「人件費は毎月わかっている。でも、製品ごとにいくら人の費用がかかっているかは分からない」
製造業の経営者から、よく聞く声です。
労務費とは、製品をつくるために働く人の費用のうち、製造原価に入る部分です。
労務費管理とは、この費用を記録し、製品ごとの原価に正しく乗せて、価格や工程の判断に使うことを指します。
人件費の一部ですが、同じものではありません。
違いがあいまいなまま原価を出すと、製品ごとの採算を見誤ります。
価格の決め方も、力を入れる製品の選び方も、ずれていきます。
押さえる点は3つです。
- 労務費は、直接労務費と間接労務費に分けて考える
- 直接労務費は「作業時間×賃率」で出す。作業時間の記録が土台になる
- どこまで細かく記録するかは、製品の数と工程の複雑さで決める
では、Excelで足りるのはどこまでで、どこからシステムが要るのか。
言葉の整理:ERP(Enterprise Resource Planning)は、基幹業務システムのことです。
会計・販売・在庫・生産などの業務とお金の流れを、1つの仕組みで管理します。
この記事で分かること
- 人件費と労務費の違い
- 直接労務費・間接労務費の計算式と、架空の数字による例
- 労務費の記録の3つのやり方と、Excelで足りる段階・システムが要る段階
- ERP(NetSuite)で作業時間を記録し、原価に反映する考え方
- 現場の入力を定着させる進め方
人件費と労務費は何が違うのか
人件費は、従業員にかかる費用の総称です。
製造の現場だけでなく、営業や管理部門の人の費用も含みます。
労務費は、人件費のうち、製品の製造に携わる従業員の賃金や手当などです。
製造原価に入るコストです。
| 観点 | 人件費 | 労務費 |
|---|---|---|
| 範囲 | 従業員にかかる費用の全体 | 製造に携わる人の費用 |
| 主な計上先 | 製造原価と、販売費及び一般管理費 | 製造原価 |
| 例 | 営業担当の給与、経理担当の給与も含む | 組立ラインの作業者、製造部門の管理職の賃金 |
| 経営で使う場面 | 会社全体の人の費用の水準を見る | 製品ごとの原価と利益を見る |
たとえば、営業担当の給与を製造原価に入れると、製品の原価が高く見えます。
逆に、製造部門の管理職の賃金を原価から外すと、原価が低く見えます。
どちらも、価格の判断をずらす原因になります。
労務費は「直接」と「間接」に分かれる
直接労務費は、製品の製造に直接関わる従業員の労務費です。
組立ラインで働く作業者の賃金が典型です。
間接労務費は、製品の製造に直接関わらない労務費です。
製造ラインのメンテナンス担当や、製造部門の管理職の賃金などです。
| 観点 | 直接労務費 | 間接労務費 |
|---|---|---|
| 例 | 組立ラインの作業者の賃金 | 設備メンテ担当・製造管理職の賃金 |
| 製造原価への計上 | 製品に直接ひもづける | 配賦の基準で各製品へ振り分ける |
| 把握のしやすさ | 比較的わかりやすい | 配賦のルールが要り、煩雑になりやすい |
配賦(はいふ)とは、複数の製品や部門に共通してかかる費用を、決めたルールで振り分けることです。
労務費が製品の原価に乗るまでを図にすると、次のとおりです。
直接労務費の計算式
直接労務費=作業時間×賃率
賃率は、1時間あたりの労務の単価です。
以下は、説明のための架空の数字です。
- 製品Aの組立に、作業者が2時間かかった
- 賃率は1時間あたり3,000円
製品Aの直接労務費は、2時間×3,000円=6,000円です。
作業時間が正しく記録されていないと、この計算は成り立ちません。
労務費管理の土台は、作業時間の記録です。
間接労務費の配賦の例
間接労務費は、製品に直接ひもづけられません。
そこで、配賦の基準を決めて振り分けます。
以下も、架空の数字です。
- 今月の間接労務費:100万円
- 配賦の基準:直接作業時間
- 製品Aの直接作業時間:600時間、製品Bの直接作業時間:400時間
この場合、製品Aに60万円、製品Bに40万円を配賦します。
基準を「生産数量」に変えれば、結果も変わります。
どの基準が実態に近いかは、製品の作り方で決まります。
直接費と間接費の考え方は、間接費を「見える化」して削減する方法で扱っています。
配賦の考え方は配賦とは?、原価計算の全体像はNetSuiteで実現する全体最適な原価管理をご覧ください。
なぜ製造業で労務費管理が難しいのか
計算式は単純です。
難しいのは、正しい数字を、必要なときにそろえ続けることです。
手作業の管理には、いくつかの壁があります。
- データの集計や分析に、多くの時間がかかる
- 手作業のため、入力や転記のミスが起きやすい
- 間接労務費の配賦に、煩雑な手計算が要る
「この製品は本当に利益が出ているのか」を知りたいときに、最新の労務費がすぐに出てこない。
気づいたときには、採算の合わない製品を作り続けていた、ということも起こり得ます。
現場でよく聞くのは、「数字は出せるが、出るころには遅い」という声です。
労務費管理の難しさは、計算そのものより、タイムリーに把握し続けることにあります。
労務費の記録の3つのやり方|Excelで足りる段階、システムが要る段階
どこまで細かく記録するか
労務費をどこまで細かく記録するかで、やり方は3つに分かれます。
| やり方 | 中身 | 向く会社 | 手間 |
|---|---|---|---|
| A. 月末に一括で配賦 | 給与の合計を、生産数量などの基準で製品に配る | 製品が少なく、工程が単純 | 小さい |
| B. 作業指示ごとに時間を記録 | 作業指示・工程ごとに作業時間を入力する | 製品が多く、製品で手間が違う | 中くらい |
| C. 現場でリアルタイムに記録 | スキャナやタブレットで、作業の開始と終了を記録する | 工程が多く、差異を早くつかみたい | 導入時に大きい |
すべての会社にCが要るわけではありません。
まずA→Bと進め、差異を早く知りたい工程だけCにする。
この順番も、十分に現実的です。
AIとの相性も、この順で上がります。
Aでは、製品ごとの実態のデータがありません。
Bで製品・工程ごとのデータがそろい、Cでは時系列のデータで異常を見つけやすくなります。
「標準より時間がかかっている工程を毎週洗い出す」といった点検を、AIに任せやすくなるのはB以降です。
自社の数字で段階を見る
まず見る数字は3つです。
- 製造原価に占める労務費の割合:大きいほど、労務費の精度が利益に効く
- 製品による手間の差:同じ売価でも、作業時間が大きく違う製品があるか
- 間接労務費の比率:高いほど、配賦の基準の選び方で結果が変わる
3つとも小さければ、細かい記録の価値は小さくなります。
| 段階 | 状態 | 合うやり方 |
|---|---|---|
| Excelで足りる | 製品が少ない。工程が単純。月次の数字で判断が間に合う | A |
| 迷う段階 | 製品が増えた。見積もりと実績がずれ始めた | 主力の製品だけ時間を記録して試す |
| システムが要る | 製品が多い。工程で手間が違う。受注ごとに採算を見たい | B・C |
Excelで足りる段階で、大きなシステムを入れる必要はありません。
「見積もりと実績のずれ」が繰り返し出るようになったら、次の段階を考える合図です。
NetSuiteで労務費を原価に反映する仕組み
NetSuite(ネットスイート)は、Oracle NetSuiteが提供するクラウド型のERPです。
世界220地域・44,000社以上で使われています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月確認)。
押さえたいのは、作業時間を誰がどこで記録するかです。
NetSuiteが勝手に作業時間を集めるわけではありません。
現場が記録した時間を、原価の計算につなげる仕組みです。
公式に案内されている機能
Oracle NetSuiteの公式サイトでは、次のように案内されています(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。
- WIP & Routings:作業区(ワークセンター)と工程を定義し、労務の原価を追える
- 作業指示のコンソール:現場の担当者が、不良・停止時間・労務などをリアルタイムに記録し、売上原価を正確に見られる
- MES:バーコードスキャナの画面と、タブレットのアプリで、現場の実績を記録できる
WIPは、仕掛品(製造の途中にある品)のことです。
MESは、製造の現場の実績を集めて管理する仕組みです。
どの機能が自社の契約に含まれるかは、構成で変わります。
スキャナでの入力は、NetSuite Manufacturing Mobile徹底解説で扱っています。
工程まで管理する機能は、NetSuite Advanced Manufacturing(高度製造)とはをご覧ください。
標準原価で「差異」を見る
NetSuiteの在庫の原価計算の方法には、標準原価があります。
Oracleのヘルプでは、品目の標準の原価を持ち、実際との差異を追える方法と説明されています。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)
労務費で考えると、次のようになります。以下は架空の数字です。
- 標準:製品1個の組立は30分。賃率3,000円なので、標準の労務費は1,500円
- 実際:組立に40分かかった。実際の労務費は2,000円
- 差異:500円。1個あたり10分多くかかっている
標準と実際の差を図にすると、次のとおりです。
差異が大きい製品や工程が、見直しの候補になります。
差異をどの勘定でどう扱うかは、会計方針で決めます。顧問の会計士・税理士に相談してください。
手作業とシステムの違い
| 観点 | 手作業(Excelなど) | NetSuiteで記録をつなげた場合 |
|---|---|---|
| データの集計 | 月末にまとめて集計し、時間がかかる | 現場の記録が作業指示にひもづく |
| 正確さ | 転記のミスが起きやすい | 転記の回数が減る |
| タイミング | 月次でも遅れがち | 記録した時点で原価に反映しやすい |
| 間接費の配賦 | 手計算で煩雑 | 決めたルールで処理しやすい |
| 前提 | 担当者の手間 | 現場が記録を続けること |
最後の行を見てください。
システムに替えても、現場の記録が続かなければ数字は正しくなりません。
労務費が見えると、何が決められるか
- 利益率の高い製品を特定し、価格を見直す
- 工数がかかりすぎている製品の作り方を改める
- 機械化による省人化など、人の配置を考え直す
数字が見えること自体は、目的ではありません。
「なんとなく利益が出ているはず」から、「この製品の、この工程に、これだけかかっている」へ。
判断の解像度が上がることに、可視化の価値があります。
人の生産性の見方は、労働生産性とは?で扱っています。
NetSuiteが合う会社、ほかの道が合う会社
NetSuiteが合いやすいのは、会計・在庫・生産を1つにまとめ、製品ごとの原価を会計とつなげたい会社です。
拠点や会社が複数あり、同じ物差しで原価を比べたい会社にも合います。
一方で、次の場合はほかの道を並べて比べます。
| 状況 | 合いやすい道 |
|---|---|
| 労務費の割合が小さく、月末の一括の配賦で判断が足りている | いまは入れない。まず記録の型を整える |
| 個別受注の製番管理など、日本の製造業の慣行に深く合わせたい | 国産の製造業向けERP |
| 費用を抑えて小さく始めたい。設定や改修を担える人が社内にいる | Odoo |
| 記録したい作業が独特で、既製品に合わない | AIスクラッチ開発(作った後の保守の担い手を先に決める) |
製造業のERPの選択肢は、製造業向けERP15選で比べています。
これから選ぶ会社、いま見直す会社
これから選ぶ会社が最初に決めるのは、労務費をどの粒度で見たいかです。
製品ごとか、作業指示ごとか、工程ごとか。
デモでは、代表的な製品を1つ選び、作業時間の記録から原価に反映されるまでを見せてもらいます。
いま生産管理や原価計算の仕組みがある会社は、労務費が月末の一括の配賦のままになっていないかを見ます。
NetSuiteをすでに使っていても、労務費は月末の手計算のまま、という場合があります。
その場合は、乗り換えの前に、いまの契約の中で記録をつなげられないかを探ります。
労務費管理でつまずく、よくある3つの失敗
失敗1:可視化そのものが目的になる
起きること:労務費を見える化したが、その数字が誰にも見られず、判断に使われない。
原因:「ダッシュボードを作ること」がゴールになり、数字を見た後の行動を決めていなかった。
避け方:最初に「この数字を見て誰が何を判断するか」を決めます。
たとえば「製品別の労務費を毎月見て、採算の悪い製品を見直す」という運用です。
失敗2:現場の作業時間の入力が定着しない
起きること:入力が現場の手間になり、だんだん入力されなくなる。数字が信頼されなくなる。
原因:入力の負担と、入力した人への見返りを設計していなかった。
避け方:定着は、次の4つの順番で考えます。
- データ整理を最初に:製品・工程・作業区の区分を先にそろえ、入力の選択肢を迷わせない
- 段階的に導入:主力の製品や、差異を知りたい工程から始める
- 研修・サポートを徹底:入力を始めた直後は、現場の質問にすぐ答える
- 操作はシンプルに:入力の項目を絞り、使わない機能を盛らない
入力した数字を、現場にも役立つ形で返す。
たとえば工程ごとの標準との差を、現場の打ち合わせで見られるようにします。
失敗3:配賦のルールを最初から作り込みすぎる
起きること:間接労務費の配賦を細かくしようとして、ルールが複雑になる。運用が回らなくなる。
原因:精度を追うほどルールは複雑になり、変更にも弱くなる。
避け方:まずシンプルな基準で始め、動かしながら精度を上げます。
最初から100点を目指すより、まず回す。
ベンチャーネットならこう見る|記録の見える化から、システムは最後に
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱っています。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
労務費の相談で最初に聞くのは、次の3つです。
- 労務費は、製造原価の何割か
- 見えた数字で、価格・工程・見積もりのどれを良くしたいか
- 現場は、記録を続けられる人手と端末を持っているか
何で実現するかは、最後に決めます。
先にシステムを決めると、判断したいことと記録の手間が合わなくなりがちです。
型:見える化→整理整頓→Fit&Gap
労務費の場合、見える化するのは「作業時間を、誰が、どこに、どの単位で書いているか」です。
- 見える化:工程ごとに、作業時間の記録の有無と置き場所を描く
- 整理整頓:同じ時間を2か所に書いている記録や、誰も見ていない日報をやめる・まとめる
- Fit&Gap:残った記録を、使う製品の標準の画面や作業指示と照らし合わせる
合わない部分は、標準の入力に合わせるか、開発で補うか、いまの運用に残すかを決めます。
記録の手間を増やさずに原価へつなげる道は、この順番で見えてきます。
今日できること|1つの製品で労務費を試算する
主力の製品を1つ選び、次の表を埋めてみてください。1時間ほどでできます。
| 項目 | 記入の例(架空) | 自社の数字 |
|---|---|---|
| 製品名 | 製品A | |
| 1個あたりの作業時間(現場に聞く) | 2時間 | |
| 賃率(1時間あたり) | 3,000円 | |
| 直接労務費(作業時間×賃率) | 6,000円 | |
| 今の原価に入っている労務費 | 4,500円 | |
| 差 | 1,500円 |
差が大きければ、今の原価は実態からずれています。
その製品の価格や見積もりの前提を、見直す価値があります。
あわせて、「作業時間を誰が、どこに記録しているか」も書き出します。
記録がない工程が、次に手をつける場所です。
よくある質問
Q1. 人件費と労務費は、何が違うのですか
労務費は人件費のうち製造に携わる人の費用です。
人件費には、営業や管理部門の人の費用も入ります。
労務費は製造原価に入るため、製品ごとの採算を考えるうえで区別が欠かせません(第1章)。
Q2. 直接労務費と間接労務費は、どう見分けますか
製品の製造に直接関わるかどうかで見分けます。
組立ラインの作業者の賃金は直接労務費です。
設備メンテナンス担当や製造管理職の賃金は間接労務費で、配賦で各製品に振り分けます(第2章)。
Q3. 直接労務費はどう計算しますか
作業時間×賃率で計算します。
賃率は1時間あたりの労務の単価です。
作業時間の記録が正しくないと、計算の結果も正しくなりません(2-1)。
Q4. 労務費の管理は、Excelで足りますか
製品が少なく工程が単純なら足ります。
見積もりと実績のずれが繰り返し出るようになったら、主力の製品だけ時間を記録して試します。
製品が多く、受注ごとに採算を見たいなら、システムでの記録を考えます(4-2)。
Q5. NetSuiteは作業時間を自動で集めてくれますか
現場が記録した時間を原価につなげる仕組みです。
公式には、作業指示の画面やスキャナ、タブレットで現場が記録できると案内されています。
記録を続ける運用の設計が要ります(第5章)。
Q6. 現場の入力を定着させるには、どうすればよいですか
データ整理を先に行い、段階的に始めます。
区分をそろえて入力の迷いをなくし、主力の製品から始めます。
始めた直後は質問にすぐ答え、入力の項目は絞ります(第7章の失敗2)。
まとめ
- 労務費は、人件費のうち製造原価に入る部分
- 直接労務費は作業時間×賃率。間接労務費は配賦で振り分ける
- 難しさは計算より、タイムリーに把握し続けること
- 記録はA(月末に一括)→B(作業指示ごと)→C(リアルタイム)。全社でCにしなくてよい
- Excelで足りる段階もある。「見積もりと実績のずれ」が続いたら次の段階へ
- 定着は、データ整理を最初に、段階的に、操作はシンプルに
製品ごとの人の費用が分からないなら、まず主力の1製品で試算してください。
その差の大きさが、どこまで細かく記録するかを決める材料になります。
もう少し詳しく知りたい方へ
労務費をどの粒度で見るか、どこまで記録するか。
その整理の段階から、製造業の経営者のご相談をお受けしています。
- 原価と管理会計の仕組みを整えたい方:NetSuite×会計ブリッジ伴走サービス
- 製造業のクラウドERP導入を具体的に考えたい方:SaaS型クラウドERP – NetSuite導入支援
- NetSuite以外も含めて、自社に合う進め方を相談したい方:お問い合わせ
