NetSuiteには、標準の製造機能に加えて「Advanced Manufacturing」という上位の機能群があります。工程の設計から現場の実績収集までをつなぎ、いわゆるMES(製造実行システム)の領域までカバーする仕組みです。
この記事では、Advanced Manufacturingで何ができるのか、標準機能やManufacturing Mobile・WMSとどう違うのか、そして日本でどう使えるのかを整理します。製造業でNetSuiteの導入や拡張を検討している方が、自社に必要かどうかを判断できる状態を目指します。
NetSuite Advanced Manufacturingとは
NetSuite Advanced Manufacturing(アドバンスト・マニュファクチャリング)は、NetSuiteの製造機能を拡張する追加アプリケーション(SuiteApp)です。
SuiteAppとは、NetSuite本体にあとから組み込んで機能を足すアドオンのことです。Advanced Manufacturingを使うには、このSuiteAppをアカウントにインストールする必要があります(出典:Oracle公式ヘルプ)。
NetSuiteの標準の製造機能だけでも、部品表(BOM)や作業オーダーの管理はできます。Advanced Manufacturingは、そこに「工程ごとの計画」「現場での作業指示」「実績データの収集」といった、より製造現場寄りの機能を上乗せするものだと考えてください。
NetSuite公式(日本語サイト)では、この機能を「MES(製造実行システム)ソフトウェア」として位置づけています(出典:NetSuite公式)。MES領域までカバーする、という本記事のタイトルは、この公式の位置づけに沿ったものです。
そもそもMES(製造実行システム)とは
MES(Manufacturing Execution System/製造実行システム)とは、製造現場の作業をリアルタイムに管理・可視化し、生産計画と現場をつなぐ仕組みのことです。
ERPが「何を・いつ・どれだけ作るか」という計画を担うのに対し、MESは「現場で実際にどう作られているか」を扱います。両者がつながると、計画と実績のズレを早く把握できるようになります。
NetSuiteのAdvanced Manufacturingは、このMESの役割の一部を、ERPと同じプラットフォーム上で実現する点に特徴があります。計画系のERPと現場系のMESを別々のシステムで持つのではなく、ひとつの基盤でつなげる、という発想です。
Advanced Manufacturingでできること
Advanced Manufacturingの機能は、大きく4つに整理できます。いずれもNetSuite公式ヘルプおよび公式サイトに記載のある内容です(出典:Oracle公式ヘルプ/NetSuite公式)。
工程設計と作業指示
Advanced Manufacturingは、NetSuiteの製造ルーティング(工程の流れ)を「Advanced Manufacturing Work Bench」という作業台に展開します。
ここでできることは次のとおりです。
- 各工程の作業手順(ワークインストラクション)を定義する
- 工程ごとに使う材料を紐づける
- 供給と需要を突き合わせて過不足を確認する
- 各工程の開始・終了予定日を設定する
つまり、「どの工程で・何を・どう作るか」を、計画の段階で具体的に組み立てられます。
生産計画と能力計画
Advanced Manufacturingでは、生産能力(キャパシティ)を踏まえた計画づくりができます。
ここでいう生産能力とは、作業センターや設備が一定期間に処理できる作業量の上限を指します(出典:Oracle公式ヘルプ)。
この能力を前提に、各品目の生産ルートを設定し、開始・終了の見込みを立て、利用可能な能力で本当に作りきれるかを評価します。需要に対して現場の手が足りるのかを、計画の段階で確認できるわけです。
現場データの収集(バーコードとタブレット)
Advanced Manufacturingは、現場の実績を集めるための仕組みを備えています。NetSuite公式(日本語サイト)では、次の2つのインターフェースが紹介されています(出典:NetSuite公式)。
- バーコーディング:ネイティブのバーコードアプリ。ブラウザが動くデバイスで使え、作業トラッキング、作業オーダーの完了、材料の状態、入庫などの一般的な処理を効率化します。作業状況をバーコードで印刷でき、データの精度を保ちます。
- タブレット(HMI):作業者に即時のフィードバックや視覚的な警告を返せる高機能インターフェース。リアルタイムまたは遅延型のデータ処理に対応し、ダウンタイム(停止時間)などを視覚的に表せます。
HMIとは Human Machine Interface の略で、人と機械(システム)が情報をやり取りする画面のことです。
実績レポートと分析
収集した現場データは、稼働状況のレポートとして活用できます。
ダウンタイムやロス(損失)を加味したり、作業区分(労務コード)を付けたりすることで、工程ごとの実態を細かく把握できます(出典:Oracle公式ヘルプ)。集めた実績をもとに運用パフォーマンスのレポートを作り、次回以降の工程改善に活かす、という流れです。
「MES領域」をどこまでカバーするのか
Advanced Manufacturingは、MESの中心的な役割である「作業指示」「実績収集」「現場の可視化」をカバーします。
一方で、MESという言葉が指す範囲は広く、設備制御(機械そのものを動かす制御)や、ミリ秒単位の精密な装置連携までを含めることもあります。こうした領域は、専用の設備制御システムや上位のMES専用パッケージが担うのが一般的です。
整理すると、次のようになります。
- Advanced Manufacturingが得意な領域:工程設計・作業指示・実績収集・能力計画・現場の可視化を、ERPと一体で扱う
- 専用システムが向く領域:設備そのものの制御や、極めて高速・高精度なライン制御
「ERPと現場をつなぐMES」を、追加システムを最小限にして実現したい場合に、Advanced Manufacturingは有力な選択肢になります。逆に、装置制御まで踏み込んだ重厚なMESが必要な場合は、専用システムとの役割分担を前提に検討するのが現実的です。
Manufacturing Mobile・WMSとの違いと使い分け
NetSuiteの製造・在庫まわりには、名前の似た機能が複数あります。混同しやすいので、ここで整理します。
| 機能 | 主な役割 | ライセンスの考え方 |
|---|---|---|
| Advanced Manufacturing | 工程設計・能力計画・作業指示・実績収集(MES領域) | Advanced Manufacturingのライセンスが必要 |
| Manufacturing Mobile | 現場オペレーターがモバイル端末で実績をスキャン入力 | Advanced ManufacturingやWMSのライセンスは不要(作業オーダー機能があれば利用可) |
| WMS(倉庫管理) | 入庫・ピッキング・棚卸など倉庫業務の運用 | WMSのライセンスが必要 |
Manufacturing Mobileは、ERPの知識が少ない現場オペレーターでも、モバイルのスキャナで製造現場のデータを報告できるようにする仕組みです(出典:Oracle公式ヘルプ)。Advanced ManufacturingやWMSのライセンスを買わなくても、作業オーダー機能があれば使えるとされています。
ざっくり言えば、次のような使い分けになります。
- 工程の設計や能力計画まで作り込みたい → Advanced Manufacturing
- まずは現場の実績入力をモバイルで手軽に始めたい → Manufacturing Mobile
- 倉庫の入出庫・棚卸を効率化したい → WMS
どこから着手するのが自社に合うかは、現場の課題がどこにあるか次第です。ここは判断が分かれやすいところなので、後半の「向いている企業」と「導入でつまずきやすいポイント」もあわせて確認してください。
日本での使い方・対応状況
Advanced Manufacturingは、日本でも提供されています。
NetSuite公式の日本語サイトには、生産管理のなかに「製造実行システム(MES)」のページがあります。そこではAdvanced Manufacturingのバーコーディング機能とタブレット(HMI)機能が、日本語で紹介されています(出典:NetSuite公式 製造実行システム(MES)ソフトウェア)。
加えて、Oracle日本は、製造企業向けの日本ローカライゼーションとして、日本の請求・税務のルールに準拠した請求や財務報告を支援できると案内しています(出典:Oracle日本「NetSuite、日本の製造企業の成長と変化への適応を支援」2024年7月17日)。日本の製造業が、日本の商習慣・規制に沿って使える土台が整えられている、という位置づけです。
実務上のポイントは、Advanced Manufacturingが「インストールして終わり」ではなく、自社の工程に合わせた設定が前提になることです。NetSuite公式ヘルプでも、設定はNetSuiteのプロフェッショナルサービス担当(または導入パートナー)と協力して進めるものとされています(出典:Oracle公式ヘルプ)。
工程の定義、作業センターと能力の設計、現場端末の運用ルールづくりは、自社の製造プロセスを言語化する作業そのものです。ここを誰と組んで進めるかが、使いこなせるかどうかの分かれ目になります。
向いている企業・導入を慎重に検討すべき企業
Advanced Manufacturingは、すべての製造業に等しく必要なわけではありません。自社の状況に照らして見極めることが大切です。
向いている企業
- 複数の工程を経て製品を組み立てており、工程ごとの進捗を把握したい
- 作業指示や実績を紙やExcelで管理していて、リアルタイムに見えるようにしたい
- 生産能力に対して受注が読みにくく、計画段階で過不足を確認したい
- 会計・在庫・販売とあわせて、製造現場までひとつの基盤で見たい
慎重に検討すべき企業
- 工程がごく単純で、標準の作業オーダー管理で足りている
- 装置制御まで踏み込んだ重厚なMESが必須である(専用システムとの併用を前提に検討)
- まず現場のモバイル実績入力だけを試したい(Manufacturing Mobileから始める選択肢もある)
「高度な機能だから入れる」のではなく、「自社の工程のどの課題を解くために入れるのか」を先に決めることが、ムダな投資を避ける近道です。
導入でつまずきやすいポイント
Advanced Manufacturingは強力な機能群ですが、導入のアプローチを誤ると、本来の価値を引き出せません。
ここでは、ベンチャーネットが製造業のシステム導入の現場で見てきた、つまずきやすいポイントを共有します。これは製品を売り込むためではなく、「失敗してほしくない」という思いからお伝えするものです。ベンチャーネットは、お客様と対等な関係で、課題を一緒に乗り越える伴走者でありたいと考えています。
目的が曖昧なまま「高度な機能だから」と入れてしまう
起きること:「製造のDXのため」といった漠然とした理由だけで、上位機能の導入を決めてしまうケースです。
なぜつまずくか:目的が具体的でないと、本当に必要な機能を見極められません。結果として、使わない機能の設定に時間と費用をかけてしまいます。
どう避けるか:「どの工程の・何を・どれだけ改善したいのか」を先に言葉にしましょう。たとえば「工程ごとの進捗をリアルタイムに見えるようにする」「能力超過の受注を計画段階で止める」など、達成したい状態を具体的に決めることが出発点になります。
現状の業務をそのまま再現しようとする
起きること:「今のやり方を変えたくない」と、既存の工程運用をそのままシステムに写そうとするケースです。
なぜつまずくか:Advanced Manufacturingは、工程・作業センター・能力をきちんと定義することで力を発揮します。属人的な運用をそのまま持ち込むと、設定が複雑になり、かえって使いにくくなります。
どう避けるか:導入のタイミングを、工程の棚卸しの機会と捉えましょう。「本当に必要な手順」と「惰性で続けている手順」を仕分けてから設計すると、運用がシンプルになります。
現場データ収集の運用ルールを決めずに始める
起きること:バーコードやタブレットの仕組みは入れたものの、いつ・誰が・どの単位で入力するかを決めないまま走り出すケースです。
なぜつまずくか:現場の入力が揃わないと、せっかくのリアルタイムの可視化も精度が出ません。データが信頼できないと、現場は元の紙運用に戻ってしまいます。
どう避けるか:機能を入れる前に、入力のタイミングと責任範囲を現場と一緒に決めておきましょう。小さく始めて、現場の実態に合わせて調整していくのが現実的です。
設定や制約を理解しないまま運用設計してしまう
起きること:上位機能には固有の前提や制約があります。それを把握しないまま、理想だけで運用を組んでしまうケースです。
なぜつまずくか:たとえばAdvanced Manufacturingには、ロット・シリアル管理品目の自動発行に対応しないなど、機能ごとの前提があります(出典:Oracle公式ヘルプ)。こうした制約を後から知ると、運用の作り直しが発生します。
どう避けるか:公式の前提・制約を、設計の早い段階で確認しましょう。自社の工程に効いてくる制約はどれかを、導入パートナーと一緒に洗い出しておくと安心です。
つまずきの根っこにあるもの
4つのポイントに共通するのは、「機能を入れること」が目的化してしまう点です。Advanced Manufacturingの導入は、ITの作業ではなく、自社の製造プロセスをどう設計し直すかという経営の取り組みです。
だからこそ、製品の操作だけでなく、工程の言語化や運用設計まで一緒に考えられる相手を選ぶことが、成否を分けます。ベンチャーネットは、こうした「現場と計画をつなぐ設計」を、お客様と並走しながら進めることを大切にしています。
よくある質問(FAQ)
Q1. Advanced Manufacturingは標準の製造機能と何が違いますか?
標準の製造機能でも、部品表(BOM)や作業オーダーの管理はできます。Advanced Manufacturingは、それに加えて工程ごとの計画、現場での作業指示、バーコードやタブレットによる実績収集など、より製造現場寄りの機能を上乗せするものです。MES(製造実行システム)の領域までカバーする点が違いです。
Q2. 日本でも使えますか?
使えます。NetSuite公式の日本語サイトに製造実行システム(MES)としての紹介ページがあり、Advanced Manufacturingの機能が日本語で案内されています(出典:NetSuite公式 製造実行システム(MES)ソフトウェア)。Oracle日本も製造企業向けの日本ローカライゼーション(請求・税務・帳票)を案内しています(出典:Oracle日本 2024年7月17日 発表)。実際の運用は、自社の工程に合わせた設定が前提になります。
Q3. Manufacturing Mobileとどちらを先に入れるべきですか?
目的によります。工程の設計や能力計画まで作り込みたいならAdvanced Manufacturing、まず現場の実績入力をモバイルで手軽に始めたいならManufacturing Mobileが起点になります。Manufacturing Mobileは、Advanced ManufacturingやWMSのライセンスがなくても、作業オーダー機能があれば利用できるとされています(出典:Oracle公式ヘルプ)。
Q4. 導入はどのくらい大変ですか?
機能の範囲が広いぶん、工程・作業センター・能力の定義など、設計に手間がかかります。公式でも、設定はNetSuiteのプロフェッショナルサービスや導入パートナーと協力して進めるものとされています(出典:Oracle公式ヘルプ)。逆に言えば、設計をきちんと組めば、計画と現場を一体で運用できる土台になります。
Q5. 何から検討を始めればよいですか?
まずは「どの工程の・何を改善したいのか」を言葉にすることをおすすめします。そのうえで、標準機能で足りるのか、Manufacturing Mobileから始めるのか、Advanced Manufacturingまで必要なのかを比べると、過不足のない選択ができます。判断に迷う場合は、自社の工程を一緒に整理できるパートナーに相談すると早く進みます。
まとめ
NetSuite Advanced Manufacturingは、工程設計から現場の実績収集までをERPと一体で扱える、MES領域までカバーする製造機能です。日本でも公式に提供されており、日本の商習慣に沿って使う土台も整えられています。
一方で、その価値を引き出せるかどうかは、「自社のどの課題を解くために使うのか」を先に決められるか、そして工程の言語化や運用設計まで一緒に考えられる相手と組めるかにかかっています。
ベンチャーネットは、NetSuiteの機能を入れることをゴールにせず、製造現場と経営の計画をつなぐ設計から、お客様と並走します。「自社にAdvanced Manufacturingが必要か分からない」という段階からでも、工程の課題を一緒に整理するところからお手伝いできます。
実際の画面で機能を確かめてみたい方は、NetSuiteの無料デモをご利用ください。自社の工程に当てはめながら、Advanced Manufacturingで何ができるかをご確認いただけます。まずはお気軽にご相談ください。
