「人事や勤怠のシステムと、会計のシステムがバラバラで、データの突き合わせに手間がかかる」。
そんな悩みから、「NetSuiteなら人事も一体化できるのでは」と考える経営者は少なくありません。
NetSuiteには、SuitePeople(スイートピープル)という人事機能があります。ただし、日本で使う場合には、知っておくべき大切な前提があります。
この記事では、SuitePeopleで「できること」と「できないこと」を正直に整理します。そのうえで、日本企業にとって現実的な人事と会計の繋ぎ方をお伝えします。
この記事で分かること
- NetSuite SuitePeople(HR)の基本機能と3つの構成
- 日本の給与計算(社保・年末調整)への対応の実態
- 国産HRシステムとNetSuiteを連携させる現実的な進め方
- 自社の人事と会計をどう繋ぐかの判断軸
読了の目安:約8分
SuitePeople(HR)とは
SuitePeople(スイートピープル)とは、NetSuiteに組み込まれた人事管理の機能群です。
従業員情報の管理、組織図、休暇申請、人事評価などを、NetSuiteの中で扱えます。
少し専門用語を補足します。人事領域のシステムは、よくHCMやHRMSと呼ばれます。
- HCM(Human Capital Management):人材を「資本」と捉え、採用から育成まで戦略的に管理する考え方
- HRMS(Human Resource Management System):人事情報や勤怠、給与などを管理するシステムの総称
SuitePeopleは、このHCM・HRMSにあたる機能を、ERP(基幹システム)の中に持っているのが特徴です。
つまり、人事のデータが会計やプロジェクト管理と同じ場所にある、という点が一般的な人事システムとの違いです。
SuitePeopleの3つの構成(HR・勤怠・給与)
SuitePeopleは、大きく3つの機能で構成されています。日本で検討するうえで、この区別がとても重要です。
① SuitePeople HR(人事管理)
従業員情報、組織図、休暇管理、人事評価などを扱う中心機能です。
社員自身が住所変更や休暇申請を行えるセルフサービス機能もあります。
② Workforce Management(勤怠・シフト管理)
シフトのスケジュール作成や勤怠の記録を支援する機能です。
③ SuitePeople Payroll(給与計算)
給与計算の機能です。ただし、ここに最大の注意点があります。
SuitePeople Payrollは、米国の給与計算に特化した機能です。
米国の連邦税・州税の計算や、W-2などの米国の書類作成を前提に作られています。日本の給与計算をそのまま行う機能ではありません。
この点は、次の章でくわしく整理します。
ERPで人事を扱うメリット
「人事システムは別にあるのに、なぜERPで人事を扱うのか」と感じるかもしれません。
ERPで人事データを持つ最大の価値は、人に関するデータが、お金のデータと繋がることです。
具体的には、次のような場面で効果があります。
- 部門ごとの人件費を、会計データとあわせてリアルタイムに把握できる
- プロジェクト単位で、誰がどれだけ工数を使ったかを原価に反映できる
- 海外拠点を含めて、従業員情報を一つの場所で管理できる
人事を「労務管理」だけでなく、「経営の数字」として見られるようになる。これがERPで人事を扱う本質的なメリットです。
特に、海外拠点を持つ企業にとっては、グローバル全体の従業員データを一元管理できる点が大きな利点になります。
【重要】日本の給与計算はどうするか
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
先にお伝えした通り、SuitePeople Payrollは米国の給与計算に特化しています。
日本の給与計算には、社会保険料の控除、住民税、年末調整など、独自の複雑なルールがあります。これらにSuitePeopleが標準で対応しているわけではありません。
では、日本企業はどうすればよいのか。結論はシンプルです。
給与計算は、日本の国産HRシステムに任せるのが現実的です。
日本では、給与・勤怠・労務は国産のHRシステムを使うのが標準です。これらは日本の制度に最適化されており、法改正への対応も継続的に行われます。
現実的な進め方:月次でデータを連携する
おすすめの形は、役割を分けることです。
- 給与計算・社保・年末調整は、国産HRシステムで行う
- その結果(人件費などの仕訳データ)を、月次でNetSuiteに取り込む
この流れにすれば、給与計算は日本の制度に強いシステムで確実に行いつつ、人件費を会計データとして一元管理できます。
無理にNetSuiteで給与を計算しようとせず、得意な役割を分担する。これが多くの日本企業にとって現実的な解になります。
ベンチャーネットでも、できないことは「できない」と正直にお伝えしています。そのうえで、自社に合った繋ぎ方を一緒に考える姿勢を大切にしています。
ERP一体型HR vs 国産HRシステム
「では、どちらを選べばいいのか」と迷うかもしれません。
どちらが優れているか、という話ではありません。目的によって役割が違います。
| 比較軸 | ERP一体型HR(SuitePeople) | 国産HRシステム |
|---|---|---|
| 日本の給与計算・社保・年末調整 | 標準では非対応(米国給与に特化) | 得意(日本の制度に最適化) |
| 会計・原価との連結 | 強い(同じERP内でデータが繋がる) | 連携の設定が必要 |
| グローバル人材・海外拠点の一元管理 | 強い | 製品によって差がある |
| 日本語・国内サポート | 一部のみ | 充実している |
| 向いているケース | 海外拠点を含む全社の人材データ基盤 | 日本国内の給与・労務の確実な運用 |
多くの日本企業では、給与・労務は国産HRシステムで確実に回し、その人件費データをNetSuiteの会計と繋ぐ。この組み合わせが現実的です。
SmartHRやマネーフォワード、各種の給与計算ソフトなど、すでに使っているシステムがあれば、それを活かす前提で設計するのが基本になります。
SuitePeopleが向いている企業・慎重に検討すべき企業
ここまでを踏まえ、適性を整理します。
検討する価値がある企業
- 海外拠点を持ち、グローバルの従業員データを一元管理したい企業
- プロジェクト型のビジネスで、人の工数を原価に直結させたい企業
- すでにNetSuiteを会計などで使っており、人材データも繋ぎたい企業
これらは、NetSuiteが得意とする「ヒトの管理」が経営の中心課題にある企業です。人に関するデータを経営数字と繋げる価値が、特に大きく出ます。
慎重に検討すべき企業
- 日本国内の給与計算・労務の一体化を最優先したい企業
この場合、SuitePeopleで給与まで賄おうとすると無理が生じます。国産HRシステムを中心に据えるほうが現実的です。
大切なのは、自社の課題が「ヒトの管理」のどこにあるかを見極めることです。
導入で陥りやすい4つの落とし穴
最後に、SuitePeopleやERPでの人事管理を検討するとき、陥りやすい落とし穴を共有します。
これは、製品を売り込みたいから書くのではありません。同じ失敗をしてほしくないからお伝えするものです。
落とし穴①:SuitePeopleで日本のHRを全部賄おうとする
よくある現象
- 「ERPに統一したいから、給与も勤怠も全部NetSuiteで」と考える
- 米国給与の機能を、日本の給与計算と同じものだと思い込む
- 「人事も一体化できる」という説明を、額面通りに受け取る
なぜ失敗するか
SuitePeople Payrollは米国給与に特化しており、日本の社保・年末調整には標準対応していません。無理に合わせようとすると、過剰なカスタマイズが必要になります。
どう回避するか
給与・社保・年末調整は、日本の国産HRシステムに任せるのが現実的です。できないことを正直に見極めることが、結果的に近道になります。
落とし穴②:国産HRとNetSuiteの連携設計を後回しにする
よくある現象
- 先にERPを入れてから、連携方法を考えようとする
- 給与データの受け渡し方法を決めずに進める
- 結局Excelで手作業の転記を続けてしまう
なぜ失敗するか
連携設計が後手に回ると、人件費が会計や部門損益にタイムリーに反映されません。月次決算が遅れる原因にもなります。
どう回避するか
「国産HRで給与を計算し、月次でNetSuiteに仕訳データを取り込む」流れを、最初に設計しておきます。この順番が、後の手間を大きく減らします。
落とし穴③:人事データと会計・原価の連結価値を活かさない
よくある現象
- HRはHR、会計は会計と、データが分断したまま
- 人件費を部門別・プロジェクト別に見られない
- 「システムを入れた」だけで満足してしまう
なぜ失敗するか
ERPで人事を扱う本当の価値は、人件費が経営数字に直結して見えることです。データを分断すると、その価値が消えてしまいます。
どう回避するか
勤怠や工数のデータを、原価やプロジェクト損益に繋ぐ設計を考えます。人のデータを経営の数字に変える視点が大切です。
落とし穴④:HR・給与システムの刷新を情シス任せにする
よくある現象
- 「システムの話だから情シスで」と経営層が関与しない
- 現場の人事担当だけで決めてしまう
- 人事制度とシステムを、切り離して考える
なぜ失敗するか
人事制度や働き方は、経営そのものです。システム選定だけを切り出すと、制度と噛み合わないものになりがちです。
どう回避するか
人事と会計をどう繋ぐかは、経営の意思決定です。経営プロジェクトとして関与する体制をつくることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. NetSuite SuitePeopleで日本の給与計算(社保・年末調整)はできますか?
標準ではできません。SuitePeople Payrollは米国の給与計算に特化した機能です。
日本の給与計算は、国産のHRシステムで行い、その結果をNetSuiteに連携するのが現実的です。社会保険料や年末調整など、日本独自のルールは国産システムが得意とする領域です。
Q2. すでに国産のHRシステムを使っています。NetSuiteと連携できますか?
連携できます。一般的には、月次で給与・人件費のデータをNetSuiteに仕訳として取り込む運用になります。
これにより、給与計算は使い慣れたシステムで続けながら、人件費を会計データとして一元管理できます。
Q3. SuitePeople(HR)の機能は、日本でも使えますか?
従業員情報の管理、組織図、休暇管理といったHR機能は利用できます。
ただし、日本語への対応範囲や、日本の労務制度との適合については、個別に確認が必要です。導入前に、自社の要件と照らし合わせることをおすすめします。
Q4. 結局、自社の人事と会計はどう繋げればいいですか?
まず、自社のどこを国産HRに任せ、どこをNetSuiteと繋ぐかを切り分けることが出発点です。
この切り分けは、自社だけで判断するのが難しい部分でもあります。ベンチャーネットでは、現状の業務を整理しながら、無理のない繋ぎ方を一緒に考えています。
まとめ:HRと会計をどう繋ぐかは経営の話
SuitePeopleは、人事データをERPの中で扱える機能です。
ただし日本では、給与計算を国産HRシステムに任せ、その結果をNetSuiteと連携させるのが現実的です。すべてを一つのシステムに無理に寄せる必要はありません。
大切なのは、自社の人事のどこをどのシステムで担い、どう繋ぐかという全体の設計です。
これは単なるシステムの選定ではなく、人と数字をどう経営に活かすかという、経営の意思決定です。一人で抱え込まず、現状を整理することから始めるのが、結果的に確実な進め方になります。
「自社の場合はどう繋げばいいのか」と感じた方は、お気軽にご相談ください。現状の業務をうかがいながら、無理のない進め方を一緒に整理します。
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