「経営管理をきちんとやるなら、最初からEPMまで入れておきたい」
NetSuiteの導入を決めた会社で、そう考える経営者は少なくありません。
けれど、多くの会社はまずNetSuite標準の予算管理で足ります。
NetSuite EPMとは、予算編成・勘定の照合・決算・連結・報告をまとめる、NetSuite向けの経営管理の製品です。
EPM(Enterprise Performance Management)は、会社の業績を計画・分析し、改善していく仕組みを指します。
ERPに追加する別の製品で、ライセンスも別にかかります。
要るようになるのは、連結・複数のシナリオ・決算の早期化が求められた段階です。
では、自社がその段階に来たかどうかは、何で見分けるのか。
この記事で分かること
- NetSuite EPMの中身と、6つの製品の役割
- NetSuite標準の予算管理との違い
- EPMを比べる段階かを見分ける3つの質問
- 入れる順番と、よくある3つの失敗
NetSuite EPMとは
NetSuite EPMは、NetSuite ERPに追加して使う別の製品です。
基盤は、Oracleの企業向けの「Oracle Fusion Cloud EPM」。
NetSuiteに統合されて動きます(出典:日本オラクル プレスリリース、2024年7月17日)。
ERPとEPMは役割が違う
- ERP:会計・販売・在庫など、日々の取引と業務データを扱う
- EPM:その取引データをもとに、計画・分析・業績の改善を行う
ERPが日々の業務を回す基盤なら、EPMは経営の判断を支える基盤です。
だから、EPMはERPのデータの上にしか成り立ちません。
経営管理の現場で起きていること
EPMが求められる背景は、次の3つです。
- データの分散:会計・販売・部門の数字がばらばらで、全体をつかむのに時間がかかる
- 決算の早期化:判断を速めるため、月次・四半期の数字を早く締めたい
- Excelの限界:人に依存した予算は、担当者が替わると引き継げない
日本での提供
日本オラクルは2024年7月17日、「SuiteConnect TOKYO」でNetSuite EPMの日本での提供予定を発表しました。
発表では、日本の税務報告基準への準拠をサポートするとしています。
いまは、NetSuite日本公式サイトに製品のページがあります(出典:日本オラクル・NetSuite日本公式サイト、2026年9月確認)。
NetSuite EPMの6つの製品
NetSuite日本公式サイトでは、次の6つが紹介されています。
| 製品 | 役割 | こんな課題に |
|---|---|---|
| 計画立案と予算編成(NSPB) | 予算・予測の作成、What-Ifのシナリオ分析 | Excelの予算が属人化している |
| 勘定科目調整 | すべての勘定の照合を効率化 | 月次の照合作業が重い |
| 決算管理と連結 | 連結と決算の手順を1つの仕組みで管理 | 決算が遅い・人に依存している |
| 企業税務レポート | 税務の報告を簡素化し、財務報告とすり合わせる | 税務の報告の負担が大きい |
| ナラティブ・レポート | 財務諸表に説明の文章を組み合わせる | 報告資料づくりの負担が大きい |
| 収益性およびコスト管理 | 顧客・製品別の収益性とコストを分析 | どこで儲かっているか見えない |
(出典:NetSuite日本公式サイト、2026年9月確認)
NSPB(NetSuite Planning and Budgeting)は、予算編成と予測を自動化する製品です。
シナリオ計画のテンプレートは、NetSuiteの総勘定元帳から動的に更新されます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
勘定の照合(勘定調整)とは、帳簿の残高を銀行の明細などと突き合わせる作業です。
プレスリリースでは、勘定科目調整の対象に、買掛金・売掛金・銀行取引・前払・未払・固定資産・グループ会社間の取引などが挙げられています。
ナラティブ・レポートは、数字に説明文を添えた報告書を作る機能です。
レビューの間の編集や議論を、版を管理しながら進められます(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月確認)。
ExcelのアドオンのSmart Viewを使えば、NSPBのデータをExcelで直接扱えます。
Wordへの数字の差し込みや、PowerPointへのグラフの取り込みもできます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
6つすべてを最初から入れる会社は、まずありません。
困りごとの大きい製品から選びます。
困りごとから製品を逆に引くと、次のとおりです。
NetSuite本体での連結の進め方は、グループ連結決算をNetSuiteで効率化で扱っています。
標準の予算管理とNetSuite EPMの違い
迷いやすいのが、ここです。
違いは、対応できる範囲と高度さにあります。
| 観点 | NetSuite標準の予算管理 | NetSuite EPM(別製品) |
|---|---|---|
| 予算編成 | 勘定・部門・子会社などの組み合わせで予算を組み、実績と比べる | 予算編成と承認の流れを1つの仕組みで回す |
| 予測・シナリオ | 同じ期間に複数の予算を作って比べる | What-If・複数のシナリオ・ローリング予測 |
| グループ連結 | 子会社ごとの予算は組める(OneWorld) | 連結と決算の手順を管理(決算管理と連結) |
| 決算・照合 | 標準の決算機能 | 照合の自動化、決算の手順の標準化 |
| レポート | 標準のレポート | ナラティブ・レポート、Smart View |
| 分析の自動化 | 限られる | 予測AIで、トレンドや異常値を見つける |
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ・公式資料、2026年9月確認)
ローリング予測は、期が進むごとに先の見通しを更新し続ける予測の方法です。
標準の予算管理でも、できることは多くあります。
同じ期間に複数の予算を作れますし、人数などの統計勘定の予算も組めます(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ、2026年9月確認)。
詳しくはNetSuiteで予算管理を効率化をご覧ください。
EPMの側には、予測AIもあります。
プレスリリースでは、予測AIのアルゴリズムでトレンド・異常値・相関を明らかにすると説明されています。
財務部門は、分析にかける時間を減らせます。
EPM向けのAIエージェントは、EPM Reconciliation Agent / Planning Agentで扱っています。
EPMを比べる段階か|3つの質問
冒頭の問いに戻ります。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、相談を受けたとき、次の3つを聞きます。
- 予算や見通しを、年に何度も作り直していますか
- 子会社や事業部の数字を集めるのに、毎月3日以上かかっていますか
- 勘定の照合や決算の手順が、特定の人の頭の中にありますか
2つ以上に「はい」なら、EPMを比べる価値があります。
1つ以下なら、まず標準の予算管理を使い切るのが先です。
この基準はベンチャーネットの目安で、公式の基準ではありません。
EPMが合う会社、まだ標準で足りる会社
| 状況 | 合う選択 |
|---|---|
| グループ会社があり、連結で計画と管理をしたい | EPM(決算管理と連結) |
| 部門が多く、予算編成が複雑になっている | EPM(NSPB) |
| 照合に人手がかかり、決算が遅い | EPM(勘定科目調整) |
| 単一の会社で、予算編成が年1回程度 | 標準の予算管理 |
| 基本の予算管理を、まだ整えている途中 | 標準の予算管理 |
NetSuite以外が合う場合もあります。
基幹システムがNetSuiteでないなら、予算や連結の専用ツールを単独で入れるほうが早いこともあります。
予算の手順そのものが決まっていないなら、「いまは入れない」で手順を先に固めます。
これから選ぶ会社と、いま使っている会社
これからNetSuiteを選ぶ会社は、最初からEPMまで入れる必要はまずありません。
NetSuite本体のライセンスは、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。
EPMは、これとは別のライセンスです。
導入の費用にも幅があります。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用を見ると、幅は大きく開きます。
3名程度・1.5か月で150万円程度から、100名程度・1.5年で2億円程度(うち開発約7割)まで。
差を生むのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
詳しくはNetSuiteの料金・費用で扱っています。
いまNetSuiteを使っている会社は、標準の予算管理を使い切っているかが先です。
子会社が増えた、決算が遅くなった、Excelの予算が限界。
このどれかが起きていれば、EPMを比べる時期に来ています。
よくある3つの失敗
失敗1:経営の問いが曖昧なまま入れる
起きること:「Excelが大変だから」「他社が入れたから」で導入し、機能を持て余す。
原因:何を速く・高度にしたいかが決まらず、要る製品を見極められない。
避け方:「連結決算を5営業日早める」「予算の期間を3週間縮める」のように、経営の問いを先に言葉にします。
失敗2:標準で足りるのに入れる
起きること:単一の会社・年1回の予算でもEPMを入れ、使われないまま費用だけが続く。
原因:標準の予算管理を試す前に、EPMを決めていた。
避け方:まず標準で回します。第4章の3つの質問に2つ以上「はい」と答えられてから比べます。
失敗3:Excelのやり方を、そのまま持ち込む
起きること:いまのExcelと同じ形に作り込み、ブラックボックスを作り直す。連結や決算で、会計方針とのずれが後から見つかる。
原因:予算の手順の棚卸しと、会計方針とEPMの標準の差の整理を後回しにした。
避け方:「本当に必要な計算」と「惰性の作業」を仕分けます。会計方針との差と、顧問税理士が出力の帳票を扱えるかも、早めに聞いておきます。
ベンチャーネットならこう見る|EPMは「次へ」の段で効く
EPMの導入は、システムの追加ではありません。
予算・連結・決算・報告という、経営管理の手順を設計し直す仕事です。
型1:守り→攻め→次へ
ベンチャーネットは、NetSuiteが定着した先を3つの段で考えます。
- 守り:在庫・販売・会計を1つにし、日々の業務が回る
- 攻め:売れ筋や在庫を分析し、データで手を打つ
- 次へ:KPI、管理会計、上場に向けた内部統制で、経営そのものが変わる
EPMが効くのは、3段目の「次へ」です。
予算と実績、連結、決算の手順。どれも経営の数字を扱う仕事だからです。
守りの段で会計のデータが整っていないと、EPMの予測も連結も空回りします。
順番を飛ばさないことが、EPMを使われる仕組みにする近道です。
型2:予算の手順を、見える化→整理整頓してから製品を選ぶ
製品を選ぶ前に、いまの予算編成の手順を書き出します。
- 見える化:部門予算の回収、集計、承認、見直しの流れを、日数と人数つきで描く
- 整理整頓:やめる作業、まとめる作業を決める。版の混在や回収の遅れは、標準の使い方で縮むことが多い
- 製品の当てはめ:残った重い工程にだけ、6つの製品から合うものを選ぶ
この順番なら、要る製品は1つか2つに絞れます。
「その機能は標準で足ります」とお伝えすることも、珍しくありません。
段階の切り方の例は、次のとおりです。
| 段階 | 中身 | 次に進む目安 |
|---|---|---|
| 1. 標準で回す | 標準の予算と実績の対比を定着させる | 予算の版の管理や承認に限界が出た |
| 2. 製品を1つ足す | 予算編成か勘定の照合など、痛みの大きい所から | 子会社が増え、連結の手間が増えた |
| 3. 連結・報告へ広げる | 決算管理と連結、ナラティブ・レポートを重ねる | 経営の問いが増え、分析の範囲が広がった |
段階を飛ばすほど、設定と定着の負担が同時に増えます。
コストの見方は、NetSuiteでコスト管理を一元化でも扱っています。
今日できること|予算編成の手順を書き出す(1時間)
前回の予算編成を振り返り、次の表を埋めてみてください。
| 工程 | かかった日数 | 関わった人数 | 困ったこと |
|---|---|---|---|
| (例)部門予算の回収 | 10日 | 部門長8名 | Excelの版が混ざった |
日数の大きい工程から、横に次のどれに当たるかを書き込みます。
- 版の混在・回収の遅れ → 標準の予算管理を使いこなせば縮む
- シナリオの作り直しが多い → 計画立案と予算編成(NSPB)の候補
- 照合の作業が重い → 勘定科目調整の候補
- 子会社の数字の収集が重い → 決算管理と連結の候補
この表は、相談の場にそのまま持ち込めます。
よくある質問
Q1. EPMと標準の予算管理は何が違いますか
範囲と高度さが違います。
標準は、予算と実績を比べ、複数の予算を並べるといった基本の機能です。
EPMは、連結・複数シナリオ・決算の早期化など、高度な経営管理に対応する別製品です(第3章)。
Q2. EPMだけで使えますか
NetSuite ERPのデータを前提に動く設計です。
総勘定元帳などからデータを取り込み、予算・連結・分析を行います。
Q3. 費用はどのくらいですか
EPMは別のライセンスで構成によって変わります。
使う製品・ユーザー数・オプションで変わり、最終的な金額はOracleが提示します。
まず、何を実現したいかを決めるところから始めてください。
Q4. 日本で使えますか
日本オラクルが2024年7月に日本での提供予定を発表しています。
日本の税務報告基準への準拠をサポートするとしています。
自社の会計方針とEPMの標準の差は、別に整理が要ります(第5章)。
Q5. どの製品から始めるべきですか
経営の問いで決まります。
予算がつらいなら計画立案と予算編成、月次の照合が重いなら勘定科目調整が候補です。
6つすべてを最初から入れる必要はありません(第2章・第6章)。
Q6. EPMを入れる時期は、どう見分けますか
3つの質問のうち2つ以上に当てはまるかで見ます。
予算の作り直しの多さ、子会社の数字集めの日数、照合や決算の属人化の3つです。
ベンチャーネットの目安で、公式の基準ではありません(第4章)。
Q7. 標準の予算管理からEPMへ移るとき、何に気をつけますか
予算の手順と勘定の体系を先に整えることです。
EPMはERPのデータを前提に動くため、元のデータが整っていないと効果が出にくくなります。
Excelの手順をそのまま移さず、棚卸ししてから移します(第5章 失敗3)。
まとめ
- NetSuite EPMは、予算・照合・決算・連結・報告をまとめる別製品
- 日本公式サイトでは6つの製品が紹介されている
- まず標準の予算管理で回し、3つの質問のうち2つ以上に当てはまればEPMを比べる
- EPMが効くのは「守り→攻め→次へ」の次への段
- 予算の手順を見える化し、要る製品だけを段階的に足す
最初からEPMまで入れるかどうかは、3つの質問に答えれば見えてきます。
まずは前回の予算編成を、1枚の表にしてみてください。
NetSuiteそのものを知りたい方は、NetSuiteとは?もあわせてご覧ください。
もう少し詳しく知りたい方へ
標準で足りるか、EPMが要るかは、会社ごとに答えが変わります。
見極めの段階から、ご相談をお受けしています。
