受注が入るたびに販売ソフトへ入力し、Excelに写し、会計ソフトにもう一度打ち込む。月末は数字を見比べる作業で、経理担当が遅くまで残っている。
「DXを進めなければ」と言われても、この毎日のどこから手をつければよいのか分からない。大企業の事例は規模が違いすぎ、ツールの紹介記事は自社に当てはめにくい。そんな中小企業は少なくありません。
答えは、まず情報をつなげることです。AIや最新技術は、そのあとで構いません。困っている業務から1つずつつないでいけば、中小企業のDXは小さく始められます。
そのための仕組みがERP(統合基幹業務システム)です。販売・在庫・購買・会計をひとつのシステムで扱います。Odooはアプリ単位で導入でき、まず販売だけ、次に在庫という広げ方ができます(Odooと小さく始める進め方の相性)。
つないでいくと、たとえば次のことが変わります。
- 受注を一度入れれば在庫が減り、請求につながる
- 月末の転記に追われる残業が減る
- 「あの数字を出して」に、ファイルを集めずに答えられる
- 段階ごとに効果を確かめ、次に進むかを経営判断できる
ただし、業務が単純で1つのソフトで完結しているなら、無理に入れる必要はありません。海外拠点や複雑な連結決算が視野にあれば、NetSuiteやSAPが先に検討の候補になります。
では、どの業務から、どの順番でつないでいけばよいのか。答えはつぎはぎをほどく順番にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。小さく始める場合でも、使う機能によってはEnterprise版が前提になります。
中小企業のDXは「つぎはぎ」の解消から
よくある状態
多くの中小企業で見かけるのは、次のような回り方です。
- 受注は販売ソフト、在庫はExcel、会計は別の会計ソフト
- 部署ごとに独自のExcelがある
- 一部の情報は紙の台帳や個人のPCにある
- システム間の連携は、人が転記している
一つひとつは、ちゃんと動いています。だから「困ってはいない」と感じるのです。
それでも、コストは毎日払っている
つぎはぎの状態では、次の4つが毎日起きています。
| 起きていること | 現場の姿 |
|---|---|
| 同じ情報を何度も入力する | 受注データを販売ソフトに入れ、Excelに転記し、会計ソフトにも入力する |
| 数字が見えるまで時間がかかる | 今月の売上や在庫は、複数のファイルを集計するまで分からない |
| 担当者しか分からない | 「あのExcelは○○さんが管理している」。その人が休むと業務が止まる |
| 間違いが見つかりにくい | 転記ミスは、複数のデータを見比べるまで気づかない |
どれも目立つ損失ではありません。ただ、毎月の残業と、経営判断の遅れとして確実に積み上がっています。
ここがDXの出発点
DXというと、AIや最新技術の導入を想像しがちです。
中小企業にとって現実的なのは、「まず情報をつなげること」です。つながっていないデータを分析しようとしても、集計作業に時間を取られて終わります。DXとAIの関係は、AX(AIトランスフォーメーション)とは?で整理しています。
中小企業のDXが「DXのため」では進まない理由
目的が曖昧だと、評価できない
「DXを推進する」という目的では、何をすればよいかが決まりません。
結果として、ベンダーの提案をそのまま受け入れることになります。導入後も、効果が出たのかを判断できません。
測れる形にする
たとえば、次のような形です。
- 受注から請求までの転記作業をなくす
- 在庫の実数と帳簿の差異をなくす
- 月次の締めを数日短縮する
- 「あの数字を出して」に即答できるようにする
ここまで具体的なら、導入後に効果を確かめられます。社内で「何のためにやるのか」を説明するときの言葉にもなります。
「いちばん困っていること」から始める
すべてを一度に解決しようとしないでください。
いま最も時間を取られている作業、最もミスが起きている業務。そこから着手すると、効果を実感しやすくなります。
なぜDXで「基幹システム(ERP)」が選択肢になるのか
個別ツールを増やしても、つながらない
「在庫管理ツールを入れよう」「経費精算アプリを導入しよう」。
個別に導入すれば、その業務は便利になります。けれども、システムが増えるほど連携の手間も増えます。
つぎはぎを解消するつもりが、つぎはぎを増やしていた。そんな結果になりがちです。
ERPは「つなげる」ための仕組み
ERP(統合基幹業務システム)は、販売・在庫・購買・会計といった業務をひとつのシステムで扱う仕組みです。
受注を入力すると、在庫が減り、請求につながる。同じ情報を何度も入れる必要がなくなります。
中小企業に大企業向けは合わない
ERPと聞いて、身構える必要はありません。
大企業向けの製品は、中小企業には機能が過剰になりがちです。持て余すだけでなく、運用の負担も大きくなります。規模に合った選択肢を選ぶことが、成功の前提です。
規模と要件で選ぶ基幹システムの4つの段
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、基幹システムを規模と要件に応じた4つの段で捉えています。
中小企業にとって現実的なのは、多くの場合、下の2段です。
- Odoo:複数の業務をひとつにつなげたい中小〜中堅企業
- AIスクラッチ開発:規模がより小さい企業、または業務が固有すぎてパッケージに乗らない企業(開発費・保守費が別途かかる)
上の2段は、規模が大きくなってから検討する領域です。ただし、3〜5年で拠点や人員が大きく増える見込みなら話は変わります。最初から上の段を検討したほうが、乗り換えの二度手間を避けられます。
自社はどの段から考えるか(判断表)
社内の検討会議では、次の表で自社の位置を確かめてください。
| 自社の状態 | 最初に検討する選択肢 |
|---|---|
| 販売・在庫・会計が別々で、転記が毎日発生している | Odoo |
| 業務は標準的だが、部署ごとにExcelが増え続けている | Odoo |
| 業務が独特で、どのパッケージにも乗りにくい | AIスクラッチ開発 |
| 3〜5年で拠点・人員が大きく増える計画がある | Odoo、またはNetSuite |
| 海外拠点や複雑な連結決算が視野にある | NetSuite、SAP |
AIスクラッチ開発はライセンス費がかからない一方、開発費と保守費が別途かかります。ライセンスが要らないからといって、負担が軽いとは限りません。
中小企業のDXは何から始めるか:つぎはぎをほどく順番
全部を一度にやらない
基幹システムというと、「全社一斉に切り替える」イメージがあります。
中小企業では、困っている業務から始めて効果を見ながら広げるほうが現実的です。
Odooは小さく始める進め方と相性がよい
Odooはアプリ単位で導入できます。まず販売だけ、次に在庫、その次に会計という広げ方です。
有償プランの料金は、アプリの数ではなくユーザー数で決まります。範囲を広げても、ライセンスの考え方は変わりません。
ベンチャーネットが確かめる4つのこと
ベンチャーネットは、製品の話より先に、次の順で確かめます。
- 転記の地図を描く:受注から入金まで、どこで誰が何を写しているかを書き出す。時間とミスがいちばん集中している箇所が、最初の対象になる
- 3〜5年後の姿を聞く:人員や拠点、事業の広げ方を伺い、4つの段のどこが合うかを決める。Odooが合わないと判断すれば、その場でお伝えする
- 標準に合わせる範囲を決める:Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)を基本にする。変えない業務だけを、経営者と一緒に選ぶ
- 見える化→わかる化→儲かる化の順で広げる:まず数字がそろう状態を作る。次に原因が分かる状態へ進み、最後に打ち手につなげる
段階の広げ方は、たとえば次のとおりです。
| 段階 | 対象 |
|---|---|
| 第1段階 | いちばん困っている業務(例:受注管理)をシステム化する |
| 第2段階 | 効果を確かめ、隣の業務(例:在庫)を足す |
| 第3段階 | 数字が見える状態になったら、会計まで広げる |
段階ごとに効果を確かめられるので、次に進むかどうかの経営判断もしやすくなります。データを1か所に集めた先の見える化・わかる化・儲かる化は、データを1か所に集めると、経営はどう変わるかで扱っています。
小さく始める進め方の良い点と、気をつけること
困っている業務から1つずつつなぐ進め方で、得られることと、先に覚悟しておきたい負担を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 効果を実感しやすい:いちばん時間を取られている業務、いちばんミスが起きている業務から着手する
- 段階ごとに判断できる:効果を確かめてから、次の業務に進むかを決められる
- つないだ範囲から転記が減る:受注を入力すると在庫が減り、請求につながる
- 広げてもライセンスの考え方は同じ:有償プランの料金はアプリの数ではなく、ユーザー数で決まる
- 合わないことが早く分かる:3〜5年後の姿を聞いた段階で、Odooが合わなければその場で伝える
気をつけることは、次の4つです。
- 機能によってはEnterprise版が前提:小さく始める場合でも、使う機能によっては有償版が要る
- 今のやり方を変える決断が要る:「今のExcelと同じ形に」を続けると、非効率なやり方まで持ち込む
- 窓口となる人が要る:専任でなくてよいが、社内にいなければ運用まで支援先に任せる前提を作る
- 稼働後の定着まで計画に入れる:教育と定着支援を削ると、投資が回収できない
両方を1枚の図に並べました。
注意点の避け方は、中小企業のDXでつまずくポイントにまとめています。
中小企業のDXでつまずくポイント
ツールの導入だけで終わる
システムを入れただけでは、業務は変わりません。
「入れたけれど、結局Excelも併用している」。この状態が続くなら、投資は回収されていません。業務のやり方を変えるところまで含めて、はじめてDXです。
現行のやり方をそのまま再現しようとする
「今のExcelと同じ形にしてほしい」という要望は、よく出ます。
ところが、そのExcelのやり方自体が非効率なことも多いのです。システムの導入は、業務を見直す数少ない機会です。標準的なやり方に合わせる発想を、最初に方針として決めてください。
誰も面倒を見ない
導入後に、システムを見る人がいない。これが最も多い失敗です。
専任でなくて構いません。ただ、「窓口となる人」は決めておく必要があります。社内にいなければ、運用まで支援先に任せる前提を作ってください。
稼働をゴールにする
現場が使いこなせて、はじめて効果が出ます。
稼働後の教育と定着支援は、最初から計画に入れておいてください。ここを削ると、投資そのものが回収できません。
よくある質問
従業員が少なくても、ERPは意味がありますか?
意味があるかどうかは、人数より「業務のつながり」で決まります。
社員10人でも、受注・在庫・請求が別々で転記が発生しているなら、つなげる価値があります。逆に、業務が単純で1つのソフトで完結しているなら、無理に入れる必要はありません。
IT担当がいませんが、進められますか?
進められます。ただし条件があります。
導入と運用を支援先に任せる前提を作ることです。そのうえで、社内に判断できる窓口を1人決めてください。判断が要る場面は何度も来るので、ここが空白だとプロジェクトが止まります。
補助金は使えますか?
使える制度があります。デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)など、システム導入を対象とする制度です。
ただし、対象となる経費や要件は年度によって変わります。最新の内容は、必ず公式の公募要領でご確認ください。補助金ありきで製品を選ぶと、自社に合わないものを入れることになりかねません。
まず何から手をつければよいですか?
「どの業務のどこに時間がかかっているか」を書き出すことから始めてください。
製品を比べるのは、そのあとです。順序を逆にすると、比較表を眺めるだけで時間が過ぎていきます。
中小企業がOdooで小さく始めるメリットは何ですか?
効果を確かめながら業務を広げられることです。
Odooはアプリ単位で導入できるので、まず販売、次に在庫、その次に会計と広げられます。有償プランの料金はアプリの数ではなくユーザー数で決まり、範囲を広げてもライセンスの考え方は変わりません。段階ごとに効果を見て、次に進むかを決められます。進め方はつぎはぎをほどく順番にまとめました。
まとめ:DXは「つなげる」ことから始まる
- 中小企業のDXは、まず情報をつなげることから始まる
- つぎはぎの状態では、転記・集計・属人化のコストを毎日払っている
- 「DXのため」ではなく、測れる目的に具体化する
- 個別ツールを増やしても、つながらない
- 規模と3〜5年後の姿で選択肢を選ぶ。大企業向けは過剰になりやすい
- 全部を一度にやらず、困っている業務から広げる
DXは、ITの取り組みである以上に経営の取り組みです。どの業務を標準に合わせ、どこに独自性を残すのか。それを決めるのは経営だからです。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品に誘導する理由がないので、規模に対して過剰だと判断すれば、正直にそうお伝えします。
1年後、受注を一度入れるだけで在庫と請求が動き、月末の転記のための残業がなくなっている。「今月の粗利は?」と聞かれた担当者が、Excelを集めずにその場で答えている。そんな会社の姿を思い描いて、最初の1業務を選んでください。
もう少し詳しく知りたい方へ
「どの業務から手をつけるか」を決める段階でも、ご相談いただけます。転記の多い業務を一緒に書き出すところから始めます。
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