朝いちばんに、担当者が前日のEC注文を販売管理システムへ打ち直している。
夕方には「サイトでは在庫ありなのに、倉庫に実物がない」と連絡が入る。ECサイトを持つ会社の多くが、この「注文の転記」と「在庫のズレ」を毎日抱えています。
OdooのEC機能は、この2つを根もとから減らします。ECの在庫・商品情報・受注が、販売や在庫管理と同じデータの上で動くからです。注文はそのまま受注になり、在庫の数字はひとつしかありません(基幹業務と同じデータを使う仕組み)。
Webサイト作成とEC機能は、無料のCommunity版でも使えます。ただし、フル機能の会計などは有償のEnterprise版が前提です。
ECが業務とつながると、たとえば次のことが変わります。
- 決済が確認された注文が、打ち直しなしで受注になる
- 実店舗・卸・ECの在庫を、同じ数字で見られる
- 受注から出荷・請求・入金消込まで、同じシステムで完結する
- 取引先ごとの価格で受ける、卸先向けの受注サイトも持てる
ただし、デザインの自由度やEC特化の販促機能では、専用のECサービスに分があります。
では、ShopifyやBASEのような専用のECサービスをやめて、Odooに寄せるべきか。答えは、自社がECを事業の中でどう位置づけているかで分かれます。良い点と注意点はEC機能のメリットとデメリットに、判断の目安は社内会議用の判断表にまとめました。
OdooのEC機能(eCommerce)の特徴とできること
基幹業務と同じデータを使う
OdooのECを理解するには、この一点を押さえれば足ります。
一般的なECサービスは、ECのための独立したシステムです。基幹システム(販売・在庫・会計を扱う社内の中核システム)とは別にあり、両者をつなぐ連携が要ります。
OdooのECは、在庫も商品情報も受注も、基幹業務と同じデータを見ています。そもそも「連携」という作業が生まれません。
Community版でも使える
Webサイト作成とEC機能は、無料のCommunity版でも利用できます。
この区分は、Odoo公式のエディション比較ページにもとづいています(出典:Odoo公式 エディション比較ページ、2026年8月確認)。対応はバージョンによって変わるため、検討時は最新の公式情報をご確認ください。
できること
- 商品ページの作成と公開
- カート・注文の受付
- 決済サービスとの連携
- 配送方法の設定
- 顧客のマイページ(注文履歴の確認など)
- 在庫数の連動
商品情報は、販売管理で使っているものと同じです。ECのために二重登録する必要はありません。
OdooのEC機能のメリットとデメリット
EC担当と経営者から見ると、良い点と注意点は次のとおりです。使える版は、機能ごとに添えています。
メリット
- 注文がそのまま受注になる:決済が確認されると、受注として確定する。銀行振込は入金後に手で確定する。Webサイト作成とEC機能はCommunity版でも使える
- 在庫がひとつになる:ECと倉庫が同じ数字を見る。売り越しも、在庫があるのに在庫切れと出る機会損失も、仕組みとして起きにくい
- 出荷・請求・入金消込まで一本でつながる:ECの売上が、そのまま会計にもつながる。フル機能の会計はEnterprise版限定
- BtoBの受注サイトにも使える:取引先ごとに異なる価格を設定できる
- 売上が伸びても課金の考え方が変わらない:Enterprise版はユーザー単位の課金で、売上が増えても単価は変わらない。決済手数料は、決済代行会社との契約で別に発生する。逆に売上が小さいうちは、固定費ゼロで始められるEC SaaSのほうが負担が軽い
デメリット・注意点
- デザインの自由度は専用サービスが上:テンプレートの豊富さもカスタマイズ性も、専用のECサービスのほうが上
- EC特化の販促機能は少なめ:クーポン、レコメンドといった機能は専用サービスが充実している。マーケティングオートメーションはEnterprise版限定
- 決済・配送・モール連携は事前の確認が要る:対応していなければ、拡張モジュールで補うか、業務側の運用で吸収する
- 商品マスタと在庫ルールの整備が前提:商品マスタの乱れはECにそのまま出る。公開する在庫数のルールが曖昧だと、売り越しは防げない
専用サービスと並べた図は専用ECサービスとの違いに、注意点の避け方はベンチャーネットが確かめることにあります。
在庫・受注と「つながっている」ことの実務的な意味
注文がそのまま受注になる
ECの注文は、決済が確認されると、そのまま受注として確定します。銀行振込では自動で確定せず、入金後に手作業で確定する必要があります(出典:Odoo公式ドキュメント「Order handling」、2026年10月確認)。
転記の手間が消えるだけではありません。転記に伴う入力ミスも、あわせてなくなります。
在庫がひとつになる
ECサイトの在庫と倉庫の在庫が、同じ数字を見ています。
別々に管理していると、次の2つが起きます。
- ECで売れたのに在庫が減っておらず、実物がない(売り越し)
- 実際には在庫があるのに、ECでは在庫切れ表示になっている(機会損失)
在庫がひとつなら、この問題は仕組みとして起きません。在庫の仕組みはOdooの在庫管理で詳しく扱っています。
出荷・請求まで一本でつながる
受注 → 出荷 → 請求 → 入金消込。この流れが、同じシステムの中で完結します。
入金消込とは、入金された金額がどの請求分かを照らし合わせて消し込む作業です。ECの売上は、そのまま会計にもつながります(フル機能の会計はEnterprise版限定です)。
BtoBの取引にも対応できる
取引先ごとに異なる価格を設定する、といった運用も可能です。
卸先向けの受注サイトを持ちたい会社には、この点が実務で役に立ちます。
Shopify・BASEなど専用ECサービスとの違い
一方で、専用のECサービスには、Odooが及ばない強みもあります。両方を並べると、次の図のとおりです。
Odooが強いところ
| 強み | 中身 |
|---|---|
| 在庫・受注との直結 | 最大の価値。連携の設定も、その保守も要らない |
| BtoB取引への対応 | 取引先ごとの価格設定など、業務系の要件に対応しやすい |
| ECを足しても課金の考え方が同じ | 有償プランはアプリ数によらず一律。ECを追加してもライセンスの考え方は変わらない |
専用ECサービスが強いところ
デザインの自由度では、専用サービスに分があります。テンプレートの豊富さもカスタマイズ性も、専用サービスのほうが上です。
販促・マーケティング機能も同じです。クーポン、レコメンド、カゴ落ち対策といったEC特化の機能は、専用サービスのほうが充実しています。
決済、配送、レビュー、広告連携など、周辺サービスの選択肢の広さも専用サービスの強みです。
選び方の目安(社内会議用の判断表)
分かれ目は、ECを「販売チャネルのひとつ」と見るか、「事業の柱」と見るかです。
| 自社の状況 | 向いている選択肢 |
|---|---|
| 実店舗・卸・ECで同じ商品を売り、在庫をひとつにしたい | Odoo |
| 取引先ごとの価格で受注するBtoBサイトを持ちたい | Odoo |
| 売上のほとんどがECで、販促機能が競争力に直結する | 専用ECサービス |
| ブランドサイトとしての見た目の表現を最優先したい | 専用ECサービス |
| ECは専用サービスのまま、基幹とつなぐ手間も許容できる | 併用(連携) |
会社の規模が大きくなり、海外拠点や複雑な要件まで一つの仕組みで扱うなら、NetSuiteの純正ECも候補に入ります。違いはSuiteCommerceとは?NetSuite純正ECと外部EC連携の使い分けにまとめています。
OdooのECが自社に合うかのチェックリスト
次の項目にいくつ当てはまるかで、Odooに寄せる価値の大きさが分かります。
- □ EC注文を、毎日だれかが基幹システムへ手で入力している
- □ 「サイトでは在庫あり、倉庫には実物なし」が月に何度か起きている
- □ 実店舗・卸・ECで、同じ商品の在庫を別々に数えている
- □ 取引先ごとに価格や条件が違い、今はメールや電話で受注している
- □ 商品数が多く、商品情報をECと社内で二重に更新している
3つ以上当てはまるなら、OdooのECを候補に入れ、月商をもとに試算してみる価値があります。
逆に、次のような会社には、OdooのECを積極的にはお勧めしません。
- EC単体で完結する事業:基幹業務との統合が不要なら、Odooを選ぶ理由が薄くなります
- デザインへのこだわりが強い:ブランドの表現力が最優先なら、専用サービスのほうが適しています
- EC特化の販促機能が必須:高度なレコメンドや販促の自動化が競争力の中核なら、専用サービスを検討してください
なお、マーケティングオートメーション(見込み客への配信などを自動化する機能)はEnterprise版限定です。
ECと在庫をつなぐ前に、ベンチャーネットが確かめること
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。Odooありきで話を進める必要はありません。次の順番で見ていき、合わなければ合わないとお伝えします。
なお、AIスクラッチ開発はライセンス費こそかかりませんが、開発費と保守費が別途かかります。
ステップ1:ECの位置づけを決める
最初に確かめるのは、機能ではなくECの役割です。販売チャネルのひとつか、事業の柱か。
3〜5年後に、売上のどれだけをECが占めていそうか。それを経営者と一緒に描きます。ここで専用サービスのほうが合うと分かれば、その時点でそうお伝えします。
ステップ2:商品マスタの状態を見る
ECに載せる商品情報は、基幹システムの商品マスタと同じものです。商品マスタとは、商品の名前・価格・区分などをまとめた台帳のことです。
商品マスタが整理されていないと、その乱れはECにもそのまま出ます。廃番商品、重複登録、説明文の不備を洗い出し、移行の前に整えます。
ステップ3:在庫の運用ルールを決める
ECで公開する在庫数を、実在庫そのままにするか、安全在庫を差し引くか。
複数チャネルで売るなら、どのチャネルに何個を割り当てるかも決めます。このルールが曖昧なままでは、仕組みを入れても売り越しは防げません。安全在庫をどう持つかは、安全在庫の配分が参考になります。
ステップ4:決済と配送の要件を照らし合わせる
使いたい決済サービスや配送方法に対応しているかは、検討の初期に確認します。
対応していなければ、拡張モジュールで補うか、業務側の運用で吸収するかを決めます。
ステップ5:サイトの見た目への期待値をそろえる
Odooのサイト機能は実用的です。ただ、専用のECサービスほどの表現力はありません。
進め方の基本は、Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)です。「業務がつながること」に価値を見出せるか。この段階で社内の合意にしておきます。
このアプリに対応する有名なECサービス(SaaS)
すでにECサービスを使っているなら、OdooのEC機能はその置き換え候補になります。主なサービスとの対応は次のとおりです。
| 使っているSaaS | Odooでの対応 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| BASE | EC(eCommerce) | 商品を売る機能は重なる。決済の即日導入と手軽さはBASEが上 |
| STORES | EC(eCommerce) | 同上。実店舗やPOSとの組み合わせはSTORESも強い |
| Shopify | EC(eCommerce) | アプリ市場と越境ECの広さはShopifyが先行 |
機能の違い
- OdooにあってEC SaaSにないもの:注文がそのまま受注になり、在庫が倉庫と同じ数字で動くこと。出荷・請求・入金消込まで同じシステムで完結する
- EC SaaSが先行しているもの:デザインテンプレートの豊富さ、EC特化の販促機能の幅、決済・配送・広告連携の選択肢の広さ。カゴ落ちの再送メールは、Odooにもある
課金構造の違い
いちばん大きな違いは、課金の仕組みです。EC SaaSは、売上に連動する体系が中心です。
BASEの場合、初期費用・月額費用がかからないプランでは、商品が売れたときに決済手数料とサービス利用料がかかります。月額制のプランに切り替えると、売上に応じた手数料の率が下がります。
(※課金の型は、2026年9月時点の各社公式サイトの情報にもとづきます。金額や条件は改定されることがあるため、検討時に各社の公式ページでご確認ください)
Odoo Enterprise版はユーザー単位の課金で、売上が増えても単価は変わりません。決済手数料は、決済代行会社との契約で別に発生します。金額の詳細は Odooの料金体系を解説 を参照してください。
売上が伸びるほど、EC SaaSの手数料は積み上がります。Odooは、人数が増えない限り一定です。逆に売上が小さいうちは、固定費ゼロで始められるEC SaaSのほうが軽くなります。損益が入れ替わる点がどこかを、自社の月商で試算してください。
置き換えのメリット
- 注文の転記がなくなり、入力ミスも消える
- ECと倉庫の在庫がひとつになり、売り越しが仕組みとして起きにくくなる
- 実店舗・卸・ECの在庫を同じ数字で見られる
- 取引先ごとの価格設定など、BtoBのECに対応しやすい
置き換えのデメリット・向かないケース
- デザインの自由度と販促機能は、専用ECサービスが先行している
- 決済・配送・モール連携は、利用したいサービスへの対応を事前に確認する必要がある
- 売上規模が小さいうちは、固定費ゼロで始められるEC SaaSのほうが負担が軽い
- ECが事業の主戦場で、マーケティング機能が競争力に直結するなら、専用サービスのほうが適している
他のアプリの対応表は Odooで置き換えられるSaaS対応表 にまとめています。
バージョンと機能の更新について
Odoo 19.0は2025年9月にリリースされました。標準サポートの終了は2028年9月(予定)と、公式に記載があります。
その後、19.1(2026年1月)・19.2(2026年3月)・19.3(2026年5月)・19.4(2026年7月)が順に提供されています。
19.1〜19.4は、Odooオンラインで先に提供されました。Odoo.shとオンプレミスは対象外でした(公式のサポート表にN/Aと明記)。
2026年9月には、次のメジャー版のOdoo 20が公開されました。Odoo.shやオンプレミスの会社も、Odoo 20に上げれば、19.1〜19.4の新機能をまとめて受け取れます。
違うのは、新機能を受け取る時期です。早く使いたいならOdooオンライン。自社で管理したいなら、Odoo.shかオンプレミスで年1回のメジャー版に合わせます。Odoo 20の変更点はOdoo 20の新機能まとめにあります。
ECにかかわる変更は、19.4のウェブサイトビルダーの刷新です(公式リリースノートに記載)。OdooのECサイトは、このサイト作成機能の上に構築されます。
ただし、19.4の段階でこの刷新を受け取れたのは、Odooオンラインだけです。Odoo.shとオンプレミスで運用している場合、19.4の内容は提供対象外でした。
自社でECサイトを作り込んでいる会社ほど、この時期の差は無視できません。ホスティング形態によって、新機能を使い始められる時期が変わります。
刷新の具体的な中身は、公式に詳細な記載がありません。推測では書けないため、詳細は対象バージョンの公式情報でご確認ください。
この更新の流れは、Enterprise版の話です。無料のCommunity版は、この提供サイクルの対象外です。
※出典:Odoo公式のリリースノートおよびドキュメント(2026年9月確認)
OdooのEC機能でよくある質問
Community版でもECは使えますか?
使えます。Webサイト作成とEC機能は、Community版の範囲です。
ただし、マーケティングオートメーションやフル機能の会計はEnterprise版限定です。どこまでを必要とするかで、エディションが決まります。
いまのECサイトを残したまま、Odooと連携できますか?
外部のECと連携する方法はあります。
ただし、連携の設定と保守は、その後もずっと続く作業です。「連携を保守し続けるくらいならOdooのECに寄せる」という判断も、選択肢のひとつです。どちらがよいかは、いまのECがどれだけ作り込まれているかで変わります。
ECモールの注文も取り込めますか?
取り込むときは、拡張モジュールや外部サービスを介してモールと連携する形になります。
対応の可否と方法は、個別に確認が必要です。モールが主戦場であれば、専用の受注管理サービスとの併用も検討してください。
デザインはどこまで変えられますか?
テンプレートをもとに、画面上でレイアウトを編集できます。
ただし、専用のECサービスと比べると自由度は限られます。デザインが最優先なら、期待値を事前に確認してください。
OdooのEC機能のメリットとデメリットは何ですか?
在庫・受注と直結する利点とデザインや販促機能で専用サービスに及ばない点があります。
注文がそのまま受注になり、ECと倉庫の在庫がひとつになります。Webサイト作成とEC機能は、Community版でも使えます。
一方、デザインの自由度とEC特化の販促機能は、専用のECサービスに分があります。フル機能の会計はEnterprise版限定です(メリットとデメリット)。
まとめ:ECの位置づけで選び分ける
- OdooのECは、在庫・受注と同じデータを使う。連携が発生しない
- Webサイト作成とEC機能はCommunity版でも利用できる
- 転記作業がなくなり、売り越しも仕組みとして起きにくくなる
- デザインの自由度とEC特化の販促機能では、専用サービスに分がある
- 課金は売上連動型(EC SaaS)とユーザー単位(Odoo)で構造が違う。月商で試算する
- 商品マスタの整備と、在庫の運用ルールが導入の前提
- メリットは注文・在庫・請求が一本でつながること。注意点はデザイン・販促機能・連携の事前確認
ECをどうするかは、システム選びの前に「ECを事業の中でどう位置づけるか」という経営の問いです。販売チャネルのひとつなら、業務とつなぐ。事業の柱なら、専用サービスで作り込む。答えが違えば、選ぶべき仕組みも変わります。
1年後の月曜の朝、週末に入ったEC注文はすでに出荷指示まで進んでいる。担当者の最初の仕事が、打ち直しではなく売れ筋の確認に変わっていれば、ECを業務につないだ意味があります。
もう少し詳しく知りたい方へ
「うちのECは、販売チャネルのひとつか、事業の柱か」。その整理から、ご一緒します。
関連記事
