「NetSuiteを使っていれば、この新しいAIもすぐ使える」
2026年2月の発表を見て、そう考えた経理部長は少なくないはずです。
NetSuite EPMのAIエージェントとは、経営管理の製品「NetSuite EPM」に加わった、決算の照合と予算・計画づくりを助けるAIです。
突合(Reconciliation)と計画(Planning)の2つがあります。
どちらも、NetSuite本体ではなくEPMの製品の中の機能として発表されました。
EPMを使っていない会社がまず考えるのは、AIより先に「EPMが要るかどうか」です。
では、EPMを使う会社にとって、この2つのAIは決算をどう変えるのか。
答えは、決算の時間が「集める」「照合する」「説明する」のどこに使われているかで変わります。
この記事で分かること
- 突合エージェント・計画エージェントがそれぞれ何をするか
- NetSuite本体に組み込まれたAIとの違いと、使う前提
- 日本で使う前に確かめること
- 決算の時間の内訳から、自社に要るかを見極める方法
EPM AIエージェントとは|まず全体像から
そもそもNetSuite EPMとは
EPM(Enterprise Performance Management)とは、計画・予算・予測・決算・照合・報告をまとめて扱う経営管理の仕組みです。
NetSuite EPMは、これらの経営管理の業務をつなぐ製品です。
NetSuite本体(ERP)とは別の製品として、日本の公式サイトにも製品ページがあります。
日本では、2024年7月に日本オラクルが「近日中に日本での提供開始を予定」と発表しています(出典:日本オラクル発表、2024年7月17日)。
製品構成や、NetSuite標準の予算管理との違いは、NetSuite EPM(経営管理)とはで扱っています。
加わった2つのエージェント
Oracle NetSuiteは、2026年2月11日のSuiteConnectで2つのエージェントを発表しました(出典:Oracle NetSuite発表)。
- 突合エージェント(EPM Reconciliation Agent):決算の照合・消込を助ける
- 計画エージェント(EPM Planning Agent):予算づくりや予実の分析を助ける
エージェントは、ここでは人の指示や決まった流れにそって、作業の一部を進めるAIのことです。
2つのエージェントの役割を図にすると、次のとおりです。
突合エージェントは何をするか
履歴を学んだ照合
Oracleの発表では、突合エージェントは、履歴データで学習したAIの照合の仕組みで、取引を自動で消し込むと説明されています。
手作業を減らし、四半期の途中でも継続して照合できるようにします。
担当者は、リスクの高い例外に集中できるとされています(出典:Oracle NetSuite発表、2026年2月11日)。
消込は、帳簿の記録と実際の入出金などを突き合わせ、ずれがないかを見る作業です。
2026.1で公式に説明された中身
2026.1の新機能を紹介する公式記事(2026年2月10日)では、EPMの勘定照合に次のAIが加わると説明されています。
- 新しく作られた勘定を見つけ、照合の担当者に割り当て、形式を当てはめる
- 既存のルールに機械学習を加え、隠れた関係を見つけて、照合の候補を確からしさの点数とともに示す
- 数字の変動を見つけ、財務と業務の背景にもとづく説明文の下書きを作る
従来のルールによる照合では、条件から外れた取引を人が一件ずつ調べていました。
その「外れた取引」の調べものを、AIが先に手伝う形です。
計画エージェントは何をするか
ふだんの言葉で予実を分析する
Oracleの発表では、計画エージェントは、FP&A(財務計画・分析)の傾向や差異の分析を、ふだんの言葉で行えると説明されています。
事業全体のデータで「もし〜なら」のシナリオを試し、部門をまたぐ判断に役立てるとされています(出典:Oracle NetSuite発表、2026年2月11日)。
差異は、予算と実績のずれのことです。
予測の「理由」が見える
2026.1の公式記事では、計画と予算の製品に、複数の要因を使うAIの予測が加わると説明されています。
予測ごとに効いている要因を示し、財務の担当が結果を確かめやすくするとされています(出典:Oracle NetSuite公式、2026年2月10日)。
同じ記事では、収益性とコスト管理の製品にも、配賦のモデルづくりを助けるエージェントが加わるとされています。
配賦は、共通の費用を決まった基準で部門や製品に割り振ることです。
NetSuite Nextの一部として発表された「AI Canvas」は、別の機能です。
NetSuiteに組み込まれた協働の作業空間で、問題の分析や解決策の検討に使うとされます(出典:Oracle公式プレスリリース、2025年10月7日)。
違いはNetSuite AI Canvasとはで扱っています。
本体に組み込まれたAIとの違い
2つは名前が似ていても、前提の製品が違います。
| 観点 | NetSuite本体に組み込まれたAI | EPMのエージェント(突合・計画) |
|---|---|---|
| 対象の業務 | 文章の作成、銀行明細の照合、異常の検知など全般 | EPMの領域(勘定照合・計画と予算・配賦) |
| 前提 | NetSuite本体の機能 | NetSuite EPMの製品の中の機能 |
| 主な利用者 | 経理・現場・情シス | CFO・経理部長・FP&Aの担当 |
| 発表 | 機能ごとに順次 | 2026年2月のSuiteConnect、2026.1 |
契約の条件は、公式発表に書かれていません。
NetSuite本体だけでは使えないと考えておくのが安全です。
自社の契約で何が使えるかは、Oracleのアカウント担当に聞いてください。
本体のAIと外部のAIの使い分けは、NetSuiteの「純正AI」と「外部AI連携」は何が違う?で扱っています。
業務ごとのAIとの親和性
| 業務 | AIとの親和性 | 理由 | 人が残すこと |
|---|---|---|---|
| 勘定の照合・消込 | 高 | 過去の照合の履歴があり、正解がはっきりしている | 例外の判断と承認 |
| 変動の説明文の下書き | 中〜高 | 数字の背景を文章にする作業は、下書きなら任せやすい | 説明の中身の確認 |
| 予算・予測づくり | 中 | 過去のデータから傾向は出せる | 前提の置き方と、経営の意思 |
| シナリオの検討 | 中 | 計算は速い | どのシナリオを検討するかの問い |
照合のように、履歴と正解がはっきりした業務ほどAIに向いています。
予算のように経営の意思が入る業務では、AIの役割は材料づくりまでと見るのが現実的です。
日本で使うときに確かめること
2026年2月の発表では、発表した機能は世界のNetSuiteの顧客が使えると書かれています。
例外は、米国の顧客だけが使える複数子会社の仕入先支払です(出典:Oracle NetSuite発表、2026年2月11日)。
一方、次の点は公式に書かれていません。
- 日本語で質問・回答できるか
- 日本で契約しているNetSuite EPMで、追加の契約が要るか
- 日本語の勘定科目や日本の決算の慣行に合わせた精度
同じ発表では、レポートの説明文を作る別の機能が、まず英語で提供されると書かれています。
言語は機能ごとに違うため、自社のアカウントでの確認が欠かせません。
確かめる3つの点を図にすると、次のとおりです。
3段で考える
(a) いま日本で使えること
NetSuite本体の予算管理と、日本の公式サイトで案内されているNetSuite EPMの製品から始めます。
まずはここで、照合や予算の業務の流れを整えます。
(b) 開発で補えること
NetSuiteのデータと生成AIを組み合わせ、予実の説明文の下書きなどを作り込む方法もあります。
ベンチャーネットは、アドオン開発サービス「NetSuiteリブート」で、こうした作り込みの相談を受けています。
(c) 公式の案内を待つこと
日本語での対応の予定は、今回確かめた公式の発表には書かれていません。
本記事も、公式の案内が出しだい更新します。
判断の物差し|向いている会社・まだ早い会社
向いている会社
- NetSuite EPMをすでに使っている、または導入を決めている
- 照合する勘定が多く、決算のたびに照合に数日かかっている
- FP&Aの担当がいて、予実の差異の説明に時間を取られている
- 照合の履歴や予算のデータが、数期分そろっている
まだ早い会社と、合う選択肢
| 状況 | 合う選択肢 |
|---|---|
| 予算はExcel数枚で、担当者1人で回せている | NetSuite標準の予算管理か、Excelのまま |
| NetSuiteを使っておらず、会計ソフトで足りている | いまは入れない。予実の見方を先に整える |
| NetSuite本体は使っているが、EPMはない | まず標準の予算管理と保存検索で予実を見る |
| 独自の分析をしたい、EPMまでは要らない | AIスクラッチ開発や、外部AIとの連携 |
予算の専用ツールや国産の予算管理のサービスで足りる会社もあります。
Odooのように、小さく始めて広げるERPが合う会社もあります。
いまNetSuiteとEPMを使っている会社は、更新の時期を準備の機会にできます。
照合のルールが導入時のままでないか。
勘定や部門の区分が、分析したい粒度になっているか。
AIは履歴から学ぶので、データの形がそろっていないと期待どおりに働きません。
導入の費用にも幅があります。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用を見ると、幅は大きく開きます。
3名程度・1.5か月で150万円程度から、100名程度・1.5年で2億円程度(うち開発約7割)まで。
差を生むのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
詳しくはNetSuiteの料金・費用・価格で扱っています。
導入でつまずきやすい3つの失敗
失敗1:「本体に入っている」と思い込む
起きること:NetSuite本体の契約で使えると考えて計画を進め、途中でEPMが前提と分かる。
原因:本体に組み込まれたAIと、EPMのエージェントの区別がついていない。
避け方:使う前提の製品と契約を最初に確かめる。
自社の契約で何が使えるかを、アカウント担当から書面で受け取ります。
失敗2:日本での状況を確かめないまま計画する
起きること:日本語での利用の条件が分からず、スケジュールが後ろにずれる。
原因:「世界で利用可能」を「日本語で使える」と読み替えている。
避け方:言語と契約の条件を分けて聞く。
英語の画面で試すか、日本語の対応を待つかも、先に決めておきます。
失敗3:業務とデータを整えずにAIに任せる
起きること:照合の候補が的外れで、結局すべて人が見直す。
原因:照合の履歴が少ない、勘定の使い方が期によってばらばら。
避け方:照合のルールと勘定の使い方を先にそろえる。
AIの前に、人の手順を一度整理しておきます。
ベンチャーネットならこう見る|決算の時間を3つに分ける
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱います。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
EPMのAIの相談では、製品の話の前に、2つの型を使います。
型1:「集める/照合する/説明する」の時間の内訳診断
決算と予実の作業時間を、3つに分けて書き出します。
- 集める:各部門やシステムから数字を集め、形をそろえる時間
- 照合する:帳簿と入出金や明細を突き合わせ、例外を調べる時間
- 説明する:予算と実績のずれの理由を調べ、文章にする時間
「集める」が大半なら、AIの前に基盤の話です。
数字が1か所にそろっていなければ、どのエージェントも力を出せません。
「照合する」が重いなら、突合エージェントの価値が大きくなります。
「説明する」が重いなら、変動の説明文の下書きと計画エージェントが候補です。
型2:AIの提案と、担当者の判断を同じ条件で比べる
試すと決めたら、いきなり任せません。
同じ月の同じ勘定で、AIが示した照合の候補と、担当者の照合を並べます。
合った件数と外れた件数を見れば、任せる範囲を決める根拠になります。
最初は1つの業務、たとえば預金の照合だけに絞ると、比べやすくなります。
この2つの型の前に、次の3つを伺います。
- 照合と予算に、いま何日・何人かかっているか
- 照合の履歴と予算のデータは、何期分、同じ形で残っているか
- 日本語での利用の条件を、アカウント担当に聞いたか
今日できること|1時間で決算の時間の内訳を書き出す
直近の月次決算を1回分、思い出して表を埋めてください。
| 作業 | かかった日数 | 集める/照合する/説明する | 時間を取られた理由 |
|---|---|---|---|
| (例・架空)預金の照合 | 2日 | 照合する | 入金の名義が請求先と違う取引が多い |
| 売掛金の照合 | |||
| 予実の差異の説明 |
3つ目の列が、型1の診断そのものです。
「名義が違う」「説明を書くのに時間がかかる」なら、エージェントの対象に近い作業です。
よくある質問
Q1. EPMエージェントは、本体のAIと何が違いますか
NetSuite EPMの製品の中の機能である点が違います。
本体に組み込まれたAIは、NetSuite本体で使う機能です。
EPMのエージェントは、勘定照合・計画と予算などEPMの領域に絞られています。
Q2. 日本でも使えますか
公式発表では世界の顧客が利用可能とされています。
ただし、日本語での利用や、日本での契約の条件は公式に書かれていません。
導入前に、Oracleのアカウント担当に確かめてください。
Q3. NetSuite EPMを使っていなくても使えますか
EPMが前提と考えるのが安全です。
EPMの製品の中の機能として発表されているためです。
EPMを使っていない会社は、まず標準の予算管理で足りるかを見ます。
Q4. 経理の仕事は、どう変わりますか
照合の候補づくりや説明文の下書きをAIが手伝います。
担当者は、リスクの高い例外の判断に時間を回しやすくなります。
最終の判断と承認は、人が行います。
Q5. 予算づくりをAIに任せてよいですか
材料づくりは任せられます。前提と判断は人が持ちます。
予測の要因を示す機能はあっても、どんな会社にしたいかという意思はAIにはありません。
Q6. 費用はどのくらいですか
利用する製品と構成によって変わります。
NetSuite本体はミニマム構成で月額20万円〜が出発点で、構成により数百万円規模になることもあります。
EPMは別の製品のため、見積もりはOracleのアカウント担当に依頼します。
まとめ
- EPMのAIエージェントは、決算の照合(突合)と予算・計画づくり(計画)を助ける2つのAI
- 2026.1では、照合の候補の提示、変動の説明文の下書き、予測の要因の提示などが公式に説明された
- NetSuite EPMの製品の中の機能。本体だけの契約とは分けて考える
- 公式発表は「世界の顧客が利用可能」。日本語での利用と契約の条件は、アカウント担当に聞く
- 自社に要るかは、決算の時間を「集める/照合する/説明する」に分けると見えてくる
「このAIは、うちでもすぐ使えるのか」。
その答えを出す前に、先月の決算の時間を3つに分けて書き出してみてください。
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