経理のベテランが1週間休んだだけで、請求書の発行が止まる。
見積の値引きは営業部長の頭の中にしかなく、部長が出張中だと回答が翌週になる。「この業務、あの人にしか分からない」。特定の担当者の経験とやり方に業務が頼っている状態を、属人化と呼びます。
仕組み化は、その反対です。業務のやり方を人の頭の中から取り出し、誰が担当しても同じ結果になる手順として残します。中小企業の経営を「つなぐ」10の視点のひとつにも数えている考え方です。
Odooの各アプリには、業務の標準的な流れがあらかじめ組み込まれています。この流れに業務を合わせることで、手順を仕組みにしていきます(Odooの標準プロセスで仕組み化する3ステップ)。
仕組み化が進むと、たとえば次のことが変わります。
- 担当者が休んでも、業務が止まりにくくなる
- 新人に、教える人によって変わらない手順を渡せる
- 金額の大きい取引を誰が承認したか、後から追える
- ベテランが、判断の要る仕事に時間を使える
ただし、標準の流れにどうしても乗らない業務が多い場合は、Odooにこだわらない進め方もあります。良い点と負担は、Odooで仕組み化を進める良い点と、気をつけることに並べました。
では、何十とある業務のうち、どこから手をつければよいのか。答えは、全部を洗い出すことではありません(ベンチャーネットが仕組み化で最初に確かめること)。
CommunityとEnterpriseの区別について
業務の承認フローなど一部の仕組み化機能は、Enterprise版(有償)が対象です。Community版(無料)では、各アプリの基本的な業務の流れまでが利用できます。
「仕組み化」とは何か
「仕組み化」とは、業務のやり方を、特定の人の頭の中ではなく、誰もが同じように実行できる手順として残すことです。
属人化は「あの人がいないと回らない」状態を指します。仕組み化は「誰が担当しても同じ結果になる」状態です。
仕組み化は、人を否定する取り組みではありません。人の頭の中にあった業務を、会社の資産に変える取り組みです。
属人化が生む5つの問題
問題1:担当者が休むと、業務が止まる
引き継ぎ資料がないため、休みや退職のたびに周囲が混乱します。
問題2:新人の育成に時間がかかる
手順が言葉になっていないので、新しい担当者は先輩の仕事ぶりを見て覚えるしかありません。
問題3:品質にばらつきが出る
同じ業務でも、担当者によってやり方が違えば、結果の品質もばらつきます。
問題4:改善のしようがない
手順が見えていなければ、どこに無駄があるかを客観的につかめません。
問題5:不正やミスに気づきにくい
承認や確認のプロセスが決まっていないと、チェックが働かない。問題の発見は遅れます。
そのまま1年続けると、どこで詰まるか
属人化が怖いのは、問題が起きるまで誰も困らないことです。回っているうちは、むしろ効率的にすら見えます。
最初に問題が見えるのは、採用したときです。新しく入った人に仕事を渡そうとして、渡せるものが何もないと気づく。手順が人の頭の中にあるため、教えるたびに説明が少しずつ違ってしまいます。
次に来るのが、休めない状態です。休むと止まる業務がひとつでもあれば、その担当者は長期の休暇を取りづらくなります。本人の負担であり、同時に会社の弱点でもあります。
いちばん重いのは、引き継ぎの局面です。退職や異動が決まってから手順を書き出すのでは、期間が足りません。抜けたまま気づかれない処理が残ります。辞める人が出てから始めても、仕組み化は間に合いません。社長自身の頭の中にある判断を引き継ぐ場面は、事業承継を「見える化・仕組み化」で進めるで取り上げています。
自社の属人化度チェック
経営会議でそのまま使えるよう、当てはまるものに印を付けてみてください。
- □ 1週間不在になると、止まる業務がある担当者がいる
- □ 値引きや支払条件など、判断の基準が文書になっていない
- □ 同じ業務なのに、担当者によって書式や手順が違う
- □ 新人に教える内容が、教える人によって変わる
- □ 金額の大きい取引や在庫の廃棄を、誰が承認したか後から追えない
- □ 業務の手順書が、最後にいつ更新されたか分からない
印が付いた項目が、仕組み化の候補です。印が多いほど、退職や急な休みが出る前に優先して取り組む価値があります。
Odooの標準プロセスで仕組み化する3ステップ
ステップ1:業務の流れを、いま一度書き出す
まず、対象業務の現状の流れを言葉にします。洗い出すのは、誰が、何を、どの順番で行っているかです。部署をまたぐ流れを1枚にまとめる手順は、業務フローの書き方で紹介しています。
ステップ2:標準機能の業務フローに合わせる
Odooの各アプリには、業務の標準的な流れがあらかじめ組み込まれています。現状のやり方をそのままシステムに移すのではなく、「標準の流れに業務を合わせる」という発想が重要です。
この進め方が、Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)です。詳しくはOdooとFit to Standardで解説しています。
ステップ3:承認や確認が必要な工程に、仕組みを組み込む
金額の大きな取引や在庫の廃棄など、確認が必要な工程には承認フローを設定します。誰かの「大丈夫だろう」という判断に頼らず、仕組みとして確認が入るようにするためです。
ベンチャーネットが仕組み化で最初に確かめること
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、仕組み化をシステムの設定作業ではなく、経営の弱点をふさぐ取り組みとして扱います。最初の1か月は、次の順で確かめます。
- 「この人が休んだら止まる業務」を3つに絞る。全部を洗い出す必要はありません。止まったときの影響が大きい順に3つ選べば、翌週から動けます。
- その3つの手順を、担当者に5行だけ書いてもらう。作り込んだマニュアルは要りません。5行あれば、他の人が最初の一歩を踏み出せます。
- 書いた5行のとおりに、別の人が一度やってみる。詰まった場所こそが、本当に暗黙知になっている部分です。そこだけを書き足せば、手順書は使えるものになります。
- 詰まった部分を、Odooの標準の流れと照らし合わせる。標準に寄せられる部分と、自社固有として残す部分を仕分けます。承認が要る工程は、Enterprise版を前提にするかどうかもここで判断します。
冒頭の「どこから手をつけるか」の答えは、1つ目の「3つに絞る」です。
標準の流れにどうしても乗らない業務が多い場合は、Odooにこだわらず、別の進め方も含めて率直にお伝えします。
Odooで仕組み化を進める良い点と、気をつけること
標準の流れに業務を合わせる進め方には、得られることと、先に覚悟しておきたい負担があります。
良い点は、次の5つです。
- 休んでも業務が止まりにくい:手順が担当者の頭の中ではなく、システムと手順書に残る
- 新人に手順を渡せる:教える人によって説明が変わらず、先輩の仕事ぶりを見て覚えるだけにならない
- 品質がそろいやすい:誰が担当しても同じ手順で進むので、結果のばらつきが小さくなる
- 確認が仕組みで入る:金額の大きな取引や在庫の廃棄に承認フローを設定できる(Enterprise版)
- ベテランが判断の仕事に時間を使える:定型の作業を手順に任せ、判断が要る部分には裁量を残せる
気をつけることは、次の4つです。
- 今のやり方を変える場面が出る:標準に寄せられる部分と、自社固有として残す部分を仕分ける
- システムだけでは定着しない:運用ルールが共有されないと、各自のやり方に戻る。手順書とセットで運用する
- 承認フローはEnterprise版が前提:Community版で使えるのは、各アプリの標準業務フローまで
- 辞める人が出てからでは遅い:退職や異動が決まってから手順を書き出しても、期間が足りない
両方を1枚の図に並べました。
どの業務から始めるかは、自社の属人化度チェックで印が付いた項目が候補になります。
この視点をOdooで実装する記事
仕組み化には、標準に合わせる方針と、現場に定着させる工夫の両方が必要です。
| 記事 | 何が分かるか | どんな会社向けか |
|---|---|---|
| OdooとFit to Standard | 標準機能に業務を合わせるという考え方 | 作り込みで費用が膨らんできた会社 |
| Odooの承認ワークフロー | 申請と承認を仕組みとして回す方法 | 承認が口頭やメールで流れている会社 |
| 「このシステム使いづらい」の原因と解決策 | 使われない仕組みが生まれる構造 | 入れたのに使われていない会社 |
| Odooを社内に定着させる方法 | 現場に根づかせるための進め方 | 稼働後の定着に不安がある会社 |
仕組み化に使う機能の、Community版・Enterprise版の対応範囲
| 機能 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 各アプリの標準業務フロー | 利用可能 | 利用可能 |
| 承認(Approvals)アプリ | 対象外 | 利用可能 |
| プロジェクト管理での工程管理 | 基本機能が利用可能 | より高度な自動化が利用可能 |
承認フローまで含めて仕組み化するなら、「Enterprise版が前提」になります。
仕組み化でよくある2つの失敗
失敗1:現状のやり方をそのまま再現しようとする
「今のやり方を変えたくない」という前提で進めると、標準機能に載らない部分をすべて作り込むことになります。標準に寄せられる部分と、本当に自社固有の部分を仕分けることが欠かせません。
失敗2:仕組み化を、システム導入だけで完結させようとする
システムを入れても、運用ルールが現場に共有されていなければ、結局は各自のやり方に戻ります。手順書やマニュアルとセットで運用することが重要です。
よくある質問
仕組み化は、すべての業務に必要ですか?
すべてを同時に進めるより、属人化のリスクが大きい業務を優先します。特定の1人しか把握していない業務や、ミスが起きたときの影響が大きい業務から着手してください。
仕組み化すると、ベテラン社員のやる気や裁量を奪いませんか?
奪わない設計にできます。標準の流れに沿いつつ、判断が必要な部分には裁量を残せるからです。
すべてを固定化することが目的ではありません。定型の作業を手順に任せれば、ベテランは判断が要る仕事に時間を使えるようになります。
仕組み化と、業務の効率化は同じことですか?
異なります。仕組み化は「誰がやっても同じ結果になる」ことが目的です。
効率化は、その先の「より早く、より少ない労力で」を目指すものです。仕組み化が、効率化の前提になります。
Community版だけで仕組み化はできますか?
各アプリの標準業務フローの範囲でなら、できます。ただし、承認フローなど一部の機能はEnterprise版が前提です。
仕組み化のメリットと注意点は何ですか?
誰が担当しても同じ結果になることがメリットです。
担当者が休んでも業務が止まりにくくなり、新人にも同じ手順を渡せます。一方で、今のやり方を標準に合わせて変える場面が出ます。システムを入れるだけでは定着せず、手順書や運用ルールとセットで回す必要があります。両方の一覧はOdooで仕組み化を進める良い点と、気をつけることにあります。
まとめ
仕組み化は、特定の人の頭にある業務のやり方を取り出し、誰もが実行できる手順にすることです。
- 属人化は「あの人がいないと回らない」状態を生む
- 属人化は、育成の遅れや品質のばらつきなど5つの問題につながる
- 現状の再現ではなく、標準の業務フローに合わせることが近道
- 承認や確認が必要な工程には、仕組みとしてチェックを組み込む
- システムだけでなく、運用ルールとセットで定着させる
1年後、「あの人にしか分からない」と言われていた3つの業務は、5行の手順とOdooの標準の流れに置き換わっています。ベテランが1週間休んだ月も、本人に電話で確かめることなく、請求書は予定どおりに出ています。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社のどの業務から仕組み化すべきか」という整理から、ご相談を承っています。
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