「特に問題ありません」しか返ってこない——よくあるヒアリングの空振り
経営を見える化しようと、まず現場に話を聞く。よくある第一歩です。
ところが、いざ聞いてみると、返ってくるのは「特に問題ありません」「いつも通りです」ばかり。30分話したのに、何が課題なのかはっきりしないまま終わってしまう。
こうした”空振り”は、めずらしいことではありません。むしろ、現場ヒアリングでもっとも多いつまずきです。
担当者の力不足でも、現場が非協力的なわけでもありません。聞く側の「入り方」と「順番」が、少しだけ噛み合っていないだけです。
ここがそろうと、同じ30分でも、現場の本音と本当の課題がぐっと出てきます。この記事では、ベンチャーネットが実際に使っている「30分で本音を引き出す型」を、聞く順番・質問の仕方・聞いたあとの活かし方まで、順を追って紹介します。
なぜ現場の本音は出てこないのか
理由はシンプルです。多くのヒアリングが、いきなり「課題は何ですか?」から始まるからです。
この聞き方には、3つの落とし穴があります。
1つ目は、現場にとって日々の業務は「当たり前」だということ。毎日続けている作業は、本人には問題として見えていません。だから「特にない」と返ってきます。
2つ目は、質問が抽象的だと、答えも抽象的になること。「困っていることは?」と漠然と聞けば、「いつも通りです」としか返りようがありません。
3つ目は、業務の全体像を共有しないまま部分を聞いてしまうこと。どこの話をしているのか分からなければ、人は本音を出しにくいものです。
ベンチャーネットがヒアリングで大事にしているのは、医者の問診に近い姿勢です。良い医者は、いきなり「どこが悪いですか」とは聞きません。暮らしの様子をたずね、本人が気づいていない不調のつながりを、対話の中から見つけていきます。
ヒアリングも同じです。「最近ちょっと月末が大変で」という何気ない一言にこそ、課題の核心が隠れていることが多い。本音が出るかどうかは、現場の協力度ではなく、聞く側の設計で決まります。次は、その具体的な進め方を見ていきます。
30分で本音を引き出す型
本音を引き出すコツは、聞く順番にあります。ベンチャーネットでは、30分のヒアリングを次の4つのパートで組み立てます。
図1:本音を引き出すヒアリングの4ステップ。①「目指す姿の確認」から入るのが、この型の特徴です。
① まず「目指す姿」を確認してから入る
いきなり業務の話に入りません。最初に「この会社(この部署)は、どこへ向かおうとしているのか」を一言、共有します。
たとえば「もしすべてうまくいっているとしたら、理想はどんな状態ですか?」と聞く。目指す姿が分かると、このあと聞く現場の話が「理想とのどこにギャップがあるか」という視点で見えてきます。ここで出てきた答えが、あとで改善の方向性を決める材料にもなります。
② 業務の流れを一緒に絵で描く
次に「始まりから終わりまでの流れを教えてください」と聞き、その場で一緒に図にしていきます。
流れを描くだけで、「ここは誰がやっているんですか?」「この後、情報はどこへ渡るんですか?」という自然な深掘りが生まれます。問い詰めるのではなく、一緒に地図を作る感覚です。全体像を共有できると、現場も安心して細かい話をしてくれます。
③ 困りごと・手間を拾う
描いた流れの各ステップで、「ここで困ることはありますか?」「時間がかかることは?」と聞いていきます。
「特にない」と返ってきても、そこで止めません。場面を絞ると、隠れていた手間が出てきます。
- 「月末や繁忙期はどうですか?」
- 「急な変更が入ったときは?」
- 「新しい人が入ったとき、教えるのに苦労する作業は?」
こうして具体的な状況を一つずつ当てると、「そういえば…」と本音がこぼれ始めます。
④ 数字で現状を確認する
最後に数字で押さえます。「ひと通り終えるのに、平均でどのくらいかかりますか?」「ひと月に何件くらい?」「やり直しはどのくらいの頻度で?」といった具合です。
ここで「計ったことがない」と返ってきたら、それ自体が大きな発見です。数字で見えていないこと自体が、見える化できていないという課題だからです。
この4つを通すと、「目指す姿」と「現場の現実」のギャップが自然に浮かび上がります。そのギャップが、次に何を直すべきかの診断そのものです。
業務を見える化しながら、同時に「自分たちはどこへ向かうのか」を現場と再確認できる。これが、このヒアリングの型のいちばんの値打ちです。
ベンチャーネットがこの順番にこだわるのには、理由があります。見える化は、数字や図を並べること自体が目的ではありません。目指す姿に向かって、経営者と現場が足並みをそろえるための手段です。だから最初に「どこへ向かうのか」を確かめる。現場を上から評価するためではなく、同じ方向を向くために聞く。これが、ベンチャーネットがヒアリングで何より大切にしている考え方です。
本音が出る、聞き方のクセ
同じ質問でも、聞き手の態度しだいで返ってくる答えは変わります。ベンチャーネットが心がけているのは、次の3つです。
- 相手の言葉をそのまま使う:現場が「段取り」と呼ぶものを、こちらの専門用語に言い換えない。自分たちの言葉に翻訳して話すと、「現場を分かっていない人」という印象を与えてしまいます。
- 愚痴や不満に反応する:「この前、急ぎが入って大変だった」という何気ないこぼれ話こそ、課題の入口です。「それはどんな状況でしたか?」と、もう一歩だけ深掘りします。
- 聞いた話を構造にして返す:相手がうまく言葉にできていなかったことを、「つまり、こういうことですか?」と整理して返す。「そうそう、それが言いたかった」という瞬間が生まれると、一気に信頼が深まります。
聞いたあと、どう活かすか
ヒアリングで集めた声は、そのままではただのメモです。値打ちが出るのは、ここから「構造」に整理したときです。
構造化とは、バラバラに見える現象を「原因と結果」でつなぐこと。現場の困りごとの多くは、表に出た症状の奥に、別の根本原因が隠れています。多くの場合、上流のちょっとした問題が、下流で大きな症状になって現れます。
たとえば、こんな具合です。
- 「納期が遅れがち」← 本当の原因は、調達や段取りの見通しが立てられていない
- 「月末に残業が集中する」← 本当の原因は、計画が平準化されていない
- 「現場が混乱しやすい」← 本当の原因は、やり方が標準化されていない
図2:見えている症状の奥には、上流の根本原因がある。原因を一つ押さえると、複数の症状がまとめて軽くなります。
症状を個別に叩いても、根本原因が残れば再発します。逆に、根本原因を一つ押さえると、複数の症状がまとめて軽くなることがあります。
だからヒアリングの目的は、この根本原因を一つに絞り込むことです。「目指す姿」と「現場の現実」のギャップを、原因の言葉で言い直す。すると、次に何から手をつけるべきかが見えてきます。
整理ができたら、現場に返すときの順番も大切です。いきなり「ここを直しましょう」ではなく、
- まず「こういう状況が起きていますね」と、現状を共感とともに確認する
- 次に「実は、その奥にこういう原因があります」と構造を見せる
- そのうえで「ここを変えれば全体が軽くなります」と方向性を示す
という流れにすると、相手も納得して動けます。しかも一度にすべてを求めず、「まず数ヶ月でここまで、次の半年でここまで」と段階を分けて描くと、現実的な進め方になります。
その打ち手を、人の頑張りに頼らず仕組みで支えられるか。システムを検討するのは、ここからです。順番が逆になると、現場に合わない仕組みを入れてしまいがちです。まず現状を見える化し、課題を構造でとらえる。そのうえで道具を選ぶ。遠回りに見えて、これがいちばん確実な順番です。
よくある疑問
Q. ヒアリングは誰に聞けばいいですか?
A. 中心は、その業務を実際に回している実務担当者です。日々の「当たり前」を、誰よりよく知っているからです。加えて「目指す姿」の部分だけは、判断する立場の人にも一言入ってもらえると、話が早くなります。現場の事実と、経営の方向。この両方がそろって初めて、ギャップが見えてきます。
Q. 30分で足りますか?
A. 一つの業務の流れなら、30分でも型はしっかり回せます。むしろ長くしすぎると焦点がぼけ、お互いに疲れてしまいます。深掘りが必要そうなら、一度で詰め込まず、二回に分けるほうが効果的です。一回目で全体像、二回目で気になった部分、という分け方がおすすめです。
Q. 「特にない」と言われ続けたら?
A. 抽象的な質問をやめ、場面を絞ります。「月末は?」「急ぎが入ったときは?」「新人が入ったときは?」と具体的な状況を一つずつ当てると、隠れていた手間が言葉になって出てきます。それでも出てこないときは、数字を聞いてみてください。「計っていない」こと自体が、見える化の出発点になります。
AIでやるなら
ヒアリングは、AIと組み合わせると、準備と整理がぐっと楽になります。たとえば、こんな使い方です。
- 訪問前:業種や気になっている点を伝えて、「聞くべき質問の案」を観点ごとに出してもらう。「なぜその質問をするのか」という意図も一緒に出させると、当日ぶれません。
- ヒアリング中・直後:相手の印象的な発言をメモして、「この一言から考えられる根本原因の仮説を3つ」「次に確認すべき質問」を出してもらう。
- ヒアリング後:メモを渡して、「症状」「その奥の構造的な問題」「最優先で解くべき根本原因」に整理してもらう。
- まとめ:整理した内容をもとに、報告や提案の構成(現状→構造→方向性→効果→段取り)の骨子を作ってもらう。
ただし、AIはあくまで段取りを助ける道具です。現場に足を運び、相手の表情や言いよどみ、こぼれた一言から本音を感じ取るのは、人にしかできません。AIで準備と整理を軽くし、人は対話そのものに集中する。これがちょうどいい役割分担です。
まとめ:ヒアリングは「同じ絵を見る」ことから
現場の本音が出ないのは、現場のせいではありません。聞く側の入り方と順番がそろえば、同じ30分でも、見えてくるものは大きく変わります。
振り返ると、型はこうでした。
- まず「目指す姿」を確認してから入る
- 業務の流れを一緒に絵で描く
- 困りごと・手間を、場面を絞って拾う
- 数字で現状を確認する
そして、聞いた話は構造に整理し、共感→構造→方向性の順で現場に返す。この型の値打ちは、業務を見える化しながら、「自分たちはどこへ向かうのか」を現場と一緒に確かめ直せることです。ヒアリングとは、経営者と現場が同じ一枚の絵を見るための時間です。
ここまでできたら、次の一歩に進めます。
- 集めた声をAIも使って手早く整理したい方は →「AIと一緒に進める現状業務分析」へ
- 今のやり方を、あるべき姿へ描き直したい方は →「As-IsからTo-Beへ:業務の見直し方」へ
ここまでの型は、誰でも回せます。ただ一つ、自分たちの「当たり前」は、自分では見えにくいもの。毎日やっていることほど、疑う対象になりません。だからこそ、外から一緒に絵を描く人がいると、目指す姿と現場のギャップがくっきりしてきます。
自社のヒアリングや見える化をどう進めるか迷ったときは、ベンチャーネットにご相談ください。一緒に現場の絵を描くところから、お手伝いします。

