「あの注文、今どこ?」——部署をまたぐと、流れが見えない
営業が受けた注文が、今どの部署の手元にあるのか。すぐに答えられる会社は、意外と多くありません。
受注、在庫確認、出荷、請求。ひとつの仕事は、いくつもの部署をまたいで進みます。ところが、各部署は自分の持ち場しか見ていません。だから「全体としてどう流れているか」を、はっきり描ける人がいない。
その結果、こんなことが起きます。
- 同じ確認作業を、複数の部署が別々にやっている
- ある担当者だけに仕事が偏り、そこで滞る
- 「前の部署から回ってこない」と、待ち時間が生まれる
どれも、悪気があって起きているのではありません。流れが見えていないだけです。そして、見えないものは直しようがありません。
そこで役に立つのが「業務フロー」です。この記事では、部署をまたぐモノと情報の流れを1枚にまとめる、業務フローの書き方を、5つのステップでお伝えします。
業務フローとは? モノと情報の流れを1枚に
業務フローとは、一連の仕事のプロセスや手順を、図で表したものです。
ポイントは「部署をまたいで描く」こと。誰が、どの部署から、何(モノ・情報・帳票)を受け取り、次にどこへ渡すのか。その流れを1枚にすると、業務の全体像が俯瞰できます。
業務フローを1枚にすると、こんなことが分かります。
- どこに手作業や重複があるか
- どこで仕事が止まりやすいか
- どの部署とどの部署の間に、課題があるか
文章で説明すると長くなる業務も、図にすれば一目で伝わります。これが「見える化」の最初の一歩です。
なお、業務フローは、現状を映す資料の1つにすぎません。業務概要や機能一覧など、ほかの資料と組み合わせると、全体像がよりはっきりします。資料一式の組み立て方は現状業務分析のつくり方で説明しています。
そもそも「見える化」とは何か、なぜ利益に効くのかは業務の見える化とはをご覧ください。
業務フローの書き方・5つのステップ
ここからは、実際の書き方(作り方)を5つのステップでご紹介します。
特別なソフトは要りません。用意するのは、紙とペン、ホワイトボード、あとはExcelか無料の作図ツールで十分です。いちばんのコツは、最初から欲張らず、1つの業務に絞ることです。
ステップ1 何のために描くか、範囲と「登場人物」を決める
最初に決めるのは、「何のために描くか」。目的を1つ、はっきりさせます。たとえば「受注から出荷までの流れを整理して、ムダを見つけたい」。そんなふうに、ひとことで言えれば十分です。
次に、描く範囲を区切ります。「受注から出荷まで」のように、始まりと終わりを決めるだけで構いません。
そして「登場人物」を並べます。登場人物とは、その仕事に関わる部署・担当者・顧客のことです。組織図や、各人の役割を書いた資料があれば、先に目を通しておくと、関係がつかみやすくなります。なければ、簡単に書き出してもらえば十分です。
紙の左側に縦のレーン(区切り)を作り、1部署=1レーンで並べると描きやすくなります。
ステップ2 現場に聞きながら、まず手書きで描く
いきなりきれいに作ろうとしなくて大丈夫です。担当者に「次に何をしますか」「それをどこへ渡しますか」と聞きながら、ホワイトボードや紙に手書きで描いていきます。
聞き取りは、1回1時間ほどを目安に、同じ相手と2回くらいに分けると、無理なく進みます。1回で全部を聞き出そうとしないことです。
このとき、仕事の流れと一緒に「やりにくい点」も聞いておきます。あとで課題として書き込むためです。
注文書や伝票など、実際に使っている帳票は、その場で深追いしません。画面のキャプチャやPDF、Excelなどで、後から送ってもらえば十分です。
聞き取りの進め方そのものにも、コツがあります。詳しくは業務ヒアリングの進め方をご覧ください。
ステップ3 モノ・情報・帳票の流れを、記号と矢印でつなぐ
各レーンに、作業を四角(□)で書きます。判断が必要なところは、ひし形(◇)で表します。そして、モノや情報、帳票(注文書・伝票など)が動く向きを、矢印(→)でつなぎます。
よく使う記号は、これだけ覚えれば始められます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 四角(□) | 作業・処理 |
| ひし形(◇) | 判断・分岐(はい/いいえ) |
| 矢印(→) | モノ・情報・帳票が動く向き |
| 縦のレーン | 部署・担当者ごとの持ち場 |
記号は厳密でなくて構いません。大切なのは「何が、どこから、どこへ動くか」が分かること。それだけです。特に、部署をまたぐ矢印には注目してください。課題が潜みやすい場所です。
ステップ4 清書して、現場ともう一度すり合わせる
手書きで全体が固まったら、清書します。Excelの図形機能や、無料の作図ツールでも十分です。
毎回ゼロから作ると大変なので、よく使う記号やレーンを並べたテンプレートを1つ用意しておくと、次回からぐっと楽になります。
清書したら、もう一度、現場の担当者に見てもらいます。「この流れで合っていますか」と確認すると、聞き違いや抜けが見つかります。ここで直しておくと、あとの話し合いがぶれません。
ステップ5 気づいた課題を「吹き出し」で添える
最後に、聞き取りで出た課題を、該当する場所に吹き出しで添えます。
- 「ここは手作業で、時間がかかる」
- 「在庫の有無を、電話で確認している」
- 「この担当者に作業が集中している」
「忙しい」という感覚を、もっと確かめたいときは、作業日報が役立ちます。2〜3週間ほど、どの作業に何分かかったかをつけてもらうと、実態が数字で見えてきます。
課題を流れの上に重ねると、「どこを直せばいいか」が見えてきます。
AIで下書きするなら
最近は、AIに業務フローの叩き台を作らせることもできます。聞き取ったメモを渡せば、流れの下書きを図にしてくれます。
ただし、AIが作るのはあくまで下書きです。実際の現場と合っているかは、人が確かめなければ分かりません。下書きはAI、現場での検証は人。この役割分担が、遠回りに見えて確実です。
例:受注から出荷までを1枚にする
イメージしやすいように、簡単な例で流れを追ってみます。「注文を受けてから、商品を出荷するまで」を1枚にする場合です。
まず、登場人物をレーンに並べます。ここでは、顧客・営業・受注担当・倉庫・経理、の5つとします。
次に、左から右へ、流れを書いていきます。
- 顧客が、営業に注文する(注文書が動く)
- 営業が、受注担当に伝える
- 受注担当が、在庫があるかを確認する(倉庫に問い合わせる)
- 受注担当が、取引先の与信(支払い能力)を確認する(経理に問い合わせる)
- 問題がなければ、倉庫が出荷する
- 経理が、請求する
図:受注から出荷までを1枚にした例。色つきの矢印が「部署をまたぐ流れ」で、課題が潜みやすい場所です。
ここまで描くと、いくつか気づきます。たとえば「在庫確認」と「与信確認」が、どちらも受注担当を経由しています。この担当者に、作業が集中していないか。確認を、電話や手作業でやっていないか。
こうした問いが、図を見た全員から自然に出てきます。言葉で「忙しい」と言うより、図の一点を指して「ここ」と言えるようになります。これが、業務フローを1枚にする力です。
描くと、問題が「見える」
業務フローを1枚にする、いちばんの効果。それは、問題が目に見えるようになることです。
たとえば、ある現場では、受注担当者に作業が集中していました。在庫の有無や取引先の与信の確認を、すべて手作業でこなしていたためです。フローに描いてみて初めて、「ここに負荷が偏っている」と全員が気づきました。
業務フローには、思い込みを正す力もあります。「この工程が遅い」と思っていたら、実は別のところで時間を取られていた。各工程にかかる時間を並べて初めて、本当の原因が見えることは少なくありません。
そして、見えた問題から「あるべき姿(To-Be)」を描き、改善の提案へつなげていきます。現状と理想の差分が、そのまま改善提案になります。その進め方はAs-IsからTo-Beへで説明しています。
つまずきやすい点と、よくある質問
業務フローを初めて描くとき、つまずきやすい点があります。
- 全部署を一度に描こうとする:範囲を欲張ると、途中で挫折します。まず1つの仕事に絞りましょう。
- きれいに描こうとして進まない:見た目より、流れが分かることが先です。手書きで十分です。
- 記号にこだわりすぎる:記号は最小限で構いません。四角と矢印だけでも始められます。
- 担当者に確認せず仕上げる:思い込みで描くと、現場とずれます。必ず一度、見てもらいましょう。
よくある質問にもお答えします。
Q. 手書きのままでもいいですか?
A. 全体を固めるまでは手書きで十分です。共有や修正のために、最後に清書することをおすすめします。
Q. どのツールを使えばいいですか?
A. まずはExcelの図形機能で大丈夫です。慣れてきたら、専用の作図ツールを検討してください。
Q. どこまで細かく描けばいいですか?
A. 細かすぎると、かえって全体が見えなくなります。まずは「部署をまたぐ流れ」が分かる粒度から始めましょう。
Q. 誰に聞けば描けますか?
A. その仕事を実際にやっている担当者本人が一番です。役割を書いた資料があれば、先に目を通しておくと話が早く進みます。
Q. あとで流れが変わったら、どうしますか?
A. 業務は変わるものです。テンプレートを使って、変わった部分だけ手早く直せる形にしておくと続けやすくなります。
まとめ:1枚にすると、会社が動きはじめる
業務フローは、特別な道具のいらない、見える化の第一歩です。
部署をまたぐモノと情報の流れを、1枚にする。それだけで、これまで見えなかった手作業や偏り、待ち時間が、誰の目にも見えるようになります。見えれば、社内で同じ課題を共有でき、自然と「ここを直そう」という話が生まれます。
業務フローは、紙とペンがあれば、自分たちだけでも描き始められます。ただ、難しいのは「部署をまたぐ流れ」ほど、当事者には“自分の当たり前”が見えにくいことです。先ほど触れたとおり、外から一緒に流れを追うと、思い込みが事実に変わりやすくなります。ベンチャーネットは、現場の聞き取りから業務フローの作成、その先の改善提案まで、伴走するお手伝いをしています。まず自分たちで描いてみて、行き詰まったときや、もう一段ほどきたいときに、声をかけていただければと思います。
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