「請求書の確認に、また一日が終わった」
経理の現場で、そんな声をよく聞きます。
2023年10月にインボイス制度が始まり、2024年1月には電子帳簿保存法で電子取引データの保存が義務になりました。受け取った請求書が要件を満たすか、登録番号は正しいか。確認すべきことは、確実に増えています。
けれど、人は簡単には増やせません。経営からは「AIで効率化できないか」と言われる。その気持ちはわかる。でも、何から手をつければいいのか。そこで止まってしまう経理の方は、少なくないはずです。
この記事は、その「何から」に答えます。請求書や仕訳をAIにすべて丸投げするのではなく、「下書きはAI、最後は人が承認する」という形に変える。その考え方と進め方を、ベンチャーネットの視点でお話しします。
なぜ、経理の負担はなかなか減らないのか
理由は、はっきりしています。「人が手で入力し、目で確認する」工程が、まだ多く残っているからです。
海外の業界調査を見ると、その重さがよくわかります。手作業での請求書処理は1枚あたり約10〜15ドル、自動化すると2〜3ドルほどとされ、7割を超える差があるという報告があります(Levvel Researchなどの調査)。受領から支払いまでにかかる日数も、手作業では2週間近いという調査もあります。
それでも、人手を介さずに処理が完結する「タッチレス」の割合は3割ほどにとどまります。買掛・支払を担当する経理担当者の6割以上が、いまだに請求データを手で入力しているという報告もあります(IFOLの2025年調査)。
ここに、制度対応の確認作業が上乗せされます。登録番号のチェック、税率ごとの消費税額の確認、保存要件への対応。一つひとつは小さくても、積み上がれば無視できない時間になります。負担が減らないのは、担当者の頑張りが足りないからではありません。仕事の「形」が、手作業を前提にしたままだからです。
解決の方向性は「下書きAI+人が承認」
ここで大切なのは、AIに「すべて」を任せようとしないことです。
仕事を、二つに分けて考えます。
AIが得意なのは「作業」です。請求書を読み取って日付・金額・取引先を抜き出す。仕訳の下書きをつくる。インボイスの登録番号をチェックする。こうした定型の作業は、AIが速く、しかも安定してこなせます。
人が担うのは「判断」です。下書きが正しいかを承認する。例外やイレギュラーに対応する。数字の背景を読む。ここは、人にしかできません。
「下書きはAI、最後は人が承認する」。この役割分担が、経理を無理なく変えていきます。日本の経理実務でも、AIに作業を任せ、人は判断に集中するという考え方が広がっています。
図:請求書や仕訳はAIが下書きし、承認と例外対応は人が担う。役割を分けることが出発点です。
効果も見込めます。自動化によって、処理コストは大きく下がり、処理時間も短縮されるという調査があります。読み取りの精度も、AI-OCR(画像から文字を読み取る技術)では高い水準が報告されています。
ただし、見落としてはいけない点があります。AIは「入れて終わり」では成果になりません。MITが2025年に公表した調査では、生成AIの試験導入の95%が、利益への測定可能な効果を出せないまま止まっていました。原因は技術ではなく、業務にどう組み込み、現場に根づかせるかが抜けていたからです。逆に、最も成果が出やすいのはバックオフィスの自動化だとされています。経理は、まさにその領域です。
変わった先にある、経理の姿
「下書きAI+人が承認」が回り始めると、経理の役割が少しずつ変わります。
図:手作業のままの経理と、「下書きAI+人が承認」に変えた経理の比較。数値は海外の業界調査による目安です。
入力と確認に追われる部署から、数字の背景を読み、経営に示す部署へ。空いた時間で「なぜこの費用が増えたのか」「どこに手を打つべきか」を考えられるようになります。
ベンチャーネットは、経営改善を「見える化→わかる化→儲かる化」という流れでとらえています。経理のデータが整い(見える化)、その意味が読めて(わかる化)、実際に手を打って利益に返す(儲かる化)。AIで経理を変えることは、この「儲かる化」への確かな一歩です。
経理のデータが基幹システムにつながると、効果はさらに広がります。基幹システムとは、NetSuiteなどのクラウド型ERP(会社の数字を一つに集める仕組み)のことです。数字がつながれば、月次決算が速くなり、判断のための数字がいつでも見える状態に近づきます。ここは無理に急がず、自社の段階に合わせて選べば十分です。
よくある質問と、つまずきやすい点
Q. AIに任せて、間違いは大丈夫ですか?
だからこそ「人が承認する」工程を残します。AIは、ときに読み違えます。下書きは必ず人が確認し、おかしい点は差し戻す。この前提で組めば、精度と効率を両立できます。
Q. 試験導入で止まりませんか?
止まる会社は、少なくありません。先ほどのMITの調査どおり、原因の多くは技術ではなく「定着」です。小さな業務から始め、効果を数字で測りながら広げるのが基本です。
Q. インボイス制度や電子帳簿保存法には対応できますか?
保存要件を「運用で満たす」設計が出発点です。誰が、いつ、どう承認するか。検索や保存のルールまで含めて決めてから、ツールを選びます。
最後に、つまずきやすい失敗を3つだけ挙げます。
ひとつ、ツール選びから始めてしまう。先に決めるべきは「どの作業を、どう任せるか」という業務の形です。
ふたつ、現場のフローに組み込まないまま導入する。AIだけ入れても、承認や例外の流れが回らなければ止まります。
みっつ、効果を測らない。コストや時間が実際に減ったかを見なければ、続ける判断ができません。
まとめ:作業は任せられる。判断と定着は、人の仕事
AIは、経理の「作業」を肩代わりできます。けれど、何を任せて何を人に残すか、そしてそれを現場に根づかせるところは、人の仕事として残ります。
ここでつまずく会社が多いのは、ツールの性能の問題ではありません。自社の業務に合わせて設計し、定着まで見届ける。その伴走役がいないからです。
ベンチャーネットは、課題の整理から、AIや基幹システムの実装、現場で回るところまでを一緒にやり切る形で支援しています。報告書を置いて去るのではなく、成果が出るところまで。
「人を増やさずに経営を回す」という大きな絵を知りたい方は、大企業のAI実装の手法を中小企業向けに翻訳した記事もあわせてお読みください。「そもそも、その業務は本当に必要か」を問い直したい方には、業務を「捨てる」という発想の記事が手がかりになります。
経理のAI化を具体的に検討したい方は、ベンチャーネットにご相談ください。まずは「どの作業から任せるか」を、一緒に整理するところから始めます。

