採用か、外注か、AIか——中小企業の人手不足、どれで埋めるかの決め方

採用・外注・AIは、値段で比べるものではありません。埋めている穴が違います。採用は判断できる人を増やし、外注はいま社内にない専門性を早く借り、AIは手数を増やします。だから最初の問いは「どれが安いか」ではなく、「足りないのは判断か、専門性か、手数か」です。

目次

「人が足りない」と言うとき、何が足りないのか

現場から「人が足りません」と声が上がります。経営会議で、三つの案が並びます。

求人を出すか。外に出すか。AIで何とかできないか。

ひとしきり話したあと、たいてい「まず求人を出してみよう」に落ち着きます。外注は「うちの仕事は特殊だから」で消え、AIは「まだ早い」で消えます。そして三か月後、同じ会議で同じ三つが並びます。

なぜ戻ってくるのか。三つを比べる物差しを持っていないからです。物差しがないと、いちばん見慣れた手に戻ります。多くの会社にとって、それが採用です。

ただ、その採用がいま簡単ではありません。2026年7月の有効求人倍率は1.18倍でした。正社員に限った有効求人倍率は1.00倍です(厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」2026年8月28日公表)。正社員を探している人と、正社員の求人が、ほぼ同じ数だけあるということです。

つまり、求人を出せば誰かが見つかる、という状況ではありません。なぜ人が採れないのか、その構造は「人手不足の本質と向き合う」で整理しています。

この記事で扱うのは、その先です。採用・外注・AIという三つの手を、どういう物差しで選ぶか。順に見ていきます。

三つを値段で比べると、決まらない

比べようとすると、多くの会社がまずコストの表を作ります。

正社員は年収いくら。外注は月いくら。AIは月に数千円から数万円。

この表を作った瞬間、答えはAIになります。けれど一年後、同じ悩みが残っています。表が間違っていたわけではありません。比べる軸が値段だけだと、三つが埋めている穴の違いが見えないのです。

三つは、代わりになるものではありません。増やすものが、それぞれ違います。

三つは、埋めている穴が違う 値段ではなく「何が増えるか」で並べると、選び方が変わる 採用 増えるもの 判断できる人 効き始めるまで いちばん遅い 会社に残るもの 人と、その人の判断 増えないもの 当面の手数 外注 増えるもの 社内にない専門性 効き始めるまで 比較的早い 会社に残るもの 成果物と、やり方の記録 増えないもの 切り出せていない仕事の受け皿 AI 増えるもの 手数 効き始めるまで いちばん早い 会社に残るもの 手順と、データ 増えないもの 判断

図1:採用・外注・AIが埋める穴の違い。増えるもの・効き始めるまで・残るもの・増えないものを並べると、三つが代わりにならないことが見えます。

採用で増えるのは、判断できる人です。 効き始めるのはいちばん遅く、募集から入社、そして戦力になるまで時間がかかります。そのかわり、残るのは人であり、その人が下せるようになった判断です。

外注で増えるのは、いま社内にない専門性です。 早く手に入りますが、渡せるのは切り出せた分だけです。相手は自社の社員ではないので、日々の指示で動かす関係にはなりません。「何を、いつまでに、どんな状態で」を先に決められた仕事しか、外には出ていきません。

AIで増えるのは、手数です。 いちばん早く効きます。ただし、増えるのは手数だけです。AIは仕事を速くしますが、「その仕事をやるべきか」を決めてはくれません。判断と、その結果の責任は、経営者に残ります。

ここが、三つを見分ける要点です。手数が足りない会社がいくら採用しても、入った人はその手数に吸い込まれます。判断が足りない会社がいくらAIを入れても、決まらない状態は変わりません。

足りないのは、判断か・専門性か・手数か

では、自社に足りないものはどれか。三つの問いで分けられます。

  1. その仕事が止まるのは、決める人がいないからか
  2. やり方を知っている人が社内にいないからか
  3. やり方は分かっているが、手が回らないからか

順に、判断・専門性・手数です。

言葉だけだと分けにくいので、現場で使える聞き方を一つ。「この仕事、明日から誰かに引き継げますか」と聞いてみてください。返ってくる答えで、足りないものが分かります。

「この仕事、明日から誰かに引き継げますか」 返ってくる答えで、足りないものが分かれる 返ってくる答え 足りないもの 最初の一手 「手順を書けば渡せます」 やることは決まっていて、量が多い 手数 AI、または外注で 手の数を増やす 「手順が書けません。やったことがないので」 正解を知っている人が社内にいない 専門性 外注で早く借り、 やり方を持ち帰る 「渡せません。会社としてどうするか決める話なので」 やり方ではなく、方針が決まっていない 判断 採用、または 経営者の時間を空ける

図2:足りないものを見分ける判断表。「引き継げますか」への答えが、手数・専門性・判断のどれが空いているかを教えてくれます。

実際には、三つが混ざっていることがほとんどです。混ざっているときは、手数から剥がします。手数を剥がすと、残った仕事の輪郭がはっきりして、専門性と判断のどちらが足りないのかが見えてきます。

なお、そもそも「やらなくていい仕事」が混ざっていることもあります。埋める前に減らす話は「業務を『捨てる』という発想」で扱っています。外に出す仕事の切り出し方、契約の結び方は「外部の力を借りる——副業・フリーランス×AIで、足りない力を補う」に手順があります。

順番で組み合わせる——ただし「いちばん痛いところ」が先

足りないものが分かったら、次は順番です。多くの中小企業で回りやすいのは、この順です。

① AIで手数の余白をつくる → ② 外注で専門性を借り、型を持ち帰る → ③ 判断を担える人を採る

理由は単純です。手数を剥がす前に人を採ると、採った人が手数の仕事に吸い込まれます。せっかく判断のために採ったのに、気づけば入力作業をしている。よくある光景です。

外注も同じです。切り出せていない状態で外に出すと、そのつど説明が要り、社内の時間をかえって食います。「固定費を変動費に変える」で書いたとおり、外に出すには、出せる形にしておく必要があります。

ただし、順番より優先されるものがあります。いま、いちばん痛いところです。

決算が締まらない。見積が出せずに商談が止まっている。そういう痛みがはっきりしているなら、順番を待つ必要はありません。そこから埋めます。判断の材料は三つです。

  • 痛みの所在:いま、どこで会社が止まっているか
  • 使える時間:いつまでに埋まっていなければ困るか
  • いまの仕組みの状態:手順や数字が、渡せる形になっているか

この三つで入口を決める考え方は、「FDE伴走の3つの典型パターン」でも同じです。

AIの部分を自社でやるか外に任せるかで迷うなら、それは別の分岐になります。「AIは内製か、外注か——中小企業が選ぶ『伴走』という第三の道」で扱っています。AIに何を任せられるのかの全体像は「バーチャル社員とは」が入口です。

三つを組み合わせると、何が変わるか

三つを分けて、順に埋めていく。それだけで、会社の中では四つのことが起きます。

募集要項が、具体になります。 手数と専門性を先に剥がすと、最後に残るのは「決める仕事」です。それがそのまま採用の要件になります。「幅広く対応できる方」ではなく「この判断を担ってほしい」と書けるようになる。求人がいちばん通らないのは、要件が絞れていないときです。順番を守ることは、採用をあきらめることではなく、採用の勝率を上げることです。

外に出せる仕事が、言葉になります。 切り出しの作業とは、手順と判断の基準を文章にする作業のことです。書けたものは、外注にもAIにも渡せます。そして書けなかったものが、その会社の芯です。どちらに転んでも収穫があります。

既存社員の負担が、先に軽くなります。 採用が決まるまで我慢する、という進め方だと、いちばん疲れている人が最後まで疲れたままです。手数から剥がす順番なら、負担は数週間単位で軽くなります。人が採れたかどうかとは関係なく効く、というのが大きい点です。

社内には、判断が残ります。 AIが増やすのは手数で、判断は増えません。だから判断は人のところに残り続けます。外注に渡した仕事も、やり方の記録を持ち帰る約束にしておけば、次からは自社で判断できる範囲が広がります。人を増やさずに会社が強くなるとは、この状態のことです。

よくある質問

Q. これは「採用をやめよう」という話ですか。
A. 逆です。判断できる人が足りないなら、採用が正解です。この記事が言っているのは、手数と専門性の穴を採用で埋めようとすると時間もお金もかかりすぎる、ということだけです。要件を絞ってから募集するほうが、結果的に早く決まります。

Q. AIを入れると、人を減らすことになりませんか。
A. AIが増やすのは手数です。判断は増えません。慢性的に人が足りない会社では、空いた手は、これまで手が回らなかった仕事に向かいます。減らすための道具ではなく、判断に時間を戻すための道具と考えるほうが実態に合います。

Q. 外注すると、社内にノウハウが残らないのでは。
A. 残す約束をしていないと残りません。渡すときに、成果物だけでなく「どういう手順で、なぜそう判断したか」を書いて返してもらう。これを条件に入れるかどうかで、一年後の社内の力がはっきり変わります。

Q. 三つが混ざっていて、分けられません。
A. 分けられないときは、手数から剥がしてください。毎日発生して、手順を書ける仕事から手をつけます。手数が減ると、残ったものの正体が見えてきます。分けてから動くのではなく、動きながら分けるほうが早いことも多いです。

Q. うちのような小さい会社でも、使い分けられますか。
A. 規模が小さいほど向いています。仕事の数が少なく、決める人と現場の距離が近いので、分解が早く終わります。関わる人が多い会社ほど、この分解に時間がかかります。

Q. AIは、どの仕事から試せばいいですか。
A. 毎日発生していて、手順が書ける仕事からです。書類の下書き、データの転記、問い合わせの一次整理などが典型です。判断が要る仕事は、最初の対象から外してください。

まとめ——「人が足りない」を分解するところから

採用・外注・AIは、値段で選ぶものではありません。判断が足りないのか、専門性が足りないのか、手数が足りないのか。まずそこを分けて、埋め方を合わせる。それだけで、三か月ごとに同じ会議を繰り返す状態からは抜けられます。

ただ、この分解は、社内ではなかなか進みません。

理由は、はっきりしています。分解するということは、誰かの仕事を指して「これは手数です」と言うことになるからです。言われた側は、自分の仕事の値打ちを下げられたように感じます。だから誰も言い出さず、すべては「人が足りない」という一語に丸められ、更新されるのは求人票だけになります。

分解は、仕事の値打ちを決める作業ではありません。埋め方を決める作業です。けれど、その区別は、内側にいる人どうしでは伝わりにくいものです。だから、外からの目が一つ入るだけで、驚くほど早く片づくことがあります。

ベンチャーネットは、AIと基幹システムを使った経営の立て直しを、FDE型の伴走という形で支援しています。現場に入り、動くものを小さくつくり、使われるまで一緒に直していく進め方です。入口はいつも同じで、一つの業務の手順と判断の基準を、一緒に言葉にするところからです。そこまで進むと、どこをAIに任せ、どこを外に出し、どこに人を採るかが、自然と決まってきます。

「人が足りない」の中身を分けるところで止まっているなら、その分解を一緒にやるところから始められます。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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