二重入力をなくす|「一度入れたら全部に反映」するOdooの仕組みと進め方

受注が決まると、営業が案件表に入れ、事務が受注台帳に書き写し、経理が請求ソフトに打ち直す。同じ取引先名と金額を、三人が三回打っています。

やがて社内で「その金額、どっちが最新ですか」という声が出ます。同じ情報が二か所以上にある合図です。

これは担当者の段取りの問題ではありません。二重入力は、努力ではなく仕組みで解ける問題です。

Odoo(オドゥー:販売・在庫・会計などを1つのデータでつなぐ業務アプリ群)では、見積から受注、出荷、請求までが同じデータの上で動きます。一度入れた取引先名と金額を、後の工程がそのまま引き継ぐ仕組みです(Odooで二重入力はこう変わる)。

「一度入れたら全部に反映」の状態になると、たとえば次のことが変わります。

  • 営業が案件に入れた値引きが、そのまま請求書に載る
  • 月末に、部署間で金額を見比べる時間が消える
  • 「どれが正しいか」を調べずに、数字を判断に使える
  • 担当者の仕事が、入力から確認と判断へ移る

ただし、規模や要件によっては、NetSuiteのほうが合う場合もあります。

まずは仕組みを入れる前に、自社のどこで二重入力が起きているかを知る必要があります。書き写し・出し戻し・二重管理という3つの目印で直近1週間を振り返れば、30分で主な発生源は挙がります。

では、そのとき数えるべきなのは、転記の件数でしょうか。答えは二重入力の発生場所の洗い出しにあります。

CommunityとEnterpriseの区別について

販売・在庫・購買・CRM(顧客と商談の管理)の基本機能は、Community版(無料)でもEnterprise版(有償)でも使えます。会計のフル機能はEnterprise版が前提で、Community版は請求書の発行など基本的な範囲にとどまります。

目次

二重入力で、こんな場面はありませんか

月末、経理から営業に連絡が入ります。「請求金額が案件表と違うのですが」。見直すと、値引きを案件表にだけ反映していました。台帳と請求ソフトには古い金額が残っています。

誰かのミスではありません。同じ数字が三か所にあり、一か所だけ更新されたから起きています。

二重入力の本当のコストは、打ち込む時間ではありません。「同じ情報が二か所にあると、どちらかが必ず古くなる」点です。そこから「どちらが正しいか」を確かめる作業が生まれ、やがて数字そのものが信用されなくなります。

同じ受注を三回打つ状態と、一度で済む状態 上は営業・事務・経理が同じ受注を別々に入力し、どれが最新か分からなくなる状態。下は一度の入力を出荷も請求も引き継ぎ、見比べる作業が消える状態を示しています。 同じ受注を三回打つ状態と、 一度で済む状態 いまの状態 案件表・受注台帳・請求ソフト 同じ金額を三人が別々に入力 → どれが最新か分からない つながった状態 受注を一度だけ登録する 出荷も請求も同じ情報を引き継ぐ → 見比べる作業が消える 減るのは入力時間だけではなく、 「どちらが正しいか」を確かめる時間です
同じ受注を三回打つ状態と、一度で済む状態

自社に当てはまるかのチェックリスト

次のうち2つ以上当てはまれば、二重入力が経営の数字に影響し始めている可能性があります。

  • □ 月末に、部署間で金額や数量を見比べる時間がある
  • □ 会議で「その数字はどこから取りましたか」と聞くことがある
  • □ 値引きや納期の変更を、複数の表に反映し忘れたことがある
  • □ 表計算ソフトへの書き出しと取り込みを、毎週か毎月くり返している
  • □ 担当者が休むと、どの表が最新か分からなくなる

なぜ二重入力・転記の手間が生まれるのか

理由1:必要になった順に、別々の道具を入れてきた

多くの会社は、困った業務から順に道具をそろえてきました。どれも自分の中で完結し、業務のつなぎ目には何も置かれていません。

理由2:つなぐ手段がないので、人が間に立っている

道具どうしが直接やり取りできなければ、間を埋めるのは人です。画面を見比べて書き写し、表計算ソフトで整えてから入れ直す。仕組みの隙間を人が埋めた結果が、二重入力です。

理由3:「そういうもの」として定着している

同じ作業が何年も続くと、問題ではなく前提になります。新人も決まりごととして引き継ぎます。時間が奪われ続けても、誰の課題リストにも載りません。

Odooで二重入力はこう変わる

Odooは、販売・在庫・購買・会計などをひとつのデータの上で動かします。

二重入力の発生場所を30分で洗い出す

直近1週間の業務を、次の3つの目印で振り返ってください。

目印どんな作業か
書き写しある画面を見ながら、別の画面に目で追って入力している
出し戻し表計算ソフトへの書き出しと取り込みを、定期的にくり返している
二重管理同じ金額や数量を、部署ごとに別々に持っている

紙に書き出すだけで、30分あれば主な発生源は挙がります。数えるのは件数より、「同じ数字が何か所にあるか」です。

一度の入力が、次の工程に引き継がれる

見積が受注になり、受注が出荷や請求につながります。後工程は、前の工程の情報を引き継いだ状態が出発点です。

担当者の仕事は「入力」から「確認と判断」へ移ります。

数字がひとつになり、確認作業が消える

置き場所がひとつになれば、古い数字が別の場所に残りません。効果が大きいのは月末の見比べです。

どれが正しいかを調べる時間が消え、数字を判断にそのまま使えます。一元化の考え方は社内システムの一元化とはで整理しています。月末の見比べが消えた先で、月次決算がどこまで早くなるかを扱ったのが、月次決算が「15日後」から「翌日」になるです。

AIで代替できる工程:残る転記のうち、書類から取引先名や金額を読み取って下書きを作る部分は、AIによる読み取りで人手を減らせる余地があります。ただ、AIに任せる前に、なくせる転記はなくすのが先です。その順番はAIや自動化に飛びつく前にが参考になります。

この仕組みの良い点と、気をつけること

一度の入力を次の工程へ引き継ぐ仕組みには、得られることと、先に決めておきたいことがあります。

良い点は、次の5つです。

  • 打ち直しが減る:前の工程の情報を引き継ぐので、同じ取引先名と金額を何度も打たない
  • 月末の見比べが消える:置き場所がひとつになり、古い数字が別の場所に残らない
  • 数字を判断にそのまま使える:どれが正しいかを調べる時間がなくなる
  • 仕事が確認と判断に移る:後工程は、前の工程の情報を引き継いだ状態から始まる
  • Community版でも始められる:販売・在庫・購買・CRMがつながる部分は、どちらの版でも使える

気をつけることは、次の4つです。

  • 「正」の入力場所を先に決める:誰がどこに入れるかを決めずにつないでも、二重入力は残る
  • 管理表は整理してから移す:そのまま移すと、二重入力の構造まで引き継ぐ
  • 入力の粒度をそろえる:打ち直す量は減るが、粒度の取り決めは最初に必要になる
  • 会計まで含めるなら版を選ぶ:会計のフル機能と複数アプリ横断の集計画面は、Enterprise版が対象

決める順番は、二重入力を止めるまでの進め方で取り上げました。

この仕組みの良い点と、気をつけること 良い点は、打ち直しが減る、月末の見比べが消える、数字を判断にそのまま使える、仕事が確認と判断に移る、Community版でも始められること。気をつけることは、正の入力場所を先に決める、管理表は整理してから移す、入力の粒度をそろえる、会計まで含めるなら版を選ぶこと。 この仕組みの良い点と注意点 良い点 打ち直しが減る 前の工程の情報を引き継ぐ 月末の見比べが消える 古い数字が別の場所に残らない 数字を判断にそのまま使える どれが正しいかを調べない 仕事が確認と判断に移る 後工程は引き継いだ情報から始まる Community版でも始められる 販売・在庫・購買・CRMの連携 気をつけること 「正」の入力場所を先に決める 誰がどこに入れるかを情報ごとに 管理表は整理してから移す 二重入力の構造を持ち込まない 入力の粒度をそろえる 取り決めは最初に必要 会計まで含めるなら版を選ぶ 会計のフル機能はEnterprise版 判断の軸は「月末の見比べが消えるか」
この仕組みの良い点と、気をつけること

対応範囲(C/E別)

項目Community版Enterprise版
販売(見積・受注)使える使える
在庫・購買(仕入)・CRM使える使える
会計のフル機能請求書発行など基本的な範囲利用可
複数アプリ横断の集計画面対象外利用可
ホスティング・保守自社責任公式サポートに含む

版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

同じデータの上で業務がつながる構造は、版によらないOdooの性質です。外部のツールとつなぐ話はOdooのAPI連携で扱っています。

二重入力をなくすまでの3ステップ 発生場所の洗い出し、入力する場所の一本化、確認作業の削減という3つの段階を、上から順に示しています。 二重入力をなくすまでの3ステップ ①洗い出す 書き写し・出し戻し・ 二重管理を探す ②一本化する 入力する場所を ひとつに決める ③確認をやめる 見比べる時間が まるごと不要になる 最初の一歩は、道具選びではなく発生場所の洗い出し
二重入力をなくすまでの3ステップ

二重入力を止めるまでの進め方

ベンチャーネットがこのテーマで相談を受けたとき、道具選びより先に、次の順で確かめます。

  1. 同じ数字の置き場所を数える:取引先名・金額・数量が、いま何か所にあるかを書き出します。30分の洗い出しの3つの目印を使います。
  2. 情報ごとに「正」の入力場所を決める:誰がどこに入れるかを、情報ごとに一つに決めます。迷ったら、最初に情報が発生する部署を基準にします。ここを決めずにつないでも、二重入力は残ります。
  3. 標準の流れに業務を合わせられるか確かめる:見積から受注、出荷、請求へと引き継ぐOdooの標準の流れに、自社の業務が乗るかを見ます。これをFit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)と呼びます。
  4. 既存の管理表を整理してから移す:長年の管理表には、使わない列や重複した行が残っています。そのまま移すと、二重入力の構造まで引き継ぎます。進め方はExcel管理からOdooへで扱っています。
  5. 合わない部分は正直に振り分ける:規模や要件によっては、NetSuiteのほうが合う場合もあります。パッケージに乗らない固有業務には、AIスクラッチ開発という選択肢もあります。ただし開発費と保守費が別途かかる前提で比べます。

判断の軸は「月末の見比べが消えるか」です。つなぐ範囲を広げるほど良いわけではありません。

よくある質問

二重入力は、どこから手をつけるのがよいですか?

月末に確認作業が集中している箇所からです。件数より、食い違いが実際に起きている作業を優先してください。

Community版だけでも二重入力は減らせますか?

減らせます。対象は、販売・在庫・購買・CRMがつながる部分です。会計のフル機能はEnterprise版が前提です。

使っている道具を、すべて置き換える必要がありますか?

必ずしも必要ありません。食い違いの起きている業務から先につなぎ、残りは段階的に判断できます。

現場の入力の手間は増えませんか?

打ち直す量は減ります。ただし、入力の粒度をそろえる取り決めは最初に必要です。

二重入力をなくすメリットは何ですか?

数字が一つになり月末の見比べが消えることです。

置き場所がひとつになれば、古い数字が別の場所に残りません。どれが正しいかを調べる時間が消え、数字を判断にそのまま使えます。一方で、「正」の入力場所を先に決める必要があります。両方をこの仕組みの良い点と、気をつけることに並べました。

まとめ:二重入力は仕組みで解く

二重入力は、努力ではなく仕組みで解く問題です。

  • 同じ数字が二か所にあると、どちらかは必ず古くなる
  • 本当のコストは時間ではなく、数字が信用できなくなること
  • 書き写し・出し戻し・二重管理の3つの目印で洗い出せる
  • 情報ごとに「正」の入力場所を決めてから、つなぐ
  • Odooでは前の工程の情報を引き継ぐため、打ち直しが減る

1年後の月末、営業が案件に入れた値引きが、そのまま請求書に載っている。経理から「その金額、どっちが最新ですか」と電話がかかってこなくなれば、この取り組みは実を結んでいます。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「二重入力をなくすなら、どの業務から手をつけるべきか」という整理から、ご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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