年計表(移動年計)で利益の傾きを読む|季節変動に惑わされない粗利・営業利益の見方

「今月は売上が落ちた。でも、去年もこの時期はこんなものだった気がする」

経営会議でよく交わされる会話です。数字は目の前にあるのに、良いのか悪いのかを誰も言い切れない。結局「来月の様子を見よう」で終わります。

原因は、数字の並べ方にあります。月次の数字をそのまま並べると、繁忙期と閑散期の波が事業の実勢を覆い隠します。

波を消せば、利益の方向は読めます。見るのは3つ。商品そのものが生む粗利、本業で稼いだ営業利益、そして直近12か月の合計を毎月並べる年計表(移動年計)です。年計表を使うと、季節の波が消えて傾きだけが残ります。社長のコックピットの計器のうち、儲けを映すのがこの3つです。

Odooでは、粗利と営業利益は会計データから、売上の推移は販売アプリの記録から作ります(版ごとの対応範囲)。

年計で利益を見るようになると、たとえば次のことが変わります。

  • 閑散期の単月の落ち込みに、会議で慌てなくなる
  • 粗利と営業利益を並べ、販管費が伸びを食っていないかが分かる
  • 傾きが急に変わったら、まず1年前の大口取引を疑える
  • 表の更新は、月に一度で足りる

ただし、月次の締めが毎月同じ基準でそろっていないと、傾きそのものがゆがみます。良い点と負担は年計で利益を見る良い点と、気をつけることに並べました。

では、3つの傾きを並べると、単月では見えない何が見えてくるのか。答えは傾きの組み合わせの読み方にあります。

CommunityとEnterpriseの区別について

粗利と営業利益は損益計算書の数字を使うため、有償のEnterprise版の会計機能が前提です。売上だけの推移なら、無料のCommunity版でも販売アプリの中の集計で追えます。年計表を複数アプリのデータから組むには、Enterprise版のスプレッドシート機能が前提です。

目次

なぜ「利益」を、しかも年計表で見るのか

月次の利益を12か月分並べても、判断に迷います。上下を繰り返すだけで、伸びか縮みかが読み取れないためです。

多くの事業には、季節の波があります。年末に集中する業種も、夏が閑散期の業種もある。波が大きいほど、単月の増減は実勢を映しません。

前年同月比という見方もありますが、これは1点と1点の比較です。去年の同じ月にたまたま大口受注があれば、今年が不当に悪く見えます。

年計表は、この問題を別の方法で解きます。直近12か月分を1つの点にまとめ、季節の波を打ち消して「傾きだけを残す」のです。

波を消して、傾きだけを見る 月次の利益をそのまま並べると季節変動がグラフに出て、伸びか縮みかが判断しにくい。直近12か月の合計を並べる年計表では、波が相殺されて傾きだけが残り、事業の方向が一目で分かる。 波を消して、傾きだけを見る 月次の利益をそのまま並べる 繁忙期と閑散期の波が そのままグラフに出る → 伸びか縮みか分からない 直近12か月の合計を並べる 波が点の中で相殺され 線の傾きだけが残る → 事業の方向が一目で分かる 年計表は、季節変動を打ち消して 事業の実勢だけを取り出す見方
月次のまま並べる見方と、年計にまとめる見方

波が消えれば、残るのは方向だけ。単月の増減に一喜一憂しなくてよくなります。

資金の指標が「会社が持つか」を映すのに対し、利益の指標は「事業に力があるか」を映します。資金の3指標と分けて見るのは、そのためです。

指標1:粗利(売上総利益)

定義

粗利とは、売上高から売上原価を引いた利益のことです。

商品やサービスそのものが生んだ儲けを表します。仕入れて売る商売なら売値と仕入値の差、作る商売なら材料費などを引いた残りです。

計算式

売上高 - 売上原価 で計算します。割合で見るときの粗利率は、粗利 ÷ 売上高 です。

粗利と営業利益の違いは、売上総利益(粗利)とは?営業利益との違い・計算方法でも解説しています。

見るときの考え方

粗利率の適正水準は、業種で大きく変わります。材料をほとんど使わない事業と、仕入れが売上の大半を占める事業では、同じ数字でも意味が違うためです。

比べる相手は2つ。自社の過去3期分ほどの推移と、中小企業庁などが公表する同業種の統計です。

Odooのどのデータから作るか

販売アプリの受注・請求の記録と、商品ごとの原価情報を照らし合わせます。在庫や製造の記録も、原価側の材料です。

表示手段(C/E別)

売上だけの推移なら、Community版でも販売アプリ内の集計で確認できます。原価を含む粗利を損益計算書として出すには、Enterprise版の会計機能が前提です。

指標2:営業利益

定義

営業利益とは、粗利から販売費及び一般管理費を引いた利益のことです。

販売費及び一般管理費(販管費)は、人件費・家賃・広告費など、会社を運営するための費用を指します。粗利が「商品の強さ」なら、営業利益は「会社の稼ぐ力」です。

計算式

粗利 - 販売費及び一般管理費 で計算します。割合で見る場合は、営業利益 ÷ 売上高 です。

見るときの考え方

営業利益率にも、共通の目安はありません。人手が中心の事業と仕組みで回す事業では、費用の構造が違うためです。

見るべきは水準より方向です。粗利の伸びに、営業利益が付いてきているか。付いていなければ、損益構造の指標で販管費の中身を確かめます。

Odooのどのデータから作るか

元になるのは、会計データの費用側の記録です。人件費・経費・購買など、複数の経路から入った費用が集まって販管費になります。

表示手段(C/E別)

営業利益は、損益計算書そのものの数字です。財務諸表の出力はEnterprise版の会計機能の範囲のため、Community版だけでは出せません。Odooの会計機能の検討材料になります。

指標3:年計表(移動年計)

定義

年計表とは、直近12か月の合計を毎月更新して並べたグラフのことです。

移動年計とも呼ばれます。1つの点が12か月分の合計なので、季節の波は相殺され、方向だけが残る仕組みです。

計算式

当月を含む直近12か月の合計を出します。翌月になったら、いちばん古い月を落として新しい月を足す。これを毎月繰り返し、点を線でつなぎます。

見るときの考え方

読み方は単純です。右肩上がりなら伸びている。水平なら横ばい。右肩下がりなら縮んでいる。

注意点は2つあります。1つは、12か月分のデータがそろうまで作れないことです。

もう1つは、「大きな一時的取引の影響が、12か月間そのまま残る」ことです。大口案件があった月は、その後1年間ずっと年計を押し上げます。そして12か月が経つと、その分が一気に抜け落ちる。傾きが急に変わって見えたら、まず12か月前に何があったかを確認してください。

傾きについても、何%以上なら良いという基準は置きません。自社の過去の傾きと比べ、変化した時点を探します。

Odooのどのデータから作るか

元になるのは、会計データの月次の利益と、販売アプリの月次の売上です。月ごとに集計し、移動合計を出します。

表示手段(C/E別)

1つのアプリ内で完結する集計なら、Community版でも月次の推移は追えます。複数アプリを組み合わせるには、Enterprise版のスプレッドシート機能が前提です。

粗利・営業利益・年計表の傾きを並べると、何が分かるか

3つを別々に眺めず、年計の傾きどうしを比べます。粗利は伸びているのに営業利益が伸びない。売上は伸びているのに粗利が横ばい。両方が下がっている。組み合わせごとに、読み取れることが違います。

年計の傾きを組み合わせて読む 粗利の年計が伸びて営業利益が伸びない場合は販管費の増加、売上が伸びて粗利が横ばいの場合は単価か原価の変化、両方が下がる場合は事業構造の問題という3つの読み取り方を示した図。 年計の傾きを組み合わせて読む 粗利↑ 営業利益→ 販管費が粗利の 伸びを食っている 売上↑ 粗利→ 単価か原価に 変化が起きている 粗利↓ 営業利益↓ 一時的な不調でなく 構造の問題が進行 単月では判断できないことが、 年計の傾きを比べると判断できる
年計の傾きを組み合わせて読む

社内会議では、次の表をそのまま使えます。

傾きの組み合わせ起きている可能性があること次に確かめること
粗利の年計は上向き、営業利益の年計は横ばい販管費が粗利の伸びを食っている。投資が効いていない兆し販管費の内訳のうち、1年で増えた項目
売上の年計は上向き、粗利の年計は横ばい単価か原価のどちらかに変化が起きている値引きの増加か、仕入価格の上昇か
粗利も営業利益も年計が右肩下がり一時的な不調ではなく、事業構造の問題が進んでいる商品別・顧客別に、どこから縮んでいるか
どれかの傾きが急に変わった12か月前の大口取引が抜け落ちただけの場合がある12か月前の月に、特別な取引がなかったか

単月では判断できないことが、年計の傾きなら判断できる。3つを並べて見る価値は、ここにあります。

よくある2つの失敗

失敗1:営業利益だけを見て、粗利を見ない

営業利益が出ているから大丈夫、と考えてしまう例です。

しかし、粗利が下がっているのに、経費削減で営業利益を保っているだけかもしれません。削れる経費が尽きれば行き詰まります。2つは必ず並べて見てください。

失敗2:年計の傾きが変わった理由を確かめない

年計が下向きに変わると、事業が悪化したと考えがちです。

実際には、1年前の大口取引が抜けただけということもあります。傾きが変わったら、まず12か月前を確認する。この習慣で、誤判断を防げます。

利益の年計表を、経営会議で使えるようにするまで

年計表は、グラフを作れば終わりではありません。元の月次の数字が毎月同じ基準で確定していなければ、傾きそのものがゆがみます。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットが最初に確かめるのは、次の順番です。

  1. 月次の締めがそろっているか:年計は確定した12か月分の数字が前提です。月によって締めの時期や計上の基準がずれていないかを、まず確かめます。締めの流れは月次決算とは?目的・流れ・つまずきやすいポイントで解説しています。
  2. 売上原価の計上ルール:原価の計上が月をまたいでずれると、粗利の年計が揺れます。独自のルールを作り込む前に、Odooの標準の流れに業務を合わせられるかを検討します(Fit to Standard)。
  3. 過去の数字をどこまで持ち込むか:年計は12か月分がそろうまで描けません。導入直後から傾きを見たいなら、移行前の月次の数字をどう扱うかを先に決めます。
  4. 会議で見る順番:売上、粗利、営業利益の年計を順に見て、傾きが変わった指標だけを詳しく調べます。見える化の次に「なぜ変わったか」が分かる状態を作り、打ち手の議論につなげます。
  5. どの版・どの製品で足りるか:売上の推移だけならCommunity版でも追えます。損益計算書から粗利・営業利益を見るならEnterprise版の会計が前提です。拠点や事業が多く連結まで見たい規模なら、NetSuiteも比較に入れます。連結の考え方はグループ連結決算をNetSuiteで効率化にまとめています。

手元の会計ソフトと月次の集計で年計が十分に描けるなら、ERPの導入を急ぐ必要はありません。その場合は、そうお伝えします。

年計で利益を見る良い点と、気をつけること

年計表と粗利・営業利益を組み合わせる見方には、得られることと、先に知っておきたい負担があります。

良い点は、次の5つです。

  • 季節の波に惑わされない:直近12か月の合計を点にするので、波が相殺され、傾きだけが残る
  • どこが効いていないかを絞れる:粗利と営業利益の傾きを並べ、販管費が伸びを食っていないかを読める
  • 自社の過去と比べて判断できる:一律の目安に頼らず、傾きが変わった時点を探す
  • 月に一度の更新で足りる:数字が確定したら、いちばん古い月を落として新しい月を足す
  • 売上の推移から始められる:売上の推移なら、Community版でも販売アプリ内の集計で追える

気をつけることは、次の4つです。

  • 12か月分がそろうまで描けない:導入直後から見たいなら、移行前の月次の数字の扱いを先に決める
  • 一時的な取引の影響が1年残る:大口案件の月は年計を押し上げ、12か月後にその分が一気に抜け落ちる
  • 締めの基準がずれると傾きがゆがむ:月によって締めの時期や計上の基準がずれていないかを確かめる
  • 粗利と営業利益はEnterprise版が前提:損益計算書の数字を使うため、Enterprise版の会計機能が要る

両方を1枚の図に並べました。

年計で利益を見る良い点と、気をつけること 良い点は、季節の波に惑わされない、どこが効いていないかを絞れる、自社の過去と比べて判断できる、月に一度の更新で足りる、売上の推移から始められること。気をつけることは、12か月分がそろうまで描けない、一時的な取引の影響が1年残る、締めの基準がずれると傾きがゆがむ、粗利と営業利益はEnterprise版の会計が前提になること。 年計で利益を見る良い点と注意点 良い点 季節の波に惑わされない 直近12か月の合計で波が相殺される どこが効いていないかを絞れる 粗利と営業利益の傾きを並べる 自社の過去と比べて判断できる 一律の目安に頼らない 月に一度の更新で足りる 古い月を落とし、新しい月を足す 売上の推移から始められる Community版でも販売アプリで追える 気をつけること 12か月分がそろうまで描けない 移行前の数字の扱いを先に決める 一時的な取引の影響が1年残る 12か月後に一気に抜け落ちる 締めの基準がずれると傾きがゆがむ 締めの時期と計上の基準をそろえる 粗利・営業利益はEnterprise版 損益計算書は会計機能が前提 負担の多くは、導入前の確認で軽くなる
年計で利益を見る良い点と、気をつけること

負担の多くは、上の5つの確認で導入前に軽くできます。版ごとに何が見られるかは、Odooでの利益分析の対応範囲の表で確かめられます。

Odooでの利益分析の対応範囲(C/E別)

指標Community版Enterprise版
売上の推移販売アプリ内の集計で追える他データと組み合わせて分析できる
粗利(売上総利益)損益計算書としては出せない会計機能で確認できる
営業利益損益計算書としては出せない会計機能で確認できる
年計表(移動年計)1アプリ内の集計にとどまるスプレッドシートで横断グラフを組める

版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

よくある質問

年計表は、月次の推移グラフと何が違うのですか?

点にする数字が違います。月次の推移グラフで点になるのは、その月だけの実績です。年計表は直近12か月の合計を点にするため、波が相殺され、傾きだけが残ります。

粗利率や営業利益率の目安を教えてもらえますか?

一律の目安は、お示ししていません。業種・事業モデル・企業規模で適正水準が異なるためです。比べるべきは、自社の過去3期分ほどの推移と、中小企業庁などが公表する業種別の統計です。

Community版だけで、利益の見える化はどこまでできますか?

売上の推移なら、販売アプリ内の集計で追えます。粗利と営業利益は損益計算書の数字が必要なため、Enterprise版の会計機能が前提です。

年計表は、どのくらいの頻度で更新すべきですか?

月次で十分です。数字が確定したら、いちばん古い月を落として新しい月を足します。毎日見る指標ではなく、月に一度、傾きの変化を確かめる使い方が向いています。

年計表で利益を見るメリットとデメリットは何ですか?

季節の波に惑わされず傾きを読めることです。

直近12か月の合計を点にするので、単月の増減に一喜一憂しなくて済みます。粗利と営業利益の傾きを並べれば、販管費が伸びを食っていないかも分かります。
一方で、12か月分の数字がそろうまで描けず、大口案件の影響は1年残ります。避け方は年計で利益を見る良い点と、気をつけることにまとめました。

まとめ:利益の見える化は、波を消して傾きを見ること

利益の見える化は、数字を並べることではなく、波を消して傾きを見ることです。

粗利は、売上高から売上原価を引いた、商品そのものが生む利益。営業利益は、粗利から販管費を引いた、本業で稼いだ利益です。年計表は、直近12か月の合計を毎月更新し、季節変動を打ち消すグラフを指します。

判断には、一律の目安を使いません。自社の過去との比較と、傾きの向きで見ます。粗利と営業利益はEnterprise版の会計が前提で、売上の推移はCommunity版でも追えます。

1年後の閑散期の経営会議では、単月の落ち込みに誰も慌てていません。「粗利の年計は上向きだが、営業利益の年計が寝ている。この1年で増えた販管費はどれか」と、議論が一段先から始まっています。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「自社の利益を、どこまで年計で見える状態にできるか」という整理から、ご相談を承っています。月次の締めや原価の扱いに不安がある段階でも構いません。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次