「やめられない」を、抱えていませんか
成果が出ていない。それでも続けている。そんな仕事が、どの会社にもひとつはあるのではないでしょうか。
何年も売上が伸びない商品。出席者の半分が手を動かしていない定例会議。もう誰も読まない月次の報告書。頭ではわかっていても、なかなか手放せません。「これまで頑張ってきたから」「もったいないから」。やめられない理由は、いつも後ろを向いています。
新しいことを始めるのは、まだやさしいほうです。本当に難しいのは、やめること。この記事は、その「やめる」を経営の仕事として捉え直す話です。経営学者ドラッカーが「計画的廃棄」と呼んだ考え方を手がかりに、ベンチャーネット自身が何をやめ、そこで何が変わったかをお伝えします。
なぜ「やめる」は、こんなに難しいのか
新しい価値を生むこと(イノベーション)には、ふたつの決定が要ります。ひとつは、新しいことを始める決定。もうひとつは、古いものを捨てる決定です。世の中で語られるのは、たいてい前者だけ。けれど本当の難所は、後者にあります。
イノベーションには2つの決定が要る。難所は「捨てる」側にあり、それはトップにしかできない判断です。
理由のひとつは、現場の真摯さです。任された事業を、担当者は何とかしようとします。責任感が強い人ほど、そうです。だからこそ、自分の持ち場を「やめましょう」とは言い出せません。
もうひとつは、自分では気づけないこと。事業もやり方も、時間とともに古くなります。やっかいなのは、古くなったことに当人がいちばん気づきにくい、という点です。うまくいかないのを「世の中のほうが間違っている」と説明し始めたら、それは危ういサインかもしれません。
だから、捨てる決定はトップの仕事になります。昨日を陳腐化させ、明日をつくる——これは現場には委ねられない、経営者にしかできない判断です。計画的廃棄とは、この「何を捨てるか」を、思いつきや危機のときだけでなく、定期的に・仕組みとして問い直すことを指します。昨日を手放さなければ、明日をつくる余白は生まれないのです。
「もし今からなら、始めるか」という問い
やめられないのは、すでに始めてしまっているからです。今やっている、という事実そのものが「何とか活かしたい」という気持ちを呼びます。これは誰にでも働く、心の偏り(バイアス)です。
この偏りを外すために、ドラッカーはひとつの問いを置きました。「もしこれを今やっていなかったとして、今から始めようと思うか」。答えがノーなら、それは捨てる候補です。今までの損得ではなく、まっさらな状態から見直させてくれる問いです。
今の損得を離れ、ゼロから見直す。この問いを、経営者の頭の片隅に常設しておく価値があります。
ここで、ひとつ誤解を避けたいことがあります。廃棄とは、事業や仕事をたたむことであって、人を切り捨てることではありません。判断は冷静な頭で、人への対応は温かい心で。このふたつは、はっきり分けて考えます。
そして、やめる勇気の源は、使命です。「自分たちは何のために在るのか」がはっきりしているほど、「これはそこに届いていない」と言えます。規模を大きくすること自体は、目的になりません。目指すのは、選んだ顧客にとっての一番であること。その軸があるから、迷わず手放せるのです。
ベンチャーネット自身が「やめた」こと
——と、ここまで偉そうに書いてきましたが、ベンチャーネットも長いあいだ手放せずにいました。
自社のコンテンツが、その一例です。かつては「自分たちにできること」を並べて、サービスメニューのように見せていました。できることを増やすほど、更新しているのに、どこか代わり映えしない。気づけば、マンネリに陥っていました。
あるとき、この並べ方そのものをやめました。起点を、自社から顧客へ移したのです。「顧客がデジタル化で何に困っているのか」。そこから考え直しました。
変わったのは、苦しさが消えたことでした。顧客の課題から発想すると、書くことは尽きません。むしろ、次から次へと出てきます。そして課題に正面から答えるコンテンツは、商談を自然に次の一歩へ進めてくれました。同じころ、提供するサービスそのものも絞り込みました。やめて減らしたはずなのに、生まれたのは、余白と、進むべき方向だったのです。
捨てるのは、後退ではありません。明日の主力に、人と時間を回すための、前向きな決定です。
あなたの会社の「やめる候補」は、何ですか
ここまで読んで、ひとつふたつ、顔が浮かんだものがあるかもしれません。「もし今からなら、始めない」。そう言える仕事や商品が、どの会社にもあります。
ただ、見つけることと、やめることは別ものです。やめる決定には、いつも抵抗が伴います。「もったいない」という社内の声。長く担当してきた人への配慮。昨日の主力ほど、優秀な人と予算が張りついていて、声も大きい。だから、一人では決めきれません。
ここで効くのが、外からのもう一人の視点です。社内の事情やしがらみを知らないからこそ、「それ、今から始めますか」とまっすぐ問える。そういう相手がいると、止まっていた判断が動き出します。ベンチャーネットがお客様とご一緒するときも、まずこの問いを置くところから始めます。やめる基準を、感情ではなく客観的なものさしで、先に合意しておく。それだけで、廃棄はぐっと決めやすくなります。一人で抱え込まず、外の目を一度通してみる。その一歩が、明日の余白をつくります。
まとめ——捨てることは、つくること
計画的廃棄とは、何を捨てるかを仕組みとして問い直し、明日をつくる余白を空ける、経営の習慣です。
新しいことを始める前に、まず捨てる。難しいけれど、トップにしかできない仕事です。そして、その判断を支えるのは、客観的な問いと、外からのもう一人の視点です。
Q. 計画的廃棄とは、何ですか?
A. 成果の出ない事業・商品・業務を、思いつきや危機のときだけでなく、定期的に・体系的に見直して手放すことです。経営学者ドラッカーが経営者の役割として説いた考え方で、「もし今やっていなかったとして、今から始めるか」という問いを判断のものさしに使います。
「やめる」を実際の打ち手に落とす方法は、関連記事「業務を『捨てる』という発想」でお伝えします。
廃棄が、見える化→わかる化→儲かる化のループをどう前へ進めるかは「経営は『ループ』でできている——悪循環を断ち、好循環を回す」で。
自社が何のために在るのかを問い直したい方は、「経営を見直す道具は、5つの質問——使命・顧客・価値・成果・計画」からどうぞ。


