同じ問題が、なぜか何度も起きる。人を入れ替えても、注意しても、また同じことが繰り返す。その原因は「人」ではなく、会社の中で回っている「ループ」にあるかもしれません。
この記事では、経営を「ループ(構造)」として見る方法と、悪循環を断ち、好循環を回す考え方を整理します。
気をつけているのに、なぜ同じ問題が繰り返すのか
「ちゃんと指示したのに、また同じミスが出た」「人を増やしたのに、現場は相変わらず忙しい」「値下げで受注は取れたが、利益が残らない」
多くの経営者が、こうした「繰り返す問題」に頭を抱えています。そして、つい原因を「人」に求めてしまいます。担当者の不注意、現場の意識の低さ、誰かの判断ミス。
でも、犯人を探して責めても、しばらくするとまた同じ問題が起きる。別の人に代えても、同じことが起きる。それは、問題が一人の人間ではなく、会社の「仕組み」の中で起きているからです。
犯人探しは、その場の気は晴れても、構造には手が届きません。だから、同じ問題がまた回ってくるのです。
その問題は「犯人」ではなく「ループ」の中で起きている
ここで役に立つのが「システム思考」という考え方です。システム思考とは、出来事を一つずつ切り離して見ない考え方です。互いに影響し合う「つながり(ループ)」として、全体をとらえます(経営学者ピーター・センゲらが広めた見方)。
システム思考には、いくつかの基本姿勢があります。たとえば「人や状況を責めない」「個々の出来事ではなく、繰り返すパターンを見る」「そのパターンを生み出している構造(ループ)に目を向ける」。
なぜ、構造は見えにくいのでしょうか。私たちの目に映るのは、ミスや遅れといった「出来事」だけだからです。出来事と出来事をつないでいる矢印は、目には見えません。だから、一つの出来事が、一人の責任のように見えてしまうのです。
見方を、三つの段に分けると整理できます。まず、表面に見える「出来事」。次に、出来事が何度も繰り返す「パターン」。そして、そのパターンを生み出している「構造(ループ)」。出来事だけを追うと、もぐら叩きになります。パターンに気づき、構造に手を入れて、はじめて繰り返しが止まります。
悪循環とは、このループが悪い方向に回り続けている状態です。たとえば、忙しい → 採用や教育に手が回らない → 人が育たず辞めていく → さらに忙しくなる。こうして勢いを増していくループを「自己強化ループ」と呼びます。
もう一つ、例を挙げます。値下げで受注を取る → 利益が薄くなる → 品質やサービスに手をかけられない → 選ばれる理由が減る → さらに値下げで取りにいく。冒頭の「値下げで受注は取れたが、利益が残らない」も、こうしたループの一つです。
問題の本当の原因は、このループのどこかにある。だから、犯人を一人責めても解決しないのです。
図1:忙しさの悪循環(自己強化ループ)。気をつけても同じ問題が繰り返すのは、人ではなく「ループ(構造)」の中で起きているから。矢印を1本切れば、回転は止まる。
悪循環は、矢印を1本切れば断てる
悪循環を止めるとき、すべてを一度に変える必要はありません。ループは、矢印(因果のつながり)でできています。その矢印を1本切るだけで、回転は止まります。
では、どの矢印を切るか。システム思考には、探し方の順番があります。まず、現状をありのままに見る。次に、要素どうしのつながりをたどる。そのうえで、いちばん効く一点(レバレッジ・ポイント)を見つけ、そこに手を入れる。
やみくもに頑張るのではなく、構造を見てから動く。この順番が、遠回りに見えて近道になります。
効く一点は、たいてい目立つ場所にはありません。いちばん忙しい部署や、いちばん声の大きい問題が、原因とはかぎらないのです。だからこそ、つながりをたどって、構造の中の急所を探す必要があります。
ベンチャーネット自身も、この見方で自社を整理してきました。「残業を減らすループ」「人材が育つループ」「学びのループ」を一つずつ描き、どこを変えれば流れが変わるかを考えてきました。
ここで効くのが「捨てる」という発想です。忙しさのループを止める近道は、新しい打ち手を足すことではなく、回転を生んでいる業務を一つ手放すことだったりします。矢印を1本切るとは、たいてい「何かをやめる」ことなのです。
→ では、どの業務を手放せばいいのか。その考え方はこちら:業務を「捨てる」という発想
好循環は、「弾み車」のように設計して回す
悪循環を断つだけでは、まだ半分です。今度は、良いループ、つまり好循環を意図して設計します。
好循環のイメージとして分かりやすいのが「弾み車(フライホイール)」です。弾み車とは、一度回り始めると、自分の勢いでどんどん加速していく好循環のこと(経営学者ジム・コリンズが広めた考え方)。
コリンズが挙げる代表例が、アマゾンの弾み車です。品ぞろえを広げ、配送を充実させる → サイトを訪れる人が増える → 商品を売りたい店が集まる → 価格が下がる → さらに人が集まる。一周ごとに、次がもっと回りやすくなる。これが弾み車です。
ベンチャーネットも以前から、「強みのループ」「ブランドのループ」「会社とは社員の幸せのシステム」といったループ図を、自社のために描いてきました。たとえば、良い記事を出す → 読者が集まる → 信頼が高まる → 相談が増える → さらに良い記事を出す材料が増える、という輪です。弾み車を回し続けることそのものが、経営なのだと考えています。
この「回し続ける」という感覚は、頭で分かるだけでは足りません。ベンチャーネット自身、学びを何度も繰り返すうちに、「経営とは、同じ問いを回し続けることだ」と腑に落ちた瞬間がありました。一度きりの打ち手ではなく、回し続けられる仕組みをつくる。そこに、弾み車の本質があります。
同じ形の弾み車は、業種を問わず見つかります。たとえば自転車部品メーカーには、最高の製品をつくる → 一流の選手が使う → 憧れた人が買う → ブランドが高まる → 利益を次の開発に回す、という輪です。業種が違っても、「回すほど次が回りやすくなる」という形は同じです。
ただし、弾み車には大事な性質があります。最初の一回が、いちばん重いのです。回し始めは、ほとんど動かないように見える時期があります。それでも回し続けると、ある時点から、自分の勢いで加速し始めます。成長には、立ち上がりがゆっくりで、やがて急に伸びる形があるのです。これは「S字の成長」と呼ばれる形です。逆に、無理に急ぎすぎると、かえって早く限界にぶつかることもあります。だから「すぐ成果が出ない」からといって、止めてはいけません。
そして、好循環にも限界があります。ループには、拡大し続ける「自己強化ループ」と、ある所で平衡に引き戻す「バランスループ」があります。成長は、どこかで必ず制約(ボトルネック)にぶつかります。だからこそ、回しながら、その制約を一つずつ緩めていく作業が要るのです。
図2:好循環の弾み車(回すほど強くなる輪)。回し始めは重いが、回すほど次が回りやすくなる。最初の一回をあきらめないことが肝心。
よくある誤解とつまずきポイント
最後に、ループ図を使うときによくある疑問に答えます。
ループ図って、難しそうです。
いいえ。まずは紙に、関係しそうな要素を2〜3個書き、矢印でつなぐところから始めれば十分です。コツは、中心になる「ストック」から書き始めること。ストックとは、時間とともに貯まっていくものです。お金、人材、知識、顧客、信頼、ブランドなど、会社にはいくつものストックがあります。その中心になるストックを一つ選び、そこから矢印を伸ばすと、ループが描きやすくなります。
悪循環と好循環、どちらから手をつければいいですか?
まずは悪循環を1本切って、出血を止めること。そのうえで、好循環の弾み車を設計します。順番を逆にすると、せっかくの好循環も、悪循環に打ち消されてしまいます。
他社のループ図を、まねしてもいいですか?
参考にするのは良いことです。ただ、会社ごとに、貯まっているストックも強みも違います。他社の輪をなぞるより、自社のストックから自分の輪を描くほうが、ずっと役に立ちます。ベンチャーネットが、人の図を写すのではなく、自社のループを一つずつ描いてきたのも、そのためです。
どこから手をつければいいか分かりません。
全部を一度に直そうとしないこと。いちばん効く一点を一つ見つけ、そこだけ変えてみる。これが遠回りに見えて、近道になります。
数字(見える化)とは、どう関係しますか?
ループは、数字で裏づけられて初めて回せます。「何を測るか」を決め、その数値を見続けることで、ループが本当に回っているかが分かります。(数字で経営を見える化する方法は、第2章でくわしく扱います。)
まとめ:自社のループを、一度描いてみる
問題は、犯人の中ではなく、ループ(構造)の中で起きています。悪循環は、矢印を1本切れば断てる。好循環は、弾み車のように設計すれば回り出す。
会社をスケールさせるには、まず構造を作ること。そして、その構造を日々回し続けること。ベンチャーネットは、自社でそれを実践してきました。
まずは、自社で繰り返している問題を一つ思い浮かべ、関係する要素を矢印でつないでみてください。そこに、断つべき矢印と、回すべき弾み車が見えてきます。
ただ、自分の会社のループは、回している本人にはいちばん見えにくいものです。長く続く悪循環ほど「当たり前」になじんで、外からは見えても中からは気づけません。そんなときは、外の視点を一つ入れると、切るべき矢印が驚くほど早く見つかります。
そのうえで「では、最初に手をつける課題はどれか」を考えるとき、次の記事が役に立ちます。
→ 打ち手の前に、「課題は何か」を明確にする
→ 付加価値はどの構造から生まれるか

