昨年まで毎月注文をくれていた会社が、今年はまだ一度も買っていない。それでも今月の売上は、目標に届いている。
「今月も、なんとか目標の売上には届きました」。営業会議でこの報告を聞いて、ひとまず安心する。ただ、その100万円が1社から来たのか20社から来たのかは、売上の数字だけでは分かりません。
離れかけている顧客は、売上を顧客という単位に分け直すと見えてきます。そのための物差しが、顧客の4指標です。
- CLV/LTV:1人の顧客が、取引を続ける全期間にもたらす価値
- 接点回数:一定期間に、その顧客と何回やりとりしたか
- 顧客ステータス:新規・継続・休眠といった、顧客の状態の分布
- リピート率:一定期間内に、再度取引した顧客の割合
Odooでの材料は、CRMで1つのレコードに集約した顧客と、そこに紐づく受注と請求です(CLV/LTVの計算式)。4指標を重ねて読むと、たとえば次のことが変わります。
- 今期の売上が保たれていても、休眠へ流れる社数の増加に気づける
- リピート率が高いのに単価が上がっていない状態を見分けられる
- 休眠に移った顧客の一覧を営業に渡し、会議の結論を行動につなげられる
ただし、数字の精度は顧客台帳の整い方で決まります。顧客数が少なく、表計算で十分に追える会社なら、Odooの導入を急がなくてよい場合もあります。
では、リピート率だけを見ていると何を見落とすのか。答えは4指標を一緒に見ると、何が分かるかにあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
接点回数・顧客ステータス・リピート率は、CRM(顧客と商談の管理)や販売アプリの記録から、無料のCommunity版でも集計できます。CLV/LTVを利益ベースで出す場合だけ、有償の「Enterprise版の会計機能」が関わります。
なぜ「顧客の4指標」だけを切り出して見るのか
売上や粗利は、会社全体の調子を表す数字です。ただ、誰から得た数字なのかという情報は残っていません。
1社に依存した売上と、20社に分散した売上では、来期の意味が違います。
販売の指標は事業の勢いを映します。顧客の指標が映すのは、その勢いを誰が支えているかです。
同じ売上でも、支えている顧客の構成が違えば、来期に打つべき手は変わります。
指標1:CLV/LTV(顧客生涯価値)の計算式
定義
CLV/LTV(顧客生涯価値)とは、「1人の顧客が取引を続ける全期間にもたらす利益の総額」です。
1回の受注金額ではなく、関係が続くあいだの合計を見ます。10年続く顧客の価値は、今月の受注額には表れません。
計算式
いちばん簡易な形は、平均取引額 × 年間取引回数 × 継続年数 です。
ただし、厳密な算出方法は複数あります。利益率をかける、獲得費用を差し引く、将来価値を割り引く、といったやり方です。
見るときの考え方
CLVに、業種を越えて通用する目標値はありません。購買サイクルも単価も、事業ごとに違うためです。
見るべきは水準より方向です。自社の過去3期分の推移を並べ、上下どちらに動いているかを確認します。
CLVを経営の打ち手にどうつなげるかは、新規より既存客を太らせる——LTVと顧客維持の経営で扱っています。
Odooのどのデータから作るか
元になるのは、CRMで1つのレコードに集約した顧客と、そこに紐づく受注と請求の合計です。
表示手段(C/E別)
売上ベースの簡易なCLVなら、顧客別の集計からCommunity版でも作れます。利益ベースには会計のフル機能が要るため、Enterprise版が前提です。サブスクリプション(継続課金の管理)も同じ扱いになります。
指標2:接点回数の数え方と見方
定義
接点回数とは、「一定期間にその顧客と何回やりとりしたか」を数えた指標です。
訪問、電話、メールなど、記録に残るやりとりを数えます。
計算式
期間内の接点の記録件数 ÷ 対象とする顧客数 で、1社あたりの平均が出ます。
見るときの考え方
多ければよい、という指標ではありません。手のかかる顧客ほど、接点は増えるためです。
見るべきは分布です。取引の大きい顧客に接点が足りているか。小さい顧客に時間を取られすぎていないか。過去の平均と照らして確かめます。
Odooのどのデータから作るか
材料は、CRMに残る活動の記録です。入力の習慣づけが、そのまま指標の精度になります。
表示手段(C/E別)
活動の記録と件数の集計は、CRMの基本機能の範囲です。Community版とEnterprise版のどちらでも見えます。
指標3:顧客ステータス(新規・継続・休眠)の分け方
定義
顧客ステータスとは、「顧客を状態で分類する考え方」です。
新規、継続、休眠といった区分に全顧客を振り分けます。分類そのものが指標になる点が、ほかの3つとの違いです。
計算式
数式ではなく、区分の定義を決めます。初回取引から一定期間内を新規、直近に取引があれば継続、それを過ぎたら休眠、といった形です。
区分の境目に正解はありません。自社の購買サイクルから決めてください。年に1回買う商材と毎月買う商材では、休眠とみなす期間が変わります。
見るときの考え方
各区分の社数と構成比を、時系列で並べます。見るのは1時点の断面ではなく、区分のあいだを顧客が移動する向きです。
継続から休眠へ流れる社数が増えていれば、今期の売上が保たれていても、来期の売上の元は細っていきます。
Odooのどのデータから作るか
CRMの顧客レコードに区分を持たせます。判定の基準は、直近の取引日です。
表示手段(C/E別)
顧客の分類と区分別の件数集計は、CRMの基本機能でできます。両版で対応できる範囲です。
指標4:リピート率の計算方法
定義
リピート率とは、「一定期間内に再度取引した顧客の割合」です。
一度きりで終わったか、戻ってきてくれたか。関係の継続を、単純な形で表した数字です。
計算式
期間内に2回以上取引した顧客数 ÷ 期間内に取引した顧客数 です。
期間の取り方で、数字は大きく動きます。四半期か1年かを先に決めてください。
見るときの考え方
よい水準は、ここでは示しません。年に1回買い替える商材と毎週補充する商材では、同じ数字の意味が違うためです。
比べる先は2つあります。自社の過去3期分の推移と、中小企業庁などが公表している業種別の統計です。
Odooのどのデータから作るか
材料は、販売アプリにある顧客ごとの受注履歴です。レコードが重複していると数字が狂うため、名寄せ(同じ顧客の重複登録を1つにまとめること)の状態が精度を左右します。
表示手段(C/E別)
受注履歴の顧客別集計は販売アプリの中で完結するため、Community版でも作れます。
4指標を一緒に見ると、何が分かるか
4つを別々に眺めず、重ねて読むと見えるものがある。たとえばリピート率だけなら、関係は良好に見える。そこにCLVを重ねると、単価が上がっていない状態が浮かび上がる。
営業会議では、次の表をそのまま読み方の手引きに使えます。
| 数字の見え方 | 考えられる状態 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| リピート率は高いのに、CLVが伸びていない | 繰り返し買ってもらえているが、単価が上がっていない | 継続顧客への提案が、同じ商品の補充で止まっていないか |
| 接点回数は多いのに、リピート率が低い | 量ではなく、やりとりの質の問題 | 訪問を増やす前に、商談で何を話しているか |
| 継続から休眠へ流れる社数が増えている | 今期の売上は保てても、来期の売上の元が細っている | 休眠に移った顧客に、直前の接点があったか |
顧客ステータスの分布を時系列で見ると、継続から休眠へ流れる速度が分かります。CLVは、この速度に強く影響される指標です。
よくある2つの失敗
失敗1:CLVの定義を、途中で変えてしまう
売上ベースで出していたものを、翌期から利益ベースに変える。数字は動きますが、事業が変わったからではありません。
定義を変えた時点で、過去との比較ができなくなります。
失敗2:顧客レコードの重複を放置する
同じ会社が別々に登録されていれば、取引は分散し、リピート率は実際より低く、CLVも小さく出ます。
顧客の指標は、台帳の整い方がそのまま精度になります。整った台帳は、既存顧客に続けて選ばれる仕組み(固客化)の基本です。
顧客の数字を営業会議に出すまでの4つの手順
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、このテーマで相談を受けても、最初に指標の画面は作りません。次の順番で、数字が信用できる状態かどうかから確かめます。
- 顧客台帳の重複を数える:同じ会社が何件に分かれて登録されているかを先に見ます。ここが崩れていると、4指標はすべて小さく出ます
- 区分と期間の定義を、紙1枚に書く:休眠とみなす期間、リピート率の集計期間、CLVを売上と利益のどちらで出すか。決めた定義は、翌期以降も変えない前提にします
- 1指標だけを3か月並べる:いきなり4つそろえず、顧客ステータスなど1つから始めます。まず見える化し、数字の動きを読める段階へ進みます
- 数字から打ち手を1つ決める:休眠に移った顧客の一覧を営業に渡すなど、会議の結論を行動につなげます。見える化・わかる化の次の、儲かる化の段階です
見える化・わかる化・儲かる化の全体像は、儲かる化とは——見える化・わかる化の先で、利益に変えるための地図にまとめています。
途中で、標準機能の集計で足りるかも判断します。業務を標準機能に合わせる考え方が、Fit to Standardです。
顧客数が少なく、表計算で十分に追える会社なら、Odooの導入を急がなくてよいとお伝えします。
着手の前に、次の点を社内で確かめておいてください。話が早く進みます。
- □ 顧客の登録先が、1つのシステムか台帳にまとまっている
- □ 訪問・電話・メールの記録を、営業が日々残している
- □ 「休眠」の意味について、営業と経営者の認識がそろっている
- □ 受注と請求が、同じ顧客名で紐づいている
顧客の4指標で営業を見る良い点と、気をつけること
4指標が営業会議に並ぶと、「目標に届いた」という報告の裏で、どの顧客が動いたかが話題にのぼります。得られることと、先に知っておきたい負担を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 離れかけている顧客が見える:顧客ステータスを時系列で並べ、継続から休眠へ流れる社数をつかめる
- 売上の中身が分かる:同じ売上でも、1社に依存しているのか、20社に分散しているのかを見分けられる
- 打ち手の順番を決められる:リピート率にCLVを重ねると、新規獲得より既存顧客への追加提案が先だと分かることがある
- 3指標は無料の範囲で集計できる:接点回数・顧客ステータス・リピート率は、Community版のCRMや販売アプリの記録から集計できる
- 1指標から小さく始められる:いきなり4つそろえず、顧客ステータスなど1つを3か月並べるところから始める
気をつけることは、次の4つです。
- 台帳の重複が数字を狂わせる:同じ会社が別々に登録されていると、4指標はすべて小さく出る
- 定義を途中で変えない:CLVを売上ベースから利益ベースに変えると、過去との比較ができなくなる
- 入力の習慣づけが要る:接点回数の精度は、CRMに活動の記録を残す習慣で決まる
- 利益ベースはEnterprise版:利益ベースのCLVと4指標の1画面表示は、Enterprise版が前提になる
両方を1枚の図に並べました。
台帳の重複と定義は、上の手順の1と2で先に手を打てます。版の区分は対応範囲(C/E別)で確かめてください。
対応範囲(C/E別)
| 指標 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| CLV/LTV | 売上ベースの簡易な算出まで | 利益ベースの算出まで |
| 接点回数 | CRMの活動記録から集計できる | 同左 |
| 顧客ステータス | 分類と区分別の集計ができる | 同左 |
| リピート率 | 受注履歴から集計できる | 同左 |
| 4指標の一覧表示 | アプリごとに個別に確認 | スプレッドシート機能で1画面に |
| 継続課金の管理 | 対象外 | サブスクリプションで管理できる |
版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
継続課金の事業で規模が大きく、海外拠点や連結決算まで視野に入る場合は、NetSuiteでMRR・ARR・解約率を一画面で見る方法も比較の材料になります。
顧客KPIのよくある質問
CLVとLTVは、違う指標ですか?
呼び方の違いで、指している内容はほぼ同じです。社内ではどちらかに統一しておくと、議論がぶれません。
4指標は、どのくらいの頻度で見ればよいですか?
接点回数と顧客ステータスは月次、リピート率とCLVは四半期ごとから始めるとよいでしょう。頻度より、同じ定義で並べ続けることが大切です。
Community版だけで、4指標はどこまで見えますか?
接点回数・顧客ステータス・リピート率は、実用的に見えます。CLVも売上ベースなら可能です。利益ベースのCLVと4指標の1画面表示は、Enterprise版が前提になります。
休眠と判断するまでの期間は、何か月が適切ですか?
一律の期間は示せません。購買サイクルが業種によって違うためです。自社の顧客の取引間隔を集計し、多くの顧客が空ける間隔を超えた時点を目安にしてください。
顧客の4指標をOdooで見るメリットは何ですか?
売上の合計では見えない顧客の動きが分かることです。
4指標は、売上を顧客という単位に分け直します。継続から休眠へ流れる社数が増えていれば、今期の売上が保たれていても、その動きに気づけます。接点回数・顧客ステータス・リピート率は、Community版のCRMや販売アプリの記録からも集計できます。
まとめ:顧客KPIで売上を顧客単位に分け直す
顧客の4指標は、売上を顧客という単位に分け直すための道具です。
- CLV/LTV:算出方法は複数ある。定義を決め、変えずに並べる
- 接点回数:多さではなく、分布と偏りを見る
- 顧客ステータス:区分は自社の購買サイクルから決める
- リピート率:よい水準は業種次第。過去と統計に照らす
- 4つ並べると、単価・接触の質・流出の速度を切り分けられる
始めるなら、社長のコックピットに顧客の計器を1つ足すところからです。
1年後の営業会議では、「目標に届きました」という報告に、休眠へ移った社数と戻ってきた社数が添えられています。売上が横ばいの月でも、どの取引先が離れかけているかを社名で話し合えるようになっています。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の顧客データで、この4指標をどこまで作れるか」という整理から、ご相談を承っています。顧客台帳の重複が気になる段階でも構いません。
関連記事
