AI導入の伴走は、入口が3つに分かれます。経理から入るか、営業から入るか、基幹システムから入るか。この3つで、ほとんどの案件が説明できます。
どこから入っても、行き着く先は同じです。ただ、最初の90日で見るものと、成果の出方が違います。では、自社はどの入口から入ればよいのか。
「事例を見せてください」に、他社の名前では答えない
商談でよくいただく質問です。「同じ業種の事例はありますか」「どんな会社が導入していますか」。
知りたい気持ちは分かります。ただ、ベンチャーネットは顧客名や案件の中身を外に出しません。お客様の業務の話は、お客様のものだからです。
そしてもう一つ、実務的な理由があります。他社の成功例は、そのままでは自社に当てはまらないからです。同じ業種でも、痛いところは会社ごとに違います。同じ「製造業で在庫が課題」でも、作りすぎているのか、欠品しているのか、そもそも数が合っていないのかで、打ち手はまるで変わります。
だから、事例の代わりに型をお見せします。「どの会社が」ではなく、「どこから始めた会社が、どう進むか」。こちらのほうが、自社に当てはめやすいはずです。
パターン1|経理から入る
いちばん多い入口です。
図:3つの入口。成果の出方と重さが違う。
始まり方。「月末になると、経理が毎回きつい」という相談から入ります。請求書の処理、仕訳、経費の精算。件数が増えているのに人は増えていない、という状態です。
90日で見るもの。どの作業に時間がかかっているかを並べ、そのうち下書きをAIに任せられるものを1つ選びます。任せるのは下書きまでで、承認は人が行います。ここは動かしません。
この入口が向いている理由は3つあります。範囲が閉じていて、他部署との調整がほとんど要らないこと。かかっていた時間が減ったかどうか、成果が数えやすいこと。そして社外に影響が出ないので、失敗しても取引先に迷惑がかからないことです。
気をつけること。経理の改善は、利益には直結しにくい部分です。時間が浮くのは確かですが、その時間を何に使うかを決めていないと、「楽になったが、何も変わっていない」で終わります。
具体的な進め方はAIで経理は変わるに書いています。
パターン2|営業から入る
売上側に効かせたい会社の入口です。
始まり方。「問い合わせへの返信が遅れて、取りこぼしている気がする」「提案書を作るのに時間がかかりすぎる」。数字で捉えきれていないが、感覚として損している自覚がある、という状態から入ります。
90日で見るもの。問い合わせが来てから最初に返すまでの時間、提案書ができるまでの日数。まずここを測ります。測っていない会社がほとんどなので、測ること自体が最初の成果になります。
この入口の利点。効果が大きい。返信が1日早くなるだけで、受注に効くことがあります。そして売上を増やす話には、社内の合意が取りやすい。
気をつけること。相手のあることなので、成果が読みにくい面があります。返信を早くしても、たまたま引き合いが少ない月にあたれば、数字は動きません。経理より効果は大きいが、ばらつきも大きいと考えてください。だからこの入口では、測る対象を工程側に置きます。受注率のような結果の数字ではなく、返信までの時間のような、自分たちで動かせる数字です。
進め方は人を増やさず商談を増やすに、問い合わせ対応そのものが重い場合は問い合わせ対応をAIでに書いています。
パターン3|基幹から入る
いちばん重い入口です。
始まり方。「部署ごとに数字が違う」「システムが古くて、もう変えられない」「在庫の数が合わない」。個別の業務の話ではなく、土台そのものが揺れているという相談です。
90日で見るもの。まず、どこに何のデータが入っているかを並べます。そのうえで、何を標準に合わせ、何を自社流で残すかの線を引きます(→どこを標準に合わせ、どこを自社流で残すか)。
この入口の利点。根本から直ります。そして、あとから経理も営業も載せられます。土台が揃っていれば、2周目・3周目は速い。
気をつけること。90日では終わりません。最初の90日でできるのは、線を引いて、範囲を1つ決めて、そこを動かすところまでです。全社が変わるのはその先です。だからこの入口を選ぶときは覚悟が要ります。逆に言えば、他の2つで小さく成果を出してから、こちらに進む順番もあります。費用の考え方はFDE型支援の費用・契約・期間を参照してください。基盤構築を含むかどうかで、金額の桁が変わります。
どれを選ぶか
3つのうち、どれから入るか。判断の軸は3つです。
痛みは、どこにあるか。毎月きつい思いをしているのは誰か。経理か、営業か、それとも「誰の話も数字が合わない」なのか。
時間は、どれくらい取れるか。現場が付き合える余力です。少ないなら、範囲が閉じている経理から。確保できるなら、基幹も選べます。
いまの器は、使えるか。既存のシステムが当面使えるなら、その上で経理か営業を回せます。もう限界なら、基幹から入るしかありません(→クラウド会計・ERP・基幹システムの選び方)。
3つの答えが揃わないときは、いちばん痛いところを優先します。痛くないところから始めても、続きません。なお、人事・購買・生産管理から入ることもありますが、選び方の軸は同じです。
業種によって痛みの出やすい場所には傾向があります。製造業、建設業、卸売・小売業、運輸・物流業、士業・会計事務所、サービス業。あくまで当たりをつけるための材料で、同じ業種でも痛いところは会社ごとに違います。
どの入口でも、合流する
3つの入口は、途中から同じ道に合流します。
図:3つの入口は、同じ場所に合流する。違うのは順番と時間。
経理から入った会社も、営業から入った会社も、続けていくうちに同じ問題にぶつかります。「この数字はどこから来たのか」と「なぜそう決めたのか」が、揃っていないという問題です。
前者が数字の基盤、後者が言葉の基盤にあたります(→数字の基盤と言葉の基盤)。基幹から入った会社は、この土台を先に作っているだけ、とも言えます。
だから、どの入口が正解ということはありません。到達までの順番と時間が違うだけです。小さく始めて成果を確かめてから土台に進むのも、土台から作って一気に載せるのも、どちらも成立します。
よくある質問
Q. 複数を同時に始められますか?
A. おすすめしません。同時に動かすと、どれが効いたのか分からなくなります。1つが回り始めてから次へ、という順番だけは守ってください。
Q. 経理から入って、営業に広げられますか?
A. 広げられます。むしろ多い進み方です。1周目で進め方の型が分かっているので、2周目は速くなります。
Q. どのくらいで成果が見えますか?
A. 入口によります。経理は最初の90日で見えることが多く、営業はばらつき、基幹は90日では土台までです。
まとめ:型は3つ。選び間違えると、1周分を失う
FDE型の伴走は、経理から、営業から、基幹から。経理は範囲が閉じていて成果が見えやすい。営業は効果が大きいがばらつく。基幹は重いが、あとから他を載せられる。どこから入っても、行き着くのは数字の基盤と言葉の基盤が揃った状態です。
入口は3つしかないので、選ぶこと自体は難しくありません。難しいのは、選び間違えると1周分、つまり90日を失うことです。そして選び間違えの原因は、たいてい情報不足ではありません。いちばん痛いところを、避けてしまうことです。経理が限界なのに営業から入ろうとする会社には、たいてい理由があります。経理の話をすると、特定の人のやり方を否定することになる。営業の話なら、誰も傷つかない。
これは判断の甘さではなく、社内にいる人間として自然な反応です。だからこそ、外から並べる意味があります。3つの問いに一緒に答えるところから、ベンチャーネットと始められます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
こうした伴走の考え方の土台は、FDE(Forward Deployed Engineer)とはにまとめています。
次に読むなら
「経理から始める場合」
→ AIで経理は変わる:請求書・仕訳を”下書きAI+人が承認”にする
「営業から始めるなら」
→ 人を増やさず商談を増やす:AI営業(AI SDR)の中小企業での使い方
「基幹から始める場合」
→ どこを標準に合わせ、どこを自社流で残すか——AIで変わった、ERP実装の線の引き方
「進め方そのものを知りたい」
→ FDE型伴走の進め方——最初の90日で何が起きるか


