「あの案件、結局いくら儲かったんだっけ」。広告代理店やWeb制作会社の経営者から、よく聞く一言です。
納品を終え、請求書も送った。それなのに黒字か赤字かが分かるのは、外注の請求書が出そろい、月次が締まったあとです。
原因は、自社が使った時間と外注費が別々にあることです。この後追いは、案件の原価を一か所に集めると変えられます。Odoo(オドゥー)では、自社の工数と外注の発注を同じ案件に紐づけられます。デザインや開発といった制作そのものは、使い慣れた専用ツールに残したままで構いません。
いちばん差が出るのは外注費です。自社の工数だけでは、収支の半分しか見えません。外注費が同じ案件に集まって、はじめていくら残ったかが出ます(Odooで担える範囲)。
Odooで案件に原価を集めると、たとえば次のことが変わります。
- 締めを待たずに、案件ごとの収支が見えてくる
- 誰がどの案件に何時間使ったかが積み上がる
- 見積に入っていなかった修正が、請求しない場合も記録として残る
- 似た案件の見積を、勘ではなく過去の実績から決められる
ただし、グループ会社が増えて連結が要る規模なら、OdooとNetSuiteの違いを比べる段階に入ります。良い点と注意点はメリットとデメリットにまとめました。
もう一つの問いは、見積より膨らんだ仕様変更の作業を、どう数字として残すかです。答えは案件収支が見えるまでの順番の最後にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
案件とタスクの管理、工数の記録、外注の発注、見積から請求までは、Community版(無料・オープンソース)の基本機能でも扱えます。会計のフル機能と、案件収支を1画面にまとめる仕組みは、Enterprise版(有償)が前提です。
広告代理店・Web制作会社で起きていること
広告代理店やWeb制作会社は、人の時間を売る事業です。コンサルティング会社や士業と同じ構造ですが、違う点が2つあります。
1つは外注が多いこと。デザイン、撮影、コーディング、印刷、媒体費。案件の原価に、人件費と外注費が混ざります。
もう1つは、仕様変更が前提であること。見積より作業が膨らむのは日常です。追加請求せずに飲み込めば、その分だけ利益が消えます。
結果として、案件が終わるまで黒字か赤字か分かりません。外注の請求書が想定より高くて青ざめる。冒頭の一言に、誰も答えられないままです。
案件収支の管理はどこで分断されているか
分断1:自社の工数を測っていない
誰がどの案件に何時間使ったか。その記録がなければ、人件費が案件に乗りません。紐づくのは外注費と実費だけです。本当は赤字の案件が、黒字に見えてしまいます。
分断2:外注の発注が案件に紐づいていない
発注は担当者がメールや電話で行い、請求書は経理に直接届く。これでは、どの案件の金額かを人が照らし合わせるしかありません。締めまで原価が確定しないのは、このためです。
分断3:仕様変更の記録が残らない
「ここだけ直して」は、打ち合わせやチャットで流れていきます。対応した本人以外には見えません。追加請求を切り出そうにも、増えた分を示す材料がありません。
自社に当てはまるかのチェック
次の項目に2つ以上当てはまれば、案件収支は後追いになっている可能性が高いと考えます。経営会議で、そのまま確認に使えます。
- □ 案件ごとの利益を、月次の締め前に答えられない
- □ 社員が各案件に使った時間を、誰も集計していない
- □ 外注の請求書が届くまで、その案件の外注費が確定しない
- □ 追加の修正に何時間かかったか、あとから説明できない
- □ 似た案件の見積を、過去の実績ではなく担当者の勘で決めている
広告・Web制作の業務をOdooでどこまで担えるか
Odooで担える範囲
Odooは、業務ごとのアプリを組み合わせる統合型のERP(基幹業務システム)で、この業種で中心になるのは次の範囲です。
- 案件(プロジェクト)とタスクの管理
- 工数の記録。誰がどの案件に何時間使ったかを積み上げる
- 外注の発注を購買として登録し、同じ案件に紐づける
- 見積・受注・請求書の発行
- 顧客と商談の管理
いちばん差が出るのは3つ目です。自社の工数だけでは、収支の半分しか見えません。外注費が同じ案件に集まって、はじめていくら残ったかが出ます。
専用のシステムに任せる範囲
制作物そのものを作る作業は、Odooの領域外です。
- デザインや映像の制作、開発やコーディング
- 広告の入稿と配信面の設定
これらは専用ツールの領域です。Odooが受け持つのは、その仕事を案件として束ね、数字にする部分。
媒体の管理画面から取れる配信実績も、そのままOdooに入るとは限りません。連携できるかどうかは、要件によって変わります。
つなぎ方の考え方
決めるのは、案件の原価をどこに集めるかの一点です。制作は使い慣れたツール、案件と数字はOdoo。この線を先に引きます。
Odooの対応範囲(Community版/Enterprise版)
| 業務 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 案件・タスクの管理、工数の記録 | 基本機能で使える | 同じ範囲を使える |
| 外注の発注(購買)、見積・受注・請求、CRM | 基本機能で使える | 同じ範囲を使える |
| 会計のフル機能(財務諸表・分析会計) | 対象外 | 前提 |
| 案件収支を1画面に集約 | 対象外 | スプレッドシート機能が前提 |
| サポート・ホスティング・更新 | 自社で用意 | 含まれる |
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
広告代理店・Web制作会社でOdooを使うメリットとデメリット
案件収支の面から見ると、Odooの良い点と注意点は次のとおりです。使える版は、機能ごとに添えています。
メリット
- 人件費と外注費が同じ案件に集まる:工数の記録と、購買として登録した外注の発注を、同じ案件に紐づける。どちらもCommunity版の基本機能で扱える
- 締めを待たずに収支が見える:外注の発注を案件に紐づけた段階から、月次の締めを待たずに案件ごとの収支が見える
- 仕様変更を記録に残せる:追加作業を案件のタスクとして残し、見積外の作業だと印をつける。飲み込んだ分が分かれば、次の見積の精度が上がる
- 制作ツールはそのまま使える:デザイン・開発・広告の入稿は専用ツールに残し、案件と数字だけをOdooに集める
デメリット・注意点
- 案件収支を1画面で見るにはEnterprise版が前提:Community版は各アプリで個別に見る形。まとめる手段はEnterprise版のスプレッドシート機能で、会計のフル機能もEnterprise版が前提
- 媒体の配信実績はそのまま入らない:連携できるかどうかは、媒体やデータの粒度によって変わる。要件の整理が要る
- 工数の記録が埋まらないと数字が空回りする:工数の分類を細かくしすぎると、入力が止まる
- 日本の給与計算は標準にない:Odooの給与計算(Payroll)は、日本のローカライズが公式に提供されていない
両方を並べると、次の図のとおりです。
工数と外注費を案件に集める手順は案件収支が見えるまでの順番、入力が止まる原因はよくある2つの失敗で説明しています。
案件収支が見えるまでに、ベンチャーネットが確かめる順番
一度に全部を入れると、制作の現場が止まります。ベンチャーネットが進める順番は、まず見える化、次にわかる化、最後に儲かる化です。
ステップ1:直近の案件で、原価の置き場所を洗い出す
最初の作業は、終わった案件をいくつか選ぶことです。工数・外注費・媒体費が、それぞれどこに記録されているかを一緒にたどります。どこで数字が途切れているかが、最初の設計図になります。
ステップ2:案件と工数から始める
ここでつくるのは、案件を登録し、工数を記録する習慣です。ここが埋まらないと、あとの数字が空回りします。分類は粗くてかまいません。
ステップ3:外注の発注を案件に紐づける
発注をOdooの購買として登録し、案件を指定します。人件費と外注費が、同じ案件に集まります。締めを待たずに収支が見えるのは、この段階からです。
締めてから分かる経営と、受注の時点で見える経営の違いは、受注した瞬間から、採算は見えているで経営の側から書いています。
ステップ4:仕様変更を記録として残す
追加作業が出たら、その時点で案件にタスクとして残し、見積に入っていなかった作業だと分かるよう印をつけます。
請求しないと決めた場合も、記録は消しません。どれだけ飲み込んだかが分かれば、次の見積の精度が上がります。請求できなかった作業ほど、残す価値があります。
判断の基準は、Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)です。制作の進め方までOdooの型に合わせる必要はありません。絞るのは、標準で扱える案件・工数・原価・請求です。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。グループ会社が増えて連結が要る規模なら、OdooとNetSuiteの違いの観点で比べます。その規模で案件管理を考えるなら、NetSuiteで実現するプロジェクト管理が参考です。Odooが合わないと判断したときは、そのままお伝えします。AIスクラッチ開発は、ライセンス費がかからない代わりに開発費・保守費が別途かかる選択肢です。
指標は利益に関する経営指標で扱っています。
案件収支の管理でよくある2つの失敗
失敗1:工数の分類を細かくしすぎる
分類を増やすほど、入力は止まります。最初は案件の単位で十分です。粒度は、あとから細かくできます。
失敗2:制作の工程までOdooに寄せようとする
デザインや開発の進め方まで載せ替えると、現場の負担が増えます。Odooに載せるのは、案件・工数・原価・請求の骨格です。
広告代理店・Web制作会社のOdoo活用でよくある質問
Community版だけで案件収支は見えますか?
記録はできますが、1画面で見るにはEnterprise版が前提です。案件・工数・購買の記録は、Community版の基本機能でも扱えます。ただし各アプリで個別に見る形で、まとめる手段はEnterprise版のスプレッドシート機能です。
外注費はどうやって案件に乗せますか?
外注への発注を購買として登録し、案件を指定します。コツは、発注の時点で紐づけることです。請求書が届いてから照らし合わせると、後追いのままです。
媒体の配信実績はOdooに取り込めますか?
管理画面のデータが、そのままOdooに入るわけではありません。連携できるかどうかは、媒体やデータの粒度によって変わります。要件を整理して検討する領域です。
給与計算もOdooでできますか?
日本の給与計算は、Odooの標準では用意されていません。Odooの給与計算(Payroll)は、日本のローカライズが公式に提供されていないためです。公式ドキュメントの対応国一覧に、日本の記載はありません(出典:Odoo公式ドキュメント 給与のローカライズ一覧、Odoo 19.0、2026年10月確認)。
広告代理店・Web制作会社でOdooを使うメリットとデメリットは何ですか?
案件に原価を集められる一方で1画面での集約はEnterprise版が前提です。
自社の工数と外注の発注を同じ案件に紐づけ、締めを待たずに案件ごとの収支を見られます。工数と発注の記録は、Community版の基本機能でも扱えます。
一方、案件収支を1画面にまとめるには、Enterprise版のスプレッドシート機能が前提です。媒体の配信実績も、そのままOdooに入るとは限りません(メリットとデメリット)。
まとめ
- 利益が見えないのは、自社の工数と外注費が別々にあるため
- 工数の記録と、外注の発注の案件紐づけ。この2つで収支が出る
- 仕様変更は、追加請求の有無にかかわらず記録に残す
- 制作の工程は専用ツール、案件と数字はOdooと線を引く
- 案件収支を1画面で追うなら、Enterprise版のスプレッドシート機能が前提
- メリットは人件費と外注費が案件に集まること。注意点は版の区分と、媒体や給与との連携
1年後、見積の打ち合わせでは、似た過去案件の外注費と飲み込んだ修正の時間を見ながら金額を決めています。「あの案件、いくら儲かった?」には、担当者がその場で答えられるはずです。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「案件収支をリアルタイムで見える状態にしたいが、どこから手をつけるべきか」という整理から、ご相談を承っています。
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