Odooとデータドリブン経営|データが判断に使えない3つの理由と、使える状態にする4条件

月曜の経営会議。営業部長が報告する売上と、経理が出した売上が合わない。最初の20分は、どちらの数字が正しいかの確認で終わる。そんな会議に心当たりはないでしょうか。

データは、たいていの会社にすでにあります。それでも判断に使えない理由は3つです。データが分かれている、そろうのが遅い、部門ごとに基準が違う。

データにもとづいて判断する「データドリブン経営」は、このうち前の2つを仕組みで減らすところから始められます。Odoo(オドゥー:販売・在庫・会計などをひとつにつなぐERP)では、業務のアプリが同じデータベースの上で動くからです(Odooが解決できること)。

仕組みが整うと、たとえば次のことが変わります。

  • 別々のシステムから数字を集めて見比べる作業が減る
  • 月次の締めを待たずに、いまの状態が見える
  • 工数と経費を案件に紐づければ、案件別の利益が見える
  • 会議で「先月はどうだったか」でなく「いまどうなっているか」を話せる

ただし、3つ目の「基準の違い」は、システムを入れても残ります。稼働直後の数字も、たいてい合いません。

では、残った1つは誰がどう片づけるのか。答えは数字が使える状態にするための4条件にあります。

この考え方はOdooの版に依存しません。無料のCommunity版でも、有償のEnterprise版でも同じです。ただし、レポート機能の範囲や公式サポートの有無は版によって異なります。詳しくはCommunity版とEnterprise版の違いをご覧ください。

目次

データが経営判断に使えない、3つの理由

1つ目は、データが分かれていることです。販売は販売システム、在庫はExcel、会計は会計ソフトに入っています。

2つ目は、遅いことです。締めないと数字が出ず、見えるのは翌月の中旬。その時点では、もう手を打てません。

3つ目は、基準が違うことです。部門ごとに集計の方法が違い、同じ商品が別の名前で登録されている。どれが正しいのか、誰にも分かりません。

結果として、会議のたびに「その数字は何を含んでいるのか」から話が始まります。議論より前に、数字の説明で時間が終わってしまう。

データが経営判断に使えない3つの理由 データが分かれている、そろうのが遅い、基準が違うという3つの理由で、記録はあっても判断に使えない。会議は数字の説明から始まる。3つ目がいちばん根が深い。 記録はある。でも判断には使えない 1 分かれている 販売は販売システム、在庫はExcel 会計は会計ソフト 2 遅い 締めないと数字が出ない 見えるのは翌月中旬。手は打てない 3 基準が違う 部門ごとに集計方法が違う 同じ商品が別名で登録されている どれが正しいか分からない 会議が「その数字は何を含むのか」 から始まる 3つ目がいちばん根が深い
データが経営判断に使えない3つの理由

3つ目が、実はいちばん厄介です

1つ目と2つ目は、仕組みで解決できます。3つ目は、仕組みだけでは解決しません。

  • 「売上」に何を含めるか(値引き前か後か、送料は入るか)
  • 「在庫」をいつの時点で数えるか(発注済みは含むか)
  • 「粗利」の計算に何を入れるか(物流費は原価か販管費か)

どれも、会社として決めることです。システムを入れても、決めるのは人です。

定義があいまいなまま数字を並べると、会議は「その数字は何を含んでいるのか」の確認から始まります。冒頭の月曜の会議は、まさにこの状態です。

経営全体の課題の中でこの論点がどこに位置するかは、中小企業の経営を「つなぐ」10の視点にまとめています。

データドリブン経営でOdooが解決できること、できないこと

Odooが仕組みで解決できるのは、3つの理由のうち前の2つです。指標の定義と、数字を見る場は人が決めます。

仕組みで解決できる範囲と、人が決める範囲 データが分かれている問題と数字が遅い問題は、同じデータベースの上で業務が動くことで仕組みとして解決できる。指標の定義と、誰がいつ見て何を決めるかは、人が決める必要がある。 仕組みが解けるのは、半分だけ 仕組みで解決できる 1 データが分かれている → 同じデータベースの上で動く 2 数字が出るのが遅い → 取引の時点で反映される ここはOdooの仕組みが役立つ 人が決める必要がある 3 指標の定義 → 売上・在庫・粗利の数え方 4 見る場と、動く判断 → 誰がいつ見て、何を決めるか ここは製品では解決しない
仕組みで解決できる範囲と、人が決める範囲

Odooの構造的な利点

Odooでは、業務のアプリが同じデータベースの上で動きます。

  • 受注が在庫を引き当てる
  • 出荷が請求になる
  • 案件に工数と経費が積み上がる

この記録がそのまま集計に使われるので、別々のシステムから数字を集めて見比べる作業そのものが減ります。

さらに、数字への反映は取引が発生した時点です。月次の締めを待たずに、いまの状態が見えます。

ただし、それだけでは判断に使えません

Odooを入れても、「売上に値引きを含めるか」は決まりません。それは会社が決めることです。

この点をあいまいにしたまま導入すると、「システムを入れたのに数字が使えない」という結果になります。

数字が使える状態にするための4条件

条件1:定義を決めて、文書にする

主要な指標について、何を含み、何を含まないかを書き出してください。

  • 売上:値引き後か、送料込みか
  • 在庫:どの時点の数量か、引当済みは含むか
  • 粗利:原価に何を入れるか
  • 案件の利益:間接費をどう扱うか

紙1枚で構いません。決めて、共有することに意味があります。

条件2:入力の粒度を先に決める

粒度とは、データをどこまで細かく記録するかという単位のことです。見たい数字は、入力の粒度で決まります。

たとえば「案件別の利益」を見たいなら、工数と経費を案件に紐づけて入力する必要があります。

入力されていないものは、集計にも出てきません。当たり前ですが、ここを飛ばした計画がよくあります。

条件3:見る場を決める

数字は、見る人と場がなければ使われません。

  • 誰が見るか
  • いつ見るか(週次か、月次か)
  • 見て、何を判断するか

「ダッシュボードを作ったが、誰も見ていない」。これは実際によくある話です。作るべきは画面より、その数字を見て何かを決める習慣です。見る習慣の回し方は、KPIダッシュボードの作り方と回し方(バーチャルブログ)が参考です。

この「見る場」の作り方は、社長のコックピットをOdooで作るで手順として扱っています。最初に置く計器を4つに絞る考え方から始まります。

条件4:まず粗くて構わない

最初からすべての指標を設計しようとすると、動き始めません。

主要な3つか4つの数字から始めてください。動かしてみると、本当に必要なものが分かります。

自社の数字は、会議で使える状態か

次の項目を、経営会議のメンバーで確かめてみてください。チェックが付かない項目が、最初に手を付ける場所です。

  • □ 「売上」の中身を、営業と経理が同じ言葉で説明できる
  • □ 粗利の原価に何を入れるか、文書で決まっている
  • □ 見たい数字(案件別・商品別など)に合わせて、入力の単位が決まっている
  • □ 受注や出荷が、その日のうちに記録されている
  • □ 会議の資料づくりで、Excelの突き合わせに半日以上かけていない
  • □ 毎週または毎月、誰がどの数字を見るかが決まっている
  • □ 数字を見て、何かをやめた・変えた経験が直近3か月にある

【正直に】Odooだけで完結しないこと

Odooを入れても、それだけでは片づかないことが3つあります。

高度な分析には別の道具が要ることがあります

Odooには標準のレポート機能があります。日常の集計の多くは、これで十分です。

ただし、複数年にわたる分析や、複雑な予測モデルを扱う場合は事情が違います。専門の分析ツールを併用するほうが合うことがあります。

Odooはデータの標準的な仕組みを使っているため、外部のツールへデータを渡すこと自体は難しくありません。

過去のデータは持ち込まれません

記録は、導入した時点から始まります。過去の分析をしたいなら、データ移行の設計が必要です。

ただし、過去データをすべて移すと費用も時間もかかります。「過去はどこまで必要か」を先に決めてください。考え方は Odooへのデータ移行の進め方 にまとめています。

数字が正しくなるまでには時間がかかります

稼働直後の数字は、たいてい合いません。入力の慣れ、マスタの整備、運用ルールの浸透。これらに数か月かかります。

「入れた翌月から使える」とは考えないでください。

Odooでデータを経営に使う良い点と、気をつけること

ここまでの話を、得られることと先に覚悟しておきたいことに分けて並べます。

良い点は、次の5つです。

  • 数字を集める作業が減る:業務のアプリが同じデータベースの上で動き、記録がそのまま集計に使われる
  • 締めを待たずに今が見える:数字は、取引が記録された時点で反映される
  • 標準の機能で集計できる:一覧・ピボット・グラフは、Community版とEnterprise版の両方にある
  • 外部の分析ツールにも渡せる:データの標準的な仕組みを使っているため、渡すこと自体は難しくない
  • 段階を踏んで広げられる:売上と受注の推移から始め、在庫、案件別の利益へと進む

気をつけることは、次の4つです。

  • 指標の定義は人が決める:「売上に値引きを含めるか」は、システムを入れても決まらない
  • 入力しないものは出てこない:見たい数字に合わせて入力の粒度を決め、記録を後回しにしない
  • 横断ダッシュボードはEnterprise版が前提:スプレッドシートを使った横断ダッシュボードの作成は有償版で行う
  • 数字が合うまで数か月かかる:入力の慣れ、マスタの整備、運用ルールの浸透を待つ

両方を1枚の図に並べました。

Odooでデータを経営に使う良い点と、気をつけること 良い点は、数字を集める作業が減る、締めを待たずに今が見える、標準の機能で集計できる、外部の分析ツールにも渡せる、段階を踏んで広げられること。気をつけることは、指標の定義は人が決める、入力しないものは出てこない、横断ダッシュボードはEnterprise版が前提、数字が合うまで数か月かかること。 データ活用の良い点と注意点 良い点 数字を集める作業が減る 同じデータベースの上で動く 締めを待たずに今が見える 取引が記録された時点で反映 標準の機能で集計できる 一覧・ピボット・グラフは両方の版に 外部の分析ツールにも渡せる データの標準的な仕組みを使う 段階を踏んで広げられる 売上と受注の推移から始める 気をつけること 指標の定義は人が決める 値引きを含めるかは会社が決める 入力しないものは出てこない 入力の粒度を先に決める 横断ダッシュボードは有償版 Enterprise版が前提 数字が合うまで数か月かかる 入力の慣れ・マスタ・運用ルール 粗くても、いま見えることに価値がある
Odooでデータを経営に使う良い点と、気をつけること

注意点の避け方は、数字が使える状態にするための4条件とベンチャーネットが確かめる4つのことにまとめています。

会議の数字がそろうまで、ベンチャーネットが確かめる4つのこと

画面を作る前に、どの計器を置くかを決める。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、この順序を崩しません。データ活用はITの話である前に、会議で何を決めるかという経営の話だと考えているためです。

確かめること1:会議で、毎回答えに詰まる問いは何か

最初に聞くのは、欲しい画面より経営者の問いです。「今月の着地はどうなりそうか」「どの案件が赤字か」。

3〜5年後に、どんな判断を数字でしていたいか。そこから逆算して、最初に答えるべき問いを3つに絞ります。

確かめること2:その数字の定義で、社内の意見が割れていないか

問いに答える数字について、営業と経理の言い分を並べます。値引きの扱い、計上のタイミング、原価の範囲などです。

割れている項目は、導入の前に経営者が決めます。ここはシステムでは決まりません。

確かめること3:いまの業務のまま、Odooの標準で数字が出るか

その数字のもとになる記録が、いまどこにあるかを棚卸しします。Excel、会計ソフト、紙の伝票などです。

そのうえで、標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」で届くかを判断します。複数の会社を連結して見たい規模なら、NetSuiteのほうが合う場合もあります。判断材料は、NetSuiteの教科書の財務・会計の比較記事にまとめました。合わないときは、合わないとお伝えします。

確かめること4:見る段階をどこから始めるか

最後に決めるのは、見る数字の順番です。小さく始めるなら、次の順序をおすすめしています。

段階見る数字必要な入力
第1売上と受注の推移受注・請求の記録
第2在庫の状況と回転入出庫の記録
第3案件別・商品別の利益工数・経費・原価の紐づけ
第4予測と計画との差上記の蓄積

第1段階だけでも、経営の会話は変わります。「先月はどうだったか」でなく、「いまどうなっているか」を話せるようになるからです。

まず見える化し、次に原因が分かる「わかる化」、最後に打ち手で利益を生む「儲かる化」へ進みます。段階を飛ばすと、数字への信頼が育ちません。見える化した数字を意思決定に変える段階は、「わかる化」の解説(バーチャルブログ)で扱いました。

全体像は経営コックピットとして設計する

計器が増えてくると、次は「どれをひとつの画面に集めるか」が問題になります。

その設計は社長のコックピットをOdooで作るにまとめています。ダッシュボードの作り方より先に、最初に置く4つの計器の選び方から書いた記事です。

経営の指標をどう作るか|7つの領域とOdooのデータ

計器を選ぶ段になったら、領域ごとに考えると迷いにくくなります。

指標は、資金・財務・損益構造・販売・顧客・費用・利益の7つの領域に分かれ、領域ごとにOdooのどのデータから作るかが変わります。

領域代表的な指標解説記事
資金現金預金残高の推移、キャッシュフロー、売掛金残高資金の3指標
財務ROA、ROE、自己資本比率財務の3指標
損益構造労働分配率、労働生産性、F/M比率損益構造の4指標
販売受注高の推移、リアルタイムの売上、ABC分析販売の3指標
顧客顧客生涯価値、接点回数、リピート率顧客の4指標
費用販管費の内訳推移、部門別会計費用の見える化
利益粗利、営業利益、移動年計利益の見える化

すべてを一度に見る必要はありません。

自社がいま困っている領域から1つ選んでください。資金繰りが読めないなら資金から、案件ごとの採算が見えないなら損益構造から始めます。

会計データの扱いはOdooの会計機能でできること、Excelからの移行はExcel管理からOdooへで扱っています。

よくある質問

Q1. Odooを入れれば、会議で使える数字が出てきますか?

仕組みとしては近づきますが、それだけでは足りません。

指標の定義、入力の粒度、見る場。この3つがそろって、はじめて判断に使える数字になります。

Q2. ダッシュボードは自社で作れますか?

作れます。各アプリの一覧・ピボット・グラフは、Community版とEnterprise版の両方にある機能です。多くの集計は、これで足ります。

スプレッドシートを使った横断ダッシュボードの作成は、Enterprise版が前提です。画面の調整については Odoo Studioとは? もご覧ください。

ただ、作ることより「誰がいつ見るか」を決めるほうが重要です。設計の順序は社長のコックピットをOdooで作るをご覧ください。

Q3. リアルタイムで見られますか?

取引が記録された時点で反映されます。ただし、あくまで「記録された時点」です。

現場の入力が翌日にまとめて行われるなら、数字も1日遅れます。リアルタイムかどうかは、入力のタイミングで決まります。

Q4. いま使っているBIツールと連携できますか?

BIツール(データを集めて分析・可視化する専用ソフト)へデータを渡すこと自体は、難しくありません。Odooはデータベースに標準的な仕組みを使っているためです。

具体的な方法は構成によって変わるため、事前に確認してください。

Q5. 社員数十人の会社にも、データドリブンは必要ですか?

必要です。規模の問題ではありません。

「なんとなく忙しいのに、利益が残らない」状態が続いているなら、数字が見えていない可能性があります。

その構造は 中小企業のDXとOdoo でも扱っています。

Q6. Odooでデータドリブン経営を進めるメリットは何ですか?

締めを待たずにいまの数字が見えることです。

業務のアプリが同じデータベースの上で動くので、別々のシステムから数字を集めて見比べる作業が減ります。数字は取引が記録された時点で反映されます。一方で、指標の定義は会社が決める必要があり、稼働直後の数字はたいてい合いません。良い点と注意点はOdooでデータを経営に使う良い点と、気をつけることに並べました。

まとめ:データドリブン経営は定義と見る場から

データにもとづく経営判断が難しいのは、データがないからではありません。分かれていて、遅くて、基準が違うからです。

Odooは、このうち前の2つを仕組みとして解決します。業務のアプリが同じデータベースの上で動くため、数字を見比べる作業が減り、締めを待たずに現状が見えます。

3つ目は、仕組みでは解決しません。「売上に値引きを含めるか」「粗利の原価に物流費を入れるか」は、会社として決めることです。

だから、Odooを入れる前に決めておくことがあります。

  • 指標の定義を紙1枚に書く
  • 見たい数字から逆算して、入力の粒度を決める
  • 誰がいつ見て、何を判断するかを決める

稼働直後の数字は、たいてい合いません。まず主要な3つか4つの数字から始めてください。粗くても、いま見えることに価値があります。

1年後の月曜の会議では、営業と経理が同じ売上の数字を見ているはずです。「その数字は何を含んでいるのか」という確認は消え、空いた20分を次の打ち手の相談に使えているでしょう。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「ダッシュボードを作りましょう」から始める提案はしません。 まず「どの数字を、誰が、いつ見て、何を決めるのか」を一緒に整理するところから承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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