「ドライバーが足りない。でも、AIで何ができるのかが見えない」——。運輸・物流業の経営者から、ベンチャーネットがよく聞く声です。
人手不足は待ったなしなのに、自社のどの業務にAIが効くのかが像を結ばない。この記事では、物流現場の3つの困りごと(配車・帳票・問い合わせ)を入口に、AIを「魔法」ではなく「仕組み」として捉え直す道筋を整理します。
「人は足りない、でもAIは難しそう」——物流現場のいま
まず、現場が直面している事実から確認します。
全日本トラック協会の調査(2025年3月)では、ドライバーが「不足している」と答えた事業者が62.3%にのぼりました。国土交通省は、対策を講じなければ2030年度に輸送力が約34%不足すると試算しています。鉄道貨物協会の予測では、2028年に約27.9万人のドライバーが足りなくなるとされています。
人が増えないという前提は、もう動かしにくい。だからこそ、限られた人数で同じ仕事を回す「効率化」が経営課題の中心に来ています。
その有力な手段がAIです。ところが、運輸・物流業ではAIの導入が他業種より遅れています。商工中金の調査(2026年1月)でも、運輸業は「業界構造的にAI化が難しいとされる」業種に位置づけられ、5年後も「AI活用は限定的」と見る回答が5割を超えました。
つまり、多くの物流企業が「うちの業務はAIに向かない」と感じている。この感覚が、次に説明するように、半分は正しく、半分は思い込みです。
なぜ物流のAIは「難しい」と思われてきたのか
物流のAIが難しく見える理由は、大きく3つあります。
ひとつめは、現場業務が物理的・対面的だからです。荷物を運ぶ、積み降ろすという作業そのものは、AIで置き換えられません。「AI=現場の代替」と考えると、確かに出番は少なく見えます。
ふたつめは、属人化です。配車はベテランの勘で組まれ、得意先ごとの事情はその人の頭の中にある。仕組みではなく人に依存しているため、AIに渡すデータが整っていません。
みっつめは、定型業務に手作業が残っていることです。伝票の手入力、電話の問い合わせ対応、日報の集計。一つひとつは小さくても、合計すると相当な時間を奪っています。
ここに視点の転換があります。AIが効くのは「運ぶ作業」そのものではなく、その周りにある事務と判断の支援です。物流業は現場が花形ですが、現場を支える事務作業こそ、AIが軽くできる領域なのです。
物流の困りごとは、3つの仕組みで軽くできる
ここからが本題です。物流現場でよく挙がる3つの困りごとを、それぞれAIでどう軽くできるかを見ていきます。
図:物流の3つの困りごと(配車・帳票・問い合わせ)と、それぞれをAIがどう支えるか。AIは現場の作業そのものではなく、その周りの判断と事務を軽くする。
配車:ベテランの勘を、再現できる仕組みに
配車は、納期・距離・車両・ドライバーの稼働を同時に考える、難しい判断です。多くの会社で、これは特定のベテランに依存しています。
AIによるルート最適化は、この判断を支援します。条件を入力すると、効率の良い配車案を複数提示する。最終判断は人が行いますが、勘だけに頼っていた部分が「たたき台のある判断」に変わります。
大事なのは、AIに丸投げするのではなく、ベテランの判断基準を仕組みとして残すことです。属人化していた勘を、会社の資産に変える。これが配車AIの本質です。
帳票:手入力を、OCR+AIで「下書き」に
伝票・請求書・受領書といった帳票の手入力は、物流現場に残りがちな作業です。
ここで使えるのが、OCR(紙の文字を読み取ってデータ化する技術)と生成AIの組み合わせです。紙やPDFを読み取り、必要な項目をデータの下書きにする。人は、その下書きを確認・修正するだけになります。
中小機構の調査(2026年3月)でも、中小企業がAIを最初に使う領域は、こうした書類処理・データ入力といった定型業務が多いと報告されています。派手さはありませんが、確実に工数を食っている作業だからこそ、効果が見えやすいのです。
問い合わせ:定型対応を、自動応答に任せる
「荷物は今どこか」「再配達したい」といった問い合わせは、内容が決まっているものが多く、AIの自動応答(チャットボットや音声対応)と相性が良い領域です。
定型的な問い合わせをAIが一次対応し、判断が必要なものだけ人に回す。これだけで、電話と事務に取られていた時間がかなり戻ってきます。
問い合わせ対応の設計をもう少し詳しく知りたい方は、「問い合わせ対応をAIで:中小企業のAIカスタマーサポート入門」もあわせてご覧ください。
「AIに任せる」のではなく「仕組みに変える」——導入後の姿
3つの例に共通しているのは、AIが人の代わりに働くのではなく、人がやっていた判断や入力を支えるという形です。
そして、どの取り組みにも前提があります。それは「見える化」です。配車を最適化するにも、帳票をデータにするにも、まず自社の業務やデータが整理されていなければAIは動けません。
ベンチャーネットは、この順序を大切にしています。いきなりAIを入れるのではなく、まず業務を見える化し、わかる化し、その先で儲かる化につなげる。AIは、その流れを加速させる道具です。
見える化そのものについては、「経営の見える化とは何か」で土台から整理しています。
導入後の姿は、「AIが現場を奪う」ではありません。ベテランの勘が仕組みとして残り、事務の手作業が減り、人が判断と顧客対応に集中できる。属人化していた会社が、引き継げる会社に変わっていく。それが、物流のAI活用が目指す地点です。
始める前に知っておきたいこと(よくある疑問)
実際に動き出すときの疑問に、3つ答えます。
何から始めればいいか分からないときは?
中小機構の調査でも、AI導入の最大の障壁は技術やコストではなく「具体的な活用場面が分からない」ことだとされています。逆に言えば、活用場面さえ定まれば、最初の一歩は踏み出せます。まずは自社で「人手と時間を一番食っている定型業務」を1つ挙げるところから始めます。
全社で一気に入れたほうが効率的?
いいえ、小さく始めるのが定石です。帳票入力や問い合わせ対応など、効果が見えやすい定型業務を1つ選び、そこで手応えを確かめてから広げます。全社一斉導入は、現場の混乱を招きやすく、かえって定着しません。
効果はどう確かめればいい?
時間で測るのが分かりやすい方法です。中小機構の調査では、中小企業がAIを導入する目的の87.0%が「業務効率化・作業時間の短縮」でした。どの作業で何時間減ったかを記録すれば、次にどこへ広げるかが見えてきます。
物流は「AI化が難しい業種」と言われます。だからこそ、正しい順序で一歩を踏み出した会社が、地域や同業の中で抜け出せる余地があります。
まとめ:「AI化は難しい」を強みに変える
運輸・物流業のAIは、現場の作業を置き換えるものではなく、配車・帳票・問い合わせといった判断と事務を支える仕組みです。そして、その手前には必ず「見える化」があります。
「AI化が難しい業種」という評価は、裏を返せば、まだ多くの会社が動けていないということです。正しい順序で始めれば、それは差別化の余地になります。
ベンチャーネットは、どの業務から手をつけ、どう見える化し、AIをどう組み込むかを、現場の実情に合わせて一緒に設計しています。「自社の場合、何から始めればいいか」を整理したい方は、AI実装の伴走支援もご覧ください。


