資本効率経営(ROIC経営)とは?指標の見方と、NetSuiteで実現するリアルタイム可視化【2026年版】

事業Aも事業Bも、黒字です。

それなのに、事業Bは資本を使うほど会社の価値を減らしている。

そんなことが、数字の上では普通に起こります。

ROIC経営(資本効率経営)とは、投じた資本に対してどれだけ効率よく利益を生んだかを軸に、事業と投資を判断する経営のやり方です。

中心の指標がROIC(投下資本利益率)で、資本のコスト(WACC)と比べて初めて意味を持ちます。

上場していない会社でも、借入の利息と比べる形でそのまま使えます。

では、黒字の事業Bの何が問題なのか。

そして、指標を掲げるだけで終わらせず、経営判断に使うには何から始めればよいのか。

目次

この記事で分かること

  • ROICの計算式と、WACCとの比べ方(架空の数字の計算例つき)
  • ROIC・ROE・ROAの違いと使い分け
  • ROICツリーで現場のKPIにつなぐ方法と、1つの枝から始める1周目
  • 数字が見えた先に経営がどう変わるか(守り→攻め→次へ)
  • Excelで足りる段階と、仕組みが要る段階

ROICとWACC

ROICの計算式

ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本

  • 税引後営業利益:本業の利益(営業利益)から、税金の分を差し引いたもの
  • 投下資本:株主資本と有利子負債を合わせた、事業に投じた資金の総額

株主からの資金も借入も含めて、事業全体の「稼ぐ力」を測る指標です。

利益率そのものの計算は、利益率の計算方法で扱っています。

WACCと比べる

資金を集めるには、株主への配当や借入の利息といったコストがかかります。

このコストを、資本の構成の割合で加重平均したものがWACC(加重平均資本コスト)です。

  • ROICがWACCを上回る:その事業は価値を生んでいる
  • ROICがWACCを下回る:資本を使うほど価値を損なっている

冒頭の事業A・Bを計算する

次の数字は、説明用の架空のものです。

項目事業A事業B
税引後営業利益8,000万円3,000万円
投下資本10億円6億円
ROIC8.0%5.0%
WACC(仮に6%とする)6.0%6.0%
差+2.0ポイント−1.0ポイント

利益の額だけを見れば、どちらも黒字です。

ところが事業Bは、資本のコストを1ポイント下回っています。

「黒字だから続ける」ではなく、「資本のコストを超えているか」で判断する。

これがROIC経営です。

事業A・BのROICとWACCの比べ 架空の数字で、WACCを仮に6%とすると、事業AはROIC8.0%で2.0ポイント上回り価値を生んでいる。事業BはROIC5.0%で1.0ポイント下回り、黒字でも資本を使うほど価値を損なっている。 事業A・Bを、ROICとWACCで比べる 架空の数字。WACCは仮に6% WACC 6% 事業A ROIC 8.0% +2.0ポイント 価値を生んでいる 事業B ROIC 5.0% −1.0ポイント 価値を損なっている 黒字かではなく、資本のコストを超えているか
事業A・BのROICとWACCの比べ

事業Bの打ち手は、たとえば次の3つです。

  • 価格や原価を見直し、利益率を上げる
  • 在庫や売掛金を減らし、投下資本の回転を速くする
  • 改善の見込みが薄ければ、資本を事業Aに移す

どれを選ぶかは、事業の成長の段階と、経営の意思で決まります。

なぜ今、資本効率なのか

東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に要請を出しました。

「資本コストや株価を意識した経営」の要請です(出典:日本取引所グループ公式、2026年9月確認)。

きっかけは、PBR1倍割れの会社が多いことでした。

PBR1倍割れとは、株価が会社の純資産を下回っている状態です。

2026年4月には、「経営資源の適切な配分」を中心とした内容に要請が更新されました(出典:日本取引所グループ公式、2026年9月確認)。

2026年8月末の時点で、プライム市場の94%が開示しています(検討中を含む)。

スタンダード市場は57%にとどまり、市場の間で差が残っています(出典:日本取引所グループ公式「開示状況」、2026年9月確認)。

投資家の関心は、「開示したか」から「経営にどう反映したか」へ移りつつあります。

指標を示す段階から、資源の配分に使う段階へ。

要請から4年目のテーマは、そこにあります。

上場していなくても使える

銀行から借りれば、利息がかかります。

その資金を投じた事業が、利息を上回るリターンを生めているか。

これは、ROICとWACCの考え方そのものです。

ROIC・ROE・ROAの違い

指標計算式主に見る視点使いどころ
ROIC税引後営業利益 ÷ 投下資本(株主資本+有利子負債)事業の効率事業の資本効率、WACCとの比較
ROE当期純利益 ÷ 自己資本株主から見た収益性株主還元、上場の対応
ROA利益 ÷ 総資産すべての資産の活用資産がどれだけ利益を生んだか

ROEは、株主が出した資金に対する収益性を測ります。

ただし、借入を増やしたり自社株を買ったりすると、利益が同じでも数値が上がります。

ROICは借入も含めた資本全体を分母にするため、財務の見せ方に左右されにくい指標です。

どの事業に資本を配分するかを考えるなら、ROICが向いています。

指標の全体は、財務分析指標の6つの視点や収益性分析の考え方で扱っています。

ROICを経営判断に使う

ROICが力を発揮するのは、次の3つの場面です。

  1. 事業の組み合わせの判断:どの事業に資本を厚く配分するかを決める
  2. 投資の優先順位:新しい投資が、WACCを上回るリターンを見込めるかを見極める
  3. 現場の改善:ROICを分解し、現場が動かせる指標に落とし込む

ROICツリーで現場につなぐ

ROICは、利益率と投下資本の回転率に分けられます。

さらに分解すると、現場の打ち手につながる指標になります。

この分解の仕組みをROICツリーと呼びます。

分解の段階指標の例動かす部門の例
利益率(税引後営業利益 ÷ 売上)粗利率、販管費率営業、購買
投下資本の回転率(売上 ÷ 投下資本)在庫の回転、売掛金の回収の日数購買、倉庫、経理
固定資産の効率設備の稼働率製造
ROICツリーと1周目の選び方 ROICを利益率と投下資本の回転率に分け、粗利率・販管費率、在庫の回転・売掛金の回収日数・設備の稼働率まで分解する。1周目はこのうち1つの枝と1つのKPIから始める。 ROICツリーと1周目 ROIC 利益率 税引後営業利益÷売上 投下資本の回転率 売上÷投下資本 粗利率 販管費率 在庫の回転 売掛金の回収日数 設備の稼働率 1周目は1つの枝・1つのKPIから 例:在庫の回転に絞り、最短90日で1周
ROICツリーと1周目の選び方

設備も投下資本の一部なので、図では設備の稼働率を回転率の側に置いています。

ツリーは、経営の目標と現場のKPIをつなぐ橋渡しです。

KPIへの落とし込みはKPIマネジメントの記事、中期経営計画への組み込みは中期経営計画の記事で扱っています。

判断の物差し|自社の数字をどう見るか

まず見る3つの点

  • 全社のROICと資本コストの差:借入の金利やWACCを下回るなら、資本の使い方を見直す
  • 事業別のROIC:全社の平均の中に、資本のコストを下回る事業が隠れていないか
  • 回転の指標の推移:在庫や売掛金が、売上より速く増えていないか

全社のROICが良くても、事業別に分けると差が大きいことはよくあります。

売上が伸びていても、在庫や売掛金がそれ以上に増えていれば、ROICは下がります。

Excelで足りる段階と、仕組みが要る段階

段階数字の出し方向く会社注意点
年1回の確認決算書からExcelで計算単一の事業、借入が少ない年に1回しか見られない
四半期の確認会計ソフトの試算表からExcelで事業が2つ程度事業別の資本の割り振りが手作業
月次・事業別会計ソフト+BIツール事業別の数字を会計で持てる在庫・売掛金は別に集める
月次〜随時・事業別会計・販売・在庫を一つにしたERP事業や拠点が多く、配分を頻繁に見直す導入の手間と費用がかかる

BIツールは、集めたデータを分析し、グラフなどで見せる道具です。

事業が一つで借入も少ないなら、年1回のExcelの計算で足りることもあります。

ROICを出すのに月初の数日を使う。部門のExcelの数字が合わない。

こうしたサインが出たら、仕組みを考える時期です(ExcelからNetSuiteへ移行すべきタイミング)。

NetSuiteの公式サイトでは、ロール別のダッシュボードやKPI、リアルタイムの検索とレポートが紹介されています。

出典はNetSuite公式サイト「Analytics & Reporting」です(2026年9月確認)。

会計・販売・在庫のデータが一つにあれば、ツリーの枝まで同じ画面で追えます。

会計ソフトとBIツールの組み合わせや、Odooなど別のERPで足りる会社もあります。

これから使う会社と、目標はあるが回っていない会社

これから指標を使う会社

最初から精緻な計算式を整える必要はありません。

決算書から全社のROICを出し、借入の金利と比べる。

次に、事業別に分けられる数字(売上・営業利益・在庫・売掛金)から分けていきます。

目標はあるが、回っていない会社

中期経営計画にROICの目標を載せたのに、現場の動きは変わらない。

よく聞く話です。

仕組みを替える前に、次の3つを見てください。

  • ROICツリーで、現場の部門のKPIまで分解できているか
  • 事業別の数字を、月次で見られているか
  • 数字を見て、資源の配分を変えた実例が1つでもあるか
ROICの目標が回っているかの3つの確認 ROICツリーで現場の部門のKPIまで分解できているか、事業別の数字を月次で見られているか、数字を見て資源の配分を変えた実例が1つでもあるか。3つ目がないなら指標は掲げられているだけで、1つの枝から回す。 目標が回っているかの3つの確認 ROICツリーで、現場の部門の KPIまで分解できているか 事業別の数字を、 月次で見られているか 数字を見て資源の配分を変えた 実例が1つでもあるか 3つ目が「ない」なら、指標は掲げられているだけ 全部の枝ではなく、1つの枝から回す
ROICの目標が回っているかの3つの確認

3つ目が「ない」なら、指標は掲げられているだけです。

全部の枝を一度に動かそうとせず、1つの枝から回します(第8章)。

数字が遅い・合わないことが原因なら、データの集め方を見直します。

基幹システムの更新や保守の期限が近いなら、事業別の数字を持てる設計にする好機です。

よくある失敗3つ

失敗1:指標を掲げるだけで使わない

起きること:計画にROICの目標を載せたが、見るのは期末だけ。改善の打ち手が議論されない。

原因:指標が現場のKPIにつながっていない。

東証の資料では、多くの投資家が「対話の内容が経営層に届いていない」と感じていると整理されています(出典:日本取引所グループ公式、2026年9月確認)。

避け方:ROICツリーで現場のKPIまで分解し、定例の会議で打ち手を決めます。

「数字を見る会議」を、「次の一手を決める会議」に変えます。

失敗2:ROICを上げること自体が目的になる

起きること:投下資本を減らすため、必要な投資まで止める。現場が数字合わせで疲れる。

原因:ROICは分母を小さくしても上がります。

ROICだけを重く扱うと、必要な投資まで止める弊害が出ます。

避け方:数値の上げ下げではなく、「WACCを上回る価値を生めているか」に視点を戻します。

「ROICが下がるから」という理由だけで投資を見送った例がないか、振り返ってみます。

失敗3:全社で一律の目標を当てはめる

起きること:成長段階の事業も成熟した事業も、同じ基準で評価される。現場が納得しない。

原因:事業ごとに必要な資本も、成長の段階も、資本のコストも違う。

避け方:事業別にROICとWACCを見て、組み合わせとして判断します。

そのためには、事業ごとの数字が見える状態が前提です。

ベンチャーネットならこう見る|1つの枝から1周目を回す

ROICを「掲げる指標」から「使う指標」に変える。

そのために、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは2つの型を使います。

型1:1業務・1KPIに絞った1周目

データを経営に使う取り組みは、1業務・1KPIに絞った1周目から始めます。

ROICなら、ツリーの枝を1つだけ選びます。

たとえば「在庫の回転」に絞り、購買と倉庫の会議でその数字だけを追う。

絞り込めば、最短90日で1周を回せます。

1周目の前に決めることは、3つです。

  1. ROICで何を決めたいか:事業の選別か、投資の優先順位か、現場の改善か
  2. 比べる相手は何か:WACCを出すのが難しければ、まず借入の金利と比べる
  3. 誰がいつ数字を見て何を決めるか:会議と責任者を先に決める

正確な計算式を待つより、まず見える状態にして、判断に使いながら磨きます。

型2:守り→攻め→次へ

1周目が回った後、経営は3段で変わっていきます。

定着の先の3段階:守り→攻め→次へ 守りは業務が回ること、攻めはデータで打つこと、次へは経営が変わること。 定着の先の3段階守り|業務が回る在庫・販売・会計を1つにし、日々の業務を安定させる攻め|データで打つ売れ筋・在庫の分析、営業作業の自動化、生成AIでの集計次へ|経営が変わるKPI、管理会計、上場に向けた内部統制
定着の先の3段階:守り→攻め→次へ
  • 守り:在庫・販売・会計の数字が1つにそろい、事業別の数字を月次で出せる
  • 攻め:在庫や売掛金の動きを分析し、ツリーの枝ごとに手を打つ
  • 次へ:ROICをKPIと管理会計に組み込み、資源の配分を決める。上場を目指すなら内部統制まで整える

ROICは財務部だけの数字ではありません。

経営者が、資源の配分を決めるための指標です。

今日できること|自社の概算ROICを出す(1時間)

直近の決算書を用意し、次の表を埋めてみてください。

項目自社の数字
営業利益
税引後営業利益(営業利益 ×(1−実効税率)の概算)
株主資本+有利子負債
ROIC(税引後営業利益 ÷ 投下資本)
借入の平均金利

ROICが借入の金利を大きく上回っているか、まず見ます。

事業が複数あるなら、次に「どの事業の数字なら分けられるか」を書き出します。

経営ダッシュボードで追う方法は、経営ダッシュボードの作り方で扱っています。

よくある質問

Q1. ROICとROE、どちらを見るべきですか

目的に応じて使い分けます。

ROEは株主から見た収益性で、上場会社の株主対応で重視されます。

事業に資本をどう配るかを考えるなら、ROICを軸にします。

Q2. 中小・非上場の会社でもROIC経営は必要ですか

考え方は役立ちます。

借入の利息を上回るリターンを、その投資が生めているか。

これはROICとWACCの発想そのものです。

Q3. WACCとは何ですか

資金を集めるコストの加重平均です。

株主が期待するリターンと借入の利息を、資本の構成の割合で加重平均して求めます。

ROICがWACCを上回っていれば、その事業は価値を生んでいると判断できます。

Q4. ROICを可視化すると何が変わりますか

資源配分の判断が速くなります。

月次の集計を待たず、事業別の数字を根拠に議論できます。

「なんとなく」ではなく、数字にもとづいて打ち手を決められます。

Q5. ROICを上げるには、投資を減らせばよいですか

投資を減らすことが答えとは限りません。

分母を小さくすれば、一時的に数値は上がります。

しかし成長に必要な投資まで削ると、長い目で見た価値を損ないます。

Q6. 事業別のROICは、どう出せばよいですか

売上と利益から分けます。次に在庫と売掛金を分けます。

設備や本社の資産の割り振りは、最初は大まかな基準で構いません。

分けられる数字から順に広げ、使いながら精度を上げます。

Q7. ROICは何%あればよいですか

一律の目安はありません。

見るのは、自社の資本のコスト(WACC)や借入の金利を上回っているかです。

業種や事業の段階で、必要な資本も資本のコストも違います。

まとめ

  • ROICは税引後営業利益 ÷ 投下資本。WACCと比べて初めて意味を持つ
  • 黒字の事業でも、資本のコストを下回れば価値を損なっている
  • ROICツリーで現場のKPIまで分解し、1つの枝・1つのKPIから1周目を回す
  • 失敗の多くは、掲げるだけ・目的化・一律の目標
  • Excelで足りる段階もある。見る頻度と粒度で仕組みを選ぶ

冒頭の事業Bのような事業が、自社にもないか。

まずは決算書から概算のROICを出し、借入の金利と並べてみてください。

もう少し詳しく知りたい方へ

資本効率の数字を、経営判断に使える形で見える化する進め方から、ご相談をお受けしています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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