月末の3営業日目。
経理の担当者が、NetSuiteの数字とは別に、Excelで為替差損益を計算し直している。
合わない数字の理由を探すうちに、決算が1日、また1日と遅れていく。
外貨で取引する会社では、珍しくない場面です。
為替差損益とは、為替相場の変動によって生じる損益のことです。
入金や支払で確定する実現と、月末に残高を評価し直して出す未実現の2つがあります。
NetSuiteでは、実現分は消込の時点で自動で計上されます。
未実現分は、月末に評価替えを実行する運用が要ります。
機能はそろっているのに、なぜExcelに戻ってしまうのか。
原因の多くは、機能ではなく運用の決め方にあります。
この記事で分かること
- 実現為替差損益と未実現為替差損益の違い
- NetSuiteが自動でやること/月末に人が実行すること
- 評価替えの対象になる勘定と、翌月の戻しの仕組み
- 評価替えが回っていない会社の立て直し方
- 税務の届出と、顧問税理士と決めておくこと
言葉の整理:基準通貨は帳簿の基準の通貨(例:日本円)、取引通貨は実際の取引の通貨(例:米ドル)です。
評価替えは、未決済の外貨の残高を、月末の相場で円に換算し直すことです。
NetSuiteの多通貨管理の基本
NetSuiteは、Oracleが提供するクラウド型のERPです。
ERPとは、会計・販売・在庫などの業務を1つのシステムで管理する仕組みを指します。
世界220地域・44,000社以上で使われ、190通貨・27言語に対応しています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。
取引通貨と基準通貨
外貨建取引とは、基準通貨と違う通貨で行う取引のことです。
NetSuiteは、取引を取引通貨で記録し、基準通貨に換算して帳簿に反映します。
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 取引通貨 | 請求書や注文書に書く通貨 | 米ドルの請求書 |
| 基準通貨 | 会社の帳簿の基準の通貨 | 日本円 |
| 為替相場 | 取引通貨を基準通貨に直す率 | 取引の日の相場 |
為替相場の持ち方
NetSuiteは、為替相場を設定として持ちます。
用途ごとに複数の相場の種類を使い分ける機能(Currency Exchange Rate Types)もあります。
毎日の入力の手間は、自動更新の機能(Currency Exchange Rate Integration)で減らせます。
Oracleのヘルプによると、指定した提供元から毎日午前6時ごろに相場を更新します。
更新の時間帯は4つから選べ、その中に東京の時間帯もあります。
既定では無効で、有効にして提供元を選ぶ必要があります(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
ひとつ、落とし穴があります。
自動更新の対象は、既定の相場の種類だけです。
種類を使い分けるなら、どの種類をどう更新するかを先に決めておきます。
複数の子会社をまたぐ管理は、OneWorldという機能が担います。
詳しくはNetSuiteのグローバル展開機能で扱っています。
為替差損益とは|実現と未実現
為替差損益は、「実現」と「未実現」に分かれます。
- 実現為替差損益:取引が決済された時点で確定する損益
- 未実現為替差損益:まだ決済されていない残高を、月末などに評価して計上する損益
| 軸 | 実現為替差損益 | 未実現為替差損益 |
|---|---|---|
| 発生のタイミング | 入金・支払の消込の時 | 月末(未決済の時) |
| NetSuiteの処理 | 自動で計上 | 評価替えを実行して計上 |
| 既定の計上先 | Realized Gain/Loss | Unrealized Gain/Loss ほか |
| 翌月の扱い | 確定 | 翌期間の初日に戻す |
実現為替差損益の処理|消込で自動
実現分は、NetSuiteが自動で計算します。
外貨建の請求書に、入金やクレジットメモを消し込む。
その時点で、差損益が計算されます。
請求の時と消込の時で相場が違えば、その差が損益です。
既定の計上先は、Realized Gain/Loss(実現為替差損益)の勘定です(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ)。
決済のたびに、手で計算する必要はありません。
ただし、消込を正しく行うことが前提です。
入金を請求に消し込まずに放置すれば、実現分も出てきません。
未実現為替差損益の処理|月末の評価替え
未実現分は、月末の評価替えで処理します。
NetSuiteで使うのは「Revalue Open Currency Balances(外貨建残高の評価替え)」です。
月次決算の手順の一部として実行します(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ)。
評価替えの対象になる勘定
Oracleのヘルプでは、資本以外の貸借対照表の勘定を評価替えできると説明しています。
| 勘定の種類 | 評価替え | 既定の扱い |
|---|---|---|
| 売掛金・買掛金・未請求の売掛金 | できる | 常に対象 |
| 銀行・クレジットカード | できる | 対象(既定でチェック) |
| 長期負債・その他の流動負債 | できる | 対象(既定でチェック) |
| 固定資産・その他の資産・前受収益など | できる | 既定では対象外 |
| 売上・費用・売上原価など損益の勘定 | できない | — |
| 資本の勘定 | できない | — |
出典はOracle NetSuiteのヘルプ(評価替えできる勘定)です(2026年9月確認)。
既定で対象外の勘定を含めるかどうかは、会社が決めます。
外貨の預け金や外貨の前払がある会社は、ここを必ず見ておきましょう。
計上される勘定
評価替えなどで生じる損益は、次の勘定に分かれます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ)。
- Unrealized Gain/Loss:月末の評価替えによる未実現の損益
- Unrealized Matching Gain/Loss:入金を銀行に預け入れる際に生じる損益
- Rounding Gain/Loss:消込の際の端数の差から生じる損益
アカウントの開設年によっては、Exchange Rate Variance の勘定を持つ場合もあります。
差異の種類ごとに計上先を決めるルール(Foreign Currency Variance Mapping)も設定できます。
翌月の戻し
未実現分は、確定した損益ではありません。
Oracleのヘルプでは、前月末の未実現の損益を、翌期間の初日に戻す取引が作られると説明しています。
同じ期間に評価替えをやり直すと、差を反映する取引が追加で作られます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
決済が済めば、その時点で実現分として確定します。
実行に必要な権限
評価替えの実行には、Currency Revaluation の権限が要ります。
担当を1人に固定せず、2人以上が実行できる体制にしておくと、休みや異動で止まりません。
権限の考え方はNetSuiteのロールと権限で扱っています。
4つのうち、人が動かすのは③だけです。
逆に言えば、③が月次決算の手順から抜けると、未実現分はどこにも出てきません。
為替の処理の3つのやり方
為替差損益の処理は、3つのやり方に分かれます。
| やり方 | 向く会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| A. Excelで手計算し、仕訳を入れる | 外貨の取引が月に数件 | 漏れと計算の誤りが起きやすい |
| B. 仕訳は会計ソフト、残高の一覧はExcel | 外貨の取引は多いが1通貨中心 | 一覧と帳簿を毎月合わせる手間 |
| C. NetSuiteの多通貨 | 複数の通貨・多くの取引先・海外子会社 | 相場の運用ルールと手順の設計が要る |
Cでは、取引と相場と損益が1か所にそろいます。
そのため、AIでの点検も任せやすくなります。
相場の変動が大きい月に、差損益が大きい取引先を洗い出す、といった使い方です。
A・Bのように根拠がExcelに散らばったままでは、こうした点検は難しくなります。
判断の物差し|NetSuiteの多通貨が要る会社・要らない会社
NetSuiteの多通貨が向いている会社
- 米ドル・ユーロ・人民元など、2つ以上の外貨で取引している
- 外貨の請求・支払が、月に数十件以上ある
- 海外に子会社があり、グループで数字をまとめたい
- 月末の評価替えを、担当者が替わっても同じ手順で回したい
ほかの選択肢が合う会社
- 外貨の取引が月に数件で、1通貨だけ
→ いまの会計ソフトと、Excelの残高の一覧で足りることが多い - 海外取引が一時的で、今後も増える見込みがない
→ 「いまは入れない」も正直な選択肢 - 在庫・販売はすでに別のシステムで回っている
→ 会計ソフトを残し、外貨の管理だけ整える道もある
目安は、月末の外貨残高の一覧づくりにかかる時間です。
数時間で済むなら、いまの仕組みを磨くほうが早いこともあります。
判断の分かれ目を図にすると、次のとおりです。
国内の会計ソフトとの組み合わせ方は、NetSuiteとfreee・マネーフォワード・勘定奉行の組み合わせで扱っています。
日本の会計・税務で気をつけること
NetSuiteの計上の仕組みと、日本の会計・税務の扱いは、分けて考えます。
税務では、外貨建の資産・負債を期末にどう換算するか、その方法を選んで税務署に届け出る手続きがあります。
国税庁の案内では、届出の期限は、その外貨建取引を行った事業年度の確定申告書の提出期限です(出典:国税庁、2026年9月確認)。
選ぶ方法によって、期末に評価替えする勘定の範囲が変わることがあります。
NetSuiteの評価替えの対象(第4章)を決める前に、顧問税理士と方法を決めてください。
会計の基準で複数の帳簿が要る場合は、NetSuiteマルチブック会計も参考になります。
海外取引の源泉徴収は、源泉徴収税の記事で扱っています。
これから入れる会社と、いま使っている会社
これから入れる会社|稼働前に決める3つ
- 使う通貨と相場の種類(取引日の相場か、月末の相場か)
- 相場を自動で更新するか、手で入れるか
- 月末に評価替えする勘定の範囲(第4章の表)
3つが決まらないまま稼働すると、毎月の判断がぶれます。
導入の全体の流れは、NetSuite導入の流れで扱っています。
いま使っている会社|冒頭の場面に当てはまるなら
冒頭のように、NetSuiteがあるのにExcelで計算し直している。
その場合、機能を足すより先に、手順と役割の決め直しで改善することがほとんどです。
進め方は、第10章で具体的に書きます。
よくある3つの失敗
失敗1:相場の運用ルールを決めずに稼働する
起きること:月中の相場と月末の相場が混ざり、同じ取引でも担当者によって金額が変わる。
原因:相場の種類と使い分けを、導入の時に決めていなかった。
避け方:使う相場の種類と、それぞれの用途を1枚の表に書きます。
自動更新を使うかどうかも、このときに決めます。
失敗2:月末の評価替えが漏れる
起きること:ある月だけ未実現分が計上されず、月ごとの損益が大きくぶれる。
原因:評価替えが担当者の記憶に頼っていて、月次決算の手順に入っていなかった。
避け方:月次決算のチェックリストに評価替えを入れ、実行する人を2人にします。
月次決算の手順は月次決算を5営業日で終える運用設計で扱っています。
失敗3:NetSuiteの結果をExcelで計算し直す
起きること:NetSuiteとExcelの両方で差損益を出し、数字が合わない理由を探して決算が遅れる。
原因:「いまのやり方を変えたくない」という理由で、手作業を残した。
避け方:どこまでをNetSuiteに任せるかを、設計の段階で線引きします。
最初の数か月は突き合わせてもかまいません。ただし、やめる時期は先に決めておきます。
ベンチャーネットならこう見る|評価替えの立て直しは「止める→試す→戻す」
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットの仕事は、ゼロからの導入に限りません。
むしろ、他社が導入したあとの引き継ぎと立て直しが多くを占めます。
為替の相談でも、「NetSuiteはあるのに、評価替えが回っていない」という形で届くことがよくあります。
そのとき、設定をいきなり直すことはしません。
次の3段で進めます。
段1:止める|どこで止まっているかを見つける
まず、第4章の流れのどこで止まっているかを見ます。
- 相場は、どの種類を、どう更新しているか
- 入金を、外貨建の請求書に消し込んでいるか
- 評価替えは毎月動いているか。実行できる人は2人以上か
多くの場合、止まっているのは③の評価替えか、②の消込です。
段2:試す|自社の環境で確かめてから入れる
直し方は、Oracleが示す標準のやり方を土台にします。
ただし、本番でいきなり変えるのではなく、自社の環境で一度試してから入れます。
評価替えの対象の勘定を変えるなら、前月の数字で結果を見比べる。
自動更新を有効にするなら、使い分けている相場の種類への影響を先に見ておく。
このひと手間で、翌月の数字が突然変わる事態を避けられます。
段3:戻す|月次決算の手順に組み込む
最後に、評価替えを月次決算のチェックリストに戻し、実行する人を2人決めます。
Excelでの計算し直しは、並行する期間を決めたうえで終わらせます。
立て直しでは、変わることも先にお伝えします。
たとえば、日々の会計の操作は、国内の会計ソフトより手順が増えることがあります。
標準で足りない帳票や集計は、開発で補う方法(NetSuiteリブート)も選べます。
ただ、新しい機能は順次提供されるため、使えるかどうかは自社のアカウントで見てください。
今日できること|外貨の残高を書き出す
今月末の時点の外貨の残高を、次の表に書き出してみてください。
| 通貨 | 売掛金 | 買掛金 | 預金・その他 |
|---|---|---|---|
| (例)米ドル | 5万ドル | 2万ドル | 預金1万ドル・前払3千ドル |
(数字は説明のための架空の例です)
書き出したら、2つを見ます。
- それぞれの残高を、毎月末に評価替えしているか
- 一覧を作るのに、何時間かかったか
時間がかかった通貨や勘定が、仕組みで整える候補です。
よくある質問
Q1. 実現と未実現の為替差損益はどう違いますか
決済が済んでいるかどうかの違いです。
実現は、入金やクレジットメモを外貨建の請求書に消し込んだ時に、NetSuiteが自動で計上します。
未実現は、月末に未決済の残高を評価替えして計上します。
Q2. 月末の評価替えは毎月必要ですか
月次決算の一部として毎月実行するのが基本です。
「Revalue Open Currency Balances」で、未決済の売掛・買掛などを評価し直します。
計上した未実現分は、翌期間の初日に戻る取引が作られます。
Q3. どの勘定に計上されますか
実現分は既定でRealized Gain/Lossの勘定です。
未実現分はUnrealized Gain/Lossのほか、Unrealized Matching、Roundingの勘定に分かれます。
開設年によってはExchange Rate Varianceの勘定を持つ場合もあります。
Q4. 売上や費用の勘定も評価替えされますか
されません。
評価替えできるのは、資本以外の貸借対照表の勘定です。
売上・費用・売上原価などの損益の勘定と、資本の勘定は対象外です。
Q5. 為替相場は毎日手で入力する必要がありますか
自動で更新する機能があります。
Currency Exchange Rate Integrationを有効にすると、毎日午前6時ごろに相場が更新されます。
対象は既定の相場の種類だけなので、使い分けている場合は運用を決めておきます。
Q6. 日本の税務・会計基準とは一致しますか
NetSuiteの計上と日本の申告の扱いは分けて考えます。
税務では、期末の換算の方法を選んで届け出る手続きがあります。
方法と評価替えの範囲は、顧問税理士と決めてください。
Q7. 評価替えが回っていません。どこから直せばよいですか
止まっている所を見つけることから始めます。
相場の更新、消込、評価替えの実行のどこで止まっているかを見ます。
直すときは自社の環境で試してから入れ、最後に月次決算の手順に組み込みます(第10章)。
まとめ
- 為替差損益は、決済で確定する実現と、月末に評価する未実現に分かれる
- NetSuiteは、消込の時点で実現分を自動で計上する
- 未実現分は、月末に評価替えを実行し、翌期間の初日に戻る
- 評価替えできるのは、資本以外の貸借対照表の勘定
- 相場は自動更新もできるが、対象は既定の相場の種類だけ
- 回っていない会社は「止める→試す→戻す」の順で立て直す
冒頭の担当者がExcelを閉じられるかどうかは、機能ではなく運用で決まります。
まずは今月末の外貨の残高を書き出し、評価替えがどこで止まっているかを見てください。
もう少し詳しく知りたい方へ
外貨の取引の処理を、自社でどう設計すればよいか。
通貨の数と件数を伺い、NetSuiteが要るかどうかも含めてお答えします。
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