飲食業のOdoo活用|POSを起点に原価率を見えるようにする

昨日の売上は、今朝すぐ分かる。レジを締めれば出てきます。

では、昨日の原価率は分かるでしょうか。

多くの店舗では、答えは「分からない」です。仕入れの請求が月末にまとまって届き、棚卸しをして、そこでようやく原価率が確定します。

つまり、手を打てるのは、終わった月についてだけということになります。

これは、店長の管理が甘いからではありません。レジという仕組みが持っている、構造上の限界です。

この記事では、その構造を整理し、Odoo(オドゥー:オープンソース由来の統合業務アプリ群)で何ができるのかを説明します。あわせて、飲食業で導入するときの正直な注意点もお伝えします。

目次

レジは「売れたもの」を記録するが、「消えた食材」は記録しない

飲食店の原価率が後追いになる理由は、ここに尽きます。

POS(Point of Sale:レジ・販売時点管理)が記録するのは、何がいくつ売れたかです。

  • カレー 12食
  • ドリンク 30杯
  • ランチセット 45食

これはこれで正確です。ただ、この記録の中に食材は一切出てきません。

一方で、厨房では確実に食材が消えています。米、肉、野菜、油、調味料。売れたぶんだけ在庫から減っているはずです。

「売れたメニュー」と「減った食材」の間に、つながりがない。 だから、実際に食材をいくら使ったのかは、棚卸しをするまで分かりません。

Excelとレシピ表の限界

もちろん、多くの店舗が対策を打っています。メニューごとの原価をExcelで計算し、「この一皿の原価は◯円」と把握している店は少なくありません。

これは良い取り組みです。ただし、弱点があります。

  • 仕入価格が変わっても、Excelはすぐには更新されない
  • 実際の使用量(ロスや廃棄を含む)は反映されない
  • 店舗が増えると、表の管理そのものが仕事になる

つまり、計算上の原価は分かるが、実際の原価は分からないという状態です。

メニューと食材をつなぐと、何が見えるか

解決の方向は明確です。メニューを「食材の組み合わせ」として登録し、売れた瞬間に食材が減る形を作ることです。

レジの売上記録と食材在庫がつながっていない状態と、レシピでつながった状態の比較図 左側はPOSが売上だけを記録し、食材の消費は棚卸しでしか分からない状態。右側はメニューがレシピとして食材と結びつき、売れた時点で理論消費が計算され、実棚との差がロスとして見える状態を示しています。 つながっていない状態 レシピでつないだ状態 POS:カレー12食・ドリンク30杯 厨房:食材は減っている × つながりがない 原価率は棚卸しまで不明 POS:カレー12食が売れた レシピ(メニュー=食材の組合せ) 米・肉・玉ねぎ・ルウ … 理論消費量と理論原価が出る 実棚との差=ロス・廃棄・過剰盛り 改善できる対象が特定できる

図の右側で起きていることを、言葉にします。

  1. カレーが12食売れる
  2. レシピに沿って、米・肉・玉ねぎなどの 理論消費量 が計算される
  3. 理論原価が出る(この時点で、原価率の目安が分かる)
  4. 棚卸しで実際の在庫を数える
  5. 理論と実際の差が出る。この差がロス・廃棄・過剰盛り

ここが本質です。

理論原価と実際の原価が一致することは、まずありません。飲食業ではロスが必ず出るからです。

大事なのは一致させることではなく、差の大きさと、その差がどのメニュー・どの食材で出ているかが見えることです。差が見えれば、対策が打てます。

Odooの飲食業向けの機能

Odooには、飲食店向けのPOS機能が用意されています。Odoo公式サイトによれば、次のようなことができるとされています(2026年8月確認)。

  • フロアプランのカスタマイズ。テーブルや座席の追加・移動・削除ができる
  • テーブルへの割り当てと、顧客の別テーブルへの移動
  • 厨房・バーのプリンタへのオーダー送信と、準備画面での進行管理
  • アレルギーや好みなどの特記メモを厨房へ伝達
  • 予約アプリを使ったオンラインでのテーブル予約と、フロアプランへの反映
  • セルフオーダーのキオスク端末での注文と支払い
  • 値引きやロイヤルティポイントによる顧客の維持

そして、店舗運営の観点で重要なのは、このPOSが在庫や会計と同じデータベースの上にあることです。

POSを起点に発注・在庫・原価・会計がつながる構成図 POSの注文がレシピを通じて食材の在庫を減らし、在庫が発注につながり、原価と売上が会計に反映されるという、店舗運営がひとつのデータでつながる構成を示した図です。 POSを起点に、店舗運営がつながる POS・注文 フロア・厨房連携 レシピ メニュー=食材構成 食材在庫 店舗・倉庫別 発注・仕入 仕入先ごとに管理 共通のデータ(商品・在庫・仕入先・会計) 店舗別・メニュー別の原価率が見える 売上だけでなく、残る利益で判断できる

使うことが多いアプリ

アプリ飲食業での使い方
POS(レストラン)注文・会計・フロア管理・厨房への伝達
在庫食材の在庫、店舗別ロケーション、棚卸し
購買仕入先ごとの発注、仕入価格の管理
会計/請求売上と原価の会計反映

メニューを食材の組み合わせとして定義する考え方は、製造業の部品表(BOM)と同じ発想です。この仕組みの詳細は Odooの製造管理(MRP) で解説しています。飲食業の方も、原価計算の考え方として読む価値があります。

なお、Odooには無料の Community版 と有償の Enterprise版 があります。

Community版はオープンソースとして無料ですが、サーバの用意・保守・障害対応は自社の責任になり、公式サポートの対象外です。アプリや機能によってどちらの版で使えるかはバージョンによって変わるため、必ず対象バージョンで確認してください。詳しくは Odoo Community版とEnterprise版の違い をご覧ください。

飲食業で導入するときの正直な注意点

良いことばかり書いても役に立たないので、つまずきやすい点を挙げます。

(1) レシピ登録は、想像よりずっと大変

これが最大の関門です。

メニューを食材の組み合わせとして登録するには、全メニューの分量を決める必要があります。「だいたいこのくらい」で作っている店ほど、この作業は重くなります。

現実的な進め方は、主要メニューから始めることです。

売上の上位に入るメニューだけでも登録すれば、原価の大部分は見えるようになります。すべてのメニューを完璧に登録しようとして、途中で力尽きるほうが損失です。

完璧を目指すより、まず回す。 ベンチャーネットが繰り返しお伝えしている考え方です。

(2) ハードウェアは必ず実機で確認する

飲食業のPOSには、物理的な機器がついてきます。レシートプリンタ、厨房プリンタ、キャッシュドロア、決済端末、キオスク端末。

Odoo公式サイトでは、特定のプロトコルに対応したサーマルプリンタや、機器によってはIoT Boxが必要になることが案内されています(2026年8月確認)。

ここで大事なのは、日本国内で使う機器・決済サービスとの組み合わせを、必ず実機で検証することです。カタログ上の対応可否だけで判断しないでください。とくにキャッシュレス決済まわりは、店舗ごとに契約している事業者が異なります。

(3) 消費税・軽減税率の扱いは事前に確認する

飲食業では、店内飲食とテイクアウトで税率の扱いが変わります。

Odooの価格表の機能を使えば、店内とテイクアウトで価格を出し分けること自体はできると案内されています。ただし、日本の税制要件を満たす設定になっているかは別の話です。

消費税の設定については Odooの消費税設定と日本の税制、請求書の要件については Odooのインボイス制度(適格請求書)対応 をご覧ください。実際の運用は、顧問税理士に確認したうえで決めてください。

(4) 現場のスタッフが使えなければ意味がない

飲食店のホールは、常に忙しい場所です。

操作が3手増えるだけで、ピーク時には使われなくなります。導入時には、いちばん忙しい時間帯を想定した動線で検証してください。落ち着いた時間だけで検証すると、必ず後で問題が出ます。

定着の考え方は Odooを社内に定着させる方法 にまとめています。

(5) 繁忙期に切り替えない

年末年始、大型連休、地域のイベント時期。この期間に本番稼働日を置かないでください。

現場は、新しい仕組みを覚える余裕がありません。

多店舗展開しているなら、ここが変わる

1店舗だけなら、正直なところ既存のPOSと会計ソフトで足りることもあります。

Odooの価値がはっきり出るのは、店舗が複数になったときです。

  • 店舗ごとの原価率を、同じ基準で比較できる
  • 仕入価格を本部で管理し、全店に反映できる
  • 店舗間の食材移動を記録できる
  • 全店の数字を、月末を待たずに見られる

店舗が増えると、店ごとにやり方が分かれていきます。「A店だけ違うルールで動いている」という状態です。

同じデータの上に乗せることは、業務のやり方をそろえることでもあります。これは仕組みの話であると同時に、経営の話です。

なお、実店舗に加えてECや通販も手がけている場合は、小売業のOdoo活用 もあわせてご覧ください。店舗・EC・倉庫の在庫を統合する視点で書いています。

Odooが合わないケースもあります

飲食業のすべてにOdooが向いているわけではありません。正直にお伝えします。

ベンチャーネットは、SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っています。飲食業では、次のように整理できます。

状況検討したい選択肢
1店舗のみで、いまのPOSに不満がない無理に入れ替える必要はない
複数店舗の原価と在庫を統合したい中小〜中堅企業Odoo が現実的な選択肢
大規模チェーンで、店舗開発や不動産管理まで必要OdooとNetSuiteの違い を参照
業態が特殊で、既存パッケージのどれにも乗らないAIスクラッチ開発という選択肢

AIスクラッチ開発については誤解のないように補足します。ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費がかかります。判断材料は パッケージERPかスクラッチ開発か に整理しました。

どこから始めるかは、いまの店舗数ではなく 3〜5年後の姿から逆算 して決めるのが本質だと考えています。3年で10店舗まで増やす計画があるなら、いま選ぶ仕組みは変わってきます。

よくある質問

Q1. いま使っているPOSレジを、Odooに置き換える必要がありますか?

必ずしも必要ではありません。既存POSの売上データをOdooに取り込む構成も選べます。

ただしその場合、メニューと食材の連動(理論原価の自動計算)は、連携の作り込み次第になります。原価管理を本気でやりたいなら、POSから統合するほうが素直です。

Q2. 小さな店舗でも使えますか?

使えます。ただし、費用対効果は慎重に考えてください。

1店舗で、いまのやり方で回っているなら、無理に入れ替える必要はありません。効果がはっきりするのは、店舗数が増えたときや、原価率のばらつきに悩んでいるときです。

Odooには1アプリのみ無料で使えるプランもあります。詳しくは Odoo One App Freeとは? をご覧ください。

Q3. レシピはすべて登録しないと意味がありませんか?

そんなことはありません。売上上位のメニューから始めてください。

上位20〜30品を登録するだけでも、原価の大きな部分は見えるようになります。完璧を目指して途中で止まるより、部分的でも動かし続けるほうが価値があります。

Q4. 導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

範囲によって大きく変わります。POSの入れ替えだけなのか、在庫と発注まで含めるのか、多店舗に展開するのかで違います。

飲食業の場合、ハードウェアの検証とレシピの登録に時間がかかる点は共通しています。進め方の全体像は Odoo導入の進め方と期間 をご覧ください。

Q5. 費用はどのくらいかかりますか?

ライセンス費用はOdoo公式の価格ページで確認できます。ただし、総費用はそれだけでは決まりません。

導入支援・初期設定・ハードウェア・データ移行の費用が別途必要です。飲食業では機器の検証と店舗展開の作業が加わるため、導入費用がライセンス費用を大きく上回ることもあります

費用の構造は Odoo導入にかかる費用の構造 にまとめています。自社の場合の費用感を知りたい方は、ベンチャーネットにご相談ください。

まとめ

飲食業で原価率が後追いになるのは、店長の管理の問題ではありません。

レジは売れたものを記録するが、消えた食材は記録しないという構造の問題です。

Odooでは、メニューを食材の組み合わせとして登録することで、この2つをつなぎます。売れた時点で理論消費が計算され、実際の棚卸しとの差がロスとして見えるようになります。

差が見えれば、対策が打てます。どのメニューで、どの食材で差が出ているのかが分かるからです。

一方で、飲食業ならではの難所もあります。レシピ登録の負荷、ハードウェアの実機確認、税率の扱い、そして忙しい現場での操作性です。

だからこそ、主要メニューから始める。ハードは必ず実機で確認する。繁忙期には切り替えない。この3つを守るだけでも、失敗の確率は大きく下がります。

完璧を目指すより、まず回す。 そして、動かしながら磨いていく。飲食業のように現場が忙しい業種ほど、この考え方が効きます。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「うちの店舗数と業態で、どこまでやるべきか」という切り分けからご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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