「毎月ちゃんと締めている。だから、うちの月次決算は機能している」
そう思っていても、経営会議で数字が話題にならない会社は少なくありません。
締めることと、経営に活きることは、別の話だからです。
月次決算とは、1か月ごとに経営成績と財務状況を集計し、経営判断に使うための社内の決算です。
法律上の義務はなく、会社が自分のために行います。
月次決算が活きるかどうかは、締めの速さだけでは決まりません。
「締める→見える形にする→予算とのずれに気づく→手を打つ」。
この4つの関門を、最後まで越えられているかで決まります。
では、自社はどの関門で止まっているのか。
見つけ方は、流れの6ステップを押さえた後の第4章で扱います。
この記事で分かること
- 月次決算と年次決算の違い、月次決算の3つの目的
- 月次決算の6つの流れと、遅れやすい場所
- 経営に活きない4つの関門と、自社の止まっている場所の見つけ方
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階
- よくある3つの失敗と、今日できること
年次決算との違い
| 比較軸 | 年次決算 | 月次決算 |
|---|---|---|
| 頻度 | 年1回 | 毎月 |
| 法的義務 | あり(会社法・法人税法) | なし(任意) |
| 主な目的 | 株主・税務当局への報告 | 経営判断・業績管理 |
| 報告先 | 社外(株主・税務署など) | 社内(経営陣) |
| 主な使い方 | 1年間の成績の確定 | 早めの問題発見と軌道修正 |
年次決算は、1年の成績を確定させる資料です。
ただ、年に1度では、いまの業績をつかむには遅すぎます。
その間を埋めるのが、月次決算です。
月次決算の3つの目的
1つ目は、年次決算の負担を減らすことです。
仮払金などの一時的な処理を毎月片づけておけば、期末にさかのぼる手間が減ります。
2つ目は、経営判断を速くすること。
たとえば飲食業なら、店舗ごとの売上と費用を毎月見ることで、落ち込んだ店舗に早く手を打てます。
3つ目は、資金繰りを見通すことです。
毎月の数字があれば、融資が要る時期も前もって読めます。
資金繰り表の作り方は資金繰りの記事で扱っています。
月次決算の流れ(6つのステップ)
| ステップ | 何をするか | 遅れやすい理由 |
|---|---|---|
| ① 現金・預金の残高確認 | 帳簿と実際の残高を照らし合わせる | 明細の取り込みと消込が手作業 |
| ② 棚卸しの確定 | 月末の在庫を確定する | 倉庫と帳簿の数字が合わない |
| ③ 仮勘定の整理 | 仮払金などを正しい科目に振り替える | 中身の確認に時間がかかる |
| ④ 経過勘定の計上 | 未払費用・前払費用などを計上する | 毎月の見積りが属人的 |
| ⑤ 減価償却費などの計上 | 毎月分の費用を計上する | 年1回にまとめてしまう |
| ⑥ 月次決算書の作成 | 損益計算書・貸借対照表などを報告する | Excelへの転記と資料づくり |
仮勘定は、内容や金額が決まる前に一時的に使う勘定です。
経過勘定は、支払の時期と費用の発生の時期がずれるときに調整する勘定です。
発生主義(取引が発生した時点で計上する考え方)で費用を正しく計上するために使います。
発生主義の詳しい説明は発生主義の記事にあります。
減価償却費は、設備などの価値を、使う期間にわたって少しずつ費用にする処理です。
遅れの多くは、①の照合と⑥の資料づくりに集まります。
どちらも、人がデータを写して突き合わせる作業です。
締めの日程の例
次の表は、説明のための架空の日程です。
どの工程を何営業日目までに終えるかを決めておくと、遅れた場所がすぐ分かります。
| 翌月の営業日 | 終える工程 | 担当 |
|---|---|---|
| 1日目 | 部門からの請求書・経費精算の提出の締切 | 各部門 |
| 2日目 | ①現金・預金の照合、②棚卸しの確定 | 経理・倉庫 |
| 3日目 | ③仮勘定の整理、④経過勘定の計上 | 経理 |
| 4日目 | ⑤減価償却費などの計上、数字の点検 | 経理 |
| 5日目 | ⑥月次決算書の作成と、経営会議への報告 | 経理・経営者 |
最初から5日で締める必要はありません。
いまの日数を測り、いちばん時間がかかる工程から1日ずつ縮めていきます。
月次決算が「やっているのに活きない」4つの関門
経営学者ドラッカーは、期待(予算)と結果(実績)を照らし合わせ、次の手を打つ「フィードバック」の意義を説きました。
月次決算も同じです。
次の4つの関門を越えて、はじめて経営に活きます。
| 関門 | 止まっているときの症状 | 越えるための手当て |
|---|---|---|
| ① 締める | 数字が固まるのが翌月の後半。数字が「過去のニュース」になる | 手作業と部門からの資料待ちを減らす |
| ② 見える形にする | 決算書は出るが、見るのは経理だけ。Excelへの転記で力尽きる | 売上・利益・資金が1画面で分かる形をつくる |
| ③ ずれに気づく | 予算がない、または予算と実績を並べていない | 予算を持ち、毎月の予実の対比を習慣にする |
| ④ 手を打つ | 会議で報告して終わり。誰が何をするか決まらない | ずれごとに「誰が・いつまでに・何を」を決める |
①締める
手作業が多い。部門からの資料がそろわない。
締めが遅れる理由は、たいていこの2つです。
早める手順は、勘定科目の統一や仕訳のルールの標準化になります。
詳しくはERP導入で会計がつまずく3層構造の記事と月次決算を5営業日で終える記事で扱っています。
②見える形にする
決算書を作ること自体がゴールになると、ここで止まります。
経営層が一目で状況をつかめる形でなければ、判断の材料として使われません。
数字を見える形にする進め方は、データドリブン経営の記事にまとめています。
③ずれに気づく
予実の対比は、予算(期待)と実績(結果)の両方がそろって初めて成り立ちます。
実績だけでは、目標とのずれに気づけません。
数字を持ち寄って話し合う「場」を決めるのも手です。
たとえばPSI会議は、生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)を一体で見て、需給を調整する会議です。
進め方はPSI会議の記事、予算の立て方は予算管理の記事で扱っています。
予実の対比は、次のような表を毎月1枚つくるだけでも始められます(架空の数字、単位:万円)。
| 項目 | 予算→実績(差) | ずれの理由 | 次の手(誰が・いつまでに) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,000→920(−80) | 大口顧客の納期が翌月にずれた | 営業部長が今週中に納期を再確認 |
| 粗利 | 400→350(−50) | 仕入の値上がりを価格に反映していない | 社長と営業部長が月末までに価格を見直す |
| 販管費 | 300→310(+10) | 採用の広告費が前倒しで発生 | 予算の範囲内。対応なし |
効くのは、右の2列です。
数字の差だけを並べても、行動は変わりません。
④手を打つ
ずれが見えても、次の一手につながらなければ、フィードバックは完成しません。
「では、どうするか」を決め、誰が・いつまでに・何をするかまで落とします。
翌月の会議では、その手が効いたかを最初に見ます。
この一周が回り始めたとき、月次決算は経理の作業から経営の道具に変わります。
月次決算を支える道具の比較
| 道具 | 向いている段階 | 締めの速さ | 見える形 |
|---|---|---|---|
| 会計ソフト+Excel | 取引が少なく、部門も少ない | 転記と突き合わせで遅れやすい | Excelで資料をつくる |
| 会計ソフト+周辺のSaaS(経費・請求など) | 会計は整い、周辺業務を順に効率化したい | 連携しだいで速くなる | 各サービスの画面を行き来する |
| ERP(統合型の基幹システム) | 販売・在庫・会計を1つにしたい | 突き合わせが減る | 締めた数字をそのまま画面に出せる |
AIで「なぜずれたか」を問いたい会社ほど、下の行に寄ります。
数字がファイルに散らばったままでは、AIに渡すデータがそろわないからです。
判断の物差し|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
いまの仕組みで足りる段階
- 取引の件数が少なく、締めが翌月10日前後までに終わっている
- 数字の出どころが会計ソフト1つで、転記が少ない
- 予算と実績を並べた表を、毎月無理なく作れている
この段階なら、システムより「予実の対比の場」をつくる方が効きます。
つまり、関門③④から手を付ける会社です。
システムを考える段階
- 販売・在庫・会計の数字が合わず、突き合わせに数日かかる
- 拠点や会社が増え、合算に時間がかかる
- 経理担当者が毎月、締め作業に追われて分析まで手が回らない
- 担当者が休むと締めが止まる
2つの段階の分かれ目を図にすると、次のとおりです。
選択肢と合う条件
| 状況 | 合いやすい選択肢 |
|---|---|
| 会計だけ整えたい。販売・在庫は小規模 | クラウド会計ソフト+周辺のSaaS。いまは入れない判断もあり得る |
| 費用を抑えて段階的に広げたい | Odoo |
| 業種の商習慣に合う帳票を重視したい | 業種に強い国産ERP |
| 独自の業務が強みで、標準の型に合わない | AIを使ったスクラッチ開発 |
| 販売・在庫・会計を1つにし、拠点や会社が増える見込みがある | NetSuiteのような統合型のクラウドERP |
NetSuiteで月次決算を支える仕組み
NetSuiteでは、会計・販売・在庫などのデータが1つにまとまっています。
そのうえで、締めの作業を支える機能があります。
期間の締めのチェックリスト:買掛金・売掛金・給与の取引のロックから始まる手順が、画面に用意されています。
会社間の調整や外貨建て残高の評価替えなどを経て、最後に期間を閉じる流れです。
ロックした期間では、総勘定元帳に影響する取引の入力を止め、締める前に数字を合わせられます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
反転仕訳:月末に見越しで計上した仕訳を、翌月に戻す仕訳です。
戻す日を指定しておくと、その日に自動で作成されます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
流れ④の経過勘定の手間が軽くなります。
流れ①と⑤にも、支えがあります。
取り込んだ銀行の明細は、ルールに沿って帳簿の取引と自動で突き合わせられます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
毎月の仕訳は、メモライズ取引(繰り返す取引の登録)にすると、決めた頻度で作成できます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
銀行との照合は、銀行連携・自動消込の記事で詳しく扱っています。
締めの作業では、Intelligent Close Managerという機能も案内されています。
AIが作業に優先順位を付け、進み具合を要約します(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
詳しくはIntelligent Close Managerの記事をご覧ください。
日本での提供状況は、アカウントの担当に確認してください。
これから仕組みを選ぶ会社と、見直す会社
これから仕組みを選ぶ会社
最初に、4つの関門のどこで止まっているかを見ます。
①で止まっているなら、道具で効果が出やすい領域です。
③④で止まっているなら、道具より先に予算と会議の場を整えます。
比べるときは、次の3つを各社に同じ条件で尋ねます。
- いまの締めの工程のうち、どれがなくなり、どれが残るか
- 予算と実績を並べた画面を、経営者が自分で開けるか
- 拠点や会社が増えたとき、合算の手間がどう変わるか
デモでは、自社の勘定科目と部門で見せてもらうと、導入後の姿を思い描きやすくなります。
選ぶ段階の論点は、CFO・経理部長がNetSuite導入で実現できることで扱っています。
いまの仕組みを見直す会社
ERPを入れたのに、締めが早くならない会社もあります。
原因の多くは、勘定科目や部門の設定、入力のルールが導入時のまま整っていないことです。
乗り換えの前に、いまの設定と運用で縮められる日数を見積もります。
それでも足りなければ、比較に進みます。
乗り換えるなら、過去の月次の数字をどこまで移すかを先に決めます。
予実や前年との比較を、途切れさせないためです。
よくある3つの失敗
失敗1:速さだけを追い、数字の正しさが崩れる
起きること:締めは早くなったが、翌月に修正が多発し、経営会議で数字が信用されない。
原因:概算で締める範囲と、正確に締める範囲を決めずに早めた。
避け方:概算でよい項目と正確さが要る項目を先に分けます。
経営判断に使う粗利と資金は正確に、少額の経費は概算で、のように決めます。
失敗2:部門からの資料待ちで毎月遅れる
起きること:請求書や経費精算の提出が遅れ、経理が催促に追われる。
原因:部門ごとの締切が決まっていない、または守られていない。
避け方:部門ごとの提出の締切を決め、経営者から全社に伝えます。
締切を守れない理由が手続きの手間なら、入力の仕組みを見直します。
失敗3:システムを入れたのに締めが早くならない
起きること:ERPを入れたが、締めの日数がほとんど変わらない。
原因:勘定科目・マスタ(取引先や品目などの基本の情報)・仕訳のルールを、以前のまま持ち込んだ。
避け方:導入の前に、締めの手順を書き出して、なくせる作業を決めます。
道具は手順を速くしますが、不要な手順を消すのは人の仕事です。
ベンチャーネットならこう見る
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、月次決算の相談で道具の話から入りません。
最初に聞くのは、次の3つです。
- 先月の数字は、翌月の何営業日目に固まったか
- 4つの関門の、どこで止まっているか
- 予算はあるか。予実を並べる場はあるか
いまの道具で縮められるなら、それを勧めます。
そのうえで、2つの型で次の一歩を考えます。
型1:1つのKPIで、まず1周回す
関門を全部いっぺんに越えようとすると、止まります。
業務を1つ、見る数字(KPI)を1つに絞り、①から④までを1周回します。
最短で90日を1周目の目安にしています。
たとえば「粗利」だけを予算と並べ、ずれに手を打ち、翌月に効いたかを見る。
1周回れば、次にどの数字を足すかは現場から出てきます。
型2:守り→攻め→次へ
月次決算の先には、3つの段階があります。
- 守り:販売・在庫・会計の数字が1つにつながり、締めが安定して回る
- 攻め:売れ筋や在庫の分析、生成AIでの集計で、データから手を打つ
- 次へ:KPIや管理会計で経営を動かし、上場を目指すなら内部統制まで整える
4つの関門を越えた月次決算は、「攻め」の入口になります。
締めが遅い会社が、いきなり「次へ」を目指しても続きません。
いま自社がどの段にいるかで、打つ手の順番が決まります。
今日できること(1時間)
- 先月の月次決算が、翌月の何営業日目に固まったかを調べる(10分)
- 6つのステップのうち、いちばん時間がかかった工程を経理担当者に聞く(20分)
- 先月の経営会議で、予算と実績を並べて見たかを振り返る(10分)
- 4つの関門のどこで止まっているかに印をつけ、来月1つだけ変えることを決める(20分)
よくある質問
Q1. 月次決算は、いつまでに締めるのが理想ですか
翌月のなるべく早い時期が望ましいとされています。
数字が出る頃に状況が変わっていては、判断に使えません。
早める手順は月次決算を5営業日で終える記事で扱っています。
Q2. 中小企業でも月次決算は必要ですか
法的な義務はありませんが、判断の精度を上げるために有効です。
規模が小さいほど、1つの判断の遅れが経営に響きます。
まずは売上・粗利・資金の3つだけでも毎月見ることから始められます。
Q3. 月次決算をしているのに、経営に活かせている実感がありません
4つの関門のどこかで止まっている可能性があります。
締める・見える形にする・ずれに気づく・手を打つ、の順にたどってください。
予算がない場合は、③の関門から整えるのが近道です。
Q4. 月次決算の数字は、概算でもよいですか
判断に使う項目は正確に、少額の項目は概算で、と分ける方法があります。
年次決算では正確な数字が必要です。
月次でどこまで概算を認めるかは、顧問の会計士・税理士と決めてください。
Q5. NetSuiteを入れれば締めは早くなりますか
突き合わせや転記は減らせますが、手順の見直しが前提です。
締めのチェックリストや反転仕訳などの機能があります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
以前の手順をそのまま持ち込むと、効果は小さくなります。
Q6. 月次決算書では、何を見ればよいですか
損益計算書・貸借対照表・資金繰り表の3つが基本です。
経営者は、まず売上・粗利・手元の資金の3つを、予算と前年と並べて見ます。
損益計算書の読み方は損益管理の記事で扱っています。
まとめ
- 月次決算とは、毎月の経営成績と財務状況を集計し、経営判断に使う社内の決算
- 流れは6つ。遅れやすいのは残高の照合・棚卸し・経過勘定・資料づくり
- 経営に活きるかは、締める→見える形→ずれに気づく→手を打つの4つの関門で決まる
- 取引が少ないうちは、いまの仕組みで十分。突き合わせと転記が増えたら仕組みを考える
- 1つのKPIで1周回すことから始めると、関門を越えやすい
毎月締めている会社なら、①の入口には立っています。
その先の、どこで止まっているか。
来月の経営会議の前に、印をつけてみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
月次決算の早期化や、予実の対比を経営に活かす仕組みづくりから、ご相談をお受けしています。
