人件費を1円も減らさずに、労働分配率を50%から約45%に下げる。
架空の数字ですが、計算の上では難しい話ではありません。
人件費管理(人件費マネジメント)とは、人件費を減らすことではなく、1人あたりの付加価値を高める管理です。
付加価値は、売上から外部に払った費用(材料費・外注費など)を引いた、自社で生み出した価値のことです。
人手が集まりにくいいま、人を減らせば現場が回りません。
だから、総額を一律に削る前に、どの仕事にどれだけの時間と費用がかかっているかを見えるようにします。
減らすのは人ではなく、ムダな作業です。
では、空いた時間は、どこへ振り向ければよいのか。
ここを決めずに進めると、効率化はいつのまにか人員の削減にすり替わります。
📌 この記事で分かること
- 人件費の中身と、経営者が見る3つの数字
- 間接費と工数を見える化する4つのステップ
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
- よくある3つの失敗と、定着の4手順
- 空いた時間の行き先を決める「90日の1周目」
なぜいま、人件費を「戦略的」に管理するのか
人件費は、多くの会社で大きな固定費です。
その使い方が、利益と、次の投資に回す原資を左右します。
方向を間違えると、逆効果になります。
「人件費が重いから、まず人を減らす」は、短期的には数字がよく見えます。
けれども現場の負担が増え、力のある人から離れていきます。
一度失った人は、簡単には戻りません。
ERP(Enterprise Resource Planning)は、会社全体の業務のデータを1つのシステムでまとめて管理する仕組みです。
何にどれだけの費用と時間がかかっているか。それを正確につかむことが、戦略的な管理の出発点になります。
人件費に含まれるもの
人件費は、給与だけではありません。
主な中身は、次のとおりです。
- 給与・賞与・各種の手当
- 法定福利費(会社が負担する社会保険料など)
- 福利厚生費
- 退職金の費用
- 採用費・研修費(人件費に含めるかは会社の方針による)
給与だけを見ていると、総額を見誤ります。
まず、自社でどこまでを「人件費」と呼ぶかを決めておきます。
経営者が見る3つの数字
| 数字 | 計算式 | 分かること |
|---|---|---|
| 人件費率 | 人件費 ÷ 売上 × 100 | 売上に対する人件費の重さ |
| 労働分配率 | 人件費 ÷ 付加価値 × 100 | 生み出した価値のうち、人に配った割合 |
| 1人あたりの付加価値 | 付加価値 ÷ 従業員数 | 1人がどれだけ価値を生んでいるか |
架空の会社の例で見てみます。
| 項目 | A社(架空) |
|---|---|
| 売上 | 10億円 |
| 付加価値 | 4億円 |
| 人件費 | 2億円 |
| 従業員数 | 50人 |
| 人件費率 | 20% |
| 労働分配率 | 50% |
| 1人あたりの付加価値 | 800万円 |
A社が人を減らさずに利益を増やすには、1人あたりの付加価値を上げます。
たとえば、同じ50人で付加価値が4.4億円になれば、1人あたりは880万円です。
人件費が同じなら、労働分配率は50%から約45%に下がります。
冒頭の数字は、この計算です。
人件費を減らさなくても付加価値を増やせば比率は下がる。この見方が、人件費管理の土台です。
労働生産性の計算と改善は、労働生産性とはで扱っています。
「間接費」に着目する理由
人件費を戦略的に管理するうえで、まず注目したいのが間接費です。
間接費は、製品やサービスに直接ひもづかない費用です。
本社の管理の費用、人事の採用費・研修費、各部門の旅費交通費などが当たります。
間接費は、直接費に比べて見直しが後回しにされがちです。
部門をまたいで発生するため、全体が見えにくい。
その結果、手つかずのまま膨らみやすい費用でもあります。
しかも、間接費の多くは、定型の仕事にかかる人件費(間接労務費)です。
請求書の処理、データの転記、承認の回付などです。
間接費を見直すことは、「人を減らす」ではなく「ムダな作業を減らして人を生かす」ことと重なります。
費目ごとの削減の手法は、間接費を「見える化」して削減する方法で扱っています。
間接部門の役割の考え方は、間接部門は「コスト」か「資産」かもあわせてご覧ください。
間接費と工数を見える化する4つのステップ
4つのステップの流れを図にすると、次のとおりです。
ステップ1:現状を見える化する
最初に、何にどれだけの費用と時間がかかっているかを見えるようにします。
費用は会計のデータから、時間は工数の記録から集めます。
NetSuiteのTime Tracking(工数の記録)では、給与・請求・プロジェクト管理のために勤務時間を記録できます。
Oracleのヘルプでは、次のことができると説明されています。
- 請求できる時間と、請求できない時間を分けて記録する
- 1件ずつの記録か、週次のタイムシートで入力する
- プロジェクトごとの時間を記録し、将来の計画や採用の判断に使う
- 記録を承認にかけ、1日・1週の上限と下限を設ける
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Time Tracking」、2026年9月確認)
「請求できない時間」が多い仕事が、見直しの候補になります。
ステップ2:目標を数字で決める
見えた数字をもとに、「どの費用を」「いつまでに」「どれだけ」変えるかを決めます。
総額の削減ではなく、特定の作業の時間を何割減らすかという目標にします。
部門ごとに予算を置けば、目標の進み具合を毎月追えます。
プロジェクト単位で見る会社は、予算と実績の比較も使えます。
Oracleのヘルプでは、プロジェクトの費用の予算と実績のレポートが説明されています。
実績には、記録された時間からの労務費、経費精算、仕入先の請求が含まれます。
この機能は、Job Costing and Budgetingの機能が前提です。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Project Cost Budget vs. Actual」、2026年9月確認)
ステップ3:施策を実行する
費用の種類ごとに、手を打ちます。
| 対象 | 施策の例 | 使えるNetSuiteの仕組み |
|---|---|---|
| 間接労務費 | 承認の回付や転記の手作業を減らす | ワークフロー(SuiteFlow)・承認 |
| 間接経費 | 購買や経費の承認の上限を決め、ムダな支出を止める | Approval Routing |
| 間接材料費 | 適正な在庫を保ち、必要な分だけ発注する | 在庫管理 |
| 本社の固定費 | 部門に配り、どの部門が使っているかを見る | Expense Allocation |
Oracleのヘルプでは、Approval Routingを、従業員の購買の取引を承認できる人を決める機能と説明しています。
承認者のレベルと部門ごとに、承認できる金額の上限を設け、支出を管理します。
標準かカスタムのSuiteFlowのワークフローで、承認の流れを作ることもできます。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Approval Routing」、2026年9月確認)
Expense Allocationは、家賃などの固定費を、後から部門・クラス・場所に配る機能です。
人数や面積などの統計勘定を基準にでき、活動基準原価計算などに役立つとされています。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Expense Allocation」、2026年9月確認)
ただし、削ること自体を目的にしないでください。
定型の仕事を減らして生まれた時間を、付加価値を生む仕事に振り向けます。
ステップ4:効果を確かめる
施策の後は、ダッシュボードで数字の推移を追います。
見る数字は、1-2の3つと、ステップ2で決めた作業の時間です。
効果が出ない施策はやめ、次の施策に移ります。
コストカット型と戦略的マネジメント型の違い
コストカットそのものが悪いわけではありません。
資金繰りが厳しい緊急時には、総額の圧縮が要る場面もあります。
ただし、それが常態になると、会社の体力を削っていきます。
| 観点 | コストカット型 | 戦略的マネジメント型 |
|---|---|---|
| 目的 | 総額を下げる | 1人あたりの付加価値を高める |
| 見るデータ | 月次・事後の数字 | 部門をまたいだ、早いデータ |
| 減らす対象 | 人員・給与 | ムダな間接費・定型の仕事 |
| 現場への影響 | 意欲が下がるおそれ | 考える仕事に移れる |
| 結果 | 一時的な圧縮 | 続く体質の改善 |
AIも同じです。
人を置き換えるためでなく、限られた人の時間を空けるために使えば、この表の右側に合います。
定型の仕事は、AIや自動化に任せやすい領域です。
AIの使い方の考え方は、ERPと生成AIで扱っています。
判断の物差し
Excelで足りる段階と、システムが要る段階
| 段階 | 会社の状況 | 合いやすい選択 |
|---|---|---|
| 1 | 従業員が少なく、人件費は給与ソフトの集計で足りる | 給与ソフト+Excel |
| 2 | 部門別の人件費率を見たいが、組み替えに時間がかかる | 会計ソフトの部門の機能+Excel |
| 3 | 工数とプロジェクトの採算を、人件費と一緒に見たい | 工数を記録できるERPやプロジェクト管理のツール |
| 4 | 複数の拠点や子会社で、人件費と生産性を比べたい | 会計・工数・プロジェクトをまとめるクラウドERP |
段階3に移る目安は、「どの仕事に何時間かかっているか」を、誰も数字で答えられないときです。
NetSuiteが合う会社・別の道が合う会社
| 自社の状況 | 合いやすい選択 |
|---|---|
| 部門・拠点・プロジェクトをまたいで、人件費と採算を見たい | NetSuite |
| 国内の勤怠と給与の細かい運用を重く見る | 国内の勤怠・給与のソフト(ERPと仕訳でつなぐ) |
| 小さく始め、社内で改修もしたい | Odoo |
| 独自の業務が多く、標準の仕組みに合いにくい | AIスクラッチ開発との組み合わせ |
| 何を減らし、何を守るかが決まっていない | いまは入れない。まず作業の時間を書き出す |
給与計算を国内の給与ソフトで続け、人件費の仕訳だけをERPに取り込む形も考えられます。
NetSuiteの人事の機能は、NetSuite SuitePeople(HR)とはで扱っています。
読者の二つの立場
これから仕組みを入れる会社
次の順で進めると、範囲が広がりすぎません。
- 1-2の3つの数字を、去年と今年で出す
- 定型の作業を10個書き出し、それぞれ月に何時間かかっているかを見積もる
- 時間が長く、価値の低い作業から3つを選ぶ
- その3つを減らすのに、システムが要るかを判断する
工数の記録は、最初から全社でやる必要はありません。
間接部門など、時間が見えていない部署から始めます。
いま使っていて、見直しを考えている会社
すでにERPや工数のツールを使っている会社は、次の4点を見直します。
| 見直す点 | 見ること |
|---|---|
| 工数の記録 | 入力されているか。入力の手間が大きすぎないか |
| 承認 | 承認の段階が多すぎて、時間がかかっていないか |
| 配賦 | 本社費の配り方が、いまの組織に合っているか |
| Excelの残り方 | システムの外で、集計や転記が残っていないか |
システムを入れたのに、Excelの転記が残っている。
よくある姿です。ERPの保守の期限や更新の時期は、承認の流れや配賦の基準を見直す好機になります。
人員の削減が避けられないとき
事業の縮小などで、人員の見直しが避けられない場面もあります。
その場合も、判断の順番は変わりません。
- 部門ごと・作業ごとの費用と時間を、先に数字で出す
- 配置の転換や、採用の抑制で済む範囲を見極める
- 残る人の仕事の量が増えすぎないかを、工数で見る
雇用に関わる判断は、法律の手続きも関わります。
顧問の社会保険労務士や弁護士に、早めに相談してください。
数字で説明できる判断は、残る人の納得にもつながります。
よくある3つの失敗
失敗1:一律のカットで、伸ばすべき部門まで削る
起きること:全社で同じ比率の削減を求めた。成果を出している部門の力が落ち、ムダが多い部門は残った。
原因:総額だけを見て、どこにムダがあるかを見極めていなかった。直接費ばかり見て、部門をまたぐ間接費は放置していた。
避け方:部門ごと・作業ごとに費用と時間を分けて見ます。
削る場所と守る場所を分けてから、目標を決めます。
失敗2:数字が見えないまま、勘で人を減らす
起きること:「人が多い気がする」で人員を決めた。減らした後に大事な仕事だったと気づき、慌てて補充した。
原因:どの仕事にどれだけの時間がかかっているかを、数字でつかんでいなかった。
避け方:減らすより先に配置を見直します。
工数を記録し、時間の長い仕事と、その仕事が生む価値を並べて判断します。
失敗3:システムを入れただけで効率化したと思い込む
起きること:ERPを入れた時点で、プロジェクトを終えた。現場では以前のやり方とExcelが併用され、作業の時間は減っていない。
原因:システムが「動いている」ことと、現場が「生かせている」ことを同じだと考えていた。定着の計画と予算がなかった。
避け方:導入後の定着を最初から計画に入れます。
操作の研修、手順書、運用のルールを用意し、稼働の3か月後に作業の時間を測り直します。
定着の進め方は、第8章の4手順にまとめました。
ベンチャーネットならこう見る|90日の1周目と、定着の4手順
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、人件費の見直しの相談も受けています。
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
最初の打ち合わせで伺うのは、次の3つです。
- 1人あたりの付加価値は去年より上がっているか
- 定型の作業に月に何時間かかっているか
- その時間が空いたら誰に何をしてもらうか
3つめを最初に決めておくことが、人を減らす話にしないための要です。
空いた時間の使い道が決まっていないと、効率化は人員の削減に置き換わりがちです。
3つの問いを図にすると、次のとおりです。
型1:90日の1周目|1つの作業・1つの数字に絞る
全社の工数を一度に見える化しようとすると、記録が続きません。
ベンチャーネットは、最短90日で、1つの業務と1つのKPIに絞った1周目を回すことを勧めています。
人件費で言えば、「請求書の転記」のような定型の作業を1つ選びます。
見る数字は、その作業にかかる月の時間だけです。
減らす手を打ち、空いた時間の行き先を決め、90日後に測り直す。
1周目が回れば、2つ目の作業も同じ手順で進められます。
システムが要るかどうかは、この1周目の中で見えてきます。
型2:定着の4手順
作業を減らす仕組みは、現場で使われて初めて時間を空けます。
ベンチャーネットは、定着を次の4手順で考えます。
- データ整理を最初に:新しい仕組みに入れる前に、データを整える
- 段階的に導入:全部を一度に替えない
- 研修・サポートを徹底:使う人が迷ったままにしない
- 操作はシンプルに:使わない機能を盛らない
失敗3の「入れただけで効率化したと思い込む」は、この4手順のどこかが抜けたときに起きます。
工数の記録も同じです。入力の項目を絞るほど、記録は続きます。
人件費の先には、必ず人がいます。
人を減らすのではなく、人を生かす方向で数字を使ってください。
今日できること|定型の作業を10個書き出す
1時間あれば、次の表を埋められます。
| 作業 | 担当 | 月の時間(見積もり) | 生む価値(高・中・低) |
|---|---|---|---|
| (例)請求書のExcelへの転記 | 経理 | 20時間 | 低 |
| (例)経費の紙の承認の回付 | 各部門 | 15時間 | 低 |
10個書き出したら、「時間が長く、価値が低い」ものに印を付けます。
印の付いた作業が、最初に減らす候補です。
あわせて、空いた時間で何をしてもらうかも1行ずつ書き添えてください。
よくある質問
Q1. 人件費の削減とNetSuiteは、どう関係しますか
人件費と作業の時間を見えるようにする土台になります。
NetSuiteは会計・販売・在庫・プロジェクトのデータを1つで扱い、工数も記録できます。
どの仕事にどれだけの費用と時間がかかっているかを、部門をまたいで見られます。
Q2. 人を減らさずに、人件費を最適化できますか
1人あたりの付加価値を上げれば人件費の比率は下がります。
定型の作業やムダな間接費を減らし、空いた時間を価値のある仕事に振り向けます。
人件費の総額が同じでも、労働分配率や人件費率は改善します。
Q3. 人件費率と労働分配率は、どちらを見ればよいですか
両方を見て労働分配率を重く見ます。
人件費率は売上に対する重さ、労働分配率は生んだ価値に対する配分です。
付加価値の低い売上が増えると、人件費率は下がっても実態は良くなっていないことがあります。
Q4. 工数の記録は、現場の負担になりませんか
全社で一度に始めず時間が見えていない部署から始めます。
入力の手間が大きいと、記録が続きません。
週次のタイムシートなど、負担の小さい方法から始めます。
Q5. 間接費の見直しから、どんな効果が出ますか
支出の圧縮だけでなく仕事の手順の標準化が進みます。
定型の作業に追われていた人が、考える仕事に時間を使えるようになります。
一時的な削減ではなく、続く体質の改善につながります。
Q6. 給与計算もNetSuiteに移すべきですか
必ずしも移す必要はありません。
国内の給与ソフトで給与計算を続け、人件費の仕訳だけをERPに取り込む形も考えられます。
どこまでをNetSuiteで扱うかは、アカウントの担当と自社の運用で確かめてください。
まとめ
- 戦略的な人件費マネジメントは、1人あたりの付加価値を高める管理
- 見る数字は、人件費率・労働分配率・1人あたりの付加価値の3つ
- 減らすのは人ではなく、定型の作業とムダな間接費
- NetSuiteでは、工数の記録・承認・配賦・プロジェクトの予実で見える化を支えられる
- 空いた時間を誰に何をしてもらうかを先に決める
人件費は、削る対象ではなく、生かす資産です。
まず定型の作業を10個書き出し、空いた時間の行き先を1行ずつ添えてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
業務の見える化から、承認や配賦の設計、NetSuiteでの運用まで、ご相談をお受けしています。

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