給与が確定した翌日。
経理の担当者が、給与ソフトから総額を書き写し、Excelで部門ごとに割り振っている。
人事と会計のシステムが別々の会社では、見慣れた場面です。
「NetSuiteなら、人事も一つにできるのでは」
そう考えたときに、まず知っておきたい製品がSuitePeople(スイートピープル)です。
SuitePeopleとは、NetSuiteに組み込まれた人事の機能群です。
従業員の情報、組織、休暇、評価などを、会計と同じ場所で扱えます。
ただし、給与計算の機能は米国向けです。
日本の会社の多くは、給与・社保・年末調整を国産HRに任せ、結果を月次でNetSuiteにつなぐ形になります。
では、その月次のつなぎ目で、何を決めておけば転記の作業が消えるのか。
この記事で分かること
- SuitePeopleの3つの構成と、日本での使いどころ
- SuitePeople HRでできること
- 日本の給与計算の分担と、月次でつなぐ前に決める3つ
- 向いている会社・向いていない会社と、ほかの選択肢
- 人と数字がつながった先に、経営で何が見えるか
言葉の整理:HCM(Human Capital Management)は、人材を資本と捉えて、採用から育成まで管理する考え方です。
HRMS(Human Resource Management System)は、人事情報・勤怠・給与などを管理するシステムの総称です。
SuitePeopleの3つの構成
SuitePeopleは、HCM・HRMSにあたる機能を、ERP(基幹システム)の中に持っています。
人事のデータが、会計やプロジェクト管理と同じ場所にある。そこが特徴です。
公式ヘルプでは、SuitePeopleは次の3つのモジュールで構成されます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
| 構成 | 主な中身 | 日本での使いどころ |
|---|---|---|
| SuitePeople HR | 従業員情報、組織、休暇、評価、社員のセルフサービス | 従業員のデータを会計とつなぐ土台として検討できる |
| Workforce Management | シフトの作成、勤怠の記録、賃金の計算 | 賃金のルールは米国給与と連動する設計。日本での使い方は要確認 |
| U.S. Payroll | 米国の給与計算、税の申告と納付 | 米国の拠点がある会社のみ |
米国給与の対応範囲
公式ヘルプでは、U.S. Payrollは米国の連邦・州・地方の給与税だけに対応すると書かれています。
OneWorld(複数の子会社を一つで管理する版)では、固有のEIN(米国の雇用主番号)を持つ米国の子会社だけで給与を計算できます。
W-2・940・941など、米国の様式を作る前提の機能です(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
日本の給与計算を、そのまま行う機能ではありません。
米国の拠点の給与は、SuitePeople 米国給与(US Payroll)が詳しい解説です。
勤怠の機能(Workforce Management)
公式ヘルプでは、シフトの作成、勤怠の記録、賃金の計算を一つで行う機能と説明されています。
パソコンやスマホでの出退勤の打刻にも対応しています。
一方で、賃金のルールの計算は、U.S. Payrollと連動する設計です(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
日本の労働時間の制度に合わせて使えるかは、ヘルプからは読み取れませんでした。
導入前に、アカウントの担当とパートナーに聞いてください。
SuitePeople HRでできること
公式ヘルプでは、SuitePeople HRの主な機能として次のものが挙げられています(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
| 分野 | 主な機能 | 経営にとっての意味 |
|---|---|---|
| 従業員の情報 | 従業員の一覧と組織図、変更の申請、日付を指定した変更 | 異動や組織変更の履歴が残る |
| 休暇 | 休暇の管理、社員のセルフサービス | 申請と承認の紙やメールが減る |
| 評価と育成 | 目標の管理、人事評価、称賛(Kudos) | 評価の記録が一か所に残る |
| 報酬と職務 | 報酬の記録、職務の管理 | 人件費を部門・職務で見やすくなる |
| 入社と退社 | 入社・退社の手続きの計画 | 手続きの漏れを減らす |
| 分析 | 人材の分析、従業員のレポート | 人の数字を会計の数字と並べて見られる |
セルフサービスとは、社員が自分で住所の変更や休暇の申請を行える仕組みです。
公式ヘルプの概要のページには、英国向けの対応(U.K. Localization)の記載がありました。
日本向けの対応の記載は、見た範囲では見当たりません。
日本語の画面や、日本の労務の制度との合い方は、個別に聞く必要があります。
ERPで人事を扱う価値
ERPで人事データを持つ価値は、人のデータがお金のデータとつながることにあります。
- 部門ごとの人件費を、会計データとあわせて見られる
- プロジェクトごとに、誰がどれだけ工数を使ったかを原価に反映できる
- 海外拠点を含めて、従業員の情報を一か所で管理できる
人事が「労務の管理」から「経営の数字」に変わります。
人件費の捉え方は、人件費と労務費の違い(製造原価の最適化)も参考になります。
日本の給与計算はどうするか
日本の給与計算には、社会保険料の控除、住民税、年末調整など、独自のルールがあります。
これらに、SuitePeopleは標準では対応していません。
給与計算は国産HRシステムに任せるのが現実的です。
国産のシステムは日本の制度に合わせて作られ、法改正への対応も続けています。
月次でデータをつなぐ流れ
役割は、次のように分けます。
- 給与計算・社保・年末調整は、国産HRシステムで行う
- 結果を、部門や勘定ごとの人件費の仕訳にまとめる
- 月次でNetSuiteに取り込み、部門損益やプロジェクト損益に反映する
給与は日本の制度に強いシステムで計算し、人件費は会計でまとめて見る。
SmartHRやマネーフォワード、各種の給与ソフトなど、いま使っているシステムを活かす前提で設計します。
日系の人事SaaSとの連携の方法は、NetSuite×日系SaaS連携マップで扱っています。
取り込む前に決める3つのこと
冒頭の転記の作業を消せるかどうかは、この3つで決まります。
- 粒度:人ごとか、部門ごとか、プロジェクトごとか
- 勘定と部門の対応:国産HRの支給・控除の項目を、NetSuiteのどの勘定と部門に割り当てるか
- 時期:給与の締め日と、月次決算の日程をどう合わせるか
個人の給与明細の粒度まで、会計に入れる必要は多くの場合ありません。
経営が見たい粒度から逆算して決めます。
給与の制度面では、賃上げ促進税制とはも参考になります。
判断の物差し|向いている会社・向いていない会社
人事と会計の分担の選択肢
どれが優れているかではなく、自社の条件に合うかで選びます。
問いの順にたどると、次のとおりです。
| 選択肢 | 中身 | 合う条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| A. 国産HR+NetSuite会計に月次連携 | 給与は国産HR、人件費の仕訳だけNetSuiteへ | 日本の拠点が中心 | 連携の粒度と時期の設計が要る |
| B. A+SuitePeople HR | 従業員の情報・評価・休暇もNetSuiteに持つ | 海外拠点がある、人の工数を原価につなぎたい | 日本語の画面と労務の制度との合い方を聞く |
| C. 国産HRだけで完結 | 会計との連携は手作業や別の仕組み | 人件費の分析をまだ求めない | 月次の突き合わせに手間が残る |
| D. いまは入れない | 人事の仕組みは現状のまま | ERPの会計・販売の定着が先 | 後で連携を設計する前提を残す |
Bでは、人と数字が同じデータにあるため、AIで横断して分析する使い方もしやすくなります。
Cのようにデータが分かれたままだと、その使い方には届きません。
Odooなど、人事アプリを持つ別のERPと比べるなら、NetSuiteとOdooの人事・勤怠・給与をご覧ください。
連携の部分だけを、AIを使ったスクラッチ開発(自社専用に作る開発)で作る方法もあります。
その場合は、作った仕組みを誰が保守するかを先に決めておきます。
向いている会社・向いていない会社
向いているのは、次のような会社です。
- 海外拠点を持ち、グローバルの従業員データを一か所で管理したい
- プロジェクト型のビジネスで、人の工数を原価に直結させたい
- すでにNetSuiteを会計などで使っており、人のデータもつなぎたい
向いていないのは、次のような会社です。
- 日本国内の給与計算・労務の一体化を最優先したい
- 従業員の大半が国内で、人件費の分析をまだ求めていない
- 会計や販売のERPが、まだ定着していない
後者なら、国産HRを中心に据え、会計との連携だけを考えるほうが近道です。
費用と期間を左右するもの
人事の範囲をNetSuiteの導入に含めるかどうかで、費用と期間は動きます。
導入の費用と期間を左右する要因は、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
SuitePeople HRを足せば機能範囲が広がり、国産HRとの連携を自動にすれば開発が増えます。
社員のセルフサービスまで使うなら、使う人が増え、教育の手間もかかります。
導入費用の事例は、NetSuiteの料金・費用・価格で扱っています。
これから選ぶ会社と、いま使っている会社
これからNetSuiteを選ぶ会社は、人事を最初の導入の範囲に入れなくてもかまいません。
まず会計・販売で立ち上げ、人件費の仕訳の連携だけを最初に設計しておきます。
SuitePeople HRは、海外拠点の管理や工数の原価への反映が課題になってから考えても間に合います。
いま使っていて見直す会社は、状況で入口が変わります。
- NetSuiteに人事も足したい:まず、国産HRとの月次連携が手作業になっていないかを見る。SuitePeople HRはその後で十分
- 国産HRの更新や保守の期限が近い:乗り換えると仕訳の出し方も変わる前提で、連携の設計を見直す
- 連携がExcelの転記のまま:自動化から手を付けると、効果が見えやすい
よくある失敗3つ
失敗1:SuitePeopleで日本の人事を全部まかなおうとする
起きること:給与も勤怠もNetSuiteでと考え、日本の給与計算に合わせる作り込みがふくらむ。
原因:米国給与の機能を、日本の給与計算と同じものだと思い込んでいた。
避け方:給与・社保・年末調整は国産HRに任せます。
導入前に、各機能の対応範囲を公式ヘルプとパートナーに聞いておきます。
失敗2:国産HRとNetSuiteの連携の設計を後回しにする
起きること:ERPの稼働後も、給与の結果をExcelで転記し続ける。人件費の反映が遅れ、月次決算も遅れる。
原因:データの受け渡しの方法と粒度を決めずに進めた。
避け方:「国産HRで計算し、月次で仕訳を取り込む」流れを最初に設計します。
第3章の3つ(粒度・勘定と部門・時期)は、要件の段階で決めます。
失敗3:人と数字をつなぐ価値を活かさない
起きること:システムは入ったのに、人件費を部門別・プロジェクト別に見られない。
原因:人事は人事、会計は会計と、データを分けたまま運用している。
避け方:勤怠や工数のデータを、原価やプロジェクト損益につなぐ設計を考えます。
「経営会議でどの数字を見たいか」から逆算すれば、つなぐべきデータが決まります。
ベンチャーネットならこう見る|できないことを先に言い、つながった先を描く
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、特定の製品に誘導しない立場です。
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
給与は対象外と、最初に伝える
NetSuiteの導入を相談いただいたとき、ベンチャーネットは日本の給与計算を対象外と最初にお伝えします。
あとから知れば「話が違う」になるからです。
そのうえで、国産HRをそのまま活かし、会計との連携を設計します。
要件を聞くのは営業ではなく、導入コンサルタント本人です。
既存のシステムとの連携も、導入と同じチームが担います。
最初に聞く問いは3つです。
- 経営として見たい人の数字は何か:部門の人件費か、案件の工数か、拠点ごとの人員か
- 海外拠点はあるか:あればSuitePeople HRの価値が大きくなる
- いまの給与計算はどこで回っているか:回っているなら、そのまま活かす
守り→攻め→次へ|人と数字がつながった先
人事と会計のつなぎ方も、この3段で考えます。
- 守り:給与は国産HRで回り、人件費の仕訳が毎月決まった日にNetSuiteへ届く。転記の作業がなくなる
- 攻め:部門別・プロジェクト別の人件費を、売上や原価と並べて見る。人の工数が案件の原価に入る
- 次へ:人件費を含んだ部門損益が、KPIや管理会計の数字として経営会議に出る
「次へ」まで進むと、会議の問いが変わります。
「人が足りない」ではなく、「この部門の人件費に対して、粗利はどうか」。
人の話が、数字で語れるようになります。
人事制度や働き方は、経営そのものです。
情シスだけで決めず、経営者が関わる体制で進めることをお勧めします。
今日できること|人件費の流れを1枚に書き出す
1時間あれば、次の表を埋められます。
| 項目 | いまの状態(例) |
|---|---|
| 給与計算をしているシステム | 国産の給与ソフト |
| 会計への反映の方法 | 総額をExcelで転記 |
| 反映の粒度 | 会社全体の総額のみ |
| 反映にかかる日数 | 給与の確定から5営業日 |
| 経営が見たい粒度 | 部門別・案件別 |
「反映の粒度」と「経営が見たい粒度」の差が、つなぎ方を設計すべき場所です。
差がなければ、いまの仕組みで足りている可能性があります。
よくある質問
Q1. SuitePeopleで日本の給与計算(社保・年末調整)はできますか
標準ではできません。
公式ヘルプでは、U.S. Payrollは米国の連邦・州・地方の給与税だけに対応すると書かれています。
日本の給与計算は国産HRで行い、結果をNetSuiteにつなぐのが現実的です。
Q2. すでに国産のHRシステムを使っています。NetSuiteと連携できますか
月次で人件費の仕訳を取り込む形で連携できます。
給与計算は使い慣れたシステムで続けながら、人件費を会計でまとめて見られます。
粒度・勘定と部門・時期を先に決めておくと、手戻りが減ります。
Q3. SuitePeople HRは日本でも使えますか
従業員情報や休暇などHRの機能は検討できます。
ただし、日本語の画面の範囲と、日本の労務制度との合い方は、個別に聞く必要があります。
公式ヘルプの概要には英国向けの対応の記載があり、日本向けの記載は見当たりませんでした。
Q4. 勤怠もNetSuiteで管理できますか
シフトと勤怠は扱えますが日本での使い方は要確認です。
公式ヘルプでは、賃金のルールの計算はU.S. Payrollと連動する設計と説明されています。
日本の勤怠は、国産の勤怠システムを使い続ける選択肢も含めて検討します。
Q5. 海外に拠点があります。SuitePeopleは役に立ちますか
海外拠点を含めた従業員データの一元管理で価値が出やすい分野です。
拠点ごとの人員と人件費を、会計と同じ場所で見られます。
米国に拠点があれば、U.S. Payrollで米国の給与も扱えます。
Q6. 結局、自社の人事と会計はどうつなげばいいですか
国産HRに任せる範囲とNetSuiteとつなぐ範囲の切り分けが出発点です。
第8章の表を埋めると、いまの流れと経営が見たい粒度の差が見えます。
その差を埋める方法として、連携の自動化やSuitePeople HRを検討します。
まとめ:人事と会計をどうつなぐかは経営の話
- SuitePeopleは、HR・Workforce Management・U.S. Payrollの3つで構成される
- 給与の機能は米国向け。日本の給与・社保・年末調整は国産HRに任せる
- 多くの日本の会社は、国産HR+月次の仕訳連携が現実的
- SuitePeople HRは、海外拠点や工数の原価への反映が課題の会社で価値が出る
- 連携は粒度・勘定と部門・時期を最初に決める
給与の翌日の転記の作業は、この3つを決めれば消せます。
すべてを一つのシステムに寄せる必要はありません。
経営会議で見たい人の数字から、つなぎ方を決めてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
人事と会計のつなぎ方は、拠点の構成と、いまの給与の仕組みで変わります。
現状の整理から、ご相談をお受けしています。
