営業でバーチャル社員(AIに仕事を任せる形)に渡されているのは、問い合わせへの初動、仕分け、調べもの、文面の下書き、記録までです。公開されている事例では、商談そのものと価格の判断は人が持っています。
では、なぜ商談は人が持ち続けるのでしょうか。AI SDR(営業の手前を担うAI)の考え方と進め方はAI SDRとはに書きました。
事例が見えないから、決められない
問い合わせフォームに届いた相談に、返信できたのが3日後。展示会でもらった名刺の山は、まだ手つかず。
「AIで営業を」と言われても、他社がどこまで任せているのかが見えない。だから決められない。これは感覚ではなく、調査にも出ています。
中小企業基盤整備機構が全国の中小企業1万社に行った調査では、AIを導入している会社は20.4%、検討中を含めると39.0%が前向きでした。そして、不足している情報の第1位が「成功事例や活用事例などの情報」で83.3%。導入している部門の第1位は「営業・販売・サービス部門」の60.3%です。(中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」、2026年3月公表。調査期間2025年11月17日〜12月12日、確認日:2026年9月21日)
いちばんAIが入っている部門なのに、事例がいちばん見えない。だから、企業名と数字が公開されているものだけを並べます。
営業の仕事を、4つに分ける
図1:営業の4工程。①〜③を渡し、商談と価格は人が持つ形が公開事例の共通点です。
公開事例に見る、任せている範囲
才流(BtoBのコンサルティング・国内):3名の営業で、初動を渡す。同社はフィールドセールス3名と外部委託のインサイドセールスで、月50〜60件の新規商談を作っています。手作業だった日程調整と、問い合わせ内容に応じた担当の振り分けをAIの仕組みに任せました。結果、Webサイト経由の商談設定までの時間が平均2日短くなり、商談化率は25%増えたと報告されています。インサイドセールスの担当者は、日程調整から顧客へのヒアリングに時間を移しました。(immedio公式の導入事例、2024年8月5日公開・2025年11月10日更新、確認日:2026年9月21日)
3名という規模で、任せたのは「初動と仕分け」だけです。商談は人が持ったまま、商談化率が上がっています。
Salesforce(米国・自社導入):AIが一次対応し、人は重い話から始める。同社は自社サイトにAIの営業担当(AI SDR)を置き、訪問者の質問に24時間答え、見込みを見極め、営業担当のカレンダーに直接予約を入れる形にしました。立ち上げにかかったのは30日。2026年4月の稼働以降、週に60件を超える商談予約が入り、転換率は6%と公表しています。人の営業は、相手の背景が分かった状態から、より価値の高い話に入ると説明されています。(同社公式サイト、2026年7月29日、確認日:2026年9月21日。自社製品を使った自社導入の発表)
この2件は、「人を減らした話」ではありません。どちらも、人が向き合う相手の質を上げるために、その手前を渡しています。
浮いた時間は、放っておくと成果にならない
事例だけを並べると、いいことばかりに見えます。調査の数字には、逆の面も出ています。
調査会社のガートナーが2026年1〜2月に営業責任者210名へ行った調査では、AIによって営業担当に週4.8時間の余裕が生まれていました。ところが、72%の営業組織は、その時間を価値の高い活動に再投資できていないと答えています。投資対効果も割れています。50%以上の見返りがあったとする組織が25%、逆に50%以上の損になったとする組織が20%。担当のアナリストは「AIはこの物語の主役ではない。AIは促進剤だ」と述べています。(ガートナー プレスリリース、2026年5月19日、確認日:2026年9月21日)
浮いた時間の行き先を決めないと、件数が増えるだけで終わります。この構造はAIで浮いた時間は、どこへ消えるのかに書きました。
もうひとつは、向き不向きです。Salesforceの研究チームが、営業やサポートの業務を模したベンチマークを公開しています。有力なAIの成功率は、1往復のやり取りで約58%でした。複数回のやり取りになると、約35%まで下がります。一方、決まった手順をなぞる作業では83%を超えています。情報を守る意識は、指示しないかぎりほとんど持たないという結果も出ています。(arXivで公開された同社研究チームの論文、2025年5月24日公開、確認日:2026年9月21日)
決まった手順は強い。相手とのやり取りが重なるほど弱い。商談を人が持つ理由は、ここにもあります。
中小企業の始め方:入口を1つ、送る前に人が見る
図2:入口を1つ選び、下書きまで任せ、浮いた時間の行き先を決める3段階。
① 入口を1つだけ選ぶ。問い合わせフォーム、展示会の名刺、紹介、既存客への追加提案。件数が多く、返信が遅れがちで、返信の型がある入口から始めます。才流の事例も、任せたのは入口の処理だけでした。
② 下書きまで任せ、人が確認して送る。事実の誤りが一通混じるだけで信用は傷みます。頼み方の型は一度で伝わる頼み方にまとめました。
③ 記録を残し、浮いた時間の行き先を決める。誰がいつ何を送ったかが残ると、担当が変わっても引き継げます。そして、空いた時間を何に使うかを先に決めます。ガートナーの調査のとおり、決めないままでは再投資は起きにくいのです。
測り方も先に決めます。商談の件数だけを見ると、質の低下に気づけません。初動までの日数、返信できた割合、商談化率の3つを並べて見るのが最小の組み合わせです(→AIの効果測定)。
よくある質問
Q. AIに商談まで任せている会社はありますか?
A. 公開されている事例では見当たりません。Salesforceの自社導入でも、AIは一次対応までで、重い話は人が引き継いでいます。研究でも、やり取りが重なるほど成功率が落ちることが示されています。
Q. 営業担当が1人しかいない会社でも意味がありますか?
A. 意味があります。才流の事例も営業3名です。1人の会社では、初動が遅れる確率がいちばん高いので、初動を任せる効果も大きくなります。
Q. 送る文面を全部確認するなら、手間は減らないのでは?
A. ゼロから書くのと、直して送るのでは時間が違います。それでも手間が減らないと感じるなら、下書きの質が上がっていない証拠です。手直しした箇所を手順に書き戻して、頼み方のほうを直します。
まとめ:任せるのは手前、商談は人が持つ
公開事例で営業のバーチャル社員に渡されているのは、初動、仕分け、調べもの、下書き、記録です。商談と価格は人が持っています。そして、浮いた時間の行き先を決めていない組織では、時間が生まれても成果に変わっていませんでした。
いちばん難しいのは、どの入口で何件こぼれているかを数えることです。数える作業は、返せていなかった件数を可視化することでもあるので、社内からは言い出しにくいものです。ベンチャーネットはFDE型の伴走として、責任を問うためではなく仕組みを足すために、その数えるところからご一緒しています。直近1か月の問い合わせ一覧を用意していただければ、まず壁打ちから。
次に読むなら
「AI SDRの進め方そのものを知りたい」
→ AI SDRとは?中小企業のAI営業——人を増やさずに、商談の取りこぼしをなくす
「浮いた時間の使い道を決めたい」
→ AIで浮いた時間は、どこへ消えるのか——「8時間で2件」で終わらせない、効率化の受け取り方
「ほかの職種の実例も見たい」
→ ここまでできるバーチャル社員——国内外の実例から見る「AIに任せられる仕事」の現在地
「うまくいかなかった例も知りたい」
→ うまくいかなかった実例——バーチャル社員を縮小・撤回した会社から、中小企業が学ぶこと
この記事で参照した公開情報
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表、調査期間2025年11月17日〜12月12日、全国の中小企業1万社)
- immedio 公式導入事例「才流」(2024年8月5日公開・2025年11月10日更新)
- Salesforce 公式サイト「AI SDRの自社導入」(2026年7月29日)
- ガートナー プレスリリース(2026年5月19日、営業責任者210名への調査)
- Salesforce 研究チームのベンチマーク論文(arXiv、2025年5月24日公開)
数値はいずれも各社・各機関の発表に基づきます。最新の状況は公式発表をご確認ください。


