期初の会議で、営業KPIを決めた。半年後の営業会議では、その数字が一度も話題に上らない。
月末になると、営業が記憶をたどって報告シートを埋めている。集計担当は、その数字を表計算ソフトに写して合計している。
指標が悪かったのではありません。数字が自然に集まる仕組みがなかっただけです。仕組みを変えれば、営業KPIは期の途中で手を打つための数字になります。
営業KPI(重要業績評価指標)は、立てた直後から形骸化に向かいます。防ぐ手は、KPIのための入力を別に作らないこと。営業が自分の仕事のために行う操作を、そのまま指標の元データにします。これを「行動指標をCRMに埋め込む」と呼びます。
段階を動かす、活動を記録する、次のアクションを登録する。この操作だけで、商談数や接点の回数が別入力なしで集まります(「行動指標をCRMに埋め込む」とは)。
埋め込む設計に変えると、たとえば次のことが変わります。
- 月末に報告シートを埋める時間がなくなる
- 担当者ごとの件数や金額を、集計係なしでその場で見られる
- 「次回アクションのない商談」が見え、止まった案件に気づける
- 未達のとき、行動の量か進め方かを切り分けて話せる
ただし、営業の進め方が独特で、標準の段階管理にどうしても乗らない会社もあります。その場合は無理にOdooに合わせず、別の選択肢も含めて考えます。
では、どの行動を指標に選べばよいのか。基準はどの行動を指標にするかに、良い点と注意点は行動指標を埋め込む良い点と、気をつけることにまとめました。
CommunityとEnterpriseの区別について
商談の段階管理や活動の記録といったCRM(顧客・商談の管理)の基本機能は、Community版でもEnterprise版でも使えます。複数アプリ横断の集計と人事評価はEnterprise版が前提です。
なぜ営業KPIは形骸化するのか
形骸化は、やる気の問題ではありません。指標の置き方から生まれる、構造的な現象です。理由は3つあります。
理由1:報告のために数字を作るようになる
訪問件数を追われると、件数を満たすための訪問が増えます。数字は達成されても、成果にはつながらない。
理由2:入力が別作業になっている
3つのうち、いちばん重い理由がこれです。営業活動とは別に「KPIのための入力」が発生している会社は少なくありません。
別作業は後回しになります。月末に記憶をたどって埋めた数字は、実態を映さない。
集計も同じです。誰かが表計算ソフトに数字を写して合計する形では、更新は月に一度が限度。数字は常に過去のものになります。
理由3:見ているのが上司だけ
本人が自分の数字を見られないと、上司に提出するためだけの数字になります。管理のための数字は、管理が緩んだとたんに止まる。
「今期の目標って、何でしたっけ」。期の途中でそう聞かれる会社は、この状態にあります。
期初に決めた数字が次に話題に上るのは、期末の面談です。その間は誰も見ていません。本人の意識が低いのではなく、進捗を確かめる手段がないだけです。
自社の営業KPIは形骸化していないか
次の項目のうち、2つ以上当てはまれば、形骸化が始まっている可能性があります。経営会議で、営業責任者と一緒に見てみてください。
- □ CRMとは別に、KPI報告用のシートや日報の様式がある
- □ KPIの数字がそろうのは、月末か会議の前だけである
- □ 営業担当者が、自分の今月の進捗をその場で答えられない
- □ 目標未達の理由を聞くと、「頑張りが足りなかった」で話が終わる
- □ KPIの数字を集めて合計する担当者が決まっている
KPIとKPAの違いと、分けて考える理由
形骸化を防ぐ第一歩は、指標を2種類に分けることです。
KPI(重要業績評価指標)は、結果を測る数字。受注件数や受注金額がこれにあたります。
KPA(重要業績活動指標)は、結果につながる行動の数字です。商談数、訪問件数、提案件数がこれにあたる。
KPIだけを追うと、未達のときに打つ手がありません。
KPAを併せて見ると、原因を2つに切り分けられます。行動の量が足りないのか、行動はしているが決まらないのか。前者は活動量、後者は提案内容の問題です。この切り分けで、期中に修正できるかどうかが分かれます。
決める順番は、先にKPI、次にKPA。達成に必要な行動を逆算してKPAを置く。逆にすると、成果につながらない行動が指標になります。
少ない人数で営業を伸ばす仕組みの考え方は、営業は、人数ではなく「仕組み」で伸ばすにも書いています。
「行動指標をCRMに埋め込む」とはどういうことか
埋め込むとは、KPIのための入力を別に作らないことです。営業活動を記録すれば、結果としてKPIが集まる状態にします。
商談を進めたら、段階を動かす
商談には、初回接触・提案・見積提示・クロージングといった段階があります。営業は自分の案件を管理するために、この段階を動かす。
このとき、段階ごとの件数は自動で数える対象になります。商談数が、別入力なしで集まるわけです。
訪問や連絡をしたら、活動として記録する
訪問や電話のやり取りを、その商談にひもづけて残します。次に何を話すかを思い出すため、営業自身が必要とする記録です。たまれば、接点の回数が自動で集まる。
次にやることを登録する
商談ごとに、次のアクションと予定日を登録します。自分のタスク管理のための操作です。
同時に「次回アクションのない商談」が見えてきます。止まった案件の検知が、そのまま指標になる。
つまり、営業が自分の仕事のためにやる操作が、そのままKPAの元データになる。これが「埋め込む」の意味です。
逆に、CRMとは別に報告用のシートを作らせている会社は、この設計ができていません。基本はCRMで何が変わるかにまとめました。
どの行動を営業の行動指標(KPA)にするか
行動なら何でも指標にしてよいわけではありません。基準は3つあります。
基準1:本人が自分で動かせる数字であること
受注件数は相手の都合で決まりますが、提案件数は自分で決められます。動かせない数字では、努力が報われない。
基準2:記録が自然に残る行動であること
その行動が、業務の流れの中で記録される形になっているか。別途入力が必要な行動は、重要でも続きません。
基準3:成果との関係が説明できること
なぜその行動が受注につながるのかを、本人に説明できるか。ここが弱いと、理由が分からないまま入力させることになります。
3つの基準は、候補の行動を並べて表にすると判断しやすくなります。
| 候補の行動 | 本人が動かせるか | 記録が自然に残るか | 成果との関係を説明できるか |
|---|---|---|---|
| 提案件数 | 動かせる | 商談の段階を進めれば残る | 提案なしの受注はまれ、と説明できる |
| 訪問件数 | 動かせる | 活動として記録すれば残る | 段階の進み方と併せて見れば説明できる |
| 受注件数 | 相手の都合に左右される | 残る | KPI(結果)として扱う |
| 名刺交換の枚数 | 動かせる | 別途の入力が必要になりやすい | 説明しにくい |
Odooで行動指標を扱うときの版の違い
行動指標を集めるところまでは、CRMの基本機能の範囲です。版の差は、数字をどこまで横断して使うかに出ます。
| やりたいこと | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 商談の段階を管理する | 使える | 使える |
| 訪問・連絡を活動として記録する | 使える | 使える |
| 1つのアプリ内で一覧・ピボット集計 | 使える | 使える |
| 営業の行動と受注・請求を横断集計 | 対象外 | スプレッドシート機能で対応 |
| 行動指標を人事評価・目標管理につなぐ | 対象外 | 対応 |
なお、版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
Odooで行動指標をCRMに埋め込む良い点と、気をつけること
埋め込む設計をOdooで進めると、得られることと、先に知っておきたいことは次のとおりです。
良い点
- 報告用の入力が要らない:段階を動かす・活動を記録する・次のアクションを登録する。営業自身の操作が、そのままKPAの元データになる
- 止まった案件が見える:次のアクションと予定日を登録すると、「次回アクションのない商談」が見えてくる
- 基本はCommunity版でも使える:商談の段階管理、活動の記録、1つのアプリ内の一覧・ピボット集計は、どちらの版でも使える
- 集計係が要らない:担当者と期間で絞り込むだけで、件数や金額をその場で集計できる
- 他部門へ同じ型で広げられる:営業で型ができていれば、製造オーダーなど他部門のアプリでも同じ設計を作れる
気をつけること
- 横断集計と人事評価はEnterprise版:営業の行動と受注・請求の横断集計はスプレッドシート機能で対応。人事評価・目標管理につなぐのもEnterprise版
- Community版は保守を自社で担う:段階管理から1アプリ内の集計までは使えるが、保守は自社の責任になる
- 評価と直結させるのを急がない:見える化した数字をすぐ査定に使うと、記録が控えめになり実態から離れる
- 標準の段階管理に乗らない営業もある:進め方が独特なら、無理にOdooに合わせない
両方を並べると、次の図のとおりです。
評価との順番や報告シートの扱いはよくある3つの失敗で、進め方はベンチャーネットが最初に確かめることで説明しています。
経営層が全社の数字を1画面で見渡す話は、社長のコックピットをOdooで作るで扱っています。この記事の主題は、営業をはじめとする現場の一人ひとりの手元です。
指標は「管理のため」から「本人のため」へ
KPIは、設計しても人が動かなければ意味がありません。
数字で人を管理しようとすると、人は数字を作る。置かれた構造への、自然な反応です。
避けるには、その数字が本人の役に立つ形で返ることが必要になります。条件は次の3つ。
- 自分の進捗を、自分でいつでも見られる
- うまくいっている人のやり方が、数字の形で共有される
- 評価が結果だけでなく、行動のプロセスも見ている
3つ目は制度の話ですが、上の2つは仕組みで用意できます。
「管理のための指標」から「本人のための指標」へ。形骸化を防ぐ道は、ここにしかありません。作ったのに誰も見ない数字にしないための回し方は、KPIダッシュボードの作り方と回し方でも扱っています。
営業を起点に、部門単位へ広げる手順
KPIが形骸化する構造は、営業に限りません。製造部の納期遵守率でも、同じことが起きます。
期初に決め、月次会議の前だけ集計し、資料を見るのは管理職だけ。この構造は部門を問わず同じです。だからこそ、営業で「埋め込む」設計が回り始めたら、同じ型を他部門へ広げられます。
広げたときに変わるのは2点です。日々の業務記録がそのまま数字になること。そして、本人がいつでも進捗を見に行けること。違いは数字の精度ではなく、誰がいつ見られるかにあります。手順は3段階です。
手順1:まず1つのアプリの中で始める
商談や案件の記録を1か所に集めれば、担当者ごとの件数や金額はその場で集計できます。担当者と期間で絞り込むだけなので、集計係は要らない。
営業ならCRM、製造なら製造オーダー、というように、部門ごとに1つのアプリから始めます。
手順2:KPAを行動の記録から拾う
訪問や提案の記録を、商談情報に紐づけて残すよう決めておきます。行動量が自然に数字になり、結果の数字と並べられる。「埋め込む」設計を、部門ごとに一度ずつ作る工程です。
手順3:目標値と並べて、部門単位に広げる
各人の目標値を登録し、実績と並べて表示します。自分がどのあたりにいるかを本人が知っていれば、期の途中で手が打てる。
ここまで来ると、複数アプリの数字を1画面にまとめたくなります。その段階で、Enterprise版のスプレッドシート機能が必要です。
順番を守る理由は1つ。最初から全社版を作らず、1アプリ・1チームから始めるためです。営業で型ができていれば、他部門は真似をするだけで済みます。
AIで代替できる工程もあります。目標に届きそうにない項目を、数字の動きから早めに拾い上げる部分です。AIによる傾向の読み取りで、人手を減らせる余地がある。
見える化の基本の考え方は、経営の見える化の基本にまとめています。
営業KPIの設計で、ベンチャーネットが最初に確かめること
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。そのため営業KPIの相談でも、製品選びより先に確かめることがある。順番は次のとおりです。
ステップ1:今の報告シートを1枚ずつ見せてもらう
最初に見るのは、指標の一覧ではなく、営業が月末に埋めている報告シートや日報。どの数字が、誰の手で、いつ入力されているかを調べます。別作業になっている入力が、形骸化の出発点だからです。
ステップ2:KPIを1つに絞り、KPAを逆算する
その会社がいちばん伸ばしたい結果の数字を、経営者と一緒に1つ決めます。そこから、達成に必要な行動を2つ前後まで逆算する。行動指標を選ぶ3つの基準に照らし、記録が自然に残らない行動は外します。
ステップ3:営業の操作だけで数字がそろうかを見る
段階を動かす、活動を記録する、次のアクションを登録する。この3つの操作で、決めたKPAが集まるかを確かめます。標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方で、作り込みは最小にします。
ステップ4:1チームで回し、誰が見に行っているかを確かめる
まず1つのチームで回してみる。数字が集まったかだけでなく、営業本人が自分の数字を見に行っているかを確かめます。見に行っていなければ、指標か見せ方を見直す。
ステップ5:合わない部分は、合わないと伝える
営業の進め方が独特で、標準の段階管理にどうしても乗らない場合もあります。その場合は無理にOdooに合わせず、別の選択肢を含めて率直にお伝えします。AIスクラッチ開発はライセンス費がかからない一方、開発費・保守費が別途かかる。その点も含めて比べます。
よくある3つの失敗
失敗1:指標を増やしすぎる
網羅しようとして10個以上のKPAを並べるケースです。現場は優先順位が分からなくなる。1人あたりKPI2つ・KPA2つ程度から始めてください。
失敗2:CRMの外に報告用のシートを残す
CRMを入れたのに、従来の報告フォーマットを残すケースです。入力先が二重になり、負担が増えます。
報告資料はCRMの数字から作る。会議を軽くする考え方は営業会議をなくす発想にまとめています。
失敗3:評価と直結させるのを急ぐ
見える化した数字を、すぐ査定に使うケースです。記録が控えめになり、数字が実態から離れていきます。
最初は「自分で気づくための数字」と位置づけ、使い方を先に合意する。評価との接続は、仕組みが定着してからで十分です。
「本人のため」の指標の条件の3つ目「評価がプロセスも見ている」は、この順番を守って初めて成り立ちます。数字が正直に残る状態を先に作り、評価はその後に乗せる。評価の基準そのものを言葉にする進め方は、人事評価制度がない会社の作り方に書いています。
よくある質問
KPIとKPAは、どちらを先に決めればよいですか?
先にKPIです。達成に必要な行動を逆算して、KPAを置きます。逆にすると、成果につながらない行動が指標になります。
営業KPIは何個くらい設定するのが適切ですか?
少なく絞るのが適切です。明確な正解はありませんが、多いほど良いものではありません。まず絞り、運用しながら見直してください。
訪問件数をKPAにするのは間違いですか?
間違いではありません。問題は、単独で追う場合です。商談の段階が進んだかと併せて見れば、質を判断できます。
Community版だけでも行動指標の管理はできますか?
できます。商談の段階管理、活動の記録、1つのアプリ内での集計まで可能です。ただしCommunity版は、保守を自社で担う前提です。
営業担当者の入力が定着しないときは、どうすればよいですか?
まず、入力が営業活動と別作業になっていないかを確認してください。あわせて、結果が本人に返っているかを見ます。
目標未達のときに、数字を見せると空気が悪くなりませんか?
KPIだけでは、責める会話になりがちです。KPAを並べれば「行動を増やすのか、進め方を変えるのか」という打ち手の話に移せます。
数字が毎日更新されると、現場が疲れませんか?
見に行く回数を決めておけば、疲れにくくなります。更新頻度より、見に行く回数の設計が大事です。週に一度、自分の数字を確認する時間を決めれば十分です。
営業以外の部門にも、同じ設計は使えますか?
使えます。構造は部門を問わず同じです。ただし最初から全社で始めず、営業など1つの部門で型を作ってから広げてください。
行動指標をCRMに埋め込む良い点と注意点は何ですか?
報告用の入力は要らなくなりますが評価との直結は急がないでください。
段階を動かす・活動を記録する・次のアクションを登録する操作が、そのままKPAの元データになります。基本はCommunity版でも使えます。一方、受注・請求との横断集計や人事評価との連携はEnterprise版が前提です。見える化した数字をすぐ査定に使うと、数字が実態から離れていきます(良い点と、気をつけること)。
まとめ
営業KPIの形骸化は、指標の中身ではなく集める構造から生まれます。
- 営業KPIは、立てた直後から形骸化に向かう
- 最大の原因は、KPIのための入力が別作業になっていること
- 結果を測るKPIと行動を測るKPAを分けると打ち手が見える
- 「埋め込む」とは、自分のためにやる操作を指標の元データにすること
- 選ぶ行動は、本人が動かせて、記録が残り、成果との関係を説明できるもの
- 部門へ広げるときは、1アプリ・1チームから始め、評価との直結を急がない
指標の設計は一度で終わりません。誰も見ない数字が残っているなら、構造を見直す時期です。
1年後、月末に報告シートを埋める時間は消えています。営業会議では、担当者が自分の商談の段階を見ながら「次回アクションのない商談に、今週中に手を打ちます」と話し始めます。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「営業KPIを決めたが、数字が集まらないまま形だけ残っている」という整理から、ご相談を承っています。今お使いの報告シートを1枚お持ちいただければ、話が早く進みます。
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