月初の会議室。
営業、生産、在庫の担当が、それぞれのExcelを持ち寄ります。
前半は「どの数字が正しいか」の突き合わせで終わり、最後は「来月様子を見ましょう」。
PSI会議とは、生産・販売・在庫の数字を擦り合わせ、需給のバランスを整える会議です。
目的は、欠品と過剰在庫の両方を早めに防ぐことにあります。
良いPSI会議は、同じ数字を見てその場で打ち手を決める。これに尽きます。
冒頭の会議も、進行表を変えるだけでは直りません。
止まっている場所が、会議の外にあるからです。
では、自社の会議はどこで止まっているのか。
この記事で分かること
- PSI会議の基本(出席者・頻度・アジェンダ・決めること)
- 良いPSI会議と悪いPSI会議の違い
- 会議が止まる3つの場所(数字の土台・決め方・つなぎ)と、その見つけ方
- Excelで足りる会社と、ERPが要る会社の見分け方
- NetSuiteの需要計画・供給計画でできることと、導入の費用・期間の考え方
言葉の整理:需給は、需要(売れる量)と供給(作れる・仕入れられる量)のことです。
ERPは、会計・販売・在庫・生産などの基幹業務を一つのシステムで管理する仕組みです。
PSI会議とは|生販在を擦り合わせる会議
PSIは、3つの英単語の頭文字をとった言葉です。
- P:Production(生産。卸・小売では仕入)
- S:Sales(販売)
- I:Inventory(在庫)
日本語では「生販在計画」とも呼ばれます。
営業の販売計画、生産の供給能力、在庫の実績。
この3つを持ち寄り、需給のバランスを調整します。
売りたいのに在庫がない。作りすぎて在庫が余る。
こうしたズレを早めに見つけ、手を打つための会議です。
S&OPとの関係
PSIと近い言葉に「S&OP」があります。
S&OPは Sales and Operations Planning の略で、海外で広く使われる考え方です。
| 観点 | PSI会議 | S&OP |
|---|---|---|
| 扱う単位 | 数量(個数・ケース) | 数量に加えて金額・戦略 |
| 主な参加者 | 営業・生産・購買・在庫 | 左記に加えて経営層・財務 |
| 決めること | 来月以降の生産・仕入・在庫の水準 | 事業計画と需給計画の整合 |
| 位置づけ | 実務寄りの土台 | 経営レベルまで広げたもの |
PSIは、S&OPの土台にあたります。
なぜいまPSI会議が要るのか
背景には、次の3つの変化があります。
- 需要が読みにくい:好みの移り変わりが速く、過去の延長で見通しにくい
- コストが上がっている:過剰在庫は、資金を寝かせる大きな負担になる
- 多品種・小ロット化:品目が増えるほど、部門ごとの管理では全体が見えない
部門を横断して数字を擦り合わせる場が、経営の要になっています。
PSI会議の基本的な進め方
出席者と頻度
| 項目 | 基本の形 | 補足 |
|---|---|---|
| 出席者 | 営業・生産(製造)・在庫/購買・進行役 | 決める権限を持つ人が必ず入る |
| 頻度 | 月次が基本 | 変動の大きい品目は週次を併用 |
| 時間 | 1時間前後 | 論点を絞れば十分に回る |
| 事前準備 | 数字は会議の前にそろえる | 会議中に照合しない |
規模によっては、経営層が加わることもあります。
決める権限を持つ人がいれば、その場で判断が進みます。
アジェンダ|5つの流れ
- 実績の確認:前回の計画に対して、実際はどうだったか
- 差異の共有:計画と実績のズレと、その原因
- 需要の見通し:これからの販売計画
- 供給の調整:生産能力・仕入・在庫とのバランス
- 打ち手の決定:誰が・何を・いつまでに
最後の「打ち手の決定」までたどり着けるかどうか。
ここに至らない会議は、報告会で終わります。
5つの流れを図にすると、次のとおりです。
決めること|3つの計画
- 販売計画:何を、いつ、どれだけ売るか
- 生産・仕入計画:それに合わせて、何をどれだけ作る・仕入れるか
- 在庫計画:その結果、在庫をどの水準に保つか
3つは連動しています。
販売計画が決まれば、必要な生産量と在庫の水準も決まります。
差異が出たときの対応ルールは、先に決めておきます。
「販売が計画を1割上回ったら、生産を前倒しするか営業が調整する」のような形です。
良いPSI会議と悪いPSI会議の違い
| 観点 | 悪いPSI会議 | 良いPSI会議 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| 数字の出どころ | 部門ごとに別のExcel | 全部門が同じデータを見る | 同じデータがそろうほど、AIで差異を点検しやすい |
| 会議の中身 | 数字を読み上げる報告会 | ズレを見つけ打ち手を決める | 論点の抽出をAIに下準備させやすい |
| 意思決定 | 「来月様子を見る」で先送り | その場で担当と期限が決まる | 決定の記録が残り、後で検証できる |
| 計画の反映 | 発注・製造に届かない | 計画が実行にすぐつながる | 計画と実行が同じ仕組みなら追いやすい |
AIに助言させるには、その前に同じ数字が1か所にそろっていることが前提です。
数字がばらばらのままでは、AIに渡すデータの準備から始めることになります。
会議が止まる3つの場所|土台・決め方・つなぎ
形骸化した会議は、たいてい次の3つのどこかで止まっています。
- 数字の土台:照合で時間が終わる。部門の数字を一つにそろえる
- 決め方:報告で終わり、決まらない。決める人と基準を先に決める
- つなぎ:決めても現場に届かない。計画から発注・製造指図への転記をなくす
1つ目と3つ目は、道具で変わります。
2つ目は、道具を替えても変わりません。
どこで止まっているかで、打つ手が違ってきます。
判断の物差し|Excelで足りる会社、ERPが要る会社
PSI会議は、Excelでも始められます。
道具の選び方は、品目数・拠点数・計画と実行のつながり方で決まります。
| 状態 | 向く道具 | 目安の条件 |
|---|---|---|
| Excelで足りる | 共有のExcel・スプレッドシート | 品目が少ない/拠点が1つ/担当が数人で回る |
| ERPが要る | NetSuiteなどのERP | 品目・拠点が多い/計画を発注や製造指図に手で写している |
| 別の選択肢も合う | Odoo・国産の生産管理・AIでの個別開発 | 特定の業務だけ深く作り込みたい、予算を抑えたい |
| いまは入れない | 会議の運用を先に整える | 担当と決め方が決まっていない、数字の定義がそろっていない |
NetSuiteが合いやすいのは、次の条件がそろう会社です。
- 販売・在庫・購買・会計を、一つのデータで持ちたい
- 拠点や倉庫が複数あり、在庫の場所がばらばらになりやすい
- 計画を発注・製造指図につなぐ転記に、時間がかかっている
止まっている場所が「決め方」だけなら、システムより先に運用を整えるほうが効きます。
製品の比べ方は、OdooとNetSuiteの比較やExcelからNetSuiteへ移行すべきタイミングで扱っています。
これから始める会社と、見直したい会社
始める会社と見直したい会社の分かれ道を図にすると、次のとおりです。
これからPSI会議を始める会社
最初から作り込んだ仕組みを目指す必要はありません。
次の4ステップで始めます。
- 対象を絞る:主力商品や、欠品・過剰在庫が起きやすい品目から始める
- 数字の持ち主を決める:販売計画は営業、供給能力は生産、在庫実績は在庫管理
- サイクルを決める:まず月次。慣れたら変動の大きい品目だけ週次に
- 小さく回して直す:最初の数回はうまくいかなくて当然。足りない点を直す
役割があいまいだと、会議は数字の押し付け合いになります。
いま会議をしていて、見直したい会社
まず、第4章の3つのどこで止まっているかを探します。
いまのERPや生産管理の更新・保守の期限が近い会社は、見直しの好機です。
次のシステムには「PSI会議に使う数字が一つにそろうか」を条件として入れておきます。
NetSuiteを導入済みで使いこなせていない場合は、設定と運用の見直しで改善できることがあります。
よくある3つの失敗
失敗1:数字がばらばらで、照合作業に終わる
起きること:会議の前半が「どの数字が正しいか」の突き合わせで終わる。数字が確定する頃には、状況が変わっている。
原因:営業・生産・在庫が、それぞれ別のExcelで数字を持っている。同じ「在庫」でも、部門で数字がずれる。
避け方:会議の前に、全部門が同じ数字を見られる土台を作ります。
在庫の定義(引当済みを含むか、輸送中を含むか)もそろえます。
失敗2:会議が報告会になる
起きること:各部門が順番に数字を読み上げて終わる。差異が出ても「来月様子を見ましょう」で先送りになる。
原因:決める権限を持つ人がいない。決める基準がない。
避け方:「誰が・何を・どの基準で決めるか」を会議の設計の段階で決めます。
議事録には、決めたことと担当・期限だけを残します。
失敗3:計画が発注・製造指図に届かない
起きること:会議で決めても、発注や製造指図に反映されるまでに時間差がある。「計画したのに欠品・過剰在庫」が起きる。
原因:計画はExcel、実行は別のシステムで、転記が手作業になっている。
避け方:計画がそのまま発注や製造指図につながる状態をつくります。
システムを入れるまでの間は、転記の担当と締切を決めるだけでも差が出ます。
NetSuiteでPSI会議を運用するとき
NetSuiteは、Oracleが提供するクラウドERPです。
PSI会議に関わる機能を、公式情報の範囲で並べます。
需要計画|先を読む
日本オラクルの発表では、NetSuiteの需要計画について次のように説明しています。
過去の需要、季節性、オープン中の商談、販売予測などから、将来の在庫ニーズを予測できるというものです(出典:日本オラクル公式、2026年9月確認)。
オープン中の商談は、まだ受注に至っていない営業の案件のことです。
営業の見込みまで、需要の見通しに入れられます。
予測の手法の違いは、NetSuite需要予測の4つの予測手法で扱っています。
供給計画|計画を実行につなぐ
Oracle NetSuiteの公式サイトでは、供給計画が発注書・在庫転送・作業指図を自動で作ると説明しています。
(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)
作業指図は、工場に「何をいくつ作るか」を指示する記録です。
会議で決めた計画を、発注や製造にすぐ反映できます。
第4章の「つなぎ」の転記が、ここで減ります。
同じページでは、生産能力の計画で作業センターの負荷を分析できることも案内されています。
詳しくはNetSuiteのSupply Planning(MRP)で扱っています。
全部門が同じデータを見る
販売・在庫・購買・会計が、一つのデータでつながります。
会議のたびに数字を照合する必要がなくなり、議論に時間を使えます。
第4章の「土台」にあたる部分です。
日本での提供範囲
需要計画は、日本の製造業向けの発表の中で説明されています。
供給計画や生産能力の計画の、日本での提供範囲は断定できません。
使う前に、アカウントの担当に聞いてください。
標準で足りない部分は、開発で補える場合があります。
導入の費用と期間
NetSuiteのライセンスは、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
在庫まで含めた導入の費用と期間は、構成と社内の体制で大きく変わります。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットの支援例を見てみます。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用のうち、在庫を含む2つの例です。
100名程度で購買・販売・在庫・会計、外部システムとの連携開発ありの例は、1.5年・2億円程度でした。
20名程度で同じ範囲、情シスなしの例は、2年・3,000万円程度でした。
差を生むのは、業務の範囲、開発の量、社内の体制、ユーザー数の4つです。
詳しくはNetSuiteの料金・費用で扱っています。
ベンチャーネットならこう見る
ベンチャーネットは、特定の製品に誘導しない立場です。
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
PSI会議の相談で、道具の話より先に聞くのは3つです。
- 会議で最後に決めていることは何か
- 販売・生産・在庫の数字は、何か所にあるか
- 計画から実行までに、何回写しているか
答えが出れば、第4章の3つのどこで止まっているかが見えます。
決め方の問題なら、システムを入れても解決しません。
その場合は、会議の設計から一緒に考えます。
見える化→整理整頓→Fit&Gap
道具を入れると決めた後も、順番は変えません。
まず、販売計画から発注・製造指図までの流れを、現場に聞いて描きます。
次に、やめる転記・まとめる資料・そろえる定義を決めます。
残った業務を、NetSuiteの需要計画・供給計画の標準と照らし合わせます。
標準で収まらない部分は、標準に合わせるか、開発するか、いまの形で残すかを選びます。
1周目は、1業務・1KPIに絞る
PSI会議の仕組みを、全品目・全拠点で一度に作ろうとすると、会議が始まる前に疲れてしまいます。
ベンチャーネットは、1周目を1つの業務と1つのKPIに絞り、最短90日で回すことを目安にしています。
たとえば、主力品目の欠品だけを追う会議から始める。
回った手応えを見てから、品目と拠点を広げます。
今日できること|直近の会議を1回振り返る
直近のPSI会議を1回選び、次の表を埋めてみてください。1時間ほどでできます。
| 振り返る点 | 書き込む内容 |
|---|---|
| 会議の時間の内訳 | 照合・報告・議論・決定に、それぞれ何分使ったか |
| 決まったこと | 担当と期限がついた決定は何件か |
| 数字の置き場 | 販売・生産・在庫の数字は、それぞれどのファイルにあるか |
| 実行までの時間 | 決めたことが発注や製造指図に反映されるまで何日か |
照合の時間が長ければ土台、決定が少なければ決め方、日数が長ければつなぎ。
第4章の3つのどこに当たるかが、この1枚で分かります。
よくある質問
Q1. PSI会議とS&OPは何が違いますか
扱う範囲が違います
PSIは生産・販売・在庫の数量を擦り合わせる、実務寄りの会議です。
S&OPは、それを経営レベルまで広げたものです。
PSIはS&OPの土台にあたります。
Q2. PSI会議はどのくらいの頻度で開けばよいですか
月次が基本です
変動の大きい事業では、週次を併用する場合もあります。
まず月次で始め、必要な品目だけ頻度を上げるのが現実的です。
Q3. ExcelだけでもPSI会議はできますか
できます
品目が少なく、拠点が1つなら十分に回ります。
品目や拠点が増え、照合や転記に時間がかかり始めたら、ERPを検討する段階です。
Q4. 何から手をつければよいですか
対象を絞って数字の持ち主を決めることからです
主力商品や、欠品が起きやすい品目に絞ります。
販売計画は営業、供給能力は生産のように、担当をはっきりさせます。
Q5. NetSuiteの需要計画は日本で使えますか
日本の製造業向けの発表で需要計画が説明されています
過去の需要・季節性・商談・販売予測などから、将来の在庫ニーズを予測できるとされています。
供給計画などの提供範囲は、アカウントの担当に聞いてください。
Q6. 会議が形骸化しているとき、まず何を直せばよいですか
止まっている場所を先に特定します
照合で終わるなら数字の土台、決まらないなら決め方、届かないなら計画と実行のつなぎです。
第10章の表で、直近の会議を振り返ってみてください。
まとめ|同じ数字で、その場で決める
- PSI会議は、生産・販売・在庫を擦り合わせ、需給を整える会議
- 良い会議は、同じ数字を見て打ち手まで決める
- 会議が止まる場所は3つ。数字の土台・決め方・計画と実行のつなぎ
- Excelで足りる段階もある。品目・拠点・転記の手間で判断する
- NetSuiteでは、需要計画と供給計画で計画から実行までをつなげる。提供範囲は担当に確認
冒頭の「来月様子を見ましょう」は、3つのどこかで止まっているサインです。
まず、直近の会議を1回だけ振り返ってください。
止まっている場所が分かれば、直すのは会議か、数字か、つなぎかが決まります。
もう少し詳しく知りたい方へ
PSI会議の進め方は、品目の数や拠点、いまのシステムによって変わります。
「自社の会議は、どこで止まっているのか」の見極めから、ご相談をお受けしています。

コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 数字を会議で回す段階では、PSI会議とはの進め方が参考になります。 […]
[…] 在庫と販売の数字を突き合わせる進め方は、PSI会議の回し方でも触れています。 […]