「スキャナを配れば、紙の日報はなくなる」
製造現場の実績集めを見直すとき、そう考える会社は少なくありません。
ところが実際には、紙の日報とスキャンが並んで残り、転記の手間が減らないことがあります。
NetSuite Manufacturing Mobileとは、製造現場の実績をモバイルスキャナで集める、NetSuite純正のSuiteAppです。
SuiteAppは、NetSuiteに追加で入れる拡張アプリのことです。
NetSuiteのManufacturing機能を使う会社なら、追加のライセンスなしで始められます。
機能はそろっています。
足りなくなりがちなのは、現場が使い続けるための設計です。
では、スキャナが紙に負けないためには、何を先に決めればよいのか。
この記事で分かること
- Manufacturing Mobileに要るライセンスと、その例外
- 現場でできることと、SCM Mobile・WMSとの違い
- 設定の前提と、1つのラインで始めるときの定着の4手順
- 向いている会社・別の選択肢が合う会社の条件
ERPは、会計・販売・購買・在庫・製造などの基幹業務を1つにまとめるシステムのことです。
Manufacturing Mobileとは
Oracleのヘルプでは、Manufacturing Mobileを、ERPの知識が少ない作業者でも現場のデータを報告できる仕組みと説明しています。
ヘルプが示す現場の流れは、次の4段です(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
- 材料の準備(現在は未提供)
- 部品の消費
- 完成品の生産
- 在庫と財務のデータの更新
各段階は別々に行えます。
現場のデータ集めと、在庫・財務の取引の計上を分けて運用できるということです。
作業者は、生産と消費を何度でも、どの順番でも報告できます(出典:同上)。
ライセンス|Advanced ManufacturingやWMSは不要
ヘルプには、次のように書かれています(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
- スキャナを使うために、Advanced ManufacturingやWMSのライセンスを買う必要はない
- NetSuiteのManufacturing機能を購入すると、Manufacturing Mobileを自動で受け取る
- 組立・作業指図のライセンスがあれば、Manufacturing MobileとSCM Mobileのバンドルを設定できる
例外は、専用の作業者ロール「Specialized User: Manufacturing Operator」を使う場合です。
このロールには、次の3つが必要です(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
- 専用のユーザーライセンス(Specialized Manufacturing Cloud Service User)
- Advanced Manufacturingのアカウント
- Manufacturing MobileのSuiteApp
作業者の人数が多い会社ほど、どのロールで使うかが金額に響きます。
見積の段階で決めておきましょう。
ライセンスの分かれ目を図にすると、次のとおりです。
NetSuite全体のライセンスは、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。
導入の費用は、ライセンスとは別に考えます。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用では、3名程度で購買・販売だけの事例が150万円程度・1.5か月でした。
100名程度で購買・販売・在庫・会計に外部システム連携を含めた事例は、2億円程度(うち開発約7割)・1.5年です。
その間に、30名程度・購買・販売・プロジェクト管理で2,000万円程度・1年の事例があります。
20名程度・購買・販売・在庫・会計で情シスなしの事例は、3,000万円程度・2年でした。
差を生む要因は、機能範囲・開発(特に外部システム連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
4事例の詳細は、「NetSuiteの料金」で扱っています。
Manufacturing Mobileでできること
| 項目 | できること | 変わること |
|---|---|---|
| 作業実績 | 作業指図の工程を始め、完了数・不合格数を報告 | 生産の進み具合がすぐにNetSuiteに届く |
| スクラップ | 不良・廃棄の数量を、理由のリストから選んで記録 | 不良の理由がデータとしてたまる |
| ロット・シリアル | 番号をスキャンか入力で取り込む。ロット・シリアルのない品目でも使える | トレーサビリティ(追跡)を確保しやすい |
| 労務・設備 | 作業者ごとの労務時間、設備の稼働時間、停止の理由を記録 | 現場の稼働状況が見える |
スクラップの理由、シフト、停止の理由は、コードとして事前に登録して使います(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
スクラップを含めると、作業指図の実際のコストをより正確につかめます。
Oracleの公式サイトでも、作業指図のコンソールで不良・停止時間・労務をリアルタイムに記録できると説明しています(2026年9月確認)。
ロット・シリアルの設定は、NetSuiteのロット管理・シリアル番号管理で解説しています。
労務費の考え方は、製造業の労務費管理が参考になります。
Manufacturing Mobile・SCM Mobile・WMSの違い
| 軸 | Manufacturing Mobile | SCM Mobile | NetSuite WMS |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 製造現場の実績 | 入出庫・在庫移動などの供給網 | 倉庫業務全般 |
| 代表的な操作 | 作業実績・スクラップ・労務時間 | 受領・在庫移動・ピッキングなど | 棚入れ・ウェーブ・梱包などの高度な倉庫運用 |
| 必要なライセンス | 組立・作業指図で利用可 | 同上(同じスキャナで併用可) | WMSのライセンス |
| こんな時に | 製造の実績をスキャナで集めたい | 在庫移動を効率化したい | 倉庫の運用を高度にしたい |
ヘルプには、同じスキャナで製造とWMSの作業ができると書かれています。
倉庫の運用は、NetSuite WMSとはとNetSuite WMS×バーコード運用で解説しています。
やりたいことから選ぶ形で図にすると、次のとおりです。
現場のデータの集め方の比較
| 集め方 | 向く会社 | 注意点 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| Manufacturing Mobile | NetSuiteで作業指図を使う | コードと作業の流れの設計が要る | 高。実績・不良・労務が作業指図にそろう |
| Advanced ManufacturingのMES領域 | 工程や設備の管理まで深めたい | ライセンスと設計の範囲が広がる | 高。工程単位のデータがそろう |
| 国産の生産管理・Odoo | 生産管理を別に持つ | NetSuiteとの連携の設計が要る | 製品による |
| AIスクラッチ開発 | 独自の現場端末や画面が要る | 作る・直す体制が要る | 設計しだい |
| いまは紙のまま | 作業指図が少なく、実績を急いで見る必要がない | 転記の手間と遅れが残る | 低。データが後からまとめて入る |
工程管理・MES領域は、NetSuite Advanced Manufacturingとはをご覧ください。
設定の前提と、1つのラインで始める4手順
公式ヘルプにもとづく前提は、次のとおりです(2026年9月確認)。
- 会計期間を1年分設定する
- 機能の有効化で、拠点・作業指図・在庫・ビン管理(在庫の置き場所を管理する機能)を有効にする
- SCMとManufacturing Mobileのバンドルを入れる
- WIP(仕掛品)のビンを作る
バンドルの導入は3〜5分で終わります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
端末の要件は、Android 7.0以上かiPadOS 18以上、4インチ以上のタッチ画面、1次元バーコードのスキャナなどです。
端末の選び方は、NetSuite×バーコード/ハンディターミナル活用ガイドで扱っています。
時間がかかるのは、ここから先の設計です。
ベンチャーネットは、定着を次の4手順で進めます。
① データ整理を最初に
作業区、スクラップと停止の理由のコード、シフト、ロットの付番のルールを決めます。
理由のコードは、現場が実際に使う言葉で、10個前後から始めるのが目安です。
② 段階的に導入する
全ラインで一斉に始めません。
実績の件数が多く、転記の手間が大きいラインを1つ選びます。
最初は実績の報告だけにし、スクラップや労務の記録は慣れてから足します。
③ 研修とサポートを徹底する
ラインの班長と作業者に、実際の作業の順番で操作を練習してもらいます。
稼働の直後は、現場の質問にすぐ答えられる人を決めておきます。
④ 操作はシンプルに
使わない項目は、画面に出しません。
スキャンの手順は、現場の作業の順番に合わせて組みます。
4つとも、機能の話ではありません。
「機能が使えること」と「現場が使える状態にすること」は、別の仕事です。
判断の物差し|向いている会社・向いていない会社
向いている会社
- NetSuiteで作業指図と組立品を使っている、または使う予定
- 実績の転記に毎日時間がかかり、数字が経営に届くのが遅い
- 不良の理由や労務時間を、原価の改善に使いたい
- ロット・シリアルの追跡が、顧客や規制から求められている
向いていない会社・別の選択肢が合う会社
- 作業指図を使っていない → まず作業指図と部品表を整える
- 工程・設備の細かい管理が主な課題 → Advanced Manufacturingの範囲を検討
- 生産管理を国産のシステムで持っている → 実績はそちらで集め、NetSuiteとつなぐ
- 現場の作業者が数人で、実績も少ない → いまは紙のままで足りることもある
これから始める会社と、紙で集めている会社
これからNetSuiteで製造を始める会社は、専用の作業者ロールを使うかどうかを見積の前に決めます。
ライセンスが変わるからです。
最初は1つのラインで、実績の報告だけから始めると定着しやすくなります。
いまNetSuiteを使い、実績を紙で集めている会社は、組立・作業指図のライセンスがあれば、追加の購入なしで試せる可能性があります。
まず、次の3つを見ておきます。
- 自社のアカウントでバンドルを入れられるか
- 会計期間・拠点・ビン管理の設定がそろっているか
- 紙の日報のどの項目を、スキャンに置き換えるか
導入したのに使われていない場合は、第5章の①と④、コードと作業の流れの見直しから始めます。
よくある3つの失敗
失敗1:スキャナを入れたのに、紙の運用に戻る
起きること:紙の日報が並行して残り、スキャンは「後でまとめて」になる。
原因:スキャンの操作が、現場の実際の作業の順番と合っていない。
避け方:現場の作業の流れを先に描き、その流れにスキャンの手順を合わせます(第5章の④)。
失敗2:スクラップの理由が「その他」ばかりになる
起きること:理由の欄が「その他」で埋まり、後から原因を分析できない。
原因:理由のコードが、現場の言葉で作られていない。
避け方:コードは現場の言葉で、10個前後から始めます。
「その他」が多いコードは、月に一度見直して分けます。
失敗3:ロット・シリアルの運用が曖昧で、追跡できない
起きること:データはたまるのに、いざという時に追えない。ロットの単位が人によって違う。
原因:機能は対応していても、付番の粒度とタイミングを決めていない。
避け方:「何を、どこまで追いたいか」から逆算して、付番のルールを決めます。
ベンチャーネットならこう見る|守り→攻め→次へ
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱っています。
SAPからのリプレイスにも対応し、特定の製品に誘導しない立場です。
現場の実績集めは、定着のあとに3段で育てるものと考えています。
- 守り:実績が、その日のうちにNetSuiteへ届く。紙の転記がなくなる
- 攻め:たまった不良の理由と労務時間で、原価と納期の手を打つ
- 次へ:製造のKPIや管理会計に、現場の数字をそのまま使う
最初から「攻め」をねらうと、コードの数が増え、現場が離れます。
まずは「守り」を1つのラインで固める。それが近道です。
相談の最初に伺うのは、次の3つです。
- 遅れて困っている数字は何か:原価か、納期か、不良か
- 作業指図と部品表は整っているか:整っていなければ、スキャナより先に直す
- 定着を誰が見るか:現場の責任者と、月に一度コードを見直す場
要件を伺うのは、営業ではなく導入コンサルタントです。
現場の言葉を、そのまま設計に移すためです。
情シスが少ない会社でも、この体制で進められます。
今日できること|紙の日報の項目を仕分ける
いまの日報を1枚用意し、次の表を埋めてみてください。1時間ほどでできます。
| 日報の項目 | 誰が書くか | 後で使っているか | スキャンに置き換えるか |
|---|---|---|---|
| (例)不良の数と理由 | ラインの班長 | 月末の品質会議で集計 | 置き換える(理由のコードを作る) |
使っていない項目は、置き換えずにやめる候補です。
理由を自由に書いている項目は、コードに直す候補になります。
よくある質問
Q1. Advanced Manufacturingのライセンスは必要ですか
通常の使い方なら不要です。
Manufacturing機能を購入すると、Manufacturing Mobileを自動で受け取ります。
ただし、専用の作業者ロールを使う場合は、Advanced Manufacturingのアカウントが必要です。
Q2. 今のモバイル端末・スキャナで使えますか
ヘルプの要件に合うかを見てください。
Android 7.0以上かiPadOS 18以上、4インチ以上のタッチ画面、1次元バーコードのスキャナなどが要件です。
導入前に、お手持ちの端末で試すことをおすすめします。
Q3. ロット管理品・シリアル管理品でも使えますか
使えます。
ロットやシリアルの有無にかかわらず使えます。
付番の粒度とタイミングは、各社で決める必要があります。
Q4. WMSとは何が違いますか
Manufacturing Mobileは製造の実績を集めWMSは倉庫業務全般を扱います。
ヘルプには、同じスキャナで製造とWMSの作業ができると書かれています。
Q5. 導入にはどのくらいかかりますか
バンドルの導入は3〜5分です。
時間がかかるのは、コードと作業の流れの設計です。
会計期間・拠点・作業指図・ビン管理の設定も先にそろえます。
1つのラインで試してから広げると、現場の負担を抑えられます(第5章)。
Q6. 実績の報告と在庫の計上は同時に行われますか
段階を分けて運用することもできます。
ヘルプでは、部品の消費・完成品の生産・在庫と財務の更新を別々に行えると説明しています。
現場のデータ集めと会計の計上の時期を、自社の運用に合わせて決めます。
まとめ|機能は現場で使える。使える状態にする設計を
- Manufacturing Mobileは、製造現場の実績をスキャナで集める純正のSuiteApp
- 通常はAdvanced ManufacturingもWMSのライセンスも不要。専用の作業者ロールは例外
- 前提は会計期間・拠点・作業指図・ビン管理の設定とバンドルの導入
- 定着は4手順。データ整理を最初に、段階的に、研修とサポート、操作はシンプルに
- 実績集めは「守り→攻め→次へ」の順に育てる
スキャナが紙に勝つかどうかは、配る前の設計で決まります。
まずは手元の日報1枚から、置き換える項目を選んでみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の現場でどう使えるか、どこから始めるか。初期の設計からご相談をお受けしています。
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