「シフトは組めています。ただ、そのとおりに動いた月がほとんどないんです」。介護・福祉の現場でよく聞く言葉です。
急な欠勤、他事業所への応援、予定外の残業。計画と実際がずれるのは日常です。困るのは、そのずれを毎月人の手で照らし合わせていることです。
介護・福祉では、人の配置がそのままサービスの前提になります。シフトが崩れると、事業そのものが回りません。
Odoo(オドゥー:勤怠・人事・会計などのアプリを同じデータでつなぐ業務システム)なら、シフトと勤怠を同じ場所に載せ、計画と実績を並べて見られます。担うのは、シフト・勤怠・職員台帳・自費の請求・会計といった、業種を問わない事業運営です。
公的な報酬の請求と給与計算は、専用のシステムに残します。つなぎ目は「月次で確定した労働時間」の1点です(どこで線を引くか)。
シフトと勤怠をまとめると、たとえば次のことが変わります。
- シフトの計画と実際の出勤を、同じ場所で見比べられる
- 入退職や配属の情報を、勤怠と同じ場所に置ける
- 月次で確定した労働時間を、1か所から給与ソフトへ渡せる
ただし、報酬請求の仕組みまで1つのシステムにまとめたいなら、Odooの出番ではありません。制度に対応した専用システムを中心に据えるほうが合っています。
では、どこから始めれば現場の負担を増やさずに済むのか。答えはシフトと勤怠をつなぐまでの進め方にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と、有償のEnterprise版があります。この記事で中心に扱う勤怠や従業員台帳は、両版の基本機能の範囲です。一方、シフトの計画(Planning)は有償のEnterprise版が対象のアプリです。事業所全体の会計をフルに扱う場合も、Enterprise版が前提です。
介護・福祉事業所で起きていること
多くの事業所で、人に関する情報は別々の場所にあります。シフト表は表計算ソフト、出退勤は紙のタイムカードです。職員名簿は別ファイル、給与は専用ソフトという形です。
そのため毎月、シフトどおりに働いたのかを照らし合わせる作業が発生します。誰が休み、誰が代わりに入り、誰が何時間残ったのか。紙とファイルを行き来して確かめます。
この作業は月末に集中し、担当者が1人に固定されがちです。確認が遅れれば、そのまま給与計算の遅れになります。
シフト・勤怠・給与のどこが分断されているか
分断1:計画したシフトと、実際の勤怠がつながっていない
シフト表は「これから」の予定、タイムカードは「終わった」事実です。両者が別の場所にあるため、ずれを見つけるには人が並べて比べるしかありません。
分断2:複数事業所にまたがる勤務の集計が手作業になる
応援や兼務があると、1人の職員の勤務が複数の事業所に分かれます。記録が事業所ごとに分かれていると、合計時間を出すだけで集計作業が必要です。
分断3:職員情報と勤怠と給与が3か所に分かれている
入退職や資格の情報は名簿、働いた時間はタイムカード、支給額は給与ソフトにあります。1人の職員を追うのに、3か所を開くことになります。
Odooでどこまで担えるか、どこは担えないか
この業種では、Odooに何をやらせないかを先に決めることが大事です。
Odooで担える範囲
Odooが担うのは、業種を問わない一般的な事業運営です。事業所では次が対象になります。
- 勤務シフトの計画
- 出退勤の記録と集計(勤怠の記録の考え方)
- 職員台帳の基本情報の管理
- 自費サービスや物販の請求書発行
- 事業所全体の会計
- 備品・消耗品の在庫管理
シフトと勤怠が同じ場所に載れば、計画と実績を並べて見られます。これが分断1(シフトと勤怠のずれ)への答えです。
専用のシステムに任せる範囲
一方で、公的な報酬の請求と、それに関わる記録は「専用のシステムが担う領域」です。Odooで置き換えるものではありません。
報酬の体系や加算の要件、請求の手続きは制度そのものです。この部分は、所轄の情報や専門のシステムの提供元にご確認ください。
もう1つ、給与計算そのものも「Odooでは担えません」。Odooの給与計算は、日本のローカライズ(国ごとの法令・様式への対応)が公式に提供されていないためです。Odoo 19.0の公式ドキュメントの給与計算の対応国一覧に、日本の記載はありません(出典:Odoo公式 Payroll localizations、2026年10月確認)。
給与計算は国内の専用ソフトに任せ、Odooは勤怠の集計までを担う。この役割分担が現実的です。日本固有の要件は日本対応の考え方も併せてご確認ください。
人事・勤怠・給与をOdooとNetSuiteで比べる場合も、給与は比較から外して考えられます。その理由は、NetSuiteとOdooの人事・勤怠・給与|比較から外してよい業務で整理したとおりです。
つなぎ方の考え方
制度が絡む業務は専用システムに、人とお金の流れはOdooに寄せます。つなぎ目は勤怠の集計結果です。
月次で確定した労働時間を、給与ソフトへ渡す。決めるのはこの1点です。渡し方の設計は給与はどこで計算するかで詳しく扱っています。
Community版とEnterprise版の対応範囲
| 業務 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 従業員台帳の基本情報管理 | 使える | 使える |
| 勤怠(出退勤の記録) | 使える | 使える |
| シフトの計画(Planning) | 対象外 | 使える |
| 請求書発行など基本的な範囲の会計 | 使える | 使える |
| 備品・消耗品の在庫(基本機能) | 使える | 使える |
| 会計のフル機能(財務諸表・部門別の管理会計) | 対象外 | 前提となる |
| 給与計算 | 日本のローカライズが公式提供なし | 日本のローカライズが公式提供なし |
版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
介護・福祉事業所でOdooを使うメリットとデメリット
事業所から見ると、Odooの良い点と注意点は次のとおりです。使える版は、機能ごとに添えています。
メリット
- 計画と実績を並べて見られる:シフトと勤怠が同じ場所に載れば、計画と実績を並べて見られる。勤怠はCommunity版でも使えるが、シフトの計画(Planning)はEnterprise版が対象
- 職員台帳と勤怠を同じ場所に置ける:入退職・配属を勤怠と同じ場所で持てる。従業員台帳の基本情報管理はCommunity版でも使える
- 自費サービスや物販の請求も担える:請求書発行など基本的な範囲の会計は、Community版でも使える
- 備品・消耗品の在庫も扱える:在庫の基本機能は、どちらの版にもある
- 給与とのつなぎ目を1点にできる:月次で確定した労働時間を、給与ソフトへ渡す。決めるのはこの1点
デメリット・注意点
- シフトの計画と会計のフル機能はEnterprise版:Planningと、財務諸表・部門別の管理会計はEnterprise版が前提
- 公的な報酬の請求は担わない:報酬の請求とそれに関わる記録は、専用のシステムが担う領域
- 給与計算は担えない:Odooの給与計算は、日本のローカライズが公式に提供されていない。どちらの版でも同じ
- Community版は保守が自社の責任:公式サポートの対象外。運用に乗せる前に、保守の担い手を決めておく必要がある
両方を並べると、次の図のとおりです。
制度の線を先に引く順番はシフトと勤怠をつなぐまでの進め方で、つまずきやすい点はよくある2つの失敗で扱っています。
自社に当てはまるかの確認
次のうち3つ以上に当てはまるなら、シフトと勤怠を1か所にまとめる効果が出やすい状態です。経営会議でそのまま確認に使えます。
- □ 月末の勤怠の照らし合わせを、特定の1人が毎月抱えている
- □ シフト表と実際の出勤が違った日を、すぐには数えられない
- □ 応援や兼務の時間を、事業所ごとに手で合計している
- □ 入退職や配属の変更が、名簿・勤怠・給与の3か所に届くまで時間がかかる
- □ 給与ソフトへ渡す前に、勤怠の数字を人が打ち直している
報酬請求の仕組みまで1つのシステムにまとめたい場合は、Odooの出番ではありません。制度に対応した専用システムを中心に据えるほうが合っています。
シフトと勤怠をつなぐまでの進め方
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。そのため、Odooありきでは進めません。この業種で確かめる順番は、次のとおりです。
- 制度の線を先に引く。報酬請求と関連記録は専用システムに残す、と最初に決めます。ここが曖昧なまま進めると、後で作り込みと保守が膨らみます。
- 勤怠の記録方法を決める。どの端末で、いつ、誰が打刻するか。夜勤や直行直帰の扱いも含め、現場の動きに合わせて決めます。
- 勤怠を1か所に集める。出退勤の記録を集め、集計のもとにします。まずは「見える化」の段階です。
- 職員台帳とシフトを載せる。入退職・配属を勤怠と同じ場所に置き、シフトの計画も載せます。計画と実績が並ぶと、ずれの理由が「わかる」ようになります。
- 給与ソフトへの受け渡しを固める。月次で確定した労働時間を渡す形を決めます。会計や在庫はその後で構いません。
進める中で、標準機能に業務を合わせる考え方(Fit to Standard)が合わないと分かることもあります。そのときは、別の製品やAIスクラッチ開発も含めて正直にお伝えします。AIスクラッチ開発はライセンス費用がかからない一方、開発費・保守費は別途必要です。
全体像は労務システムの基本も参考にしてください。
介護・福祉事業所のシステム化でよくある2つの失敗
失敗1:公的な請求まで載せようとしてしまう
Odooは自由度が高いため、制度に関わる請求も作り込めそうに見えますが、制度は改定され、そのたびに保守が必要になります。専用のシステムに任せるほうが、結果として軽く済みます。
失敗2:現場の記録方法を決めずに始めてしまう
出退勤をどの端末で、いつ、誰が記録するのか。ここが曖昧だと記録の抜けが増え、結局また手作業の確認に戻ります。
よくある質問
Odooで介護報酬の請求はできますか?
専用のシステムが担う前提でお考えください。ベンチャーネットも、制度に関わる請求は専用システムに任せる形をすすめています。
給与計算までOdooで完結しますか?
完結しません。Odooの給与計算は日本のローカライズが公式提供されていないためです。勤怠の集計までをOdooで行い、給与計算は国内の専用ソフトへ渡します。
事業所が3つありますが、1つのOdooで扱えますか?
複数の拠点を1つのOdooで扱う想定はあります。ただし事業所ごとの区分の持たせ方は設計次第です。組織の整え方が判断材料になります。
まず無料のCommunity版で試すのは現実的ですか?
試すこと自体は可能です。ただしCommunity版は公式サポートの対象外で、保守は自社の責任になります。運用に乗せる前に、保守の担い手を決めておく必要があります。
介護・福祉事業所でOdooを使うメリットとデメリットは何ですか?
シフトと勤怠を並べて見られる一方で報酬請求と給与計算は担いません。
シフトと勤怠が同じ場所に載り、計画と実績を並べて見られます。職員台帳・自費の請求・会計・備品の在庫も、同じ仕組みで扱えます。
一方で、シフトの計画(Planning)と会計のフル機能はEnterprise版が前提です。公的な報酬の請求は専用のシステムに、給与計算は国内の専用ソフトに任せます(メリットとデメリット)。
まとめ
介護・福祉事業所でOdooを考えるときの要点です。
- 人の配置が事業の前提であり、シフトの崩れが事業を止める
- 計画と実績が別管理だと、毎月の照らし合わせが人に残り続ける
- 公的な報酬の請求と、それに関わる記録は専用のシステムの領域
- 給与計算はOdooでは担えず、国内の専用ソフトへ渡す
- Odooはシフト・勤怠・職員台帳・自費請求・会計・在庫を担う
- メリットは計画と実績を並べて見られること。注意点は版の区分と、報酬請求・給与計算との線引き
線を正しく引ければ、システムが複数あっても現場は混乱しません。まずは勤怠の1点からで十分です。
1年後の月末、担当者はタイムカードとシフト表を並べて残業する代わりに、確定した勤怠をそのまま給与ソフトへ渡しています。急な欠勤や応援があった月も、誰がどこで何時間働いたかを、画面を開けばすぐ確かめられます。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「制度に関わる部分は専用システムに残したまま、シフトと勤怠から整えたい」という整理から、ご相談を承っています。
関連記事
