところまで、一緒に進められます。
条件表だけで足りる場合は、そうお伝えします。
よくある質問
Q1. 条件表は、どれくらい細かく書けばよいですか
最初は、同時にできない組み合わせとセットの関係だけで構いません。
「AとBは同じ月にやらない」「Cをやるなら必ずDも」。この2種類を書き出すだけで、計画づくりの手戻りは減ります。
ファネルの網羅や月別の上限は、その次で十分です。すべてを一度に埋めようとすると、たいてい書き終わりません。
Q2. エクセルで作って問題ありませんか
問題ありません。形式より、別の1枚として持つことのほうが大事です。
計画書のシートの中に書き込むのは避けてください。計画書を作り直すときに、一緒に消えます。
Q3. 条件が20個以上あります。それでも1枚に収まりますか
収まります。5つの行のうち、3行目と4行目は組を並べるだけなので、数が増えても行数が増えるだけです。
数が多いこと自体は問題ではありません。問題は、それが書かれていないことです。
Q4. 計算の仕組みを入れないと、条件表を作る意味はありませんか
あります。むしろ、仕組みを入れない会社のほうが効果を感じやすい場面もあります。
条件表があれば、計画を組んだ後に1行ずつ照らし合わせるだけで、往復の大半が防げます。この確認に、特別な道具は要りません。
Q5. 条件を外さざるを得ないときは、どうすればよいですか
外して構いません。記録だけ残してください。
計画の横に「今回は◯◯の条件を外した。理由は△△」と1行書いておきます。
記録がないまま外し続けると、その条件は半年で消えます。
Q6. 効果測定のツールを入れていなくても、始められますか
始められます。条件表は、効果の数字とは別のものです。
効果の読みは社外のツールや実績値から得られますが、条件は社内にしかありません。
だから、効果測定より先に着手できます。両者の関係はGoogle Meridianとはの第5章で整理しています。
まとめ:条件表は、システムより先に作れる
この記事の要点を整理します。
- 販促カレンダーの往復は、段取りの問題ではなく、条件が書かれていないことから起きる
- 条件表は5行。予算の総額/月別の上限/同時にできない施策/セットで打つ施策/ファネルの網羅
- 書く順番は、同時にできない施策とセットで打つ施策の2つから。予算の枠は最後でよい
- 条件を1つずつ後から直す進め方は、条件どうしの板挟みで終わらない
- 条件表は毎月動く。差し替えられる1枚として持ち、外したときは記録を残す
- 検証では、条件表があれば無料の数理最適化ソフトでも100%に到達した。規模の大きさでは差がつかなかった
条件表は、システムを入れる前に作れます。
むしろ、作ってからでないと何も載せられません。
白紙に2行書くところから、一緒に始めましょう。
