OdooのVoIP連携|電話の内容が、誰にも残らない状態をなくす

日本の商習慣では、電話がまだ強い接点です。

急ぎの相談、込み入った説明、言いにくい話。メールより電話のほうが速い場面は確かにあります。

問題は、その後です。

通話が終わったあと、話した内容はどこに残るでしょうか。 担当者のメモ帳。あるいは記憶。

そして数週間後、別の担当者がその顧客に連絡します。電話で何が話されたかを知らないまま。

「その件は前回お伝えしたはずですが」と言われて、初めて食い違いに気づく。これは実際によく起きます。

この記事では、Odoo(オドゥー:オープンソース由来の統合業務アプリ群)のVoIP連携を、機能の各論として整理します。

⚠️ このアプリはEnterprise版限定です
OdooのVoIP機能は、有償の Enterprise版 が対象と案内されています。無料の Community版では利用できません

専門用語の整理:VoIP(ブイオーアイピー)とは、インターネット回線を使って通話する仕組みのことです。従来の電話回線ではなく、データ通信で音声をやり取りします。

目次

電話だけが、記録から外れています

構造を見てください。

メールやフォームは記録に残るのに電話だけが記録から外れている状態を示した図 左側はメール、問い合わせフォーム、チャットの内容が顧客の記録に残る一方、電話の内容だけが担当者のメモや記憶に留まり記録から抜けている状態。右側は通話も記録として残り、すべての接点が同じ場所にそろう状態を示しています。 電話だけが抜けている 通話も記録になる メール 問い合わせフォーム チャット 電話 記録に残らない 顧客の記録 担当者のメモ 別の担当者は経緯を知らない 「前回お伝えしたはずですが」 メール 問い合わせフォーム チャット 電話 通話の記録が残る 顧客の記録(すべてそろう) 誰が対応しても経緯が分かる 担当交代でも食い違いが起きにくい

メールも、フォームも、チャットも記録に残ります。電話だけが例外です。

これは仕組みの問題です。担当者の意識が低いからではありません。通話を記録に残す手段が用意されていないだけです。

VoIP連携でできること

OdooのVoIP機能は、おおむね次のような構成になっています(2026年8月時点)。

発信と着信

  • 顧客の記録から、画面上の操作で発信できる
  • 着信時に、相手が誰かを画面に表示する
  • かける予定の相手を、一覧として持てる

通話の記録

  • 通話の履歴が記録として残る
  • 通話中または通話後に、その記録へメモを残せる
  • 記録は、顧客や商談の記録に紐づく

Odoo公式のリリースノートには、通話の内容を記録欄に残せるという趣旨の改善が挙げられています。

業務との接続

  • 通話から、次の予定(訪問、折り返し)を作れる
  • 問い合わせの対応として記録できる

設定できる項目や画面の構成はバージョンによって変わります。 検討時には対象バージョンの公式資料で確認してください。

🚨 日本国内での利用は、必ず実機で確認してください

この記事でいちばん重要な章です。

Odoo側で完結する部分と、電話事業者との接続に依存する部分を分けた図 上段はOdoo側で完結する通話履歴の保存、顧客記録との紐づけ、メモの記録。下段は電話事業者との接続に依存する接続方式の対応可否、既存の電話番号の利用可否、音質と安定性、緊急通報の扱いを示しています。下段は必ず実機で検証すべき範囲です。 どこまでが確実で、どこからが要検証か Odoo側で完結する 製品の機能として設計できる 通話履歴を記録として保存する 顧客・商談の記録に紐づける 通話後のメモと、次の予定の作成 事業者との接続に依存 実機検証が必須の範囲 利用中の電話事業者と接続できるか いまの電話番号をそのまま使えるか 音質と安定性が業務に耐えるか 緊急通報や特定の番号への発信の扱い 代表番号への着信をどう振り分けるか カタログの対応可否では判断できません。必ず自社の環境で試してください

なぜ実機検証が必要なのか

VoIPは、電話事業者との接続が前提の機能です。

そして電話の仕組みは、国ごとに事情が異なります。番号の制度、事業者の仕様、緊急通報の扱い。これらは製品側だけでは決まりません。

「Odooが対応している」という記載は、自社の電話環境で使えることを保証しません。

確認すべきこと

  1. いま契約している電話事業者と接続できるか
  2. いまの電話番号を、そのまま使えるか(番号が変わると影響が大きい)
  3. 音質と安定性が、業務に耐えるか(実際の回線環境で試す)
  4. 緊急通報の扱いがどうなるか
  5. 代表番号への着信を、どう振り分けるか

2つ目を軽く見ないでください。 会社の電話番号は、名刺、Webサイト、取引先の登録情報すべてに載っています。変更の影響は電話だけにとどまりません。

段階的に試してください

いきなり全社の電話をVoIPに切り替えないでください。

まず一部の部署や、発信のみの用途から試す。問題がなければ広げる。 この順序を守ってください。

通話の録音について

録音を検討する場合、技術の話の前に確認すべきことがあります。

確認すべきこと

項目内容
相手への告知録音することを、どう伝えるか
保存期間いつまで保管し、いつ消すか
閲覧できる人誰が聞けるようにするか
目的の限定何のために使うのか

録音は、法令と社内規程の両方に関わる領域です。 この記事では判断しません。

通話録音を導入する場合は、必要に応じて専門家に確認してください。

目的をはっきりさせてください

「念のため録音しておく」という導入は、うまくいきません。

  • 誰も聞き返さないまま、データだけが増える
  • 通話する側が萎縮する
  • 保管と削除の管理コストだけが残る

目的が「教育のため」なのか「言った言わないの防止」なのかで、必要な運用が変わります。 先に決めてください。

電話の記録は、量ではなく1行です

運用で最も大事な点です。

通話後に、長い議事録を書かせないでください。 続きません。

残すべきこと

項目
相手が何を求めたか「納期の前倒しができるか知りたい」
こちらが何を答えたか「確認して明日折り返すと回答」
次に何が起きるか「明日中に折り返し」

この3行で十分です。

次に誰がその顧客に触れても、この3行があれば食い違いを避けられます。 それが目的であって、通話の再現ではありません。

記録が残ることの副次的な効果

通話履歴が残ると、「この顧客に月何回電話しているか」が見えます。

想定より多い場合、そこには何か構造的な問題があります。説明が足りていない、手順が分かりにくい、あるいは製品自体に課題がある。

電話の回数は、改善すべき点を示す信号になります。

Community版とEnterprise版の違い

Odooには、無料の Community版 と有償の Enterprise版 があります。

Community版はオープンソースとして無料で使えます。ただし、サーバの用意・アップデート・障害対応は自社の責任になり、公式サポートの対象外です。

VoIP機能は、Enterprise版が対象です。Community版では利用できないと案内されています。

一方、通話の内容をメモとして記録に残すこと自体は、Community版でもできます。 顧客や商談の記録に、手動でメモを残す運用です。

電話をかける操作をシステムから行うか、記録だけを残すか。 ここが版の分かれ目だと考えてください。

記録を残す目的だけなら、Community版でも運用でカバーできます。 発信の手間より、記録の有無が重要だからです。

どの機能がどちらの版で使えるかはバージョンによって変わります。 検討時には必ず対象バージョンで確認してください。

詳しくは Odoo Community版とEnterprise版の違い をご覧ください。

他のアプリとのつながり

アプリつながり方
CRM商談の記録に通話履歴が残る
ヘルプデスク電話での問い合わせを、チケットとして記録する
社内チャット通話のメモが、その記録の会話欄に残る
予約管理通話から次の打ち合わせを設定する

詳細はそれぞれの記事にまとめています。

入れないほうがよい場合

正直に書きます。

状況判断
電話の件数が1日に数件入れる必要はありません
電話対応が事業の中心(コールセンターなど)専用のCTI製品を検討してください
既存の電話環境に不満がない無理に変える必要はありません
電話の内容が記録に残らず、担当交代で困っている検討の価値があります

専用のCTI製品という選択肢

電話対応に特化した製品があります。着信の振り分け、待ち呼の管理、通話品質の分析では、専用製品のほうが優れています。

この点で競うつもりはありません。

Odooに意味があるのは、通話が顧客の記録の一部になる場合です。商談、問い合わせ、受注、請求。それらと同じ場所に通話履歴があることに価値を感じるかどうかで判断してください。

まず記録から始めるという選択

VoIPの導入自体を急ぐ必要はありません。

いま困っているのが「電話の内容が残らないこと」なら、通話後に3行のメモを顧客の記録に残す運用から始められます。これはCommunity版でもできます。

運用が定着してから、発信の仕組みを検討しても遅くありません。

よくある質問

Q1. いまの電話番号をそのまま使えますか?

契約している事業者と、接続の方式によって変わります。 この記事では断定しません。

番号が変わる影響は大きいため、検討の最初に確認してください。

Q2. スマートフォンでも使えますか?

Odooのモバイルアプリは、Enterprise版が対象と案内されています。

ただし、外出先の通信環境での音質は実機で確認してください。 移動中の利用が多い業務では、ここが判断を分けます。

Q3. 着信時に顧客名を表示できますか?

登録されている電話番号と一致すれば、相手を特定して表示する仕組みです。

逆に言えば、番号が登録されていない相手には効きません。 顧客データの整備が前提になります。

Q4. 通話を録音できますか?

技術的な可否より先に、運用と法令の確認をしてください。

相手への告知、保存期間、閲覧できる人、目的の限定。この4点を決めてから検討してください。 必要に応じて専門家に確認してください。

Q5. 導入にどのくらいの期間がかかりますか?

電話環境の検証にかかる時間で決まります。 機能の設定そのものではありません。

検証期間を計画に含めてください。 ここを短く見積もると、切り替え当日に問題が出ます。

まとめ

OdooのVoIP連携の価値は、発信の手間を減らすことではありません。

電話の内容が、顧客の記録に残ることです。

メールも、フォームも、チャットも記録に残ります。電話だけが例外です。 これは担当者の意識の問題ではなく、記録に残す手段が用意されていないだけです。

そして数週間後、別の担当者が経緯を知らないまま連絡し、食い違いが起きます。

ただし、この機能には必ず確認すべきことがあります。

日本国内での利用可否は、実機で検証してください。 契約している電話事業者と接続できるか、いまの番号をそのまま使えるか、音質が業務に耐えるか、緊急通報がどうなるか。カタログの対応可否では判断できません。

とくに番号が変わる影響は、電話だけにとどまりません。名刺、Webサイト、取引先の登録情報すべてに載っています。

いきなり全社を切り替えないでください。 一部の部署や発信のみから試し、問題がなければ広げる。この順序を守ってください。

運用では、通話後の記録を3行に絞ってください。 相手が何を求めたか、こちらが何を答えたか、次に何が起きるか。長い議事録は続きません。

最後に、現実的な進め方をお伝えします。困っているのが「記録が残らないこと」なら、まず3行のメモを残す運用から始められます。 これはCommunity版でもできます。発信の仕組みは、そのあとで構いません。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「まず通話の記録を残す運用から」という進め方からご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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