Odooのアクセス権限設計|役割に権限を与え、人事異動を設定1回で済ませる

「給与の一覧、たぶん全員が開けてしまいます」。管理部門の責任者から、こう打ち明けられることがあります。悪意で設定した人はいません。導入時に全員へ開放し、絞り込みが後回しになっただけです。

異動のたびの設定作業も、よく聞く悩みです。4月に何人か動くと、5つのシステムを順に開き、同じ人の権限を1件ずつ直す。直し漏れが出れば、前の部署の情報が見えたまま残ります。

原因は担当者の注意力ではなく、権限を「人」に直接与えている構造にあります。Odoo(オドゥー)では、権限を役割に与え、人は役割に所属させます。そうしておけば、異動で触るのは所属だけです。権限の仕組みは、無料のCommunity版と有償のEnterprise版で共通です(アクセス権限の対応範囲)。

役割で権限を管理すると、たとえば次のことが変わります。

  • 営業から経理へ移る人は、所属の付け替えだけで見える情報が入れ替わる
  • 兼務の人も、専用の設定を作らずに複数の役割で扱える
  • 人事の機能と合わせれば、異動の記録と権限を1本の流れで扱える
  • 辞令が出たその日のうちに、管理部門の担当者が所属を付け替え終える

ただし、役割を細かく作りすぎると、どれを付ければよいか分からなくなります。版で分かれるのは、止まったときに誰が復旧するかという運用面です。

では、役割はどの粗さで作り、何から絞ればよいのか。答えは始めるときの注意点と点検リストと、権限を役割に組み替えるまでの進め方にあります。

CommunityとEnterpriseの区別について

アクセス権限や認証の基本的な仕組みは、Community版(無料)とEnterprise版(有償)で共通です。差が出るのは、ホスティング・バックアップ・障害対応を誰が担うかという運用面です。

目次

こんな場面はありませんか

経理の担当者が退職し、後任が決まりました。ところが前任者のアカウントは残ったままで、支払データも開けます。誰が消してよいか分からず、放置されています。

営業から管理部門へ移った社員は、必要な情報にまだ届きません。それでいて、前の部署の商談は見えたまま。「見せたい人に見せられていない」と「見せたくない人に見えている」が、同時に起きています。

異動が起きたとき、何を直すことになるか 権限を一人ひとりに設定している状態では、システムの数だけ直す必要があり、直し漏れが残り続ける。権限を役割に設定してつながった状態では、所属を付け替えるだけで、直す場所は1か所になる。 異動が起きたとき、何を直すか いまの状態 権限は一人ひとりに設定 システムの数だけ直す → 直し漏れが残り続ける つながった状態 権限は役割に設定 所属を付け替えるだけ → 直す場所は1か所 人が動いても設定が動かない形に しておくのが、手間を減らす近道
権限を人に付けた場合と役割に付けた場合の違い

なぜ異動のたびに権限設定の手間が生まれるのか

理由1:権限が個人に紐づいている

「この人には経理の情報を見せる」という設定だと、その人が動いた時点で直す対象になります。人数が増えるほど、直す件数も増える。

理由2:同じ作業を複数のシステムで繰り返している

販売、在庫、勤怠が別々のシステムなら、権限の置き場所も別々です。1人の異動で同じ判断を何度も繰り返すので、どれか1つを忘れます。情報を束ねる話は、「組織化」の考え方とも重なります。

理由3:「まず全員に開放」から始めている

立ち上げを急ぐと、全員に広く見せる設定のまま走り出しがちです。あとで絞ろうにも、「閉じると誰の仕事が止まるか」が分からない。そのため、手が付けられません。

Odooのアクセス権限は役割で管理する

権限は人ではなく役割に与え、人は役割に所属させる。こうしておけば、異動のときに触るのは所属だけです。

役割を先に決める

「経理」「営業」「倉庫」といった役割を用意します。それぞれが見てよい情報と、作成・修正してよい範囲を決めます。人事の話ではなく、業務の話として決めるものです。

人を役割に所属させる

一人ひとりを、あてはまる役割に紐づけます。兼務の人には複数の役割を持たせ、個別の例外設定はできるだけ作りません。

異動は所属の付け替えだけで終わる

営業から経理へ移る人は、営業の役割を外し、経理の役割を付ける。それだけで、見える情報と見えなくなる情報が同時に入れ替わります。従業員の情報を人事の機能で持っておけば、異動の記録と権限を1本の流れで扱えます。

設定1回で済むようにする手順 役割を決める、人を役割に所属させる、異動時は所属を付け替える、という3段階で権限設計が完結する。最初に役割を整理しておくほど、あとの運用が軽くなる。 設定1回で済むようにする手順 ① 役割を決める 経理・営業・倉庫など 見える範囲を先に定義 ② 人を所属させる 個別の例外は作らない 兼務は複数の役割で ③ 異動は付け替え 外して、付けるだけ 見える範囲も同時に変わる 最初に役割を整理しておくほど、 あとの運用が軽くなる
役割に権限を与える3つのステップ

最初に役割を整理しておくほど、あとの運用は軽い。

AIで代替できる工程:いま誰にどの権限が付いているかを書き出し、役割ごとに束ね直す下ごしらえです。AIによる分類や整理案の作成で、人手を減らせる余地があります。AIそのものに社内のデータをどこまで見せるかは、AIに会社のデータを、どこまで渡すかで扱っています。

アクセス権限の対応範囲(C/E別)

項目Community版Enterprise版
役割ごとの権限設定使える使える
ログイン認証の基本機能使える使える
従業員台帳の基本情報使える使える
ホスティング・バックアップ自社で用意して運用するOdooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べる
障害時の公式サポート対象外含む

版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

「セキュリティが不安だからEnterprise版」と考える方は多いのですが、権限の仕組み自体は共通です。分かれるのは、止まったときに誰が復旧するか。セキュリティとバックアップの考え方もあわせて見ておくと、判断しやすくなります。

役割で権限を管理する良い点と、気をつけること

権限を役割に与えたときの良い点と注意点は、次のとおりです。使える版は、項目ごとに添えています。

良い点

  • 異動は所属の付け替えで済む:前の役割を外して新しい役割を付ければ、見える情報と見えなくなる情報が同時に入れ替わる
  • 直す場所が1か所になる:システムの数だけ同じ人の権限を直す作業がなくなり、直し漏れが残りにくい
  • 兼務も役割の組み合わせで扱える:1人に複数の役割を持たせ、その人専用の例外設定を作らない
  • 仕組みは両版で共通:役割ごとの権限設定とログイン認証の基本機能は、Community版でもEnterprise版でも使える

気をつけること

  • 役割を細かく作りすぎない:20も30も作ると、どれを付ければよいか分からなくなる。部署の数くらいの粗さで始める
  • 見せすぎから先に直す:見えすぎは誰も報告してくれない。給与や取引条件など、外に出ると困る情報から範囲を決める
  • 運用を始めてから絞るのは手間:業務の流れを決めた直後に設計し、3〜5年後の組織図でも耐えられるかを見る
  • Community版は運用を自社で担う:ホスティング・バックアップを自社で用意し、障害時の公式サポートは対象外

両方を並べると、次の図のとおりです。

役割で権限を管理する良い点と、気をつけること 良い点は、異動は所属の付け替えで済む、直す場所が1か所になる、兼務も役割の組み合わせで扱える、権限の仕組みは両版で共通であること。気をつけることは、役割を細かく作りすぎない、見せすぎから先に直す、運用を始めてから絞るのは手間、Community版は運用を自社で担うこと。 役割で権限を管理する良い点と注意点 良い点 異動は所属の付け替えで済む 見える情報が同時に入れ替わる 直す場所が1か所になる 直し漏れが残りにくい 兼務も役割の組み合わせで扱える その人専用の例外設定を作らない 仕組みは両版で共通 役割ごとの権限設定とログイン認証 気をつけること 役割を細かく作りすぎない 部署の数くらいの粗さで始める 見せすぎから先に直す 給与や取引条件から範囲を決める 運用を始めてから絞るのは手間 業務の流れを決めた直後に設計する Community版は運用を自社で担う ホスティング・バックアップは自社 版で分かれるのは、止まったときに誰が復旧するか
役割で権限を管理する良い点と、気をつけること

注意点への手の打ち方は、権限設定を始めるときの注意点と点検リストと権限を役割に組み替えるまでの進め方で説明しています。

権限設定を始めるときの注意点と点検リスト

注意1:役割を細かく作りすぎない

正確さを求めて役割を20も30も作ると、どれを付ければよいか分からなくなる。部署の数と同じくらいの粗さで始め、運用しながら足すほうが定着します。

注意2:「見えない」より「見せすぎ」を先に直す

「これが見られない」という声はすぐ上がり、すぐ直せます。危ないのは逆で、見えすぎは誰も報告してくれません。給与や取引条件など、外に出ると困る情報から範囲を決めてください。

会議で使える点検リスト

次の項目に2つ以上当てはまれば、役割への組み替えを検討する時期です。

  • □ 異動や入退社のたびに、2つ以上のシステムで権限を直している
  • □ 退職者のアカウントを、誰がいつ止めるか決まっていない
  • □ 給与や取引条件を開ける人の一覧を、すぐに出せない
  • □ 兼務のたびに、その人専用の設定を作っている
  • □ 「全員に開放」のまま、見直した記録がない

権限を役割に組み替えるまでの進め方

ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、権限設計を「ITの設定」ではなく、「誰に何を任せるか」を決める経営の作業として扱います。進める順番は、最初の打ち合わせから次のとおりです。

  1. 見せすぎの棚卸し:給与・原価・取引条件など、外に出ると困る情報を先に挙げます。いま誰が開けるかを書き出すところから始めます。
  2. 標準の役割に業務を当てる:Odooに最初からある権限の区分に、業務を合わせられるかを確かめます。Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で、独自の設定を増やしません。
  3. 3〜5年後の組織図で試す:拠点や部署が増えた姿を置き、役割の粒度が耐えられるかを見ます。今の組織図だけで決めると、数年で作り直しになります。
  4. 異動1件で通し稽古:本番の前に、実際の異動を1件想定して所属を付け替えます。見えるべき情報が見え、消えるべき情報が消えるかを、管理部門の方と一緒に確かめます。

進める中で、Odooの権限の区分では業務に合わないと分かれば、NetSuiteやAIスクラッチ開発も含めて、そのままお伝えします。AIスクラッチ開発は、ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかる点も含めて比べます。詳しい考え方は、Fit to Standardの解説にまとめました。規模が大きく、職務分掌まで求められる会社でNetSuiteを比べる場合は、NetSuiteの権限・ロール設計が参考になります。

よくある質問

権限の設計は、導入のどの段階でやるべきですか?

業務の流れを決めた直後が向いています。運用が始まってから絞り込むのは、手間がかかるからです。

兼務が多い会社でも役割で管理できますか?

できます。1人に複数の役割を持たせ、兼務ごとに専用の役割を作らないことがコツです。

Community版だとセキュリティ面で不利になりますか?

権限や認証の基本的な仕組みは、両版で共通しています。差が出るのは更新やバックアップを自社で担うかどうかです。

退職者のアカウントはどう扱えばよいですか?

すぐ削除せず、ログインだけ止めて記録は残す方針が扱いやすいです。過去の伝票の担当者が空欄になるのを防げます。

Odooで権限を役割ごとに設定するメリットと注意点は何ですか?

異動のときに所属を付け替えるだけで済むことです。

権限を役割に与え、人を役割に所属させれば、見える情報と見えなくなる情報が同時に入れ替わります。兼務の人には、複数の役割を持たせます。

一方で、役割を細かく作りすぎると、どれを付ければよいか分からなくなります。見えすぎは誰も報告してくれないため、給与や取引条件から範囲を決めてください(良い点と気をつけること)。

まとめ:アクセス権限は役割に与え、異動は所属の付け替えで済ませる

  • 異動のたびに設定が発生するのは、権限が人に付いているから
  • 役割に権限を付けておけば、異動は所属の付け替えで済む
  • 権限と認証の基本の仕組みは、Community版とEnterprise版で共通
  • 分かれるのはホスティングや障害対応といった運用面

役割の整理は、着手した日に片づく作業ではありません。それでも一度形にすれば、次の異動から手間は目に見えて減ります。1年後の4月、辞令が出たその日の夕方に、管理部門の担当者が所属を付け替えて定時に帰る。5つのシステムを開いて回る残業は、もう起きていないはずです。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「いまの権限設定を、どの粒度の役割に整理し直せばよいか」という整理から、ご相談を承っています。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次