「決算前の見直しは、全件に目を通すもの」
経理の現場では、長くそれが当たり前でした。
入力ミスや二重計上が紛れていないか。いつもと違う支払いが見落とされていないか。
取引が増えるほど、見直しの日数も延びていきます。
NetSuite Exception Management(例外管理)とは、自社の過去の取引から「ふだんの形」を学び、外れた取引を決算前に知らせるAIです。
人は全件ではなく、AIが絞り込んだ「気になる取引」から見ればよくなります。
ただし、すべての会社がすぐ使えるわけではありません。
使えるかどうかは、アカウントごとのデータの量とモデルの準備で決まります。
では、まだ使えない会社は、決算の見直しをどう変えていけばよいのか。
この記事で分かること
- Exception Managementが見つける4つの例外と、AIの仕組み
- 2026.1で加わった「支払いのリスクの検知」
- 使える条件と、日本で確かめること
- 使える前から始める「90日の1周目」の組み方
Exception Managementが見つけるもの
例外とは、ここでは、いつもの取引のパターンから外れた取引のことです。
Oracleのヘルプでは、例外は2つのタブに分けて表示されます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
| タブ | 例外の種類 | 見つけるもの | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| 取引の誤り | 金額の誤り | ふだんと比べて不自然な金額 | 高。過去の金額の分布と比べやすい |
| 取引の誤り | 勘定の誤り | ふだんと違う勘定科目への計上 | 高。取引先と勘定の組み合わせを学びやすい |
| 取引の誤り | 仕入先の情報の変更 | 支払の前後の、仕入先の重要な項目の変更 | 中〜高。変更の記録を見張る |
| 見込みの取引 | 抜けている取引 | 毎月あるはずなのに記録がない取引 | 中。季節の変動などは人の判断が要る |
見込みの取引のタブには、今の会計期間の数日以内に見込まれる取引も並びます。
ダッシュボードには、優先度の上位5件を表示する部品(ポートレット)があります。
ホーム画面を開けば、「まず見るべき取引」が分かります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
2026.1で加わった「支払いのリスクの検知」
NetSuite 2026.1では、支払の前後に仕入先の重要な項目が変更されたときに知らせる機能が加わりました。
不正の可能性を、より早く見つけやすくなります(出典:Oracle NetSuite公式、2026年2月10日)。
振込先の書き換えによる不正な送金は、会社の規模を問わず起こりうるリスクです。
AIが異常を見つける仕組み
- 学習:有効にすると、過去およそ18か月の取引から、自社のパターンを学びます
- 評価:その後は1時間ごとに、直近1時間に作成・編集された取引を見直します
- 再学習:金額と勘定の誤りのモデルは毎週、抜けている取引のモデルは会計期間の初めに学び直します
学習から見直しまでの回り方を図にすると、次のとおりです。
モデルは、その会社のデータだけで学習します。
他の顧客や第三者とは共有されません(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
見る量と、処理の仕方
取引の誤りのタブには、感度のスライダーがあります。
10%から100%まで10段階で、初期の10%では優先度の高い例外だけが表示されます。
右に動かすほど、表示される例外が増えます。
例外の詳細を開くと、選ばれた理由の説明、比べるための誤りのない似た取引、取引のメモ(ある場合)が表示されます。
確認した後は、「解決した」「対応不要」などの操作で閉じます。
抜けている取引は、その場で取引を作れる場合もあります。
ヘルプでは、処理を重ねるほど、自社のパターンの理解が進むと説明されています(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
設定の場所
- 有効にする:Setup > Company > Enable Features の Accounting サブタブで、2つのチェックを入れる
- 前提:基本の機能の「会計期間」が有効であること
- 除外と下限:Setup > Accounting > Accounting Preferences の Exception Management サブタブ
除外の設定では、例外の種類や取引の種類を外せます。
金額の下限を決め、それより小さい例外を出さないようにもできます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
従来の例外の検知との違い
| 観点 | 従来の方法(ルール・人の目) | Exception Management(学習型) |
|---|---|---|
| 検知の仕組み | 決めたルールやしきい値で抽出 | 過去約18か月のパターンを学び、外れたものを抽出 |
| 設定の手間 | ルールを人が決めて保守する | 感度・除外・金額の下限で調整する |
| 得意なこと | 想定済みのパターン | 取引先と勘定の組み合わせなど、ルールにしにくいずれ |
| 向く場面 | 取引が単純で、見るべき条件がはっきりしている | 取引が多く、種類も多い |
ルールの方法が劣るわけではありません。
取引が単純なら、ルールで十分です。
取引が増えて追いきれなくなったときが、学習型の出番です。
使える条件と、日本で確かめること
Oracleのヘルプでは、Exception Managementは現在すべての顧客が使えるわけではないとされています。
データの量とモデルの準備の状況によるため、使えない場合はアカウントマネージャーに相談するよう案内されています。
テスト用や新しいアカウントでは、性能が限られることがあります。
過去のデータが足りないアカウントも同じです(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
2025年7月の日本オラクルの発表では、日本向けのAIの機能の一つとして紹介されました(出典:日本オラクル発表、2025年7月23日)。
ただ、提供の時期や日本語の画面での条件は書かれていません。
ヘルプにも、地域や言語の制限の記載は見当たりませんでした。
自社のアカウントで使えるかは、アカウントマネージャーに聞いてください。
使えるかどうかで、打てる手は3段に分かれます。
(a) いま日本で使えること
銀行連携や自動消込など、決算を早める機能から着手します(NetSuiteの銀行連携・自動消込ガイド)。
保存検索で「金額が一定以上の支払」などの条件を作る方法もあります。
条件に合う記録が作成・更新されたら、メールで知らせる設定ができます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
(b) 開発で補えること
自社の業務に合わせたチェックの仕組みを、作り込む方法もあります。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、この開発を「NetSuiteリブート」で受けています。
NetSuiteリブートは、ベンチャーネットのアドオン開発サービスです。
(c) 順次提供されること
提供の範囲は変わっていきます。
本記事は、状況が変わりしだい更新します。
使えるかどうかで分けると、次のとおりです。
判断の物差し|向いている会社・まだ早い会社
向いているのは、次のような会社です。
- 取引の件数が多く、決算前の見直しに数日かかっている
- 仕入先が多く、振込先の変更の管理に不安がある
- NetSuiteで1年半ほど、安定した取引の記録がある
まだ早い会社には、別の手が合います。
| 状況 | 合う選択肢 |
|---|---|
| NetSuiteを入れたばかりで、過去のデータが少ない | 保存検索のルールと通知で始め、データがたまるのを待つ |
| 取引が少なく、全件を見ても半日で終わる | 人の目とルールのまま |
| 最近、事業が大きく変わった | 学習の前提が崩れるため、まずルールで補う |
| 自社独自の不正のパターンを見張りたい | AIスクラッチ開発で、専用のチェックを作る |
これからNetSuiteを検討する会社は、この機能を選ぶ理由の中心にしないのが安全です。
使えるかがアカウントごとに決まり、学習にはデータの蓄積が要るからです。
すでに1年半以上の記録がある会社なら、試す価値は十分にあります。
経理のAIをどこから入れるかを比べたい方は、次にNetSuiteの財務・経理をAIで自動化するをご覧ください。
請求書の読み取りなど、ほかの機能と並べて判断できます。
導入の3つの失敗
失敗1:学習の前提がそろわないまま期待する
起きること:有効にしてすぐ、精度の高い検知を期待する。的外れな例外が多く、使うのをやめる。
原因:過去のデータが少ない、勘定の使い方が期によって違う、最近事業が大きく変わった。
避け方:まず1年半分の記録の状態を見る。
勘定科目や取引先の使い方の揺れを、先に直します。
失敗2:AIの検知を、人の見直しの代わりにする
起きること:一覧に出なかった取引は問題がない、と扱ってしまう。
原因:AIは「見る範囲を狭める」道具で、正しさを保証するものではない。
避け方:確認と判断は人が持つと最初に決める。
重要な勘定は、これまでどおりの見直しも残します。
失敗3:感度と除外を調整せず、放置する
起きること:例外が多すぎて見切れない。または少なすぎて気づけない。
原因:初期の設定のまま、自社の取引の量や金額に合わせていない。
避け方:数週間かけて感度・除外・金額の下限を自社に合わせる。
「解決した」「対応不要」の処理を続けることも、精度を上げる材料になります。
ベンチャーネットならこう見る|1業務・1KPIで回す「90日の1周目」
ベンチャーネットは、データを使った経営の支援で、最初の1周を最短90日で組みます。
業務を1つ、見る数字を1つに絞る型です。
Exception Managementも、この型に載せると「使える日」を待たずに始められます。
- 業務:決算前の見直し
- 数字:締めの後に見つかった誤りの件数
手順は4つです。
- 誤りの台帳を作る:直近3か月の決算で見つかった誤りを、種類ごとに書き出す
- 多い種類を1つ選ぶ:金額・勘定・抜け・仕入先の変更のうち、いちばん多いもの
- 先に知らせる仕組みを置く:使えるならException Management、使えないなら保存検索の通知
- 人の見直しと同じ条件で比べる:同じ月の取引で、人が見つけた誤りと、仕組みが拾った誤りを並べる
4つ目が肝です。
AIやルールの結果を、現場の目と同じ条件で比べる。
そうして初めて、「どこまで任せ、どこを人が見るか」を数字で決められます。
最初の打ち合わせで伺うのは、主に次の3つです。
- 決算前の見直しに、何日・何人かかっているか
- NetSuiteに、1年半ほどの安定した記録があるか
- 例外を処理する人と、処理の期限を決められるか
2つ目がそろわなければ、まず(a)のルールと通知で1周目を回します。
その間にたまった記録と台帳が、Exception Managementを有効にしたときの土台になります。
今日できること|1時間で「誤りの台帳」を作る
直近3か月の決算で見つかった誤りを、思い出せる範囲で書き出します。
| 月 | 誤りの内容(架空の例) | 種類 | 見つけた時期 |
|---|---|---|---|
| 6月 | 交通費を通信費で計上 | 勘定の誤り | 締めの後 |
| 7月 | 毎月の家賃の請求が未計上 | 抜けている取引 | 締めの前日 |
「締めの後」に見つかった誤りが多いほど、決算前に知らせる仕組みの価値は大きくなります。
この台帳が、90日の1周目の出発点です。
よくある質問
Q1. 標準のルールや保存検索と、何が違いますか
ルールを決めなくても過去のパターンから外れた取引を拾う点が違います。
取引が多様で、ルールだけでは追いきれない場合に向いています。
取引が単純なら、保存検索のルールと通知でも十分です。
Q2. 自社のデータ量でも使えますか
アカウントごとに決まります。
すべての顧客が使えるわけではなく、データの量とモデルの準備によります。
学習には過去およそ18か月の取引を使うため、まず記録の状態を見てください。
Q3. どのくらいの頻度で検知しますか
1時間ごとです。
直近1時間に作成・編集された取引を見直します。
リアルタイムの常時の監視ではない点に注意してください。
Q4. 例外が多すぎる場合はどうしますか
感度のスライダーと除外の設定で調整します。
感度は10段階で、初期は優先度の高い例外だけが表示されます。
金額の下限を決めて、小さな例外を外すこともできます。
Q5. 日本で使えますか
自社のアカウントで確かめる必要があります。
日本向けの発表で紹介されていますが、提供の時期や日本語の画面での条件は書かれていません。
アカウントマネージャーに聞いてください。
Q6. 決算はどれくらい早くなりますか
取引の量や体制で変わります。
確認の対象を全件から例外に絞れれば、見直しの時間は減らせます。
締める前に誤りに気づければ、決算後の手戻りも減らせる余地があります。
自社の場合は、90日の1周目で「締めの後の誤りの件数」を比べると見えてきます。
まとめ|「全部見る」から「気になるものだけ見る」へ
- Exception Managementは、過去約18か月の取引を学び、外れた取引を1時間ごとに知らせるAI
- 見つけるのは4つ。金額の誤り、勘定の誤り、仕入先の情報の変更、抜けている取引
- 2026.1で、支払の前後の仕入先の変更を知らせる機能が加わった
- すべての顧客が使えるわけではない。自社のアカウントで確かめる
- 使えない間も、誤りの台帳と保存検索の通知で「90日の1周目」を始められる
AIは人の判断を置き換えるものではありません。
人が見る範囲を狭め、見落としを減らすための道具です。
全件を見る決算から抜け出す一歩は、今日作る誤りの台帳から始まります。
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